夕食をすませた後、明日の予定をどうするかと考えていたマルコに女が先生と差し出したのはきれいにラッピングされた包みは酒だ。
「お世話になっているお礼です、先生のお金なのでプレゼントとはいいがいんですが」
リンちゃんとシャオメイにも菓子があるんだよと女は言葉を続けた。
「果物の焼き菓子だけどたくさんあるからね、それからスカーさんにも」
種類は違うが酒だ、だが、二人と一匹は無言になり、スカーをちらりと見た。
「あの、スカーさんはモンクで」
メイの言葉に知っているけどと言いかけた女は、はっとした外国の僧侶は戒律に厳しい、肉、魚、獣、動物の肉は口にしない、勿論、酒もだ、ここは一応、外国という認識が女にはあった。
今まで同じ家に住んで一緒に食事をしているが、スカー本人とはあまり会話をしたことがない女にとって、これは誤算と言うよりも失敗だ。
「ご、ごめんなさい、じゃ、これは先生に」
ところがスカーは無言のまま瓶を手に取ると蓋を開け、飲み始めた。
その姿は豪快そのものだった。
イシュヴァラ教の信仰は厳しいと聞いた事がある、飲酒は許されているのだろうか。
メイはちらっとマルコの顔を見た、驚いた顔だ、もしかして先生も詳しくは知らないのでは、でも、飲んでしまったなら仕方がない。
宿を出て、買い物にと思っていた矢先の人だ、声をかけられて振り返った女に近づいてきたのは男だ。
「覚えているかな、マルコと一緒に来ただろうと言われ、女は頷いた。
「あいつ、うまくいってるかな、ちょっと話を、いいかな、あんたも」
女の隣に立つ大男にも声をかけると相手は無言で頷いた。
「実はな軍の資料室が確実らしいんだが」
軍という言葉に女が驚いた顔になった。
「でも、普通の人は資料室なんて」
簡単に入れる事はできないのではと言いかけた女に、やっぱりと男は思った、まあ、あの性格じゃ難しいか、何を調べようとしているのか、聞いても教えてはくれなかったのだから。
自分に迷惑がかかるかもと思っているのかもしれない、全く真面目すぎるぞ、あいつは。
「実は軍の知り合いがいるんだ」
「そ、その人、男の大佐ですか」
数日前の出来事を思い出す、できるならあまり会いたくないと思ってしまった女に男は首を振った。
「いや、女の少尉だ、こっちで段取りはつけるつもりだ」
「いいんですか、でも、それで迷惑が」
「今更、遠慮なんてらしくないんだが、昔から真面目でな、替わらないよ、まあ、あんたも大変だろうが、面倒をみてやってくれ、頼む」
気晴らしに街を見てきたらいいと言われて外に出た時とは別人のように女は笑顔だ、マルコの知り合いだという男性と会ったせいだろう。
「食材、買って帰りませんか、サンドイッチ、スカーさんは食べますか」
無言で頷きかけたスカーは、思い出したように、ああと声に出して低く答えた。
元々、自分が無口なことは付き合いでマルコもメイも知っているのだ、だが。
スカーさん、怖がられています、凄く、いえ、もの凄くとメイに言われたのだ。
無言で頷くより、少しでも声に出して会話をした方がいいです、正直、スカーにとって、それは面倒というよりも苦行だ。
サンドイッチは普段から、マルコがよく食べるものだ、好きというよりも、ただ、仕事で忙しいとき、すぐに食べられて空腹も満たされるから、それだけだと思っていた。
だが、先ほど出会った友人の会話からすると昔から、よく食べていたらしい。
先生の好きな食べ物、好きな物は、そんなことを聞いていた。
「嬉しいのか」
自分の言葉に女が立ち止まった。
「何か言いました、スカーさん」
「いいや、何でもない」
何を言えばいいのか自分でも分からず、スカーは歩き出した。