なんとなく、アンジェが心配になって山の中へ向かう。彼女の「すぐ戻る」はアテにならない。
「AR-15にすみれをお願いしておいてよかった」
小さくあれでよかったと言葉を吐き出せば顔に雨粒が当たる。ちらりと空を見上げればポツポツと細かい雨が降り出してきた。今アンジェが体調を崩したらまずい。レインコートか傘を宿から借りれば良かったと思考と姿勢を巡らせていれば何かと目があった。すみれによくにた顔のふわふわと空を飛ぶひとならざるもの。すみれが大人になったらこうなるんだろうなと簡単に予想がつく姿形をしている。小柄で華奢な骨格、真珠のような肌、とろりとした垂れ目にバラ色の頬。そのひとならざるものは砂糖菓子のように甘い笑みを浮かべて小さな唇から果実のように甘い声を紡ぎ出した。
「天使がどこにいるか知りたい?」
すみれやひとならざるものはなぜかアンジェを天使と呼び溺愛する。他にアンジェを天使と呼ぶ人はいたのかとさりげなく聞けば、すみれの実父母もアンジェのことを天使と呼んで溺愛していたらしい。不思議すぎる。そんな不思議で曖昧なものに頼るしかないので聞いた。
「知りたい」
「こっち」
小さくて細い指が指し示した方向へ進む。雨が降り、ぬかるみを作る前に呼び戻さないと。ちらりと空を飛ぶひとならざるものを見ると彼女はシールドのようなものを張って雨を防いでいる。たくましいなこいつと舌打ちしているうちにアンジェのもとにたどりついた。農作業のための物置小屋の屋根で雨宿りしているのをみつけて一安心。
「アンジェ」
「出迎えありがとう」
「ここまで降るだなんてわからなくて、傘忘れてしまって」
「いいのよ。これくらい、いつもあったし」
アンジェがポケットからタバコとライターを取り出し、軽く咥えて火をつけようかと思い立ったがすみれの名前を呟いてやめてしまった。
「あの子に会う時くらいはタバコはやめるわ。それに、天使がずぶ濡れで風邪でも引くとすみれが泣くし」
ポケットに押し込むようにタバコとライターをしまってアンジェが何かをごまかすように力なく笑う。それを見ないふりをして宿へ戻ることを促す。
「なら、早く戻りましょう。アンジェ」
「わかっているわ。でも、急な用事ができたの。とても残念なことにとても遠いところに」
「それは残念ね。どうやっていくのかしら」
「考え中」
「それって宿の中で考えられることじゃない?」
「さあ?」
「さあって」
「いいじゃない。ところで、M4。少し前にいろんな所に神出鬼没って言われるくらいに居場所がランダムになっていたけど」
それをつかれると痛い。どうごまかしていこうか。