合流地点までの道中。動くものはもう何もないのを幸いにしていいことを聞けたと、がれきの上をスキップしながら歩く。雨の中に歌いながら笑えばROが心配そうに建物の影からひょっこり顔を出してきた。叱られるのがわかってしょぼくれてる子供みたいなROがこれまたかわいいもんだから、笑顔でROの言葉を待つことにした。しばらく口元をもにょもにょさせていたROがきゅっと口元を引き結んでこちらをまっすぐに見てくれる。うん。それでいい。
「SOP2、あの」
「RO。もどったよ。ねえ、どうしたの?不安そうな顔して」
「無事戻ってきてくれたのは良かった。けど、私の方は逃げられたの」
ROはしゅんとしてうつむく。もう、私は怒らないのに。まだ実戦経験もないし、目には見えない事や複雑に絡み合った事情だらけでまっさらなROにはむつかしいのかもしれない。そんなROを励ますために肩を軽く叩いてニカッと笑う。
「いいんだよ。どうせAR-15にM4はうまいことROをだまくらかして、行方くらますって知ってたし」
「ならなんで!」
ROってばさっきまでしゅんとしてたのに、もうカンカン。その変化が面白いったら!それなりに生きてきた人が若者を見て、「若いな」とつぶやく気持ちってこんなのなんだろうか。私は怒らないってキチンと伝えないと。
「私は怒らないよ。もうね、どうしようもないんだよ。何もかも。私達はバラバラになって、たった一人の我が子すら行方がしれない」
「でも、諦めてないでしょ」
自分の言葉と冷たい雨がぽたりぽたりと落ちて沈んでいく。でも、私の中にある希望の灯火は消えてはいない。ROの言葉で自分を奮い立たせる。
「そうだよ。諦めていない。これからM16から聞けたことをまとめて、ヘリアンさんやペルシカさんに報告する。ROはややこしいことになるから黙ってて」
「今回だけよ。今回だけ。すぐ暴走する子供みたいなSOP2を制御できるのは私だけだもの」
片目をつぶってやれやれと笑うROにむっとしたから、頭をなでるついでにぐしゃぐしゃにしてやった。ちょっとだけスッキリしたから、よし。
「子育てのために腹を括った私よりも、ROの方がよっぽどおこさまなんだけどなあ」
「そんなことない!ほら、さっさと報告する」
今度はROがお返しとばかりに私の背中をバシバシ叩く。ひどい。ほっぺを膨らませたまんまで後方に待機してるヘリアンさんに通信をいれた。
「はあい。こちらSOPMOD2」
「SOP2か。急にどうした」
「M16と接触して、いくつか聞けたことがあるの」
何を言うべきで、何を隠して、何を聞くべきか。それだけ考えて口を開く。ヘリアンさんの声を待つだけなのにとても時間がかかったような錯覚におちいった。きっと、私は怖いんだろう。
「そうか。一つずつでいいから教えてくれ。要点をまとめるのはこちらでやる」
「うん。あとね、ペルシカさんいるかな?聞いててほしいの」
「いるぞ。さっきまで私達二人は久しぶりに連絡よこした親友に正論でボコボコにされてへこんで泣いてたからな」
いつもひょうひょうとしていてつかみどころがないのがウリのペルシカさん。思いもよらない珍しい一面に触れられたもんだから目を丸くした。
「どんな内容なの?」
「親友から『すみれとその両親に連絡とれない。どうした?』って聞かれたから今までを素直にしゃべったらこんこんと理詰めで説教されたよ。ぐうの音も出ないとはこのことだった。挙げ句の果てには、『おまえら二人は信用ならん。今から探しに行くから、首を洗って待ってろ』と激怒されたよ。まあ、そうだよな。すみれと向き合わずに仕事を理由に逃げていたんだ。私達は最低だよ」
「うん、そうだね。今からすみれを探しているからマイナス30点くらいだよ。親としての覚悟決めて育ててたのは私達で、ペルシカさん達には親になる資格がなかっただけで」
優しさを投げ捨てて事実を突きつける。だって、人間も人形も痛くないと覚えないから。
「なぐさめるふりしての追い討ちをありがとう。目が覚めたさ」
「うん。そこは良かったよ。今までのまんまで、すみれから逃げてたら、私達の間に埋まらない凍りついた溝ができてた」
「そうだな。悪かった」
それを謝るのは私達にじゃない。すみれに対してだって、それも言わないと。でも、その前に私からのささやかなお願いを一つだけ言おう。
「きっとね、人はちょっとくらいは間違えてもいいんだよ。そこから学べば良いんだ。何かを学んで、それをどんな関係でもいいから誰かに受け継いでもらう。そうやって続いていく、繋がっていくのが人にしかできないことだから。いつかさ、私達自律人形を本当の意味で良き隣人にしてくれるまで人が試行錯誤してくれればいいかな。まあ、そこにたどり着くまで私はきっともういないんだろうけどさ。もう、それだけでいいや」
いつのまにか現れた表情がしわしわでしょぼしょぼのペルシカさんが涙をぼろぼろ流してなんか喜んでる。へんなの。
「私が頭を痛めてうんだ子がいつの間に大人になってる」
「私はね、親だから子供じゃいられないんだよ。ヘリアンさんとペルシカさんが子供なだけ」
私達のかわいい娘のためならなんでもやった。今からも、なんでもやる。顔にかかった雨を拭って今回だけはと笑顔で許す。
「ごめん」
「私はいいんだけどさ。本当にペルシカさんが謝るのはすみれだよ。本当にヘリアンさんが謝るのは今まで私達の指揮官をしてくれた優しい人達。M16から聞けたこと、聞いてよ。あのね、M16がすみれを匿ってる。元気だって。それとね、M16がね。私達の指揮官をしてくれたあの人達、行方不明からの死亡ってことになってるじゃん。あれね、みーんな生きてるってさ」
私がさらっととんでもないことをしゃべるとヘリアンさんが椅子から転げ落ちた。とーっても珍しいものをみちゃったな。
「詳しく聞きたいから今すぐ戻ってきてくれ」
「うん。わかった。それじゃ、あとで」
へらりと笑ったまま通信を切る。さて、私も覚悟決めておかないと。ROの肩を叩いて退却を指示する。春はまだ遠い。