我々の隊長殿はよく眠る。私の隣でぐーすか寝てる眠りネズミ以上にそれはもうよく寝る。今もまだ寝ている。何もない日は夜9時に寝て翌朝8時まで起きないほど。
「本当によく寝てる」
昼間はバリバリ働くが、夜になればさっさと寝てしまう。シーアとデールの所で45だけメンテナンスが長引いたあの日、偶然見てしまった彼女の容量の内訳が気になって仕方ない。彼女の内側には現代においては無用の長物である電子戦モジュールが大部分を占め、猫の額ほどの隙間に指揮モジュールが詰まっている。しかも射撃系のモジュールが入ってないのには驚いた。あのUMP45は経験と知識を後天的に詰め込むことで銃撃戦を切り抜けていたなんて知らなかった。誰にも言わずに黙々と経験を積む。他の人形にとって簡単にスキップできることができない。なのに彼女は冷静で残酷な女の仮面を被っていられるのか。
「何日も移動だけってもの、中々つらいのね」
ヘリ、輸送車、荒れた道でも走れるキャンピングカーと乗り換えて私達は南下していく。誰もいなければ何もない土地へひらすら向かうだけ。途中、グリフィン上層部が回収に躍起になっているAR小隊のメンバーがふらりと現れては煙のように消える。その都度追いかけては脇道へ逸れるから予定以上に遅れて困った。多分一番困っているのは合コンの敗者だろうけど、知ったこっちゃない。M16の澄まし顔に一発どころか五発分くらい拳を叩き込みたいが、今の私は眠りネズミ二人に抱き枕か何かにされていて動けない。
「大型に近いキャンピングカーを借りて交代で運転するのはまだ気楽でいい。でも、抱き枕はごめん被る。朝のうちに何かつまみたいし」
生憎とこいつらは私をガッチリ抱きしめて動かない。セミダブルベッドに三人が無理矢理寝ている今、とても苦痛でしかたがなかった。抱きつき癖のある45は体温高めで熱いし、G11は寝ながら器用に私の胸か尻をもむし、9は9で寝ながら私のふとももをまさぐる。いくら人形であろうと性的な加害は禁止だ。いいかげんにしないとつまみ出すぞ。この子供体温から抜け出そうもがいていると45が寝言を繰り返しているのに気づいた。
「ごめんなさい。どこにもいかないで。どうして」
本来人形は夢を見ない。でも、寝ている壊れかけの人形が記憶のデフラグに失敗して寝言みたいにあれこれとつぶやくことはある。G11もそう。あの子もバッドセクターが多すぎていつ壊れてもおかしくない。そうか、45もぼろぼろなのね。
「起きなきゃいけないけど、たまにはいいかな」
普段の姿とはかけ離れた気弱で臆病で、泣き虫な45の手を振り払えなかった。45のきゅっと寄った眉根をほぐしてあげて頭を撫でる。ふにゃっとした笑顔に変わってさらに私に抱きついてきた。今回だけよ。今回だけは45が求めてる誰かの代用品になってあげる。
「あのね40、約束だよ。きれいな海に」
私の耳元で儚い約束を交わす言葉がささやかれた。半世紀以上昔の記録にしかない美しい景色を探す約束。45は誰かさんと随分とロマンチックな約束をしたのねちょっと羨ましい。
「海、ね。起きるのはまだはやいから、もうちょっとだけおやすみ」
その約束を肯定も否定もせずに頭を撫でてごまかすことでその場を凌いだ。私達の夜はまだ明けない。いいや、きっと明けることはないだろう。その事実から目を逸らすために私も眠ることにする。