キンブリーに会って事情を聞こうとマルコは考えた、あの男なら自分が知らない事も知っているだろう、もし拒んだら、力ずくというのは自分の性分ではないが、そこはスカーに任せればいいと考えていた。
ただ、何処にいるのかわからない、ふらりとやってきては、いつの間にか姿を消しているのだ、肝心な時にいない、もしかしたら、軍と接触するのを避けているのかもしれない。
「先生、すみません、よろしいでしょうか」
一度、診療所に戻ろうと考えたマルコだったが、慌てたように尋ねてきた彼女の訪問は予想外だった。
「我が家に来て頂けないでしょうか、先生にお会いしたいと申しているのです、父が」
何故、疑問を抱いたのは無理もない、それに直接、会い、言葉を交わしたこともないのだ、何故と思わずにはいられなかった。
アームストロングの当主、フィリップは挨拶の言葉を交わすとキンブリーの名前を出した。 「軍の目があるので街に来るなと止めました」
「父上、どういうことです」
「そうです、あの男は」
オリヴィエとアレックス、二人は父親の口から出てきた男の名前に驚いたが、フィリップは黙れと目で制した。
「抜け目ない男だ、だが、承知の上で協力しています、この二人が何かしら動いている事は知ったのは最近です、ごらんください、先生」
そう言ってフィリップは一冊の本を広げた、それはアームストロング家のアルバムのようだった、オリヴィエ、アレックスの子供の頃の写真もある、フィリップの手が止まった。
マルコは一枚の大きな写真を見た、複数の男女が写っている。
「あなたのご家族、親戚ではないようですが」
「勿論です、彼らは突然、現れた、そして軍は彼らを保護しました」
マルコは黙って聞いていた。
「当時、我が一族の当主は軍の方針に疑問を持たなかった、だが、しばらくして彼らを軍から逃がすことにしたのです」
「父上、どういうことです」
疑問を投げかけたのはアレックスだ、それが事実なら自分の先祖は軍に逆らったことになる。
「逃亡先にはシンとイシュヴァールの二つの国です」
「何故、その二つの国に」
「イシュヴァールは当時、様々な人種が出入りしていた、身を隠すには都合が良かったのだと思われます、シンを選んだのは女性、妊婦や子供がいたからです」
古い茶色く変色している写真は時の流れを感じさせる。
父親の沈黙は長くは続かなかった。
「父上、もし、それが事実ならアームストロング家は」
「おまえの言いたいことは分かる、オリヴィエ、軍の方針に従わない人間、家は不要だ、我がアームストロング家がこうして、存続することもなかっただろう」
「でしたら、何故」
「数名は戻ってきたのだ、ただ、軍から身を隠してだ、事が露見すれば逃げた仲間が連れ戻されると思ったのかもしれん」
「納得できません、そんな説明では」
説明をと促すが父親は縦には首を振らない、頑固さは、この一族に共通したものなのかもしれない。
「オリヴィエ、アレックス、おまえ達は何を知りたいのだ、彼らのことか、それとも何故、我が一族が、こうして今も現存していること、どちらなのだ」
父親の声、いや、眼光にオリヴィエは言葉を飲み込んだ。
「先生、あなたが保護した女性は彼らと同じ境遇ではないかと思っているのです、軍が知っているとして保護という言葉で取り込もうとしないのは」
「あなたは、それを知っているのか」
「詳しい事はわからないのです、ただ、この女性」
フィリップは写真の中の一人の女性を指した、この国に残っていた最後の人間ですと。
「亡くなったとき、ホムンクルスがそばにいたそうです」
宿に戻ったマルコを待っていたのかのように、メイが大変ですと駆け寄ってきた。
「ついさっき、軍からの使いが、大佐が来て」
マルコよりも驚いたのはオリヴィエだ、何があったと問いかけると連れて行かれたんです、彼女がとメイは言葉を続けた。
「スカーは、彼はどうした」
マルコの言葉にメイは止めようとしたんですと言葉を続けた。
「喧嘩になりかけたんですけど、一緒に」
「先生、行きましょう」
オリヴィエの言葉にマルコは迷った、もしここで彼女が同行すれば立場が悪くなるのではないか、そうなればアームストロング家が困った立場に追いやられるかもしれない。
「駄目だ、それにスカー、彼がいればなんとかなる」
オリヴィエはわずかに伏せていた顔を上げた。
「先生、父の言葉を聞いた今、黙って見過ごすことは、何より、アームストロング家の人間として、私は歴代の当主達に顔向けができません」
後は頼んだと言いたげなオリヴィエは弟を見た、だが弟のアレックスは首を振った。
「姉上の行動が正しいか、そうでないのか、見届けるのが弟として、いや、部下としての役目ではないでしょうか、追い返そうとしても無駄です」
「ふん、軟弱者が随分と立派なことを」
そう言いながら彼女は口元にわずかな笑みを浮かべた。
いきなり軍の人間、ロイ・マスタングが宿を訪れた時、女は驚いた、軍の施設まで来て欲しい、口調は穏やかだが、同行している部下の表情が厳しい。
「拒否権はないんですよね、でも待ってください、先生が」
「いや、こちらも急いでいる、先生には後で、こちらから連絡する」
反論、嫌だと拒絶できる空気ではない、そのとき、横暴だなと一言、女とマスタングの間を阻むように男が立ちはだかった。
「スカーさん」
完璧な賢者の石、これがあれば私は全てを手に入れる事ができる、地位も名声も、軍での私の地位は約束されたも同然だ。
なのに、あの男が邪魔をした、あの貴族が妙な正義感を振りかざして逃がそうとしたのだ。 犠牲というものは、どんな時にも大なり小なり避けられない、何故、それがわからない。
それに彼らは自国民ではない、だから、自分を責める者は誰もいない。
失敗、何故、ホムンクルスが邪魔をする、分からない、何故だ。
あれからどれくらいの時間がたった、扉が開いたのは偶然か、幸運、運命、いや、神が、味方したのだと思った。
数人の人間が、こちらがきた、今度は、うまくやらなければと思う。
あのときは複数の人間だったから失敗したのだ、今度は一人一人、そして過酷だと現実を突きつければいいのだ。
この世界では生きていくのなら保護の下でなければ駄目だと。
なのに、それなのに、目の前に現れた女を見て驚いた、何故、別人だ、死んだのだ。
しかも隣に立っている男は大柄で肌が浅黒く一目で分かる、怒りが爆発しそうだ。
「イシュヴァール人か、また、またか、私の邪魔をするのかっ」
怒りを抑える事ができなかった。
次回、スカーを活躍させたい。
ギャグなしですが、書いていて楽しかった。