あたいの細い字が黒板を埋めていく。人で言えば生い立ち、あたいと同時期に製造された45のことも。あたいの覚えていることから45のことを思い出して絵も描いた。黒板の端っこの45の似顔絵はあの頃の不安の中にいる迷子みたいで胸が痛む。それでも説明するのをやめない。あたいがいなくなっても、だれかがこの消された歴史を覚えている限り残り続ける。
「後から少し調べたんだけど、ホントは鉄血工造製なんだけどだれかが何かのためにあたいと45はI.O.P.社製に見せかけてグリフィンに納品されたんだ。だから、あたいと45に同型人形なんてないしあう部品なんてないから壊れたらそれっきり」
他に聞きたいことはないかと言いたくて振り返ればすみれが不安そうにしていたものだから、呼び寄せる。
「おかあさん」
「どうしたの?おいで。あたいはここにいるよ。もしかして、不安になった?すみれがおとなになるまで元気でいるつもりだからさ」
「ずっとそばにいて」
「あたいにどれだけ時間が残っているかわからないけど、これからの時間を全部あげる」
「それだとつかれるよ」
「息抜きもするよ。疲れたらその時はM4たちがいる」
「よかった。あのね、おかあさん。わたし、やりたいことができたの」
「うん」
「天使ってふわふわとんでっちゃうってわかったの」
「うん?」
「だからね、天使とけっこんする」
子供特有の独自の世界観と言語で語られているから、あたいはうまく飲み込めなかった。でも静かに考え込んでいたアンジェさんにとてつもない爆弾が落ちたようだった。すみれから分けてもらったお茶を飲んでいたアンジェさんがそれはもう派手にむせた。これは気の毒。
「アンジェ!」
目を閉じているあきらかに強そうな人形AK-12が動揺したままアンジェさんにタオルを差し出す。
「……親子揃って同じこと言わないで欲しかった。さくらなんて、ああ。この子の母なんだがな、夫と結婚していなかったら私に求婚していただなんてよく大声で言うもんだから……頭が痛い」
「だいじょうぶ?けっこんする?」
いや、それはどうかと思うよ。そこに関しては親として教育を施さないといけない。
「結婚しない」
アンジェさんが冷静に、それはもうきっぱりと断った。そりゃそうだ。
「ふえ」
「すみれだけは泣かせたくなかった。おいで」
今にも泣きそうなすみれをあやすために、アンジェさんに任せる。こんな時はあたいじゃ無理だ。
「やだ。天使とけっこんする」
すみれはギュッと抱きついて離れない。この子はそれだけ愛情に飢えていた。これだけはあたいたちだけじゃどうにもならない。この人に少しでもすみれと一緒にいてもらわないと。そのためにあたいは何ができるだろうか。
「結婚しなくても私はここにいる」
「でも、天使はとんでいくから。そばにいて」
生みの親のことを知っていて、愛してくれる人を失いたくないんだろう。だから、わがままなんて言わないおとなしいこの子がここまでするのを止めなかった。M4達も止めなかったし、あたいも野暮ってものだからここは口を挟まない。
「ほんとうに、どこまでも親子そっくりね。大丈夫よ。何があっても、どんなことになっても守るから」
「だったら、お願い。そばにいて」
「それができれば、どんなによかったか」
「もしも神さまがいたら。なんでもねがいがかなうのに」
「神なんて最初からいない」
子供のささやかな願いを言うことすらできないのかと、肩を落とせば隣までよってきてくれたM4が予想外のとんでもないことを言ってきた。
「神はいないけど、使えるものなら知っている。アンジェ、私に手を貸して欲しい」
M4?腹を括って何をするの?あたいはちょっとこわい。