私はまだ、憐れみを捨てられないでいる。雨降る世界を見つめて、窓辺で一人物思いにふけっていた。それくらいしかやることがない。
「雨は嫌いよ」
また適当な場所を間借りして雨宿り。M16が件の迷子の安否を握っているとわかってから、人間はみーんなやっきになって探している。挙げ句の果てに人事異動のために相乗りさせてと、車に乗ってる人たちと私達なんてほったらかし。
「本当に、ばかみたい」
ポケットにいれたまんまの、いつの誰かから受け取ったのかわからない品物と言葉を捨てられずにいる。ガラスが割れた古びた男性物の腕時計とどこか足りない言葉。捨ててしまえと考える私を制する誰かの言葉。もうどこにもいない誰かの痕跡。右ポケットの中で冷たくなっているそれらに触れながらどこにも捨てられない独り言をつぶやく。
「あのとき、捨てればよかったのに」
壊れた品物と言葉なんてそこらへんに捨てればいいのに、すがりたくなるような誰かの言葉がそれを邪魔する。無意識に蓋をした過去。その声色も姿形も何もかもを思い出せない、過去から逃げられない。ふるふると頭を振って過去を振り払おうとしたら9に声をかけられた。さっきまで踊りに踊った会議と相乗りしている人たちの謝罪行脚に疲れているみたい。ふらふらした足取りとしょぼくれた顔つきから相当なことがあったらしい。代理で会議にでてくれてありがとうと、言葉とあめだまでねぎらうと9は嬉しそうにあめだまをポケットにしまった。それでも、私の憂いに沈む姿の方が心配らしく私の顔を覗き込んでたずねてくる。
「45姉、あのね」
「どうしたの?」
「えっとね。45姉が自分から嫌なことを掘り起こしてるような顔したから、声をかけたの」
ちょいちょいと9がわたしの服のはしっこをつまむ。こういうときの9はするどい。だから、肯定も否定もせずに曖昧に笑うことにした。傷つけたくない。わがままだとは分かっているけど、9は知らないままでいてほしかった。
「そう見えるの?そっか。心配させたかな。ごめんね」
「謝らなくてもいいよ。自分から傷口を広げるのって、つらいよって言いたかったの」
不安そうな9が腕を広げて待っている。今だけはその9の不安に寄り添うことにしようかな。ギュッと9を抱きしめてあげる。そしたら9も私をギュッと抱きしめてくれた。あたたかい。
「ありがとう。心配してくれて」
「うん。あとね、私はずっと一緒にいるよ。約束する」
「それは、家族だから?」
耳元でささやいてみる。そしたら9が精一杯の勇気を出して否定した。
「違うよ。私が、UMP9が決めたこと。雨が嫌いなら、一緒に傘を探そう」
「ありがとう。約束だよ。これからもずっと一緒にいて」
9が覚悟を決めて私のそばにいてくれることにほっとする。今の私はその言葉さえあれば戦える。