賢者の石は現在、製造中止となっています。
「街にホムンクルスがいると聞いたが」
部屋には二人きりだ、オリヴィエは何処までご存じすかと尋ねた。
「先生だから、お話します、彼らは賢者の石を探しているのではないか、ですが、それだけではないと思われます」
石、その言葉にマルコは顔を曇らせた、製造は軍によって取り締まりが厳しくなった、違法認定とされた後は、製造禁止、お決まりのなんとやらだ。
「軍でいくつか保管しているという噂を聞いたが」
「処分されました、完全にです、現存しているものは偽物と言ってもいいでしょう」
あり得ないとマルコは思った、では、あのときキンブリーが持っていた石は偽物ということになるが、あのときの彼は使う気でいた。
「それだけではないというのは」
研究資料です、その返事に迷いはない。
「詳しい事はわかりません、ですが、錬金術に関してではないかと」
自分が関わっていれば、もっと詳しく調べることができたかもしれないとオリヴィエの表情がわずかに曇る。
「昔の資料らしく」
昔と聞いてマルコの脳裏に浮かんだのは軍の上層部の顔だ、エジソン、ガードナー、クレミン、その他、大勢の、亡くなったと聞いたが。
深入りしすぎては何があるかわからない、ロイ・マスタング、彼の立場でさえ知らない事はある、多分、目の前の彼女は火中の栗を拾うだろう、自分の身に危険が及ぶと分かっていても。
「引くことも大切だ、それより資料を見てもいいかな、しばらく一人にしてくれ」
宿に着くと子供は寝る時間と言われてベッドに入ったメイだが、しばらくしてトイレに行きたくなった、甘いパフェを、これでもかというぐらい食べ、帰ってきてから飲んだ、熱いお茶のせいかもしれない。
戻ろうとして明かりに気づいた、ドアを少し開けて、そっと覗く、ソファーに座ったままの女は本を抱えるようにして見ているが、時折、顔を上げて壁の時計を見ている。
帰って来るのを待っているのねと思ったとき、女は立ち上がり、壁のコートを手に取った。
外出、こんな時間にと思ったメイの頭に、ぽんと何かが触れた、そして小声で部屋で寝てろと呟くスカーの声がした。
部屋を出た女は階段を降りていく、足音を立てないようにスカーも続いたが、玄関から人の声が聞こえてきた。
ドアが開き、入ってきたのはマルコだ。
階段を上ろうとしてマルコは、ただいまと声をかけたが、、その顔は不思議そうな表情に変わった、女が明らかに外出しますと言わんばかりの格好だからだ。
「あ、あの、もう、寝ようかなと思ったんですけど寒いなあと思って」
「風邪かもしれん」
女の前に立ち、口を開けてと言葉をかけ喉の奥を覗き込む。
「少し赤くなっている、痛みはあるかね、薬を持ってきている、さあ、部屋へ戻って」
女が大丈夫ですと首を振るが、マルコは駄目だと言葉を続けた。
「風邪のひき始めなら暖かくして早めに薬を飲む、それに医者のいうことは、ちゃんときくものだ」
「後で水差しを持ってくるから、水分はこまめにとりなさい」
女は肺と素直に頷いた、今の自分は子供みたいだと思いながら顔が何故かにやけてしまう。
誰かに世話を焼いてもらうって、なんて素晴らしいんだろうと。
不意にドアをノックする音が聞こえた、思わず体を起こし先生と声をかける、だが、入ってきたのは当人ではなくスカーだった。
「水を持ってきた」
「あ、ありがとうございます」
ベッドのすぐそばのサイドテーブルにスカーは水差しとコップを置くと女を見た。
「あ、あの、何か」
まるで、睨みつけるような視線だと女は思いながら声をかけた。
「風邪、なんだろう」
「薬を飲んだし、先生に看てもらったので大丈夫です」
女はスカーを見ながら、思い出したように待ってくださいと声をかけた。
ごそごそとベッドの下から取り出したのは綺麗にラッピングされた熊の形をしたクッキーが入っていた。
「メイちゃんから、可愛いものが好きだって聞いたので、ジンジャークッキーです」
無言で受け取ったスカーは、それをじっと見ていたが、女に視線を移した。
「可愛いものは女も好きだろう」
それは深い意味などない、世間でよく居よれる言葉なのだろう、だが、女はスカーの顔をじっと見た。
(そんな可愛いの、似合わないよ、おまえには、今更だよ)
その日、開店と同時に店に入ってきた大柄な男を見て若い女の店員は内心、びっくりだ、サングラスをかけているが顔の傷は隠せるもではない。
「何か、お探しでしょうか」
自分に声をかけていると気づいて男は何か呟いた、それはあまりにも小さく最初は聞こえなかったぐらいだ。
可愛いものを、店員は迷ったというより困った。
漠然としすぎだ、店内は女性向けの可愛いものがたくさん並んでいる。
いや、溢れているのだ、目の前には可愛いぬいぐるみが積まれている、もしかして子供にプレゼントだろうか。
「子供さんにでしたら」
「違う、いや」
店員はピンときた相手は女だと、様子からして慣れていないのは一目で丸わかりだ。
可愛いものを贈れば大丈夫だと思っているのかしれない、あまい、甘いわ。
一見あれだけど童○、○ピーかもしれない、だから、こんなにも真剣に悩んでいるのね、それに、よく見れば、この男は女にもてるという感じではない。
と店員は勝手な想像、妄想をしながら男を店のある一角に連れて行った。