数日前の会話でキンブリーは言った、念を押すように。
女は軍の中にも派閥とかあるのと聞いた。
「そうですね、大佐は優秀です、でも、皆から慕われていると聞かれたら、まあ、あの性格ですかね、色々とありますよ」
どんな社会でも妬みや嫉妬がある、キンブリーから、わからないことをできるだけ聞いておかなければと女は思った。
キメラの研究に取り付かれた男、今、一人だとしたら、女は疑問を感じた。
「家族を実験台に使ったんでしょう、自分では試したりしなかったのかしら」
「わかりません、正直、リスクがありすぎると思うのですが」
先生に会いに来る、その理由が錬金術師だからという理由、それだけでは少し弱いのではないだろうか、納得できないと女は思った。
キンブリーは絶対に来ますという前提で話を進めている、だから、疑問をぶつけた。
「その男の人は病気、持病とか、持ってるの」
「いいえ、少なくとも拘束されていた時は何も問題はなかったと思います、何かあれば医療班がいますし、実は気になることがあります」
「しばらくは、来れないんでしょう」
「まだ、わからないことがあるんですよ、タッカーが、どこで繋がっているか」
キンブリーは女の顔を見るとポケットから出したものを手渡そうとした。
あなたはショウ・タッカーさんでしょう、男はすぐには返事をしなかった。
ただ、探るような目つきで女を見た、無理もない顔を変えたのだ、完璧に別人に。
それなのに自分をショウ・タッカーだと、この女はもしかして軍、いや、国家の関係者かと思ったが、その考えを打ち消した。
痕跡はすべて、すべて消した、だから、あり得ないのだ、それなのに。
「人違いではないですか、私はション・ローン」
すると女は大柄な男の後ろから出てきた、その顔は緊張している様子が見える。
「ミスター・キンブリーから聞いていたんです、こちらに来ると」
まさか、その名前を、ここで聞くとは、裏切り者がいるのか、自分は騙されたのか、いや、早急に決めつけるのはよくない、誤魔化すのは無理なのか。
そのとき、誰か来たのかとドアが開いてマルコが出てきた。
「先生、お客様です」
「タッカーさん、ここに来たのは町の医者で都合が悪いからですか、別人のように変わっているから、先生なら誤魔化せると思いましたか」
タッカー、目の前の男がそうなのか、キンブリーから男の所業を聞いているマルコは訳がわかららなかった、だが、ロイ・マスタングの顔色が変わった。
「この男が、ショウ・タッカーだと、死んだ筈だ」
「匿っている人間がいたんでしょう、軍の中に」
唇を強く噛み、貴様を連行すると言うと男は何故と不思議そうな顔でマスタングを見た、自分が何か悪いことをしたのかといいたげにだ。
「キメラの研究は私の協力があってこそのものだ、もし、私を連行、自由を奪うというなら、大佐、あなただってただじゃすまないでしょう」
軍の中に協力者がいるという事実をあからさまに言われ、マスタングは躊躇した。
多分、協力者というのは大佐本人より上の人間なのだろう、よくあることだ。
「まさか、軍が来ているとは思わなかった」
男は出て行こうとしたが、振り返った。
「私は犯罪者ではない、罪人でもない」
その声は自信に溢れていた。
「私は探求、研究者だ、犠牲はつきものだよ、どんなことにも」
家族でさえも犠牲にした、それを後悔したことなどない、だからここまで上り詰めたのだ。
「ホムンクルスに興味はありますか」
「下らない、人造人間は私の研究対象にはないからね」
「まさか軍に裏切り者、それも上層部にいるとは」
苦虫をかみつぶしたような顔でロイ・マスタングはコーヒーに口をつけた。
「うわっ、熱っ」
隣の部下が口をつけた瞬間、大きな声で叫ぶ、これはわざとだろうか、重苦しい空気を、なんとかしようという、熱いですよと言ったのに、よし、ここは。
「中間管理職も大変ですね、上からは文句、下からは突き上げられて」
「変わってほしいくらいだ」
「コーヒー、熱すぎましたか」
くっっ、マスタングは唇を噛んだ。
「キンブリーとの関係を話してもらおうか、あの男が協力するなど」
何、この真剣な、まるで犯罪者を見つめるような目つき、怖い、スカーさんの褌を洗濯したときの、あの鋭い視線より怖い。
「おやおや、何です、この重苦しい空気は」
タイミングよく姿を現した白スーツの男が、ドアを開けて入ってきた、女は、ほっとした顔になったのはいうまでもない。
「また、何故、あなたですが、軍は暇なんですか、給料分、ちゃんと働いていますか、だから税金の無駄遣いとか言われるんですよ、しかも優雅にコーヒーまで飲んでいるときては、嘆かわしい事だ」
マスタングは、むっとした、何故、そこまで言われなくてはならないのだと。
「丁度いい、聞きたいことがある、何故、ここまで肩入れする、おまえと彼女の関係は」
キンバリーは冷めた目つきでマスタングを見た。
「なんです、それ、私と彼女の関係、野暮な事を聞きますね」
これは馬鹿にされているというよりも、無言になった。
「どうしました」
にっこりと笑う男の細い目は愉快、痛快と言いたげだ。
「失礼する、いや、また来る」
マスタングは席を立った。
内容、オリジナル設定少し変更しています。
ショウ・タッカーがかなり、悪役に染まっています。