三万字ほどの草案を改稿し、ゆっくりと書いています
あれから、あたいはなぜ生き残ったのか。そればかり考えてしまう。あの時、あたいは死んだはずだったんだ。あたいか、45か。45のために命をかけてあんなことをした。説明不足だろうな。45には悪いと思ってる。悪いと思いながら、また一歩、歩みを進める。何気なくだした落ち葉を踏み締める音に目を丸くした。何もない夕暮れ迫る山だとこんなに響くんだ。
「一人だと、どうもひとりごとが増えて困る」
あの建物から這い出て、戦場の端っこで人形や人間の死体から物質を奪って食いつないで、闇市やらスラムやらを転々として生きてきた。今朝だってそう。戦場に転がってる、使えそうな物を闇市で売って路銀に変えた。足がついて、追われることを恐れての逃亡生活に疲れて空を見上げる。
「ごめん。45、あたいは…」
うわ言みたいにつぶやいて、うっすら白い冬の山を歩いている。でも、まだこの辺りは温暖な方らしい。この時期でも雪はあまり降らないみたい。
「さむい。どこか、洞窟でもいいから」
わかりやすい獣道をふらふらと歩く。もうとっくに日が傾き始めている。このままだと人間でいう凍死が待っている。そんなのは嫌だ。
「さむい!あたいは生きて、生きて……」
あたいは生き残って、どうしたいんだろう。
「どうしたいんだろう。これから、どうすればいいだろう」
何もない今のあたいは何をしたいんだろう。生まれた自由に戸惑って、足を止めた。足下を雪が舞う。思考を振り払うためにも、今は早めに休める場所が欲しい。
「あたいはさ、本当に何がしたいんだろうね……きっと45なら、わかるかなあ。ん?」
開けた場所があった。そこには見るからに猟師小屋、のはず。そこの小さな窓を覗いてみる。中はまだまだ綺麗だ。放棄されて間もないらしくてほっとする。ここなら、一晩は過ごせそう。薪も薪ストーブもあるし。あ、周囲の警戒がまだだった。慌てて、見渡してみる。山と、木と、風とねぐらに帰る鳥の群れ。それだけ。
「ふんふん。雪の上に足跡もない。何かが樹上を移動した形跡もない」
樹上には雪がうっすら積もっているまんま。だからきっと、何もない。そのはず。それにさ、あたいはそもそも戦闘用じゃない。一応、武装はしてあるけど、それだけ。
「ここ、どこなんだろうね」
逃げるために、がむしゃらに移動したからここがどこの管轄の地区でどのあたりまでやって来たのかわからない。ギリギリ、ここはまだグリフィンの管轄だったような気がする。
「地図なんて入れる容量ないし。日も暮れる。そろそろ中に入ろ。ドアがだめでも最悪、窓を割れば良いか」
古い真鍮のドアノブに手をかけた。ひんやりしてて、飛び上がりそうになる。うん、鍵はかかってない。
「ん?施錠されてない?いや、違う。玄関脇の植木鉢が動かされてる。そこに鍵があったんだ」
念のために、そーっと回して入った。誰かがここに忍び込んだに違いないから。
「おじゃましまーす。なーんてね」
小声でしゃべる。一人なんて本当にだめだね。ひとりごとだけが増えて、消えていく。
「ここは、アタリかもしれない」
端から順に部屋を覗いていく。物置部屋、シャワーとトイレだけの簡素なユニットバス、お湯くらいなら沸かせる簡易的なキッチンとリビング、後はたぶん寝室。武装はそのまま、寝室に誰もいなければそこを借りよう。だって、吐く息がもう白い。寒いし、指先の感覚があやしくなってきた。最後の寝室っぽい部屋のドアを開けて、予想外の出来事に驚く。