残酷というか、シリアス部分が増えたかもしれません。
建物内に足を踏み入れたとき、突然、廊下の奥から一匹の犬が現れた、いや、犬だけではない、子供も一緒で驚いたのはオリヴィエだ。
着ている服も医療用の簡素なものだ、敷地内に医療病棟があるが、子供がいただろうかと思ったとき、子供はメイに話しかけた。
「あなたはシン国の人」
それは子供の声だが、ひどくぎこちない響きだ。
「部屋のドア、開かない、困ル」
メイは困った顔で子供を見たが、あれっと思った、子供の顔が薄く透けている。
「来て、開かナイノ」
オリヴィエとアレックスの表情は、だんだんと厳しい表情にになっていく、それは、ある部屋で子供が立ち止まったからだ。
「あなた、レンキンの人」
子供はアレックスを見ると開けてと言葉をかけた、その声がひどく小さい、姿も透き通っている。
「構わん、アレックス、ぶち破れ、責任は私が取る」
轟音が響いた。
部屋の中には人型の数体の人型の模型が床に倒れていた、木や鉄、様々な素材で、だが、全て小さい、子供ぐらいの大きさだ。
近くにあった人形を確かめるようと手を伸ばしたマルコだったが、触れようとした瞬間、ただの人形でない事に気づいた、生きていると思わず漏らしてた言葉にオリヴィエとアレックス、メイも人形を見た。
「皆、ダイジョーブ」
「駄目、動ケナッ」
「ムズカシ」
「我、無念」
部屋の中に声が響くが、それはとても小さく弱々しい。
その中で唯一、聞き取れたのは少年の声だ。
軍は何の実験をしていたのか、賢者の石を作ろうとした、まさか、違う、部屋の中を見ても何をしようとしたのか分からない、それがマルコの答えだ。
アームストロング家で見せられた写真を思い出す、子供と大人がいた、ただ自国民ではない、よその人間だ、なら自分たちが自由に使えると思ったのだろうか。
「歩け、ない」
木の人型が少年が声を漏らすとアレックスが抱き上げた、少年は行きたい場所があると告げた、その声にオリヴィエは何処に行けばいいと尋ねた。
この人は軍の高官、ロイ・マスタングよりも偉いのだろう、だから話をするにも気をつけなければと思うが不安で女はたまらなかった、ここから逃げ出したいと思ったが、唯一の救いは隣にスカーがいることだ。
「安心したまえ、あなたは保護する、二度と同じ轍は踏まない」
体が揺れ、肩が、手が隣に立つスカーに触れた、大丈夫だと自分に言い聞かせる、目の前の男を信じていいのだろうか、嫌な予感しかしない、だが、頭の中で考えた答えを即興で捻り出す、その声はわずかに震えてしまう。
「わかりました、あなたのいう保護を受けます、スカーさんは関係ないですから、この人は帰ってもいいでしょう」
そのとき、ノックの音がした、返事も待たず開いたドアと同時に入ってきたのは一人の男だった。
「何だね、ブラッドレイ、いや、大統領」
軍の頂点を目指している男は笑った、何を怒っているのかと。
「あなたは、また繰り返す気か」
隠そうともしない静かな怒りが感じられた。
「過去の事だ、そうだ、その男を連れて、いや、殺してもいい、彼はイシュヴァール人、分かるかね」
顔は笑っている、なのに声は 冷たい、男は大統領と呼んだ相手をいぶかしむように見た。
「逆らうのか、反逆か」
ゆっくりと近寄る男は拳を構えた、そのとき。
「やめなさい」
スカーが驚いて自分の隣を見る、だが、それは大統領、ブラッドレイもだ。
「やめなさい、ラース」
何故、自分の名前を、ブラッドレイは女の顔を凝視した。
「また、石を欲するのか」
男の表情が変わった。
爆発、いや、何故、今、軍の施設内、様々な場所で聞こえる音に男は椅子から腰を上げると女に近寄った。
「何をした、石を使ったのか、成功したのか」
女は首を振った、この世界の人間でもないのに、錬金術の仕組みなど分かるはずがない、一年、十年、死ぬまで時間をかけて研究したとしても理解することさえできないだろうと言葉を続けると男の顔に怒りと苦渋の表情が浮かんだ。
「失礼します」
ドアは開いているが、声をかけて入ってきたのはオリヴィエだ、勿論、一人ではない。
「人間を使わず、石を作ったのだろう、おまえ達は、ナゼ、何故だ、おまえ達に、それができて、我々には、それができないなど」
掴みかかろうとする男を殴りつけたのはスカーだ。
「研究書類と石が欲しい、か」
「当たり前だ、あれは元々、我々のものだ、おまえ達は」
「人形を壊さなかったのは、なぜ、なー、なーぜ」
「あ、あれは、触れるなと言われて」
女は笑い出した、その声は次第に低くなっていく。
「怖かった、怖かったのね、子供達、仲間達、私が、何を理解し事を起こそうとしたのかわからない、今、この時でさえ、わからないでしょう、研究書類も石も」
「何処だ、それは」
「手の届かない場所」
そう言って女は部屋の中を見回し、マルコを見ると頭を下げた。
「深く、深く、御礼を申し上げます、助けてくださった事、あのままだと軍に見つかる前、この女は生きていることさえ叶わなかった、本当に」
女はゆっくりと膝を折り床に跪くと頭を床に垂れた。
「切に、心から感謝いたします」
それきり、女は動かなくなった。
「一体なんなんだ、これは、この事態はどういうことだ」
ロイ・マスタングは室内の人間全員を見たが誰も何も言わない、上司である男もだ。
しかも驚いたことに君の昇進を考えていたところだという晴天の霹靂ともいえる言葉を告げられて驚いた。
部屋を出て行くとき、アレックスに抱えられていた少年は眼帯の男を見ると声をかけた。
「裏切り者」
憎しみのこもった目で睨みつけるが、その姿は徐々に薄くなっていくと木の人形に変わりはじめた、アレックスの肩落ちた人形は床に落ち、粉々に砕けてしまった。
元の世界に戻れない、だが、誰も子供も大人も帰りたいとは言わなかった。
火事で全身を焼かれ、何日も降り続けるやまない雨、濁流と泥に飲み込まれそうになり、食べるものがなく、飢えで死んでもおかしくない、そんなところへ誰が返りたい。
ここがどこだろうと構わない、食べ物が、着るものが、暖かい寝床がある。
生まれた場所と比べたら十分すぎるほどだ、それに一人ではない幸運だ。
だが、時間がたち、この幸運の裏にあるものに気づいた、きっかけは子供がいなくなったことだ、一人、二人、そして大人も一人、二人と姿を消した。
イシ、石、ジュツ、レンキンと言う言葉。材料にされたと知るのに時間はかからなかった、同じだ、世界が違っても人間の業と欲は変わらない。
だから、時間をかけて仕込みをしたのだ。
きれいさっぱりというか、軍に連れて行かれたことを何も覚えていないという女が少し羨ましくもあるとマルコは思った。
軍の敷地内の建物が多少破損したが、それは自分たちには関係ない、オリヴィエとアレックスの二人があの高官に何か言われるかと思ったが、これからも自国の為に尽くしてくれという言葉で終わってしまったらしい。
ロイ・マスタングの昇進はなしになった、これは本人が辞退したらしいが、数日間の休暇をもらうと旅行に行ったらしい。
シン国、そして現在は亡国といってもおかしくはないイシュヴァールへ、それが気になるところだ。
ようやく帰る目処がついた事に四人と一匹は駅に着いた、これから半日近く汽車の旅だ。
汽車が走り出して、しばらくするとスカーの肩を枕にして寝入ってしまった。
その様子を見て少しは仲良くなったのかと思ったマルコだが、スカーの顔を見てどうしたんだと小声で尋ねた。
「駅に、男がいた」
すぐには意味が分からなかった。
「大統領と呼ばれていた男だ」