「すみれ」
「おねえちゃん」
やっと会えた我が子にそっと声をかける。隠れ里の中でのびのびとしているすみれの顔をみるとほっとした。好意で休校中の古い学校の鍵を借りているから、日中はそこにいると聞いてまたこっそり抜け出して会いにきてしまう。
「元気そうで良かった」
「おねえちゃん。宿の人がね、お昼作ってくれたの。食べよう」
「すみれはキチンと食べて、しっかり遊んで勉強するのが仕事よ。私の分は持ってるから。でも、少しならそばにいられるわ」
我が子の可愛らしいお願いに頷いて、児童用の椅子と机を寄せて座る。宿の主人がお品書きまで作ってくれたようで細やかな気遣いに舌を巻く。野菜たっぷりで、どの食材にどんな栄養があってどういう風に体を作っていくのか、野菜の苦味を抑えて食べやすくする工夫などなど。それらが色鉛筆で上質な紙に事細かく書かれている。
「これならすみれでも食べられそう」
「おかわりを要求するくらいにたくさん食べてるよ。それにあわせていっぱい遊ぶのに付き合ってるあたいなんか、毎日へとへとで」
ふにゃりと笑うUMP40は修復もままならない旅路で不調に悩まされながらもすみれを愛してくれている。
「いつもありがとう」
「どういたしまして。まもるものがあるから、戦える。生きる理由をくれたすみれに感謝してもしきれないよ」
人はこの子を愛さない。でも、私達だけはこの子を愛して、銃を持たないでいい生き方をさせてやりたい。
「すみれ。食べるのはあわてなくてもいいから」
「うん。おねえちゃんと、あとね。かわいい天使の分もねあげたいの」
「天使?」
「おねえちゃんのうしろにいるかわいい天使に、美味しいご飯わけてあげたいの」
すみれが何を言っているのかわからないとふりむけばアンジェがいた。さらに後ろにはとても渋い顔のAR-15にとても楽しそうなAK-12に、きょとんとしたままのAN-94。何が起きたのかと考えを巡らせればすぐに思いつく。
「あなたがやったのか」
「せやんねえ。うちやんねえ。でもなあ、あれは事故やねん。うっかりやねん、なあ」
ぽやんとした声が聞こえてきて、その後虚空からゆっくりと人ならざるもの姿が浮かび上がる。
「私がソレと取引しているところを見られてしまった。すまない」
AR-15ががっくりと肩を落として私に謝っている。でもそれは謝ることじゃない。
「それは謝ることじゃないから」
「でも、あのAK-12がフリーズしているのをみていると、こう。バレたことに関してはM4と、AK-12がこうなったことに関してアンジェに対して罪悪感でいっぱいで」
「伝承のなかにしかいないものが現れればそうなるでしょう」
「私達はほら、虚空を飛んでいるアレがすみれや伴侶によくにているからすんなり受け入れてしまっただけで……」
「しかたなのないことよ。AR-15」
「今回はそう、いうことにしておく」
納得いってないAR15と私をよそにすみれがトコトコかけていく。
「かわいい天使」
すみれがとろけるような笑みでアンジェにかけよった。アンジェも親友の忘れ形見をそっと抱き上げて苦笑する。
「この子だけは、私を天使だなんてさくらと幹也みたいなことを言わないでほしかった」
「なんで?かわいい天使だよ。ママとパパと天使の写真をずーっと大切にしててよかった」
「すみれ」
「なあに?笑ってて。天使が笑っていてくれたら、それだけで幸せ」
「あの時、私がいれば。親友二人を、すみれの家族を守れなくてごめん」
アンジェがとても苦しそうに声を絞り出すあたり、すみれの生みの親のことはずっと悩んでいたんだろう。
「ママとパパのことは、たぶん仕方ないんじゃないかなあ。わたしならおんなじことしちゃうと思うし。あのね。おかあさんと、おねえちゃんと天使。ずーっといてくれる?お願い」
「私でいいんだろうか、私で」
「天使がいいの。わたしが好きになったんだよ。きっと、ちょっとしか覚えてないママの弟だって天使を好きなる」
「敦盛を覚えていたのか。私でも数回しか会ったことがないのに」
「家族の写真だけは持ってるの。わたしにはそれしかないから」
小さくて純粋な願いを聞いて私達保護者は我が子を守り切ると強い覚悟を抱いた。