「単刀直入に言おう。ペルシカ、SOP2。すみれがいなくなった。私の落ち度だ」
夕食の後、SOPとコーヒー片手に研究室でくつろいでいたペルシカ。連絡だけはあったが、部屋に転がり込んできてとんでもないことを言い出した知り合いに席を勧めて座り直す。
「詳しく聞かせて」
ペルシカはヘリアンに断られること前提でコーヒーを差し出す。気が動転しているのか、素直に受け取ってヘリアンはコーヒーとすら呼べない苦くてぬるい液体を飲み干した。
「さっきまではるか北方まで出張中にある派閥が暴走。AR小隊が行方不明になった責任を問うて裏ですみれを処刑しようと、ある場所に連れ去った。が、やつらがあの子を道中で見失った」
走ってきて間もなく呼吸が整わないのに話をやめないあたり、彼女にとって重大な事件だとペルシカは気づく。内心舌打ちをしてお代わりのコーヒーをポットから注ごうと手を伸ばした時、SOP2が不安そうに二人を見つめていた。
「ペルシカさん。ヘリアンさん」
自分を連れて行ってほしい。暗に告げるSOP2の頭を撫でたヘリアンが力なく笑う。
「まあ、待て。私もいく。表向きはあの子を見失った地点付近の基地の視察とする。SOP2は護衛としてついてくるように。私はあの子の保護者でありながら、ささいな政治的牽制しかできなかった。今こそ、守るためにやらねば」
「私も行く。ついでに新しい人形性能を試させてよ……うん。用意できた?なら、おいで」
身体を動かさないと鈍るとペルシカが笑って言う。それに対してやんわりとヘリアンはとめた。
「それはやめておけ。ああ、AR小隊の新しいメンバーか」
「そ。SOPだけで限界だったし、戦いは数だよヘリアン」
「それを君が言うか」
「まあまあ。ほら、はいって。RO」
ペルシカが入室の許可を出してすぐにとある戦術人形が入ってきた。
「初めまして。RO635です。よろしくお願いします」
ピンと背筋を伸ばして敬礼するRO635にペルシカとヘリアンは穏やかに微笑んで頷く。
「うむ。礼儀正しくてよろしい。私は今回の人事異動が不正であり、某派閥の反乱として処罰する。いや、さきほどした。その通達を全基地に今し方だした。ついでにあの子の情報と保護の願いも」
「えっと、私はこれからSOPと何をすれば良いのでしょうか」
事情を知らず、首を傾げるばかりのROにペルシカがコーヒーをカップに注ぎながら答えた。
「ざっく言えば、迷子の捜索だよ」
ことも投げに言うペルシカに、事態が飲み込めないROはまた首を傾げる。
「はあ」
「私とペルシカは、少し年上の親友の忘形見を守りたいだけなんだ」
ヘリアンが拳を強く握って、言葉を絞り出す。彼女が後悔の色が顔ににじむのをあらわにしたことにSOPが驚いて飛び上がる。
「君たちを形作る理論やシステムの一部の開発者でもあるんだよ」
「そんなすごい人のお子さんなんですね」
ペルシカがタブレットを操作してその人物の名前と功績を指し示すとROは素直に感心した。
「あの子は人形工学を初めとした機械いじりの天才で、あの子の母親はシステム開発の天才だった」
「あんな事故さえなければ、私の研究室にいてくれって頭下げてたかもしれない」
「いや、私の部下にしたかった」
悲しそうに、でも楽しそうに笑うヘリアンとペルシカ。そう話すほどに素晴らしい人だったのだろうとSOPもまた目を輝かせる。
「あの子のお母さん、かあ。似てたの?」
「穏やかで独特の静けさを持つところは似ていたよ。でも、あの人はよく大きな声で笑う人だった。親子そろって春の花の名前が由来の、とても優しい性格をしていた」
ペルシカが一度言葉を切ってコーヒーを飲み干す。まるで後悔と決意を飲み干すみたいだとSOP2はつぶやく。
「だからね、私達は親友に代わって守りたいんだ。それだけのこと」
いつになく真剣に前を向くペルシカの雰囲気に呑まれたSOPとROは今一度、ピンと背筋を伸ばして敬礼をした。
「恥も外聞も捨てて、なんでもやるよ。そのための地位と研究成果だ」
ペルシカのこと一言を皮切りに大掛かりな迷子の捜索と保護の作戦が開始された。