「昔に戻ったみたいだな」
我が子のためと、休戦までして亡者と機械だけが我が物顔で歩く廃墟の街の上にいる。鉄錆と火の匂いと煙が鼻をかすめる。そのお世辞にも良いとは言えないにおいから顔を背けた。まだ慣れないなと皮肉屋を気取って笑えばM4がふくれっつらでつぶやいた。
「ずっとM16姉さんがいてくれれば良いのに」
子供みたいにきゅっと眉根を寄せてるのがかわいいからつい昔みたいにM4の頭を撫でてしまう。さらにむくれて頬を膨らませるのがまたかわいい。
「私がやるべきことを全てやり終えたら、な。M4、それまでいい子で待っていてくれるか?」
「私はいい子だから待てますけど、年相応にわがまま言えるようになったすみれはきっと待てませんよ」
撫でられたままでいたいのかM4は私の手を掴んで離さない。いつまでもかわいい妹なものだから、いつまでもこうしていたくなる。いつまでもこうしてはいられないのにな。
「ははっ。成長したなあ」
「からかうのもいいかげんにしてください」
「すまなかった」
M4がやっと手を離してくれた。私の方が手を離したくなかったけど、やるべきことのためだと無理に笑顔を作る。そんな私の顔を見てM4が悲しそうにみつめてきた。かわいい妹にそんな顔はさせたくなかったよ。させたくなかった。
「M16姉さん。やっと私、思い出したんです。M16姉さんの特別なひとを。すみれによく似た優しいひとのことを」
背中に氷塊が滑り落ちるような、とても嫌な感覚がした気がしたんだ。M4はどこまで何を知ってしまったのか、知りたくてでも知りたくない。
「いつ思い出したんだ?」
「すみれによく似た人じゃ無い何かと取り引きをした夜に」
「あれに関わるのはやめろ」
反射的に否定の言葉を投げつけてしまう。人なざるものとの出会いとつながりは生き物や私達人形の在り方をゆがめてしまう。今ならまだ間に合う。止めないと。
「すみれの血縁ですよ。無理な話です」
それがどうしたってんだ。私が守らないと。じゃないと、私がここまでやった意味がなくなる。
「だから、M4」
「姉さんだって、あの人を取り戻すためになんでもするでしょう。私だって生涯を捧げると誓ってくれた人を取り戻せるならなんでもする」
「それはこれと別の話だ」
ぴしゃりと強引に話を切る。そうでもしないと全て言ってしまいそうになるから。
「だったら姉さん、その髪と左腕はどうしたって言うですか!左目をなくした理由も何も教えてくれない。私はそんなに頼りないの?」
肘から先がない私の左腕を掴んで叫んだ。その叫びに涙と後悔が透けて目を逸らす。涙を流せるほどの性能と優しさを持っているかわいい妹を泣かせたくなかった。自分のこの、ふとした瞬間のこの不器用さと妹をだまくらかす悪行も憎んだ。
「それは、その」
肘から下を無くした左腕と、雑に切りそろえた髪の理由なんて言えやしなかった。M4が「あれ」とか「あいつ」とか呼ぶ人ならざるものに頼んで、愛する人を冥府まで迎えに行く代償にしただなんて言えない。ああいうものとの取引で、差し出したものは戻らない。後で新しい腕をつけてもすぐ壊れるだろう。
「左腕のことを素直に教えてくれれば、ばれるまではAR-15には黙っておきますから」
ぶっきらぼうに私に優しくするM4がかわいい。昔からかわらない優しさにほっとした。もうちょっとだけ撫でてやろう。
「なんでそこにあいつがでてくるんだ。気が抜けるだろ」
「だって、うちのめんどくさい女筆頭だから」
「お前が言うのか」
「なんのことだか」
適度に付き合って、突き放してくれる。私の妹がM4で良かったな。
「残念だが、とぼけているヒマはないみたいだな。あの真面目そうなのがAR小隊に新しく入ったやつか」
「たしか、RO635といったはずです。ちょっと前にあいつとの取引のついでに情報をもらいました。
「そうか。私の方でもあいつ経由で情報仕入れるか。なあM4。ひよっこ相手にいっちょ遊んでやるか」
「くれぐれもほどほどに。姉さんはすみれのことになると口が軽いもの。余計なおしゃべりもしないで」
M4が武装を軽く見直す。ここでひよっことSOP2コンビと遊んで、すみれがいる場所から大きく引き剥がす。で、こっそりすみれの顔を見に行く。すみれが生みの親の生まれ故郷にたどり着くまで。たった一人の我が子を手元で育てられない親ですまない。
「わかってるよ。M4、ごめんな」
「わかってるなら謝らないで」
「ごめんな」
「悲しくなるのに。姉さん、10数えてでますよ」
「はいよ。指揮は任せる」
時は戻せないし、失われたものは戻らない。でも、生きていればどうとでもなるから。