「やれるだけのことをやるから」
ここが猟師小屋なら、救急箱と常備薬くらいあるはず。小屋の中をひっくり返して足掻く。手始めに机の引き出しから探そう。そこにはペンとメモ帳、ルーペとマッチ二箱。それだけだったから、次を当たる。クローゼットを漁ってみる。男性物の冬服と下着3セット、タオルに未開封の歯ブラシと歯磨き粉。ここは男性が所有者の物件らしい。他に探せそうな場所は古びたチェストくらいか。結構大きいし、そこに一縷の望みをかけて手を伸ばした。
「あった!使用期限一カ月前の解熱剤!!」
解熱剤の瓶には数粒だけ残っていた。ラベルの説明書きをよく読む。
「良かった。子供にも使えるやつだ」
あとは自分が持っている水とレーションで食べられそうなやつ。セットにあったうさぎ肉のパテの缶詰なら、たぶん食べやすいはず。でもここで、手が止まる。
「これで……あれ?あたいは、いったい」
見ず知らずの死にかけの子供に貴重な食料と水を食べさせて何になるのか。そんな考えが急に頭を占める。いくつもの思考と、やりたいことがぐちゃぐちゃになってる。いわゆる、「心情」にあたる部分と、「理性」にあたる部分が競合したから。実際には1分程度、それでも体感ではとても長く感じるほどに迷った。それでも、解熱剤の瓶を握り込んで腹を括って無理に笑ってやった。
「あたいが45にみせた瞳みたいなのと、見せられた誰かの悲しみとかさ。そんなの、見たくないなあ」
ベッドのすぐそばにどっかりと座り込む。埃っぽい天井を見上げて、ひとりごとを吐き出した。
「この際、神頼みだろうがなんでもいいや」
これはおばけの気の迷いなのだから。
「わがままでいいよね。自由なんだし」
道具としての生を全うして、人としてロスタイムを生きているあたいは、自由だ。だから、何をしたっていいんだ。誰かを身勝手な理由で助けて、一緒に生きたっていい。リュックの中に手を突っ込んでレーションを探した。ぐちゃぐちゃにしたから、また整頓しないと。
「生をあっさり手放しちゃダメ。あたいは偶然生きてるけど、45を絶望させた罪を背負ってるんだ。あんたもそんなことをするな」
自分が言える立場じゃないけど、言う。言うだけなら、タダだし。
「あたいが食べて元気じゃないと看護はできないよね」
レーションのクラッカーを一つ口に放り込んで、また考える。
「どう看護しよう」
残念なことにあたいは時代遅れの電子戦モデルだ。容量はいつだってカツカツで、射撃もどうにかできるだけ。誰かに寄り添う術なんて知らない。知らないってことは、生存率に関わる。
「なんてこった。でも、やるしかない」
袋に水を注いで温めるレーションの封を切る。
「あたいの分を温める間にたべさせようか」
それを床に放置して、パテの缶に手を伸ばす。