自分は全てを捧げてきたのだ、なのに、あの女は、まるで自分という存在を。
どうして軍から逃げる事ができた、知識、キメラが必要で自分は必要とされているのだ、だから軍の人間は自分に協力したのだ、キメラの研究は意味のあるものだ、でなければ、ここまでくることはできない。
雪が降りはじめた、だが、顔に、手に触れても冷たさを感じる事ができない。
この熱は燃え続けている、決して消える事はない。
気をつけなければと思った、キメラだけでなくホムンクルスヲ使った実験はしっぱい゛たった、だから呼ばれたのだ、出来損ないばかりを作ったところでうまくいくわけがない。
ホムンクルスの実験に協力しろと言われた時は驚いたし乗り気ではなかった。
だが、あの資料の存在を知った今、軍の申し出を断る手はない、キメラの研究に役に立つはずだ、ただ、問題は、それがどこにあるのか。
あそこに軍の人間がいたのは誤算だ、準備しなければ、その為には変えなければ顔を、別人のようになって行かなければならない。
軍の<あの建物の中に。
研究者というのは、やはり普通ではないんだろうなと女は思った。
キンブリーから言われて用心はしていた、気になったのは男の目だ、もしかしてと思い名前を呼んだ、もし違うと言っても、もう一度、駄目なら謝ればいい、そう思っていたのに。
研究に取り付かれたマッドサイエンティストというのはああいうタイプの人間の事を言うのかもしけれない、だが、考えたところで自分には何もできない。
気分を変えよう、楽しい事を考えよう、今晩の夕食とか。
かき氷が食べたいなあと思った。
寒いけど、外は雪だ、そうだ、外に出ると女は両手を広げて雪の中に倒れこんだ。
くしゃみの連続だ、世間では、これを風邪をひいたという、雪の中に薄着で埋まっていたら無理ないかもしれない、しかも、自力で抜け出すことができず、大男、スカーに引き抜かれるので誰も気づかなかったのだ。
「食欲があるなら大丈夫だ」
鼻をずるずると啜りながら、女は口を開けた食欲はあるらしい。
ほどよい温度に冷めたパンがゆがスプーンで口の中に運ばれる、他人が見たら、おまえは子供かーっと突っ込まれたことだろう。
雪の中で冷えきって両手がジンジン、痛くて痒いしもやけだろうか、スプーンを持つのも辛くて食べさせてもらっているのだ。
「凍傷にならなくてよかった、手を出しなさい、薬を塗ろう」
真っ赤に膨れた、いや、膨れた手を見て女は目を背けたくなった。
だが、散々といっていいほど醜態を見せているのだ、今更、取り繕ってかっこつけても仕方がないじゃないと内心、開き直った女は自分の手を見つめた。
数日後のこと、スカーは家の裏手で女の姿を見つけて声をかけた。
「寒くないのか、風邪を引くぞ」
地面にしゃがみ込んでいる女が自分を見る。
「どうした」
顔が変だ、いや、何か困ったような、不安そうな。
「あ、あなたの、その、腕の模様って入れ墨なの」
何を言い出すのかとスカーは思った、すると、女は周りを見回した、自分たちだけだと確認するように、そして突然、上着を脱ぎは、シャツをまくり上げた。
スカーは思わず視線を逸らそうとしたが、わずかに視界に入ったものに釘付けになった。
〈なんだ、これは〉
女の乳房から下、肌に赤い血のような図形が浮かんでいる。
「たまに腕や手にも、変な痣みたいなのが、何か知ってるなら教えて欲しいんだけど」
何かの術式だろうかと思ったが、この女に、そんな知識はないはずだ、だとしたらこれはどういうことだ。
女が左手を差し出す、見ると薄い赤色の文様のようなものが浮かんでいる、だがはっきりとではない、思わずスカーは手を伸ばした、だが、自分の手が触れると。
「あ、あっっ、熱い、なんで」
女が声を上げた、慌てて手を引っ込めたスカーは、ドクターにと言葉をかけた。
「何か知っているかもしれん」
「い、いや、その、もしかしたら自然に消えるかもしれないし、何か変なものだったら、ちょっと、まあ、その」
その声が普段とは明らかに違う、強引に診せた方がいいと言えばいいのだろうが、今まで、目の前の女とは、あまり会話をしたことがないのだ。
「あっ、晩ご飯、そろそろ夕食の支度をしないとね」
家の中に戻っていく後ろ姿を見送り、スカーは悩んだ、深く考えるのは正直苦手だった、知っていたら対処ができるが、一人では限界がある、それに今まで見たことがないのだ。
「痣だと」
「乳房から下、一面に、それに腕や手にも浮かび上がってくるらしい、本人も驚いていた」
マルコは思い出した、この数日、いつもと様子が違うとは思っていたのだ。
だが、風邪が治ったばかりで調子が戻ってはいないのだろうと思っていた。
体に浮かび上がったものはもしかして錬成陣、まさかとは思うが呪いの呪術のような者だとしたら、あり得ない、いや、もしかして世間には知られていないだけであるのかもしれない、ふと、隠蔽という言葉が浮かんだ、隠している可能性もあるのではないか。
軍が、だ。
「旅行ですか」
「ああ、療養所も休みだし、少し気分転換をしようと思ってね」
「気をつけてくださいね、留守はしっかり」
いやいやとマルコは首を振った、一緒に行くんだと。
旅行って居候の自分が、いいのだろうか。
知らない、この場所、世界、国に来て旅行など。
不思議なことに、あんなに悩んでいた腹、腕にも、今はない、たまに出てくるのだが、しばらくすると消えているのだ。
遠出と言ってたから、途中で何かつまめるように、お弁当を作ろう、そんな事を考え、女は、その夜、久しぶりにぐっすりと眠る事ができた。
オリジナル設定を少し変更しています。
ホムンクルス、ショウ・タッカーの事。