気になることがあった。そういえばこの子は何を持ってここまで逃げてきたのか。AR小隊がそれはもう大切に育てているこの小さな娘がどう生き延びたのか知りたかった。
「すみれ」
「おかあさん。どうしましたか?」
宿のベッドにスケッチブックを広げて鉛筆も転がしていたすみれ。絵じゃなくて、数式や鉄血の人形の残骸片手に模写している。もっとこう、この子には情操教育が必要かもしれない。あたいには 感情を見せるようになったけど、もっと頼ってほしい。
「今、何をどれだけ持ってるの?あたいの持ち物点検のついでに教えてほしいな」
「わかりました」
すみれはスケッチブックを脇に置いてあたいの膝にのる。すみれは無表情のままあれこれとしゃべるけど、じっくり観察すればしぐさでわかる。さっきはこてんと首を傾げてるから、本当に疑問に思っている。かわいい。
「買い物の計画をたてたいの。あと逃亡計画もね」
自分の持ち物点検のついでと、これからの作戦を立てるために聞くとすみれは素直に頷いた。子供ってかわいい。AR-15やM4A1、M16A1にすみれのかわいさを教えてもらって良かった。睡眠が犠牲になったけど、許せる。
「おかあさん。どうかしましたか」
あっ待って。その上目遣いと首を傾げるのはかわいい。抱き寄せた時だけ見せる笑顔もかわいい。
「すみれがかわいい。あたいが持ってるのはこれだけ。レーションに弾薬、あたいと銃のリペアツールにテントと簡単な調理器具。あと、換金用の高級なタバコとこの辺りで出回っている貨幣が少し」
「私が持っているのはですね。電子辞書二つ、さっきの缶入りのアメ、手帳とペン、身分証を兼ねる端末、タブレットにソーラーバッテリー、M4お姉ちゃんが持たせてくれた保存食がもうない防災セットだったカバン。私が生まれた時の家族写真と、3歳の時の父母とその友人と撮った写真。母の形見の結婚指輪。あと、誓約の指輪。私の半分のM4SOPMOD2が持たせてくれた現金も少しだけ」
「さすが。保護者の教育が行き届いてる」
「お姉ちゃんが褒められるのは嬉しい」
そこは自分を褒めてって言うんだよ。かわいいからいっぱい撫でてあげる。
「M4たちをお姉ちゃんって呼ぶ理由、M16がお父さんの理由を聞いてもいい?それと、あたいがおかあさんの理由」
「M4お姉ちゃんとAR-15お姉ちゃんの理由は私に対して距離がとても近いから。M16がお父さんの理由は肩車をしてくれたから。微かに覚えている父と同じ肩車をしてくれたのが嬉しかった」
発育不良で人に頼るのが下手なこの子は、わずかに残る思い出にすがったのか。そうだよね。まだまた親の膝の上で居たい時期だもの。
「そっか。家族だね。時々話してくれるSOP2ってやつはどうなの?」
話を聞いていると、この子には愛情と安心できる暮らしをさせたい。そんな気持ちになる。45といるときみたいに、守るべきものがあると違うなあ。
「初回起動時にボタンを押させてもらってから、ずっと一緒でした。何をするにもそばにいるのが当たり前だから、私の半分」
「半分、かあ。特別だねえ」
「おかあさんはですねえ。話し方に母を思い出したからじゃだめですか?」
やっぱり母が欲しい。そんな願いもあったと教えてくれた。なおさら、守らないと。
「そんなことはないよ」
「私のことも、いっぱい話すのでそばにいてください。いつまでも」
チラッと見えた顔に不穏な表情が見えた気がした。あれは重い女がやる表情だ。見なかったことにしよう。
「ずっとそばにいるよ」
「ふふふ。いまが一番幸せ」
「もっと幸せになろう」
「はい」
あたいは親として、託されたかわいい娘をしっかり背負っていこう。そう強い誓いを立てた。