本当はわかっていた。私が今どんな状況に置かれていて、どんな結末を辿ることになるのかも。
「さむい、な」
6歳で飛び級で大学に入って、8歳直前で卒業してグリフィンに就職した時からもうわかっていた。
「こっちおいで」
目の前の彼女は私を抱き寄せる。その感覚とぬくもりがおぼろげな父母の記憶を呼び起こされた。ずるい。すがりたくなる。私はさいごまで一人ですがるものなんてないのに。
「あったかい」
「でしょう?しっかりと休むんだよ」
私の頭を撫でて笑う。でも単に私を哀れんだのか、油断して始末するのかまだわからない。
「おかあさんって何?」
そんなことを言ったのはほんの少し嘘で、あとは本当。3歳になった直後に都市が壊滅するほどの大火災で父母も何もかもをなくした私は、ほとんど覚えていない。かろうじて覚えていることはわずか二つ。私と母と、母のいとこにあたるおじさんですら顔が同じこと。父に至ってはもう顔すらわからない。よくおんぶとだっこしてくれたこと。私にはもう、それだけ。
「お母さんってのはね。家族なんだよ」
「家族って何ですか?」
家族の意味を知らないのは本当。素直に答えたら、優しい彼女は悲しそうな表情を浮かべて私の頭を撫でた。その優しさがうそだとしたら、私は何を糧に歩めば良いのか。ずるい。
「家族はね、色んな形があるんだよ。意味もちょっとずつ違う。あたいとすみれの家族の意味を作ろう」
ああ、彼女は本当にずるい。私が一番欲しい言葉を行動を的確に与えてくるのだから。
「私は、何も持っていないのに」
「気にしなくていいから」
私の心残りは一つだけ。グリフィンに就職してから、唯一優しくしてくれたAR小隊を家族と呼びたかった。彼女らを家族と呼べないまま、私はもうすぐ闇に葬られる。
「少し、休みますね」
「しっかり休むんだよ」
ゆっくりと目を閉じて少しだけ休む。眠りに落ちる前、思い浮かべることはいつだってAR小隊のことだけ。彼女らについていけたら良かったのに。今からでも、我が身がどんなことになっても会いに行きたい。そう思うと体が動いた。
「あ、こら。病み上がりは寝てなきゃ」
「トイレです」
「連れて行くよ」
ひょいっと私の体が持ち上げられる。どうしようかとジタバタしていると、抱き抱えられた。これでは一人で山を下れない。私と家族になろうと言う彼女がわからない。だから、悪い方法を使ってでも探ろう。
「一人でも大丈夫です。もう子供ではありませんから」
単なる子供ではいられなかった、が正しいのかもしれない。おろして欲しいと頼んで、彼女の手を振り解く。視界の端に一瞬だけ映った彼女の悲しげな顔に良心が痛んだ。でも、いかなければ。
「ひとりでも、いけますから」