「M4お姉ちゃん、だっこ」
本当は指揮官らしく丁寧な立ち居振る舞いでなければいけないんだけど、みんなの前だけはただの9歳目前の子供でいられる。今だけ、子供でいるのをどうか許してほしい。精一杯手を伸ばしてM4お姉ちゃんにだきついた。
「ふふ。おいで。言いたいこともあるでしょ?」
お姉ちゃんは私に変わらない優しい笑顔と愛情を向けてくれた。離れたくない思いを抱擁に代えて、しばらくそのままで話をする。
「お願いがあります」
「言ってごらん」
「お姉ちゃん二人を修復と強化したエンジニアを教えてください」
「シーアとデールのことね。会う約束を取り付けるのすら大変よ。それでもいいのね」
「お姉ちゃん達やお父さんの願い、母の遺言通りに生き残るためには何だってやります」
「その強さがいるのは、大人になってからでいいのにね」
「私はね、いつまでもみんなの娘だって。それだけで幸せ。このあとすぐ、お姉ちゃん達とは離れ離れにならなくちゃいけないこともわかってる。だから、待ってる」
だめだ。子供っぽい話し方になってしまう。子供でいるのはやめるって決めたのに。
「ごめんね。愛してる。私も紹介状みたいなメールは送っておく」
マメだなあ。M4お姉ちゃんのマメなところに助けられたし、愛されているってわかる。
「ありがとう。ずーっと、ずっと大好きですよ」
「私も。すみれ、他にやることは考えてる?」
「まだ設備が生きている基地から、情報を抜き出します。あと、お金がないので口座からいくらかおろして現金化も。街づたいに南下して他社の管轄地区まで逃げます。あと、海が見たい。みんなで」
初めて、子供らしい願いを口にできた。保護者なんていない私はだれかに何かをねだるなんてできなかったし、そんな考えなんてなかった。ここで、やっと言えて良かった。視界がぼやける。まだ泣いてはいけないのに。泣くひまなんて、これからもうないのに。
「約束しよっか。みんなで海を見に行こう。そのために、やるべきことをきちんと終わらせる。待たせないから」
私の涙まじりの声を察したM4お姉ちゃんからのひどく不確かな約束。私はそれにすがりたい。今も、これからもそれにすがらせてほしい。
「約束ですよ」
「約束ね」
互いのぬくもりを忘れないために、約束を永遠にするために言葉を重ねる。
「ひとりは、いや」
「させない。そのために離れるだけよ」
もしも私とお姉ちゃん達のゆく先が違うのなら、私は全てを捨ててもついていきたい。