「今日からあたいがお母さんだよ」
あたいくらいは君に寄り添うよ。だって、一人でさまようには世界は広すぎるから。すみれは首を傾げるばかり。その意味を知りたくて、近づきたくてあたいは聞いてみた。
「どうしたの?」
「お母さん、とは何ですか?」
覗き込んだ先のまあるい瞳はガラス玉みたいに空っぽ。知識はあるのに、母親の意味を知らないチグハグさにゾワっとして探りをいれてみる。
「家族だよ」
「家族って何ですか?」
ますますわからないけど、少しだけ分かったことがある。知識と使い方はわかっているって意味では賢い。だけど、情緒面がびっくりするくらい幼い。生きるために知識だけは手に入れられたのだろう。この子周りはきっとまもとじゃない。この子はきっと、誰にも守られなかった子供だ。
「家族はね、色んな形があるんだよ。意味もちょっとずつ違う。あたいとすみれの家族の意味を作ろう」
「えっと、はい。よろしくお願いします。おかあさん」
そっと手を伸ばしたら、握手してくれた。
「ずーっと一緒だからね」
「はい」
生きる希望と気力をこれからつけられるように、食べていくためのまともな手段を教えるのがあたいの親としての仕事にしよう。
「あとね。寒いから、ベッドにいれて」
「このベッドは一人用ですし、代わりますね」
「だめだめ。病み上がりは寝てなさい」
「でも」
「いいから。端っこによって」
妥協案で、二人一緒にベッドに入る。狭いからと、言い訳してすみれを抱き寄せるとなおさら守らなければと思う。話し方とかから推測できる年齢の平均身長や体重からすればずっと軽いし。
「おっきくなるんだよー」
「なれたら、いいでしょうね」
庇護欲ってこんなのなんだ。あ、こら諦めるな。あたいはきみに美味しい食事を毎日お腹いっぱい食べさせる仕事があるんだぞ。
「さっきの残り、微妙に残ってるしさ。今日の分のレーションパック開けちゃったから、昼もきちんと食べなさい」
すみれが今、どれくらい食べられるのかを知りたいし、その量を把握した上で食糧を確保する。ただ生かせば良いってもんじゃない。まともに食べていける手段、人として身につけるべき生活習慣、人としての倫理観や公共機関の使い方。そんなのまで身につけさせるまで教えたい。教えなければいけない。それが保護者の義務。
「おかあさん?のぶんはどうするんですか?私だって、いくらか食料は……」
すみれがベッドの下に置いたカバンをあさる。途中で手が止まったあたり、もうないのだろう。小さな子供が背負えるだけのカバンが一つなら、食料なんてほとんど入らない。
「いいから。ね?」
ここで否定しちゃだめ。寄り添って、他の方法を提示しなきゃ信頼関係は作れない。
「だれかのお世話になるわけには」
「気にしなくてもいいの。まだまだ食料はあるよ。それに、お母さんはすみれを守るのが仕事だから」
遠慮がちにこくりと頷いてくれた頭を撫でた。これでいいんだ。