ひかえめなアラームの音が寝室に響く。のそのそと這い出て止める。サイドテーブル上のタブレット端末からは朝の遅い時間帯の表示が見えた。今日の予定表をチラッと見ると休日用のもので頭の中で「まだ寝よ」って判断してタブレット端末を元に戻してベッドにもぐりこむ。
「あー、あたまいてえ。つか、なんでオレ服脱いでんだ?」
昨日しこたま飲んでなんか色々しゃべったような気がするなあってぼんやりしていたら先生が全裸で寝ていた。いやいや、電子の海でも二日酔いになるんかよ、オレ人形だぞ?
「あ、れ?なんでオレも先生も全裸なんだ?」
少しずつ記憶を辿っていくと思い出してきた。泥酔してあつくなってきたオレと初塵は服を脱いで、何を思ったのか先生の服を脱がせてベッドへ引き摺り込んだ。そこでオレと初塵はセンセにしてほしいえっちなことをおねだりしたあとに寝落ちしたんだったわ。
「あー、恥ずかしい。どうしよ」
「ん?末宵くん?おはようございます」
「おはよ、センセ。昨日、えっと」
「いっぱい聞きましたよ。僕にしてほしいえっちなこと」
先生が恍惚とした表情でオレの頬をなぞってわざとらしく耳元でささやいてくる。あわててそれは覚えなくていいからって黙っていてくれとジェスチャーをして頼み込む。先生のかすかな笑い声がくすぐったくてしかたないものだから身をよじる。
「聞かなかったことにしてくれ」
「いいえ。しっかりおぼえておきます。でもそのまえに、僕たちがどういった関係になりたいのかを確かめ合ったあとで、そういうことをするのかどうかを決めましょう」
先生が懇願のジェスチャーをしているオレの手をそっと引き寄せて握る。そのあったかい手を握っているだけてささくれたオレの内面が穏やかになっていく。オアシスの面々から「最近、末宵くんって丸くなったよね、最初なんか初塵さんに対して威嚇しまくってたのに教授と一緒にいるようになってから仲直りしたのかな?」みたいなことを言われるまでになった。みんなが言う仲直りはしてない。センセって言う精神面の安全地帯ができて折り合いがついただけ。やっとできた特別をオレは手放したりしない。
「まあ、そうだよな。人間ってそんなもんだよな」
言葉ではそっけないってか、冷たいけど行動は素直にいく。先生を押し倒してぎゅっと抱きついてぬくもりを確かめる。たんなる機械の排熱のオレたちとは違う、命が持つぬくもり触れたくて。先生はそれを受け止めてオレと初塵の手を握って迷わないようにしてくれる。オレが欲しかったものがあった。それだけでいいや。
「それもあるんですけどね、僕のワガママもあるんですよ。僕自身として末宵くんと初塵さんとそういうことをしたいってワガママが」
人間のセンセがそこまでしたいって言うんならオレたちは待つだけ。でも、知りたい。
「どうしてだよ。今ここでヤっても現実世界に戻ってヤっても一緒じゃん。オレと先生なんだし」
「えっだってやですよ。ここで今ヤったら記録上は本当の教授とやったことになるんですよ」
「はー、ワガママー。センセ、好き」
「んー。わたしもきょーじゅすきー」
のそーっとおきだしてきた初塵といっしょに先生にだきつく。あっこら初塵。先生のからだに胸をおしつけるな。
「きょーじゅ。末ってばやらしいんだよ。股間をきょーじゅのふとももにぐりぐりしてる」
「初塵だって胸とふともも押し付けてんじゃねえか」
昨夜のみだらな欲望がまだ燻っているからつい体が求めてしまう。これ以上は良くないなとはわかってはいるがやってしまう。
「末宵くん」
「あっあ、センセ。腰、とまんなくて。ひ、あ。腰に手ぇ回すのやめ」
先生の手がオレの腰にゆっくりと触れるか触れないかの絶妙な距離をとって撫で回すかのように動く。わずかな感覚が生殺しになるのわかっててやってんじゃん。
「うふふ。末宵くんのここはすなおですね。じゃあ、お預けということで」
「ずるい。抜いてくるから、手どけてよ」
「いいですけど、その場合は初塵さんのお尻と胸をもみます」
「きょーじゅ、私の胸をもむだけ?」
「もむだけでおあずけです」
センセ、わりとサド気質だな?でもこんなお預けもちょっとだけなら悪くはないかも。
「ひどーい。末ー、私がでていくから生殺し変わってよ」
自分だけ発散して楽になろうってか。悪いがオレと一緒にいてもらおうか。
「やだ。オレの興奮がおさまるまで先生とハグする」
「ずるーい。私も末ときょーじゅのハグするー」
「じゃあ、このままでのんびりしましょ」
オレと初塵のちょっとえっちな一人を巡っての奪い合い。こういう秘密の共有も悪くはない。
「先生、逃さないからな」
やっと言えた「愛している」の代わりの言葉がこれかと自嘲しながら目を閉じる。今はこれでいい。いつか必ずオレたちは同じところに堕ちていくのだから。