ふてくされたり、半分寝てたりいつもの面構えを前にして私は気合を入れ直す。だってとーっても回りくどくて、十重二十重に策を巡らせる必要がある仕事だから。こんな倉庫もどきじゃなくて、まともな部屋でゆっくり休みたいから駆け足で説明していきたい。壁に立てかけてある折り畳みの椅子を指差して適当に座れと促せば、いつもの面子は素直に従った。
「急ぎで悪いわね。本当にざっくり説明するなら、内容は同じ迷子探しと保護を二重に受ける。前にAR小隊の指揮官になって死にかけの人間を二人か三人ほど逃してくれと頼んだやつから、まーためんどくさい依頼がきたわ。ただしそれを合コン連敗女に知られてはいけない」
みんなの顔つきが変わる。だってそうだ。さっき合コン連敗女から寄越された資料にめんどくさい事がずらーっと並んでたもの。何人も存在が消えて死んだことになっている歴代AR小隊指揮官。彼らは揃いも揃って親戚としか思えないほど似ている顔、同じ家名をしていた。そんな彼らそっくりの人間がまたそっちから接触を図ってきた。今度は「人を逃してくれ」じゃなくて、「迷子の保護」を理由に。
「あの蛇みたいな合コン連敗女に知らせるなって?頭が痛くなりそう」
「あのね416。もう痛いの間違いじゃないの?」
「毎月口止め料くれる人だよね?へー、久しぶりだー」
「そこまでは百歩譲って、なんとか良しとしたい。させてほしい。でもね、問題はそこから。今、さらにめんどくさいことになったの。あの合コン行くの辞めれば楽になれるのに辞めない女と、保護対象の迷子そっくりの口止め料の主からまーた依頼が追加で入ったわ」
慣れた手つきで端末を操作してホログラムを暖房の効かない部屋に投影する。寒くて手がうまく動かないことにいらつく。荒っぽい手つきで操作をする私を9が気遣う。ちょっとだけ癒された。
「45姉。使い捨てカイロつかう?」
「もらう。あの口止め料の主と、合コン連敗女からとある人間二人の護衛を頼まれた。南の辺境の、私が良く知るポイントまで行くよ。散々死にかけの人間を連れて行ったあの場所にまで行かなきゃいけない。二重の依頼ってことはヘリアントスには秘密。めんどくさいったらありゃしない」
私が大げさにぐったりするもんだから、みーんな天井仰いでため息ついちゃった。わかってくれて何より。あーあ、これだから人間はめんどくさい。
「9、人間って本当にめんどくさい」
「そうだねー。途中でシーアとこよろっか。がっつりメンテナンスに行こう」
「うん」
なぐさめに9が私の頭を撫でにきた。小さな子供みたいにあったかい手が私の傷んだ髪の毛の間を滑り落ちていく。前にもやってくれたよね。あったかい。いや、9にやってもらったのはこれが初めて。私は何を勘違いしたのだろうか。
「45姉?」
「なんでもない。AR小隊絡みの仕事なんてもうこれでおしまいにしたいなってだけ」
曖昧に笑ってごまかせば9も神経質で真面目な416も何も言ってこない。首をもたげた何から目をそらしてAR小隊に関わって存在を消された人間を逃したことを思い出す。件の迷子も悪い大人に騙くらかされて悪魔の契約書にサインした。
「ぜーんぶ、ばかみたい」