なんだか嫌な予感がする。その予感のせいか少し早めに起きてしまった。寝直すこともできない時間だったから宿の主人に挨拶してからすみれと二人、朝食をとった。ベーコンとチーズのミルク粥。あたいのには粗挽き黒胡椒が乗ってるけど、すみれは子供だからのってない。熱いから少しずつ食べていけば嫌な予感がすっと溶けていく。あったかいご飯にあったかい部屋。それに我が子さえいれば幸せになれる。
「おかあさん。美味しいね」
「美味しいね」
すみれが小さな手でじゃがいもの優しい味のポタージュをスプーンで少しずつ飲んでいる。それがかわいい。宿の主人夫妻や家族もニコニコしている。その優しい笑顔の中にすみれとよく似た顔をしていると気づく。宿の老婦人、息子と孫娘がすみれとよく似た顔をしている。この子とこの優しい人達が親戚だったらいいのに。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。ご婦人と娘と顔が似ているような気がして」
「そうですねえ。保関(ぼせき)の家名は今も昔も親戚しかいないので、もしかしたら親戚かもしれないですねえ。私達は本家や分家もふくめてほとんど辿れるほど把握していますけど」
「だったらいいですね」
本当に親戚だったらありがたいけど困る。あたいとすみれは一緒に海を見に行くって言う約束をまだ果たしていない。曖昧に笑って誤魔化して朝食を食べることに専念した。ちらっとすみれの様子を伺ってみると蒸し鶏と温野菜のサラダと格闘している。ブロッコリーとキノコ、にんじんが苦手みたいで端によけている。まだまだ子供だなあ。
「ちょっと食べてみない?ほら、あーん」
「うん。ちょっとだけなら」
フォークで小さく切り分けたブロッコリーをすみれの前に持って行く。かわいいあたいの娘は悩みに悩んでおそるおそるブロッコリーを食べた。ゆっくりと食べてぽつりとつぶやく。
「おいしい」
すみれが目を輝かせて、もっと食べさせてほしいとあたいの手を引っ張ってきた。そこがまた子供らしくてかわいい。かわいい姿をM4達に伝えられたらいいのに。
「食べてくれて良かったよ。裏の畑で作った野菜なんだよ。しばらくの間、お客さんははさくらさん達だけだからゆっくりしていってね。おかわりもあるよ」
宿の主人が料理について教えてくれた。自分達が食べる分と客に振る舞う料理のために野菜を育てて狩猟にもでていくのだと。野菜が一番美味しい時期に収穫してその日のうちに料理をする。なるほど、だからこんなに美味しいんだ。顔を見合わせてさらに一口。うーん、幸せ。
「食べます」
少食で偏食ぎみだって聞いてたすみれがおかわりを要求する。子供が成長していくってこういうことなんだね。食べすぎに注意して、この後は思いっきり体を動かす遊びをしよう。宿泊プランで食事付きのを選んで良かった。M4達から養育費としてまとまったお金を渡された時は驚いたけど、この笑顔を知ったらきっと彼女らも喜ぶはず。
「お昼にはおやつも作るから待ってるんだよ」
宿の主人がケーキを焼いてくれるらしい。魔法みたいなケーキだから楽しみにしていて、とのこと。あたいも楽しみでしかたない。料理があんまりにも美味しいから期待する。
「お菓子もですか?」
すみれが申し訳なさそうにしているが、子供はいいものをもらえるだけもらうのが仕事だって宿の主人に諭される。親の膝元で守られているのが子供だもんね。それをこれからあたいがやるんだ。
「ありがとうございます。すみれ、いっぱい食べていっぱい遊ぼうね」
こくこくと照れながら苦手なはずの野菜を食べているすみれの頭を撫でる。今はまだ小さなこの子があたいの背丈よりも大きくなることを願って、手を引いて行こう。そう決めた。