気になることが一つあった。M4が我が子と公言し、それはもう大切にする子供の行先。 しばらく廃墟の街でキャンプだし、アンジェにはメールして舗装された道路だった山間を走る。
「AN-94にはお留守番してもらって、お散歩も悪くはない」
そうねえ。AR-15とM4がコソコソと話していた二つの座標に散歩に行ってみようかしら。落ち葉と枯れ枝を踏む私の足音をBGMに景色は流れていく。放棄されて何年も経っているはずなのに、最近人の手が入れられた道路。獣害、土砂災害対策の柵。未知の言語の看板に隠すように建てられた新しい山小屋。間違いなくこの辺り一帯に人里がある。交差点の真上の古い看板の言語はロシア語圏の表記なのに、脇の新しい立て看板は私の知らない言語。違法か合法かはさて置いて、放棄された街に新しく人が移り住んだのかもしれない。盗み聞きした座標はこの先。耳に入れた二つの座標のうち、遠い方は人の足だけで安全な道路を素直に進めば10日以上15日未満。でも人形の私が山を突っ切れば3日程度でたどりつく。近い座標は今私のいる地点からは山を突っ切れば2時間足らず。あの幼い子はM4達の言葉を信じて行った。それが私の好奇心をくすぐるの。
「ふふん。大当たりってとこね」
ガサガサと木々をかきわければ山頂へと進む細い山道が目の前に現れた。あとはここを登ればあの子が目指すだろう座標に辿り着ける。隠してある道なら、また元に戻すのが道理だろうと枝葉に手を伸ばして気付いた。誰かがいる。この気配の大きさは、大人じゃない。
「かくれんぼは一人じゃできないのよ」
「違うよ。待ってたの」
「待ってた?はぐれたの?」
「おかあさんは山の上の宿でまだ寝てる」
「M4、あなたの教育について聞きたかったわ」
「お姉ちゃんはわるくない」
なんやかんやと聞いてみれば、大木のうろから小さな頭がひょっこりでてきた。これにはびっくり。驚いて後ずさる私の顔をM4達の娘がじっとこっちを見ている。この子、大物になるかもしれない。
「待っていた?私を?」
「うん。待ってたの」
「どうしてよ」
「友達がほしかったから」
「友達?わからないわ」
理解できずに1分ほど思考がフリーズしてしまった。M4、あなたたちの娘はとんでもないことをしでかしたみたい。金と技術を注ぎ込んだ軍用人形の私をフリーズに追い込むのってすごい大変なのよ。
「うん。友達。ずっとここにいるのは良くないから、おかあさんのところに行こう。だっこして?」
「あ、うん」
混乱する私は言われるままにおねだりのままに子供を抱き上げる。抱き上げて、頬を寄せれば小さくて、やわらかくて、とてもはかないのに修羅場のアンジェよりも豪胆な子供の顔が良く見えた。まんまるな瞳が真っ直ぐに私を見つめて離さない。
「あのね」
「どうしたのよ。もうちょっとしたことじゃ驚かないから」
「この先の小さな町の宿に泊まってるの」
「それで?」
「そこのご飯が美味しいから一緒に食べて、町の公園で遊ぼう」
「ん?うん。それで?」
「この先にね、パパとママの生まれた街があるの。そこに行くよってM4お姉ちゃんに伝言お願い」
「住所はわかるの?この世界はとっても残酷よ。子供一人じゃ行けっこない」
「住所は知ってる。大丈夫、今はおかあさんがいるよ」
腕の中の子はM4と同じ目をしている。まっすぐに前だけを見据える強い意志を宿した目。きっとこれは梃子でも動かないわ。降参。
「しょうがないなあ。友達になってあげる。でも、その前に一つ。風邪引く前に宿であったまりましょ。おかあさんも不安だろうし」
「うん。おかあさんは大事」
「子供のことを真剣に考えてくれるおかあさんは大事よ。それとお友達になるなら自己紹介しないとね。AK-12よ。よろしくね」
「保関すみれ。名前はすみれの花って意味。よろしく」
差し出された小さな手にそっと私の手を重ねる。冷たい手にひやっとする。この子が万が一風邪でもひいたら保護者に蜂の巣にされかねない。その前に宿に行かないと。
「宿に行かないとね」
「うん。お願いね」
「任された」
友達と一緒初めてやることは登山。やってやろうじゃない。