男と手を繋いで歩いていた少女が、何か大きな―――黒い手のようなものに攫われた。
「うっ、うわぁぁぁ!」
何者かに娘が攫われた。だが男は攫われていった娘を追いかけることもせず、一目散に逃げた。ひたすらに心の中を「死にたくない」という感情で埋め尽くしながら。
悲鳴をあげながら駆ける男とは対照的に、少女はきょとん、とした表情を浮かべていた。自分が今どのような状況に置かれているのか、理解出来ていないのだろう。少女は体を掴んでいる妙な物体を全身で感じながら、森の奥深くへと引き摺り込まれていった。
「うーん、美味しそう」
すんすん、と鼻を少女に近づけて匂いを嗅いでいるのは、これもまた少女であった。しかし、それは実際には人間を捕まえ喰らう妖怪だった。少女は首筋にかかる鼻息をくすぐったく思いながら、これから何が起こるのだろう、とぼんやり考えていた。
妖怪は匂いを嗅ぐことを止め、少女の眼前に立つ。そして少女のまだ小さな―――本当に小さな口に闇を流し込んだ。
突然体に起こった異変に、少女は目を白黒させる。だが、激流のように流し込まれる闇の勢いに抵抗出来る筈もなく、顔を上に向けたまま息苦しさに泣いていた。そして彼女の口内が完全に闇で満たされた時、妖怪は綿が詰まった枕を力任せに裂くように、少女の腹を両手で裂いた。
「?!?!!?」
腹から巻き起こった激痛に、少女は悲鳴をあげる。しかし闇がその悲鳴を押し留める。その声無き声は喉に潜っていき、そしてぐぉぷ、という少女に似つかわしくない蛙の如き音を立てた。妖怪の手が無造作に内蔵を掻き回し、その度に蛙が音を立てた。
少女の顔は涙と鼻水で汚れに汚れ、じわじわと気管を狭めていく闇に苦悶の表情を浮かべた。妖怪は少女の腹の中からお目当ての物を見つけ、丁寧に血と共に抉り出した。
それは少女の肝臓であった。
「おいしそー!」
喜色満面の笑みを浮かべた妖怪は、まずこびり付いた血を舐め取った。妖怪の舌が這った箇所からは、たった今取り出されたばかりと一目で判るほどの、実に健康的なピンク色が顔を出した。
ひとしきりそのピンクを眺めた妖怪は、その柔らかい臓物に歯を立てた。すんなりと歯が通り、くち、と噛み千切れる。びろびろとした食感を舌で愉しみ、しっかりとした食感を歯で愉しんだ。
「んふふ...」
舌鼓を打ちながら、次に喰べる内蔵にアタリをつけていた。出来るだけ生きている内に喰わなければ、鮮度が落ちる。それに少女が震えなくなってしまう。
左手に肝臓を持ちながら、右手を腹の中に入れた。手が動くと少女が体を大きく震わせ、存外に頑丈であることを知らせた。
次に取り出されたのは、ひどく小さく、そしてその機能をまだ活用出来ていなかった子宮である。
筋肉の塊であるそれは、右手でやわやわと握ると、弾力をもって応えた。左手の肝臓を口に押し込み、咀嚼し嚥下する。そしてなんとも食い応えがありそうなその子宮に、思いっきりかぶりついた。
心臓のような、それでいて心臓より癖のある味が口の中に広がる。少女のまだまだ発展途上にあったその器官は、芳醇な味わいを蓄えていた。そして、そのような小さな子宮を口一杯に含むことには、少なからず性的興奮もあった。
その後も饗宴は続き、髪の毛、食べ応えのない肺、内容物があって食べる気がしなかった小腸と大腸、そして膀胱だけを残して少女の体は妖怪の中であぶくとなった。
後に残された、かつて少女を構成していた物たちはその内に他の妖怪や虫に食べられて無くなっていくのだろう。
こうして食事を終えた妖怪は、闇で自らの周りを覆い、ふよふよと飛び始めた。