ずぶ濡れもいいところだったから、お風呂を借りて宿泊客用ラウンジでくつろぐ。AK-12とAN94は私と入れ違いで入浴になるから、ここにいるのはM4と AR-15だけ。休める時に休まないと、そんなふうに物思いにふけっていると小さな足音がした。
「おかあさん、みてみて天使がいる」
すみれが笑顔でトテトテとこちらに駆け寄ってきた。天使と呼ばれると、すみれの母親のさくらを思い出してじんわりとした痛みが胸に広がるが、曖昧な笑みを浮かべてごまかしていく。
「そうだねー。すみれの天使だねー」
後からラウンジに入ってきたのは、新しい母親になったUMP40がすみれの言葉を否定も肯定もせずにニコニコしている。いや、そこは否定してほしい。でもいいかと最近は思い始めている。
「すみれ、おいで。かわいい天使。私の光」
「うん」
小さくてかわいい親友の忘れ形見を抱き寄せて目を閉じる。何をしてでも守ると決めた、今このだけは私をただの人に戻してくれる。
「大丈夫よ。何があっても守るから」
「じゃあ、ずっとそばにいてくれる?」
すみれのささやかな願いを込めた言葉に詰まった。私が決めたやるべきことのために全てを捨ててきたから、きっといつかこの子の手を離すだろう。どう返して不安を取り除くべきかと小さな頭を撫でながらぼんやりと考え込む。
「かわいい天使はね、つかまえないと飛んでいっちゃうからね」
M4たちからすみれが置かれていた環境を思い出す。すみれの両親を失った原因の大火災のどさくさですみれを保護したのは良いものの、忙しさを理由にしてすみれから逃げていた親友のヘリアンとペルシカは、M4達を生み出して早々に世話係として放り投げてしまったらしい。許されることではない。AR-15の話では育児放棄に近い形だったと聞いてしまい、絶対にあとで〆ると誓った。
「また、さくらとおんなじこと言ってる」
「ママと一緒?」
「一緒よ。自分のことを妖精の末裔だなんて言っちゃうちょっと不思議なさくらと一緒」
「わたしも妖精になったほうがいいのかなあ」
これはどう返せば良いのか。困って視線を向ければ今育てているUMP40が私みたいに困ったように笑って肯定と否定の間の言葉を選んだ。
「どうだろうねえ」
ぽわぽわした母親を他所にM4がものすごい形相ですみれの顔を覗き込んで説得にかかった。
「今、安易に決めないで。その決断は大人になってからでいいの。わかった?」
普段すみれだけには慈母のような笑みを向けて子育てをしているM4が必死に早まるなと訴えた。いつも優しい家族のその必死の形相にすみれは目を丸くしてコクコクと頷く。この様子だと明らかにM4は何かを知っている。知りたくなって口を開きかけたその時だ。404小隊との連絡用の端末からメッセージが届いた。なんだか嫌な予感がする。
「しばらく休んでいて。しばらく宿の外周辺に行くから。理由は聞かないで」
M4にすみれを預けてぶらりとそこまで散歩といった雰囲気を出してラウンジの扉に手をかける。
「いってらっしゃい」
すみれがあどけない笑顔で手を振る。もう、ずっと昔にあった学生時代の私とペルシカとヘリアンとリコリスとすみれ一家が狭い家をシェアハウスしていた頃を思い出して少し寂しい。学生結婚して、大学で勉強と研究しながら子育てしていたさくら。私達も一緒に子育てしていたあの頃はもう戻れない。
「いってきます」
それでもあの頃みたいにへらりと笑って過去に手を振る。もう、それしか出来ない。