※この作品はR-18です。

車の免許を取った花音の弟くんがドライブデートでおねえちゃんに誘惑される話   作:脳みそゆでゆで

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絶対、絶対ダメなのに……実のおねえちゃんのおててで、本能むきだしにしちゃったね♡(その1)

『ねー松原ー、せっかくの連休なんだしどっか遊びに行こうよー、鎌倉とかさー、あたしヒマで死にそうなんだよー』

 

「ダ、ダメです。今年は実家に帰るって約束してるんで」

 

 先輩の通話を無理やり切って、俺はアパートの扉に鍵を突っ込んだ。

 たぶんこれで十回目の催促だ。遊びに行きたい気持ちも分かるし、俺も遊びに行きたいけれど、約束を優先しなくては。

 ドアノブをひねって戸締りを確かめ、財布の所持金もチェックしておく。

 そして最後に、カバンを探った。こいつは絶対忘れてはいけない。ロゴの入った車のキーが、手のひらの中でキラリと光る。免許証もちゃんと財布の中に入っている。

 ――完璧。意気揚々と、駐車場へ向かう。

 

「ふっ、ふっふっふっ……」

 

 そこにはピカピカに磨き上げた新車(中古だけど)が停めてあった。初めて手に入れたマイカーだ。車体を眺めてるだけで、思わずにんまりとしてしまう。

 駐車場の契約金はバカにならんし維持費も大変だが、これで旅行なんかにも気軽に行けると考えると、お釣りがくるってもんだ。

 

 本当はこのゴールデンウィークを使って、海辺をドライブしたいって考えもあった。

 もちろんそれは――先輩と一緒に、だ。バイトを通じて知り合ったあの人と、なにかをきっかけに関係を進展させたいっていう気持ちが、そろそろ膨れ上がってきているところだった。

 大学は休みだけど、バイトや課題のせいで完全な休みは今日を含めて二日しかない。そんな、貴重な休日なのだ。

 けれど実家に顔を見せるのも大事なこと。色恋もいいけど、今日はそっちを優先することにしたのだ。

 

 松原家には俺と姉貴、ふたりの子どもがいて、今はそれぞれが大学に進学して独り暮らしをしている。俺は去年、バイトや免許の取得に専念したから帰省できなかった。そろそろ家族と会って話をしたいところだった。

 そういうわけで、俺は実家の方向へとゆるやかにハンドルを切った。

 せめて実家までの道のりは、こうやってドライブ気分を楽しむとしよう。

 まあ地元だから、ほんの三十分程度なんだけどさ。

 

 

 *

 

 

 実家のある花咲川の住宅街へと帰ってきた。久々に見るとこじんまりして見える。そういえば、この道を自分の運転する車で通るのは初めてなんだよな。

 車をガレージに停めた。バンドを組んでる姉貴が昔ドラムセットを置いてたところが、今はガランと空いている。こういうちょっとした変化がなんだか切ない。

 親父や母さん、たまに電話で声は聞いたけど変わりはないだろうか。シワや白髪が増えたりしてるのかな。柄にもなくセンチなことを考えながらインターホンを押すと、懐かしい電子音がした。

 すぐに玄関の鍵が外れる音がした。家の中から扉が開いた。

 

「わーっ、ふふっ。久しぶりだね~。おかえりなさい」

 

 出迎えてくれたのは――たぶん、姉貴だった。いや姉貴なんだけど、一瞬誰だか分からなかった。前から可愛い人だったが、すっかり美人さんになっていたのだ。家を間違えたのかと思ったほどだ。

 

「あれ? ど、どうしたの? かな君?」

 

 白魚のような手が、目の前でぱたぱたと振られている。それで俺はハッとした。ふわりと長い髪を揺らし、姉貴が心配そうに小首を傾げていた。

 

「あっ、いや。ただいま……」

 

 ま、まさか姉貴に見とれて固まってしまうとは。たしかに時々送ってくる写真に化粧してる姉貴の姿がうつってて、気になってはいたけど。実物を見ると段違いに垢ぬけてる。

 それに俺が身長を追い抜かしてしまったものだから、目線が常に上目遣いだったりする。

 とっさに話す言葉も思い浮かばなくて、気まずい沈黙がおりてきた。

 

 いや、思い浮かぶ言葉はあったけど、実の姉に正直に「美人になったね」なんて言えるはずもない。そんなこと言う弟がこの世のどこにいるっていうんだ。

 不自然に黙っている俺を見て、姉貴はなぜか可笑しそうに微笑んだ。

 

「ここまでは、車で来たんだよね? 運転できるようになったなんて、すごいなあ」

 

「べ、別に、免許取るくらい何でもないよ」

 

「ふふっ、運転お疲れさま。ほら、お荷物持ってあげるね」

 

「あっ、別にいいって、旅館じゃないんだからさ……」

 

 姉貴の手が、バッグの持ち手を掴んでいる俺の手にいきなり絡みついてきた。持ってもらうつもりは毛頭なかったのに、ドキッとしてバッグを放してしまった。

 

「あっ、姉貴それ重た……」

 

「ふぇぇっ?」

 

 その瞬間、姉貴が驚きの声をあげる。俺のバッグを、ドサッと地面に落としてしまった。

 やっぱり、姉貴の腕では重たかったらしい。びっくりした表情でこっちを見ていた。

 いくらおめかしをしていても、びっくりしたり困ったり、そういう時に出す「ふええ」って口癖や、潤んでくる目元は変わってなかったので、俺はちょっと笑ってしまった。

 

「もう、だから言ったのにさぁ」

 

「ご、ごめん、落としちゃった……」

 

「いいよいいよ」

 

「何入ってるの、これ?」

 

「えっと、二日分の着替えと……ダンベル。筋トレサボりたくないから、一応ね」

 

「へぇ、トレーニングしてるんだ……」

 

 姉貴の視線が俺の胸元をなぞる。それがくすぐったくて、逃れるように地面に落ちたバッグを拾い上げた。そして俺たちは我が家に入っていった。

 手の甲あたりに、さっきのやたらすべすべした指先の感触が、まだ消えずに残っていた。それが俺をムズムズと、よく分からないもどかしい心地にさせるのだった。

 

 

 *

 

 

 俺はまったりと実家を満喫していた。

 おふくろの味を堪能したり、広々とした浴槽でゆっくり風呂に浸かったりしてると、家族のありがたみってやつを実感する。

 リビングに満ちるのはテレビの音と俺の笑い声だけというような、侘しい状態になったりもしない。あたたかな生活音に包まれ、家族で酒を酌み交わしながら募る話をする。

 

「それで、資格は取れそうなの?」

 

「うん、自信はあるよ。もともと子どもは好きだし、ハロハピの活動で知り合った保育園の先生のおかげで、勉強のコツとかも教えてもらえたから」

 

 大学四年の姉貴は就活中で、高校の頃の経験を活かして保育士を目指しているのだった。資格をとるための筆記試験を終え、今は実技試験に備えているようだ。学生の頃やってたドラムじゃなく、今はピアノの練習してるんだとか。たしかにそっちのほうが姉貴に似合ってると思う。

 

「そっか、姉貴も就職かぁ。早いもんだね」

 

 俺がしみじみと言うと、母さんが苦笑した。

 

「奏太、それ私たちの立場が言うセリフよ。あんたももう今年で二十歳かぁ……って、親とか親戚がね」

 

 ちなみにみんな、ほろ酔い気分になってきている。成人を迎えていない俺だけが、ノンアルを渡されて素面のままだ。

 

「まあでも、気持ちは分かるじゃないか、花音は特に、最初は学校に登校させるのも心配だったからね。どうだい、もう迷子で遅刻したりはしないかい?」

 

 親父は焼酎を片手に言う。以前より趣味がジジ臭くなった。

 

「さ、さすがにもう迷子にはならないよ~」

 

「そうそう、センター試験なんて結果どうこうよりも、会場までちゃんとたどり着けるのかがすげえ心配だったし。千聖さんがいてくれて助かったけど」

 

「ふええ……なんか昔の話されるのって、すっごく恥ずかしいなあ」

 

 熱くなった顔をパタパタと手で扇いでいるその横顔を、なんとなく盗み見た。頬がアルコールのせいか赤らんで、白い耳たぶにイヤリングの跡が残っていた。

 そりゃ女子大生なんだから、ピアッシングだって当然するだろう。

 そして当然、とっくにオトコを作ったりしててもおかしくない。

 

「……」

 

 興味はあったけど尋ねることはできず、姉貴や親が切り出してくれるのを待っていた。

 でも松原家の人間は基本的にオクテなので、そういう話にはいつまで経ってもならなかった。俺が酒を飲めたら、酔った勢いで聞きだせたのに。

 

「奏太は明日、何か予定はあるのか? こっちの友達と会ったりとか」

 

「あー、ううん、何も考えてなかったな。まあみんな都内だし、別に今日じゃなくてもすぐ会えるから」

 

 親父の質問に、俺はぼんやりと頭を巡らせた。よく考えてみれば、実家に帰ってきても特にやることがない。一日中ゴロゴロしててもいいんだけど、それではせっかくの貴重な休日が無駄になってしまう。そこで閃いた。

 

「あっ、そうだ。明日さ、家族でどっかドライブに行かない? 俺、車運転したいんだよ」

 

 シーン。静まり返った。おかしいな、さっきまであんなにみんな、かしましくおしゃべりに興じていたのに。

 

「えっ、なんで? 乗り気じゃない? みんな休みだよね? 家族で旅行する機会も減ったわけだし、せっかくこうして集まったんだからいいじゃん」

 

 すると親父と母さんは、真っ青な顔をして首をブンブンと振りはじめた。

 

「い、いやだって。お前の運転なんだろ? 事故ったらどうするんだ……」

 

「そ、そうよ。松原家の人間は代々ドジなんだから……しかも初心者マークの息子の運転なんて、絶対に事故るわよ……」

 

 思い出した。そういえば、松原家の人間って異常に臆病なんだった。

 

「いやいやいや、俺はそんなにドジじゃないだろ? 教習所の先生にも筋が良いって言われたんだぜ?」

 

 説得してみたが、無駄だった。今回は遠慮しておくとのことだ。その代わりゴールド免許になったら乗ってくれるらしい。一体いつの話になるんだ。

 

「あっ、ねえねえ、私は一緒に行っていいよね?」

 

「えっ?」

 

 一緒になって黙っていたはずの姉貴が、そんな風に声をかけてきた。

 どうやら面白がって静観していたらしい。口の中でクスクスしている。

 どこか弾んだ声の姉貴は、ほろ酔いに頬を紅潮させたままだった。飲み会の終盤で女の子が見せる、熱狂的で危うげな表情とかぶって、胸が大きく鼓動を打った。

 

「えっと、いいけど……姉貴はこっちの友だちと、その、会ったりしないの?」

 

「そうよ花音、死に急ぐことはないのよ」

 

 すげえ失礼なことを言われたが無視する。

 なんか俺、すげえビビってる。なんていうか、二人きりでドライブってことをつい意識してしまう。

 

「みんなとは昨日会ったんだ。だから今日と明日は、かな君の日にしようと思うんだ」

 

「そうなんだ。いや俺の日とかいらんけどさ、でも一人でドライブするのもあれだし、うん、一緒に行こうか」

 

「うんっ。ふふっ、かな君が運転してるとこ、隣で見てようっと。楽しみだなあ」

 

 姉貴がそう嬉しそうに言うと、がぜん俺も明日が楽しみになってきた。

 そしてそれが――すごく怖かった。

 やっぱ俺も、松原家の臆病な特質を受け継いでるのかもしれない。

 

 

 

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