あたいは我が子を背負って終わった世界をさすらうものだと思い込んでいた。でも、現実は違った。M16の紹介で隠れ里の宿に行って、M4とAR-15のへそくりで宿泊している。さらには、すみれそっくりの不思議な存在が追加の宿泊料に宿屋の主人一家に多量の口止め料を払ってくれたし。すみれは愛されている。良かった。それだけでもあたいの希望になる。その希望が嬉しくて、ブランコに乗ったまま大地を軽く蹴った。それが楽しいもんだからとなりのブランコでゆらゆらと揺れているだけのすみれに笑顔を向けて話しかけた。
「すみれは運が良いね」
「ちがうよ。おかあさんの運が良いんだよ」
休校になった小学校を善意で丸々お借りして、思いっきりあそんで勉強する。宿でお弁当とおやつを作ってもらって、お昼にはのんびり食べる。
「平和だね。戦場から取り残されたみたい」
「戦わないでいるの、おかあさんはいや?」
「あたいは戦わないでいられるほうがずっといいよ。でもね、一人だけごめんなさいとその理由を言わなきゃいけない子がいるんだ」
「だれなの?」
「うーんと、そうだねえ。親友?妹?ううん、違う。もう一人のあたい、かな?真っ暗な世界にポツンと一人で立っていたあたいの希望の灯火。あたいたちの型番はとっくに廃盤になってるから、かえのきかない唯一無二の存在」
ギイ、とブランコの鎖がきしむ音と自分の言葉ではっとする。45は唯一無二の存在だから、生きていて欲しい。それだけを願っていたから、あたいは自分自身を犠牲にした。
「いいなあ。あのね、おかあさん。おかあさんのこと、もっと知りたい。わたしのことも、もっと知って欲しいの。もうちょっとでおとうさんとおねえちゃんたちが来るはずだから、そのときにお願い。だめかな?」
ブランコから降りたすみれがあたいの服の端っこをつまんでおずおずと聞いてくる。そんなことしなくてもいいのに。そっと小さな頭を撫でてその精一杯の勇気を肯定して笑う。すみれはあたいには笑顔が似合うと言うけど、一番笑顔が似合うのはすみれだよ。
「だめじゃないよ。お昼ごはん食べてからにしよっか。ほら、行こう」
大きく成長することを願う、今は小さな手をひいて歩く。すみれのお月様みたいにまあるい瞳からじんわり涙がにじむ。今まで平気そうに振る舞ってはいけど、まだまだ子供。今度はあたいも生きて守らないと。
「うん。おとうさんともごはん食べたかったな」
「できたら、いいね」
「帰ってくるって約束したから、待つの」
「M16なら約束は守るよ」
「うん」
どうか、この子が子供でいるうちに家族が全員無事帰ってくることができますように。そっと小さな願いをこめて、二人で歩き出した。