「朝が来たから、それでいいじゃん。ね?私達はほら、前を向かないと」
疑問で頭がいっぱいのROの話題を無理矢理そらす。そうでもしないと私が支払った対価が無駄になるもん。ROを撫でてかわいがりながら昨夜のことを思い出す。一人きりになると不思議なことやものによく出会う私はいつのまにか、そういうのとの付き合い方がわかってきた。昨夜願ったことはその一つ。すみれに、私達AR小隊の歴代指揮官そっくりの顔の女性っぽい何かに、私は確かに願った。
「久しぶりやんねえ。おちびちゃん」
白と赤のひらひらした不思議な服を着て、ふわふわ浮いてるすみれによくにた女性。彼女は心配性でおせっかいで、優しいから何かを代償にして助言をもらうことがいっぱいあった。
「久しぶり!あのね。やってほしいことが一つあるの。ほら、私達って人に似てるから怖いやつがよってくるじゃない?新しい妹みたいな子がしっかりと自分を作って、そういうのを跳ね除けられるまで危ないとこに行かないように朝へと押し戻してくれる?私もあれこれ教えるし」
「うんうん。そんで?」
「すみれからもらったクリスマスプレゼント。これが対価になるかな?」
大事につけている手編みのマフラーを指差せば彼女はにっこり笑って頷いた。
「大事なんやろ?」
こういう、不思議なものが欲しがるのはお金じゃない。誰かにとって思い出が詰まった品物や記憶が不思議なものたちの欲する物。だから私は昨夜対価を支払った。それに否はない。
「うん。それでも、ROが守れるならいいかな」
「ええんやね?」
彼女はすみれと同じ訛りで念のためと聞いてくる。私は笑顔で頷いた。
「うん。足りないなら、対価を探すね」
「だいぶ足らんなあ。せや、うちの名前あてるんは?どこにあるかは聞いてもええけど、人からうちの名前直接聞いたらあかんで。あがで探すん。期限は2064年12月31日まで。探すとこはずーっと南、極東の人々の移民の街みずほで探してな」
私達が向かう街の名前にぎょっとする。そこまで知ってるのにどうしてみているだけなんだろう。
「あなたはみてるだけなの?」
「そらわえ契約しちゃあるもん。しゃーないねんなー」
訛りがきつくて聞き取るのは疲れるけど彼女の言いたいことはわかる。私達人形が命令に背けないように、ああいう不思議なものは人から提示された契約を自分から破れない。
「だれと契約したの?」
「秘密やわあ」
「いけずー。厨房からくすねたチョコレートブラウニーいる?」
「欲し。そえやったら、ヒントだけやんね。芽吹いたばかりの春の花」
ぽいっとブラウニーを投げれば、彼女はわたわたしながら受け取る。どんくさい所がとてもすみれに似てて胸がきゅっと痛むような気がした。
「覚えておくね」
「あんじょうやっとくさけ、おまんももう寝よし」
「うん。おやすみ」
「うちができるんて、そげそげないんや。こらえて」
「知ってるよ。だから、ここまでにしとく。また会えたら名前当てるよ。おやすみ」
私達が銃をもって戦うことだけはできるように、不思議なもののできることも限定的だって知ってる。知ってるから、ひどいことはできない。そんな昨夜のことを思い出しているとROに呼ばれた。
「SOP2!マフラーはどうしたの?ずーっと大事そうにしてたのに」
気づくよねえ。そりゃ。めんどくさいなあ。私もみんなも。今日くらいは笑ってごまかしちゃえ。
「秘密ー。女の子には秘密でお化粧するものなの」
「こら!ごまかさない!」
「いいじゃん。ほら、行かなきゃ。やるべきことだけ見ていよう」
「ごまかすなー!!」
ROの背中を押してごまかす。夜の恐ろしい世界をかわいい妹が知らないままでいてほしい。それが私のわがまま。