愛するレイナーレと添い遂げたいと彼女と同じ堕天使になる為に努力する尊、レイナーレと尊への憎しみと親友の木場への思いに身を焦がす一誠、聖剣とバルパーへの復讐に燃える木場、そしてグレモリー眷属たちへの思いと自分の【目的】の間で心揺れる鬼崎…!
それぞれの思いが入り乱れる中で、彼らはコカビエルとの決戦に向かっていく!
俺は苛ついていた。
ただでさえ、あのクソ堕天使とその彼氏、レイナーレと國原の二人がアザゼルの庇護を受けてのうのうと生きていて、アーシアはいまだ死んだまま……その上、今度は堕天使の大幹部のコカビエルとかいう奴が天界の天使長の下部組織である教会の聖剣を奪ってこの駒王町に潜んでるって厄介な話が飛び込んできた。
その情報をもたらしたのは教会の聖剣使いで、カトリック教会から遣わされたゼノヴィアとプロテスタント教会から遣わされた紫藤イリナ……彼女は俺の幼馴染だ。
二人はまず俺たちに、コカビエルと手を組むなと言ってきた。堕天使が大嫌いで、奴らを仇敵としている俺たちに。
それを受けて俺たちは、堕天使をいかに憎んでいるかを証明する為にレイナーレと國原の件を話したところ、あの二人は信じられないことを言ったんだ。
『その堕天使がした事は確かにいけない事だが、その彼女にそこまで一途な愛を捧げるその少年の気持ちは共感出来る部分もある。それに免じて、アーシアが生き返ったらもう許してやっても良いんじゃないか?』
ふざけんな!
あのクソ野郎のあの外道堕天使への盲愛を【一途な愛】だと! 神のためなら、信仰のためなら死んでも良い! とかあいつらは言っていたが、その狂信的な信仰とあの國原の野郎の狂った盲愛は確かに似てるっちゃ似てる。【類は友を呼ぶ】って奴か。リアス部長も【常軌を逸してる】と呆れていた。
アーシアが、あの子が教会の奴らの心ない仕打ちのせいでどれほど理不尽な辛い目に遭ってきて苦しんできたか、それなのに誰よりも優しい気持ちを忘れなかったあの子がどれほど良い子なのか、それも知らずに勝手な事を言いやがって!
激怒した俺と二人が一触即発の状態になったところに、木場がやって来て、凄まじい殺気を込めて二人に決闘を申し込んだ。二人はその決闘を受けた。木場がゼノヴィアと、俺がイリナとだった。
そして、俺たち二人は負けた。
手も足も出なかった。木場は俺や部長が止めるのも聞かずにその場を飛び出した。
【僕は、同志たちのおかげであそこ(聖剣計画推進のための研究所)から逃げ出せた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めなければいけないんだ】
木場の気持ちは痛いほどわかる。あいつは教会の【聖剣計画】で理不尽な処分の対象とされ、多くの仲間たちを殺された事で聖剣エクスカリバーを憎んでいるからだ。
そんな木場の姿に悲しそうな表情を浮かべた部長を見つつ、俺は決意を固めた。そして部室を出て、家への帰途の途中で俺はまた【あいつ】に会った。
「やあ、イッセー、久しぶりだね。ずいぶんと深刻な顔をしているけれど、何かあったのかい?」
俺はそいつ…鬼崎を連れてファミレスに入り、知る限りのあらゆる話をぶつけた。鬼崎は神妙な顔をしながら、言葉を漏らした。
「なるほど……祐斗にそんな過去があったなんて……」
「鬼崎、お前に頼みたい。俺は紫藤イリナとゼノヴィアと協力してエクスカリバーを破壊し、木場の想いを叶えてやりたい……! それをお前に手伝って欲しいんだ!」
「教会の聖剣使いの二人と組むと……イッセー、君はあのレイナーレと國原の事を庇うような発言をした二人に怒ったんじゃあなかったのかい?」
俺は一気にまくし立てた。止めようと思っても零れ落ちていく言葉が止まらなった。
「ああ、確かにそうさ! 今だってあいつらのあの発言にはムカついてしょうがねえ。でも、あいつらはあのクソ堕天使やその彼氏に会ってねえし、アーシアにも直接会った事はねえって言ってた……だからしょうがねえ部分もあるんだ! それに、俺は何としても木場の想いを遂げさせてやりたいんだ! 俺は今の思いつめた木場を……そしてあいつを心配している部長を見ちゃいられねえんだ……! だから……!」
止まらない言葉の洪水。黙って聞いている鬼崎。もしかしたら、俺は滅茶苦茶なことをしゃべり散らかしていたのかもしれない。それでも俺は、
「鬼崎……! 頼む……! 俺に力を貸してくれ!!!!」
不器用に思いを伝えることしかできなかった。
鬼崎は、ゆっくりと頷いた。
「分かったよ。僕にとっても祐斗は大事な友達だからね」
「すまねえ! 鬼崎、恩に着るぜ! お前が協力してくれたら、まさに鬼に金棒だぜ!」
手を差し出す鬼崎。俺はその手を思いっきり握り返した。
俺たちは今後の計画を話し合って決めた。まずは紫藤イリナとゼノヴィアに接触し、二人の協力の了解を取り付ける。その上で二人と共に聖剣を持っているコカビエルの配下のフリードを捜し出し、彼を倒して聖剣を破壊する。シンプルだ。
ただし計画は、リアス部長たちには極秘で行う。天使側の……他勢力との問題に介入する事は魔王の妹であるリアス部長からすれば、自分の立場を危うくする事につながりかねないために彼女は反対する可能性が高く、俺としても彼女に迷惑をかけたくない。何が起こっても自分の勝手な一存という形で済ませたい。
「なるほど。ただ、その紫藤イリナとゼノヴィアとの交渉の時には僕はいない方が良いな。悪魔でも教会関係者でもない、いわば部外者の僕が同席していたら彼女たちに怪しまれて、交渉自体が上手くいかない恐れが高い。その後のフリードの捜索には僕も協力しよう」
「ありがとう。すまねえな!」
「だが、リアス部長にも、それ以外の部員にも伝えないというのはフリードを探すにはちょっと心もとないな。せめてもう少し人数がいた方が……」
「ああ、それなら俺にいい考えがある。大丈夫だ」
鬼崎の言葉に俺は笑いながら親指を立てた。
“いい考え”はとんとん拍子で進んだ。紫藤イリナとゼノヴィアから共闘の承諾を得られ、祐斗もそれに同意した。そして小猫ちゃんが事情を知って協力してくれる事になり、さらにシトリー眷属の匙の協力も得られる事になった。
時は熟した。俺は鬼崎に手短に連絡した。
「そうか。それならそちらのメンバーは4人だね。なら、僕は別行動でフリードを探す事にする。二手に分かれた方が効率が良いからね」
「そうか。でも、奴を見つけたら必ず俺たちに知らせてくれよ。鬼崎、お前じゃフリードくらい簡単に倒せちまうだろうけど、あくまでも木場が直接、奴を倒して聖剣を破壊してこそ意味があるんだからな」
「分かったよ。見つけたら必ず知らせる」
「ああ、感謝する。よろしく頼むぜ!」
俺たちは、フリードの捜索を開始した。
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僕たちが、ゼノヴィアさんとイリナさんに会ってから数日が過ぎた。
相変わらず、僕たちはホテルでヒマをもてあましている。ゼノヴィアさんとイリナさんからの連絡はまだない。
すぐにでも連絡をくれそうな雰囲気だったのに……一体何が?
僕は焦りを覚えていた。僕の中で早く任務を果たしてアザゼル様のご期待に応えたいという思い、何よりも今回の事でミカエル天使長の好意を得て、愛しいレイナーレと同じ堕天使に早くなりたいという思いが混ざり合う。
僕は今、レイナーレと共にレックスを連れて気晴らしに町中へ散歩に出ている。グレモリー眷属たちに見つからないよう、学校が授業中の昼間の時間帯だ。カラワーナさんとミッテルトちゃんはホテルでのんびりと過ごしている。
「ちょっと出かけてくる」
ヴァーリさんはそう言ってどこかへと出て行った。いざという時には連絡が取れるよう、彼には連絡用の携帯電話を渡しておいたが。
そして散歩に出た僕たちはというと……
「ミコト、元気がないわね」
「そ、そんな事ないよ……でもなかなかあの2人から連絡が来なくて、僕、気が気じゃなくて……」
心配そうな表情のレイナーレの問いかけに、僕は率直な気持ちを彼女に打ち明ける。
「ええ、分かっているわ。あなたの気持ち……でも、今は待つしかないわ」
その時、テンションの高い声が響いた。
「やっほーーー! お二人さん、仲が良いわねえ!」
こ、この声は……!
「イリナさん!」
「キャウン!」
僕はレックスと共に声の方向を向いた。するとそこにはイリナさんがニコニコと笑って立っていた。彼女の少し後ろにはゼノヴィアさん。
「やあ、しばらくぶり!」
「あ、あなたたちっ……! 今まで何をしてたのよ! 私たち、ずっとあなたたちからの連絡を待っていたのよ!」
レイナーレは2人に怒った様子で叫んだ。
「悪いね。色々とあってね……ちょっと長い話になるから、またあのお店に入らないかい?」
ゼノヴィアさんはそう言った。そこで僕たちはあの店へと向かった。
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「実は、【赤龍帝】……兵藤一誠と組んで聖剣の奪回、ないしは破壊をしようという話になった。後、あの木場という剣士も一緒だ」
「兵藤くんと木場くんと!」
ゼノヴィアの口から、私たちにとって憎い仇敵である2人の名を聞いて、尊は思わず声を上げる。私も思わず激しい怒りの衝動がこみ上げる。だが、考えて見れば別に不思議な事はない。元々、ゼノヴィアとイリナの2人はグレモリー眷属の奴らとの接触を進めていたのだし、イリナはあの憎い一誠と幼なじみでもあるのだから.
「ああ、私としては本来、彼らが私たちの任務を邪魔しさえしなければ良いと思っていたのだが、彼らの方から私たちに協力を申し出てきてね」
「兵藤くんたちの方から協力を!? それはどうして?」
尊の問いにイリナが答える。
「ミコトくん。実はね、あの木場くんは【聖剣計画】の生き残りなのよ」
「えっ!! あの木場くんが!!?」
尊は先ほどよりはるかに驚いていた。私も同じ思いだった。辛うじてそれを表情に抑えられたのは、私自身のプライドのおかげだろう。
あの冷酷な剣士の少年……あの夜、容赦なく私に襲いかかって私に手傷を負わせ、常に私や尊に冷たい殺意を向ける、あの憎い少年が、まさか【聖剣計画】の失敗で始末された子供たちの生き残りであったとは……
「そうなのよ。だから木場くんは教会に……そして天使や堕天使に強烈な憎悪を抱いているわ。私たちにも明らかに嫌悪と警戒心を抱いていたし、最初、ずいぶんと突っかかってきたわ」
「そうか。だから木場くんはレイナーレやカラワーナさんにあれほどに冷酷な殺意を向けるのか。でも、レイナーレたちは【聖剣計画】には関係ないはず……なのに!」
イリナの言葉に尊はギュッ! と小さな拳を握り締める。木場の境遇に同情はしつつも、彼がその憎悪を【聖剣計画】には無関係な私たちに向けて、私たちを殺そうとする事への怒りを露わにしていることが私にはわかる。
そんなこの子の気持ちが、私はとても嬉しかった。 どんな場合でも私への愛を何よりも優先させる、この子の私への一途過ぎるほどに一途な愛。それこそが、私が永遠に尊と共にいると誓った一番の理由なのだから。
イリナはそんな尊と私を見つめ、そして話を続ける。
「それでね。木場くんは彼にとって憎い存在であるエクスカリバーを破壊する事、そしてあの計画の張本人であるバルパー・ガリレイに復讐する事を望んでいるの。そして、イッセーくんは友達の木場くんのその思いを果たさせてあげたいと思って、私たちに共同戦線を持ちかけてきた……そういう訳なの」
…………!!
私はようやく理解出来た。
一誠や木場を初めとするグレモリー眷属の奴らが、なぜあれほどまでに私や尊に対して激しく執拗な憎悪と殺意を向けるのかが。
グレモリー眷属の奴らは眷属間の情愛がとても深い事で有名だ。仲間に与えられた仕打ち、痛みを自分自身が受けた以上に強く感じ、加えた相手を徹底的に憎悪して追い詰める。それが奴らの流儀なのだ。
木場の私と尊への憎悪も、単に【聖剣計画】による天使や堕天使への嫌悪だけによるものではない。【大切な友である一誠を苦しめた奴ら】、それこそが木場のあの憎悪と殺意の源なのだ。そして今回は一誠が木場の復讐に同様の理由で加担しているのだ。
そしてそんな奴らの憎悪の渦に、私は愛しい尊を巻き込んでしまった。その事に私は今更ながら、また激しい後悔を覚えた。
「そんな訳で、私たちはグレモリー眷属のあの二人と組む事になった。だから、せっかくキミたちから協力の申し出を貰ったのに、それを受ける事は出来ない……キミたちも承知しているように、あの二人のキミたちへの憎しみは凄まじいからね……すまないが分かってくれ」
「本当にごめんなさい」
ゼノヴィアの表情には苦渋の色が浮かんでいた。イリナも続いて頭を下げる。
お願い、やめてちょうだい。
そう喉まで出かかった言葉を、私は抑え込んだ。尊も同じ気持ちだろう。ゼノヴィアはヴァーリの実力を知らない。従って私たちとグレモリー眷属を比較して、魔王の一族とその部下である彼らの方がずっと力が上だと判断するのは当然だ。私たちと彼らの間にはとてつもなく深い憎悪の溝があるのだ。従ってどちらかを切り捨てなければならない。
尊の、絞り出すような声が聞こえた。
「分かったよ。でも、僕たちの助けが必要な時は、遠慮なく呼んでね」
「分かった。ありがとう」
ゼノヴィアは頭を下げたが、実際のところ、もう彼女たちは私たちを頼りにする事などないだろう。従って私たちが彼女たちを助ける時は、私たち自身の判断で動かなくてはならない。
私たちは2人と別れて、ホテルへと戻り、カラワーナとミッテルトに今回の事を伝えた。
「なるほど……結局、あの二人はグレモリー眷属の奴らと結ぶ事にしたと……」
カラワーナが失望したという表情を浮かべる。
「それで、これからウチらはどうするんすか?」
ミッテルトが聞いた。私は考える。あの2人だけではもちろんの事、グレモリー眷属の面々が加わったとしてもコカビエルを倒す事は無理。それなら私たちが今後、介入する事は十分可能……
だが、今回の【任務】にとって最も良い形で終わらせるにはどのようにすれば良いのか?
せっかく、あのアザゼル様が私たちに与えてくださったこのチャンスを最も活かすには一体どうすれば……?
いい考えは、何1つ思い浮かばなかった。
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一誠との約束から数日後の夕方、僕はフリードを探していた。家々の屋根を次々と飛び移って駆け回りながら。
一誠たちはあれから連日、駒王町内を探し回っているが、いまだに遭遇出来ていないそうだ。僕も今のところ、まだ手掛かりは得られていない。ヴァーリにも情報があったら提供して欲しいと協力を頼んであるが、あちらもまだこれといった情報は得られていないとの事だ。
一誠たちはかなり焦っているようだ。高校生という立場、そしてリアス部長たちに気付かれてはならないという事で、捜索するにも時間的に厳しい制約があり、悪戯に日数ばかりが増えていくという状況のようだ。そして僕も、なかなかフリードを見つけられない状況に苛立ちを募らせていた。
いや、何で僕はこんなに苛立っているんだ? そしてなぜこんなに律儀に彼らとの約束を守ってフリードを探しているんだ? グレモリー眷属とコカビエル、どちらが勝とうと僕には関係ない。いや、むしろコカビエルが勝った方が僕には都合が良いのだが……
いや、ヴァーリが今回はアザゼルの依頼でコカビエルを抑える側に立っているのだから、彼に協力すると考えればそれで良い! それに所詮、コカビエル程度の男ではアザゼルにもサーゼクスにもミカエルにも勝てない。僕たちの願望を果たすにはもっと【大物】が動く事が必要なのだ。
【その時】のためにも、今はグレモリー眷属に恩を売って、彼らの好意を得ておく事は大切! 僕はそう自分を納得させる事にした。
そんな事を考えていた僕の耳にふと、かすかにガギィィン!! ガキィン!! と剣戟の音が聞こえて来た。僕は急いでその音の方へと近づく。だが、その場所にもうすぐという所でカッ! と辺りに眩い閃光が立ち込めた。
見ると二人の初めて見る女がうなずき合っている。あれが紫藤イリナとゼノヴィアか。
「追うぞ、イリナ!」
「うん!」
そして二人はその場を駆け出す。それに続いて祐斗が叫びつつ、二人を追って駆け出す。
「僕も追わせてもらおう! 逃がすか! バルパー・ガリレイ!」
そして後には途方に暮れた様子の一誠と小猫ちゃん、そして僕の知らない長身の男が残された。あれがおそらく一誠が言っていた【匙元士郎】なのだろう。
「イッセー!!」
僕は叫びつつ、彼に駆け寄る。
「鬼崎!!」
「鬼崎さん」
「おい! 兵藤! 誰だそいつは!!?」
匙が僕を見て大声を上げるが、僕はそれを気にせずに一誠に確認する。
「どうした?」
「フリードとバルパー・ガリレイが現れたが取り逃がしちまって……木場とゼノヴィア、イリナは奴らを追って……」
「分かった。祐斗の事は僕に任せてくれ」
僕は一誠にそう告げると、祐斗たちが駆け去った方へと走り出す。
するとその時、背後から声が聞こえた。
「えっ!!? 陽太郎!!? どういう事なの!!? 待って!!」
リアス部長の声だった。恐らく、一誠たちの最近の行動を不審に思い、彼らを心配して後を追って来たのだろう。だが、僕は振り返らずに全速力で祐斗たちの後を追う。
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その日も、相変わらずヴァーリさんは戻って来ず、新たな情報も入らない状態が続いていた。
「それにしても……あのヴァーリという奴、こんな時に一体何処に……!」
カラワーナさんが苛立った様子で吐き捨てるように言った。すると……
「呼んだか?」
突然、当のヴァーリさんの声がした。
「ア、アンタ一体、今まで何処をほっつき歩いてたっすか……あっ!!」
「イ、イリナさんっ!!」
僕たちは驚いた。戻って来たヴァーリさんの腕には黒い戦闘服を身につけたイリナさんが抱かれている。
その彼女は血まみれで、全身傷だらけになって苦悶の表情を浮かべて荒く息をしている。
「ハアッ……ハア……ハアッ……」
「レイナーレ!!」
「ええ!!」
僕の声にレイナーレはうなずく。そしてヴァーリさんが抱えていたイリナさんの体をベッドの上に降ろし、その彼女にレイナーレが手で触れて【聖母の微笑】を発動させる。レイナーレの手から緑色の光が発せられて、イリナさんの体を包み込む。
すると徐々にイリナさんの表情が緩和していき、呼吸も穏やかになっていく。取りあえず、彼女は助かったようだ。僕はホッとしつつ、ヴァーリさんに尋ねる。
「ヴァーリさん、一体、何があったのですか……?」
「俺は、彼女たちやグレモリー眷属の動向を追っていれば、いずれコカビエルたちと遭遇出来ると考えてそうしていたんだが……そうしたら、彼女たちとあの赤龍帝をはじめとするグレモリー眷属たちが、フリード及びバルパー・ガリレイと遭遇して戦闘になった」
「…………」
「結局、フリードたちは逃げ出したんだが、それを彼女とあの女剣士、そしてあの木場という剣士が深追いしてね……無謀にもコカビエルのアジトにまで突入してしまった。結果はもちろん、彼女たちの力では到底コカビエルには敵わず、この彼女は重傷を負わされて倒れ、後の2人は命からがら逃走した。そして後をつけた俺はコカビエルたちが逃げた2人を追っている隙に倒れていた彼女を連れてここに戻って来た。そんな訳さ」
「そう、だったのですね……」
「俺としては、その場でコカビエルと決着をつけても良かったんだが、彼女が放っておくと命に関わる状態だから、まずはそちらを優先させた。それで良かったかな?」
「は、はい!!ありがとうございます!!」
僕はヴァーリさんに礼を述べつつ思う。
この人……一見、冷たそうで飄々としているけれども、意外と情が深いのかもしれない。
そしてしばらくして僕のスマホが鳴った。
「はい、もしもし……」
「ミコト! 私だ!」
「ゼノヴィアさん! 良かった! 無事だったんだね!」
「ああ、何とかな……だが、イリナが敵に……!」
ゼノヴィアさんの声は苦渋に満ちている。
「ゼノヴィアさんっ! イリナさんは無事だよ! 今、僕たちが保護している! レイナーレが手当をして命に別状はない! すぐに回復すると思う!」
僕は彼女に叫んだ。
「な、何だってっ! 一体どうやって……いや、それは後で聞こう。ありがとう、ミコト!レイナーレにもそう伝えてくれ!」
「う、うん! それでゼノヴィアさんは!?」
「私はこれから駒王学園に向かう! コカビエルがすぐにもあそこを襲撃する! 私はグレモリー眷属たちと共に奴に立ち向かう! ミコト、イリナの事を頼んだぞ! では、もし命があったらまた会おう!」
「ゼノヴィアさんっ!」
そこでゼノヴィアさんからの電話は切れた。
「ミコト、ゼノヴィアは何と言っていたの?」
「うん……僕たちがイリナさんを助けた事について【ありがとう】って、レイナーレ、君にもそう伝えてくれって……」
「そう……」
「うん……そしてゼノヴィアさん、これから駒王学園に向かうって……コカビエルがすぐにもあそこを襲撃するから、彼と戦うって……そう言っていた。ゼノヴィアさん、死を覚悟している様子だった……」
その僕の話を聞いて、ヴァーリさんがスッと立ち上がった。
「そうか……いよいよ俺の出番が来たな。【黒龍王】、そしてレイナーレ、早速、駒王学園へ向かうぞ」
僕とレイナーレは大きく返事をして立ち上がる。
「はいっ!!」
「ええ!!」
そしてレイナーレはカラワーナさんに命じた。
「カラワーナ、あなたはここに残ってイリナの世話をしてあげて」
「えっ……で、でも……」
戸惑うカラワーナさん。
その彼女にレイナーレは言った。
「カラワーナ、これは私とミコトにとってとても大切な事なの。イリナを介抱して無事に教会本部へ帰してあげる事、これはミコトがミカエル天使長の信頼を得る上でとても大切な事なの。だから、心から信頼しているあなたに任すのよ」
「レイナーレ様……」
カラワーナさんはレイナーレの顔をじっと見つめ、そして次に僕の顔を見つめた。その彼女に僕は笑顔でうなずく。
「分かりました…では、レイナーレ様、ミコト殿、ご武運を。ミッテルト、お前も気をつけろ。レックス、お前もな」
カラワーナさんは微笑んだ。その笑顔が寂しそうなのが気になったが。やはり決戦の場に自分が赴けないのが心残りなのだろうか……?
「ありがとう!」
「ええ、では行って来るわ!」
「大丈夫っすよ! 任せとくっす!」
「キャウンッ!」
僕たちはカラワーナさんに対して皆で挨拶をすると、ヴァーリさんの後に続いてホテルから出撃した。
(次回に続く)
今回の第13話は本来、コカビエルとの決戦まで入れる予定だったのですが、字数が多くなった事、それと色々と当初書いたものに修正が必要になった事もあって、コカビエルとの決戦直前までを第13話に、決戦本番を第14話に分ける事になりました。
そうした事情で用意した、トッポギさんに描いて頂いた挿絵も、コカビエルとの決戦の場面に集中していた事があって、この第13話は挿絵なし、次の第14話は6枚の挿絵が入るという形になりました…(^_^;)
今回のお話の以前のお話との違いとしては、何といっても以前のお話ではまだ登場していなかった鬼崎が登場しているところから、彼の心の動き、一誠や木場たちグレモリー眷属への思いと、自分の【目的】の間で揺れる思いが描写されている事です。果たして、今後、鬼崎がどんな方向へと向かっていくのか? 今後の展開にご期待ください。
そして尊のレイナーレと添い遂げるために彼女と同じ堕天使になりたいという切なる想い、それは彼と愛し合うレイナーレの想いでもあります。今回はそれゆえの2人の焦りが描写されていました。次回、決戦の場で2人がこの想いを胸にどんな行動を起こすのか、それも次回の見せ場となります。
それでは次回をお楽しみに!(*´∀`*)