「あれで良かったのか、まだわかりませんしこれからもわかることはないのでしょうね」
あたいは今、小さな命を背負って走っている。AR-15に感染症の恐ろしさと予防法と応急処置なんかをミッチリ仕込まれたのもあって、安全かどうかわからない霧の森に臆病になったんだ。臆病で何が悪い。臆病なのはいいことだ。
「顔と居場所がばれないようにあたいにあのグリフィン所属の部隊のメモリーを消してって頼んだこと?」
「はい」
小さな腕があたいの首にしがみつく。年齢からして発育不良なのがわかる腕。さらにこう、守らなきゃって思う。
「これからは生き残るためにはなんだってしないと」
「わかっていたつもりでした」
黒雲迫る森に震える声が落とされる。
「殺しもするさ、殺されもする。あたい達人形ってのは単純なものだよ。だからさ、気にしなくていい。あたい達ってのは、人間に都合の良いように疑問を持たないように作られているから」
「私はあの時、一人の人形が誓約の指輪をしていたのを見てためらってしまいました」
「命令はためらっちゃダメ」
そのためらいで消えていった物や命を思えば、やりすぎなくらいでちょうどいい。この子に必要なのはきっと自信と信頼できる誰か。それさえあればきっと大成できる。
「でしたら、私は指揮官失格でしょうか」
「すみれには未来がある。また学べばいいの。あたいもいるよ」
「おかあさん、ありがとう」
「大丈夫だよ。あたいが守るから」
「おかあさんがいて、お父さんがいて、お姉ちゃん達がいる。私は幸せ」
なんだか自分に言い聞かせてるみたい。この子の身も心も壊れないように寄り添う言葉を選んでみた。
「このあと、あたいが前に泊まった宿に行こうと思う。そこでなら、落ち着けるから何しようか」
放棄された街に勝手に人が住みついてできた所だけど、びっくりするほど治安は良いあの場所にしよう。そこで少しだけ歩みを緩めて色々と話し合おう。そこでなら少しくらいわがままを叶えられるはずだし。ぐんっと地面を蹴って跳ねる。もう少しで森を抜けられる。二人してその先へ手を伸ばした。今はまだ何も掴めなくてもいつかきっと未来を掴んで見せよう。
「未来を掴もう」
「はい」
視線を下に戻せば街が見えた。まだ見えない遥か先の海への期待を言葉にのせて聞いてみる。
「街が見えるね。すみれはさ、何がしたいの?あたいに何をして欲しいの?」
「抱きしめてください。手を繋いで、子守唄を歌って、それで、私のことを愛してください」
「すみれを全力で愛するよ。家族として生きて行こう」
助けを求めることができない子供の必死な叫びをやっと聞けた。その願いに全力で応えて見せよう。あたいはきっとそのためにここにあるはずだから。