※この作品はR-18です。

ゴーストフロントライン   作:蓮見民江

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2063年2月13日11:33 AK-12

子供は無尽蔵の体力を持っている。それを言葉では知っていた。まさか軍用人形の私がそれを身をもって知ることになるなんて。たかが遊ぶだけどたかをくくっていた私は小さな子に散々振り回されてものの30分で音を上げてしまった。そこで私ははじめて命の強さに触れることになる。

 

「おにごっこしよう」

「手を繋いだままでできないわよ」

「しらなかった」

「すみれって物知りで機転がきく子なのに、子供らしい遊びや生活を知らないのね」

「ペルシカさんやヘリアンさんが外は危ないからって、ずっと奥深くに隠れるみたいに生きてたの。そばにいてくれたのはM4お姉ちゃんとかお父さんだけ。ペルシカさんたちは月に一回会えたら運がいいほう。毎月手紙はくれるから優しい人だってのは知ってる」

「M4お姉ちゃん?」

「うん。みんなでとった写真あるけど、みる?」

「みるわ。あと、お父さんとお母さんについても教えて」

 

ポケットからすみれが写真を取り出して説明してくれる。やわらかな蜂蜜色の頬がばら色にそまり、琥珀色の瞳がよりいっそう輝く。その幼い子の幸せに寄り添って耳を傾けた。

 

「おとうさんはこの写真の中で私をだっこしてるし、おかあさんは今私の横でニコニコしてる」

「そっちじゃなくて、生みの親の方よ」

「三歳の時ね。パパとママとその友達のペルシカさんとヘリアンさんとアンジェさんとリコお兄ちゃんでお祝いの旅行に行ったの。そこで空から爆弾が降ってきてパパがいなくなって、ママが探しに行くって私を置いてそのまま。それからずっとM4お姉ちゃんたちに育てられたの」

「そうなのね。人から隠れて生きてたから、勉強はできるけど人の生活はあんまり知らないのね」

「うん。あれから、お父さんもM4お姉ちゃんもみんながいなくなって、誰もいなくて。だからかな。知らない人に連れ去られておどされて、それで逃げたの。おかあさんと出会わなかったら死んでたと思う。おかあさんと出会えて良かった。M4お姉ちゃんやお父さんにもちょっとだけ会えたし。約束もしたの。みんなで海を見に行こうって」

 

物知りで機転がきくのにいざすみれが自分の心情を伝えようとするととたんに拙い言葉になるあたり、ほとんど人と関わることが出来なかったのだろう。そんな予想が簡単にできてしまう。

 

「約束、ね。ここまでくれば海はあと少し。山を道なりに下ってすみれの足だと三週間か四週間ってとこじゃない?」

「おかあさんにおんぶしてもらうし、あちこち見て回りたい。パパとママの生まれた街にも行きたい。道に沿っても山を何度も越える長旅になるのはわかってる。でも、行きたい」

「そう。ならお友達として旅の無事を祈っておくわ」

「ありがとう」

 

この子を取り巻くのは苦しい事態だけなのに、とうの本人と保護者の人形はニコニコしてるだけ。まったくどうかしてるわ。でも、コロコロと表情が変わって素直に楽しいとはしゃぐこの子の顔を見れば許してしまう。負けた気分なのに嫌ではない。でも、後先考えずに私を振り回すのはいただけない。

 

「ねえ、ちょっと休憩しない?」

「やだ。もうちょっと遊ぶ」

 

小さな子はへばった私の手を引いてぷうっと頬をふくらませて抗議してくる。その小さな足は好意で解放してくれた小学校の庭をずんずん突き進む。古びてはいるけどもしっかり手入れされた遊具を指差して言った。

 

「はじめての友達と遊びたい」

「お昼ご飯の時間になるまでね」

「うん。でも、遊びたい」

「すみれ」

「どうしたの」

「雪が降ってきたわ。このあたりは暖かい方だから真冬でも積もらないけど、宿に戻りましょ」

「でも遊びたい」

「でもじゃないの」

「また遊んでくれるって約束してくれるなら」

「約束するわ」

「えへへ。約束ね。ママがね、約束するときにこうするんだよって教えてくれたの。それだけは覚えてる。もう、それだけしか覚えてないの」

 

小さな手が私の手を取ってそっと重ねる。小指と小指をからめてすみれが言うのだ。

 

「約束ね。また遊ぼう」

「また遊びましょう」

「遊んでくれてありがとう。秘密のプレゼント、いる?」

「なかみは?」

「二人だけが知ってるAK-12だけの名前」

 

私達人形は換えのきくたくさんあるものの一つ。それでも、この子のはじめての友達という唯一になる特別感に酔ってみたくなった。

 

「のった。その名前と意味は?」

「あのね」

 

そうっと耳元でささやいた遠い異国の美しい言葉。その意味に唇は弧を描く。美しい雪という意味があるその名前をそっと口の中で転がすとすみれに晴れ晴れと笑ってみせた。

 

「すてきね」

「よかった」

「ふふふっ。かわいい。ほら、おかあさんが心配してるから戻りましょうよ。ご飯いっぱい食べて、めいっぱいあそんで、早寝早起きしてまた遊ぶ。それがすみれの今のお仕事だから。ね?」

「遊ぶためにご飯食べるよ」

「それでいいの」

 

言葉では知ってたけど、駄々っ子の相手ってつかれるのねー。それじゃ、あとはおかあさんに丸投げしちゃえ。ひょいっとすみれを抱えておかあさんに渡す。これでいい。さて、ご飯ご飯。たまにはいいでしょ。あとでM4に自慢してやろうかしらね。

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