突然、現れた男にロイ・マスタングは?と言う顔になり、マルコを見た。
相手は平然と余裕の笑みを浮かべている、そしてマルコと言えばすっと視線を逸らした、我関せずという感じだ。
「何故、おまえがここにいる」
「色々とありましてね、ところで、タッカーの資料は見つかりましたか」
マスタングは顔を顰めた、嫌な事を聞いてくるといいたげに。
「見つかる可能性はないでしょうね、手に入れた相手も馬鹿じゃない」
「おまえじゃないのか、犯人は」
「私が、何の為にです、それよりも違法な錬金術で作られたホムンクルスは、まだいるんでしょう、調べているんですか、だが、こちらに来たということは、まったく」
情けないですねと小さな声は女の耳に聞こえた、多分、相手も馬鹿にされていると思っているだろう、だが、このままでは埒があかない。
「先生、すみません」
女はマルコに向かって頭を下げ、ごめんなさいと謝るとマスタングに近寄り、お帰り下さいと、はっきりとした口調で言った。
「非常識だと思いませんか、こんな時間に人様の家を訪ねてきて、出されたコーヒーに口もつけずに自分達の言い分だけ、礼儀というもの知らないんですか」
そう言って女は二つのカップを手に取ると中身をマスタングと隣の部下の顔に。
(バシャリ)
「なっっ」
「た、大佐、怒ったら駄目です」
「おまえ、相手が{ボインだからって)」
「ははは、いや、これは参りましたね」
突然、笑い出したのはキンブリーだ、こんなおもしろいモノは見たことがないといわんばかりに、だが、続けてきっぱり、はっきり言ったのはマルコだ。
「大佐、悪いが、今日のところは帰ってくれないか」
「気にせんでいい、悪いのはあっちだ、こんな時間にやってきて」
家を出て行く二人を見送った後、すまなそうな顔をしている女に声をかけた。
マルコの言葉に女は驚いた顔をした、あっちが悪いと、そんなことを言うとは思わなかったのだろう。
「先生、ごめんなさい」
「謝ってばかりじゃないか、おまえさんは」
台所でマルコは一人、朝食の準備を始めていた。
「二人とも起きたのか」
台所に入ってきたメイとスカーにマルコは食べなさいと声をかけた、このとき、メイの視線にマルコとは気づいた。
「先生、鼻水がついてます」
言われて自分の胸元を見た、ガビガビというかテカテカである。
「ああ、これは」
「わかってます、全部、聞こえてましたから」
聞こえてた、全部、マルコの表情は固まった。
「鼻水つけてすみませんって」
そ、そこまで聞こえていたのか、地獄耳だ。
「まあ、大人でも色々とある、知らないふりをしてくれ、おまえさんもだ、スカー」
相手が軍人で自分を保護すると言われて、あのときの対応は平気に見えた、だが、二人が帰った後、不安になったのだろう。
眠ろうとしたとき、視線を感じて顔を上げるとベッドのそばに音もなく、女が立っていたのだ、驚いて声をあげそうになった。
「先生」
いつもの声ではない、軍に行けばいいですか、迷惑ですか、女は矢継ぎ早に質問してくる、正直、大佐が保護という名目をどんなつもりで使ったのかわからない。
まさか、牢屋、どこかに閉じ込めるようなことはないだろうと思うが、周りの人間がどんな対応をするのかわからない、そこにわずかに不安がある。
自分が、あちらに籍を置いて関係者として関わることができれば、ある程度の配慮はできるだろうが、今の自分は一介の町医者には無理な話だ。
「軍に行けば十分な対応をしてもらえるかもしれない、ここは田舎だ、これから雪が積もれば生活に不自由なことも色々とあるだろう」
薄暗い部屋の中だが、女がじっと自分を見ている視線が痛いほどだ。
「保護なんてゴメンです、それに不自由とか、今までだって思ったことありません」
「おまえさんの自由に、好きにすればいい、ここにいる限り、私がなんとかする」
正直、よく、そんなことが言えたものだと思いつつ、マルコは女を見上げた。
いきなり、女は自分の胸に顔を埋めてきた。
「お、おいっ」
慌てたマルコだが聞こえてくるのは嗚咽、呻いているような泣き声だ、だが、しばらくして鼻を啜る音も聞こえてきた。
自分は起き上がれない、身動きできないのダブルの二重苦、そして追い打ちをかけるように。
「鼻水つけて、ず、びませんっ」
がとどめだった。
「泣きなさい、我慢せんでいい」
正直、マルコには、それしか言えなかった。
誤字、脱字、変換間違いを見直し中、オリジナル設定も少し変えて加筆したり、削ったりしています。