ヘリアンさんがあせってた。本来の目的地とは真逆の北方にM16やM4が現れてはからかうように消えていくから進めないらしい。みんな、互いに何をしたいのかを隠してやりたいことだけやるもんだから何も見えない。わかんないまんま、わたしとROは街だった場所を走って、人だったり警備用の機械だったものを踏みにじっていく。かつて生きていた人間がわたし達人形にしていたことを、今わたしがやっているのがどこかこっけいで変な笑いがでちゃう。
「すみれに会いたい」
てのひらから砂がこぼれ落ちるみたいに人が人形がバラバラになっていくのが見ていられない。わたしの中ががらんどうになって、寒風に吹かれて嫌な音がする気がして居ても立っても居られない。そんなのだからついに生き物なんていない街を走り出しちゃった。
「みんなどこいったの?さびしいよ」
鉄錆くさい風がROの足音と不安そうな声を運んできたことで、わたしは思考を現実に引き戻せた。
「SOP2?さっきから思い詰めた表情でうわのそらだけど、どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ。なんでもない」
冬の冷たい風が今にも雪か雨が降りそうな黒い雲を連れてくる。この辺りはあったかいから、きっと雨だろう。そんな天気の予測と風がもっと嫌なものを連れてくる予感を振り払うみたいに首を振る。振り向きたくない。今振り向いたらきっと前に進めなくなる。でも、生まれたてでまっさらで何も知らないかわいいROを不安にさせたくないから声色だけはめいっぱい明るくするの。
「本当に?」
「えーっとね。なんて言えばいいんだろ。AR-15にM4はやさぐれたけど元気そうで嬉しいの。でも、M16のことが心配。傷痕だらけだし、何より左腕と長くしてた髪の毛がどっかいったのが気になる」
ROは気づかなかったか、知らないフリでもしてくれたのか触れなかった。今はそれでいい。
「そんなに?私達人形なら、修理すればすぐに元通りになるのに。そんな設備もないままほっつき歩いてるのが心配なことなの?」
ROの言うことはわたしたち人形達の中じゃ正しい。でも、常識になっていることを言ってるだけ。わたしの考えていることはそうじゃない。人形は設備と部品さえあれば簡単になおせる。けど、人ならざるものに自分の一部を対価として支払ったらどうなるの?きっとM16はそれをしてまで望んだことがあったら?警戒はおこたらないけど、考えに考える。そしたら、ある一つの仮説がなんとなくできあがった。もしも、M16が人生を捧げる誓いと本当の名前をうちあけてくれた特別な人を取り戻すために何かをしたのなら?辻褄が合う気がした。
「うーん。違うよ。なんて言えばいいんだろ。最近ね、どうも頭から離れないことと関係してるんだけども」
「はっきり言いなさい!」
ぱしんとROに背を叩かれる。元気付けたいのはわかるんだけどびっくりしちゃう。
「ぴゃあ!むー……私達の指揮官をしてくれた優しい人達のこと話したよね」
「ええ。資料はほとんど秘匿されているから、事故で死亡扱いの今はもうSOP2の頭の中にしかいない人達のことね。それがどうしたの」
ROがわたしのとなりに立つ。その世界に期待してキラキラ輝いてる瞳がわたしにはまぶしいよ。わたしはもう、そんな期待はすみれに関する事以外捨てちゃったし。
「本当にあの優しい人達は死んだのかな」
「上層部が判断したのなら、そうなんでしょうよ」
M4たちと誓約の指輪と誓いを交わした三人の顔が思考の端に浮かんでは消えてく。優しくて、あたたくて、幸せをくれた人達。わたしたちの唯一の恩寵は自らを犠牲にしてわたしたちを生かすことを選んだ。それがどんなに残酷なことかも知りもせずに。
「むー」
「SOP2ってば」
ROが口にする人形らしいっちゃらしい、紋切り型な答えにはさすがにいやになる。いいもん。わたしはわたしで答えを見つける。わたしをわたしが定義して、始まりを作って終わりを作る。他のやつなんて知らないんだから。
「はいはい。後で聞くってばー。それに、あの人達からはまだ聞いてないことがいっぱいあるのに」
「何を聞いてないの?」
「本当の名前と、どうしてグリフィンに就職したのか。ずっと何を探していたのか」
「名前を隠すなんて、この仕事じゃよくある話じゃない」
「でも、約束したの!約束したのに、教えてくれる前にみんないなくなった」
わたしの手の甲にぽつりと雨が降る。涙を流せないわたしの代わりに雨が降る。私の代わりに空が泣く。
「さびしいよ。あんまりじゃない、こんなの。わたしの半分なすみれまで誘拐されて、行方不明になって。生きてて欲しいよ。そばにいてよ」
人生を捧げると、誓約の指輪と共に一人ずつのすべてをもらったM4達と私の半分なすみれを取り戻したい。
「子供みたいなこと言わないで」
「もう、子供じゃないよ。子供のままじゃいられなくなったから」
わたしを心配そうに覗き込むROには不安になってほしくない。だから笑うの。ちゃんと、笑えたかなあ。
「SOP2が何を言ってるのかわからないわ」
「うん。それでいいんじゃないかな。あ、静かに。来る」
ぞわりと何かが背中を這い回るような感覚、嫌な予感がした。わたしのカンはあたるから。ほらね、来た。
「何が?」
「M16かM4かAR-15が」
「アタリだよSOP2。私だ」
「M16!」
そこには左腕すらもなくしたM16が悲しそうに笑っていた。