※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D~情念の炎~(完全版)   作:ドミトリ

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 邪悪な悪魔、メヌオとヴァルガに追い詰められつつも、ヴァーリと鬼崎の介入により危機を脱した尊とレイナーレ。

 その眼前で展開するアザゼルとカテレアの戦い。果たしてその決着は……!?


第19話・決着

 何とか危機を脱した僕とレイナーレは、先ほどから上空で展開されているアザゼル様とカテレアの攻防に目を向ける。

 

 カテレアが手にしている杖から強大な黒の魔力弾を放ち、それは何匹もの狼のような姿をとってアザゼル様に襲いかかる。

 

 だが、アザゼル様は余裕の表情で防御方陣を出現させてそれを消滅させ、カテレアに向けて特大の光槍を次々と投げつける。それをやはり防御方陣で消滅させるカテレア。凄まじい爆音と閃光が響き渡り、煌めき続ける。

 

 その攻防の余波で、校庭のあちこちがひび割れ、大きな被害を出している。さすがは堕天使総督と魔王の血を引く女性……! 圧倒的な力と力の激突に僕たちは固唾を吞んで戦いの行方を見守る。

 

「カテレアも予想以上に食い下がっているわね。でも、実力は明らかにアザゼル様の方が上。だからいずれは……」

 

 レイナーレの言葉通り、カテレアもこのままでは勝てないと思ったのだろう。彼女は懐に手を入れて小さな黒い蛇のようなものが入った小瓶を取り出し、中のモノを飲み込む。

 

「えっ!? 何、あれ!?」

「…………!?」

 

 目を見張る僕たち。その瞬間、カテレアの手から黒い蛇のようなものが幾つも飛び出して彼女の体にまとわりつく。その瞬間、ドンッ! と空間が激しく振動して、辺りに力の波動が波立つ!

 

 カテレアは恍惚とした表情を浮かべ、彼女の全身から凄まじい魔力のオーラが立ち込める。彼女の身を包んだあの【黒い蛇のような何か】が、彼女の魔力を急激に上昇させたのだ。

 

 アザゼル様はそのカテレアに対して無数の光槍を放つが、彼女は右手を横に薙いだだけで、それを消滅させてしまう。

 

 「そ、そんな……! アザゼル様のあの攻撃を……!」

 レイナーレが目を見張って驚愕の声を上げる。その瞬間、カテレアと対決中のアザゼル様を突然、

 ドゴオオオオオンッ!!

 と背後から強烈な波動が襲った……!

 

 ドッガァアアアアアアアンッ!!

 「!!!!!!」

 僕とレイナーレが目を見張る中、アザゼル様が空中から地面へと転落した。その場に立ち込める土煙……

 

 「総督閣下っ!!」

 「アザゼル様っ!!」

 思わず絶叫する僕とレイナーレ。だが、アザゼル様は痛そうに顔はしかめたものの、体から砂埃を払いながらしっかりと立ち上がり、自分を突然攻撃した相手を睨む。

 

「チッ……この状況下で反旗かよ、ヴァーリ」

「そうだよ。アザゼル」

 

 そう……やはり僕が思っていたようにアザゼル様が仰った【裏切り者】はヴァーリさんだった。彼は白く輝く鎧姿で地に降り立ち、平然とした口調で応じた。

 

 その場に、旧校舎の玄関口からグレモリー先輩と兵藤、そして、プラチナブロンドの髪をオカッパ風にした、抜けるように色白の小柄で華奢な可愛らしい女の子が兵藤の背にすがりつくようにして駆け出して来た。

 

 「えっ……!!」

 驚いた表情で目を見張る3人。

 

 ちなみにその女の子は、耳が普通の人間と違ってピン! と尖っていて、よく見ると口元には牙が覗いている。

 あの子がハーフヴァンパイアのギャスパーくん? ギャスパーくんは男だと聞いていたけれど……

 

 僕がそんな事を思っていると、ヴァーリさんの傍らにカテレアが降りてきて、彼女はしてやったりといった表情でアザゼル様を見つめる。

 「和平が決まった瞬間、拉致した、このハーフヴァンパイアの神器を発動させ、テロを開始させる手筈だったのです。そして頃合いを見てから私と白龍皇が暴れて、三大勢力のトップの誰か一人でも葬れば良し。それで会談を壊せれば良かったのですよ」

 

 やはりこの子がギャスパーくん(?)! でもあの姿は……?

 

 一方、兵藤はカテレアの胸や足を欲情した目で見つめている。こんな場所で、しかも自分が好きなはずの女主人がいる前で……! こういう彼の感覚は僕には全く理解できない。

 

 彼女以上に美しくて魅力的な僕のレイナーレには、あれほど執拗な憎悪と殺意を向けてきたのに……カテレアもその兵藤の視線を感じたようで不快そうに眉をひそめる。

 

 「いやらしい視線を感じるわ。その子が赤龍帝なのですか? ヴァーリ」

 「ああ、残念ながらそうだよ。本当に残念な宿主なんだ」

 ヴァーリさんは蔑むように言った。

 

「残念残念言うな! 俺だって懸命に日々を生きてんだ! って、何でお前とアザゼルやこの堕天使や國原の奴が対峙してる!? つーか、その姉ちゃん誰だよ!?」

 

 事態を全く把握出来ていない様子で叫ぶ兵藤。まあ、彼はしばらくこの場にいなかったのだから当然と言えば当然なのだが。

 

 そんな兵藤をカテレアはヴァーリさんと同様に哀れむような目で見る

 「なるほどね……本当に残念な子みたいね。ヴァーリ、殺すの?」

 「いや……どうしようか迷っているのが本音だ。正直、俺は彼にそこまで期待をかけているわけじゃないんだ」

 

 そうか、ヴァーリさんにとって今の兵藤など殺すほどの価値もないという事か……それは僕も同じのはず、でも、ヴァーリさんはさっき、悪魔たちに追い詰められた僕とレイナーレをわざわざ助けてくれて

 もっと己を磨いて強くなる事だ。これからを期待しているよ

と言ってくれた。その上、【ニプルブラスト】についてのアドバイスまでしてくれた……

 

 ヴァーリさん……あなたは……

 

 「全く、俺もヤキが回ったもんだ。身内がこれとはな……」

 アザゼル様が自嘲するようにつぶやく。そこでヴァーリさんは顔を覆っていたマスクをシュパッ! と兜に収納し、その端正な美貌を見せる。

 

「いつからだ? いつから、そういう事になった?」

「コカビエルを本部に連行する途中で【禍の団】からオファーを受けたんだ。悪いな、アザゼル。こちらの方が面白そうなんだ」

 

 心からヴァーリさんの事を気にかけていた事が分かるアザゼル様の姿。だがヴァーリさんは全く悪びれる様子はない。

 

「ヴァーリ、【白い龍】のお前がオーフィスに降るのかよ?」

「いや、下につく訳じゃない。あくまで協力するだけだ。魅力的なオファーをされたんだ。【アースガルズと戦ってみないか?】とね……こんな事を言われたら、自分の力を確かめてみたい俺では断れない。アザゼルはヴァルハラ……アース神族と戦う事を嫌がるだろう?あんたは戦争嫌いだものな」

 

 【アースガルズ】。そして【アース神族】……北欧神話の神々の王国とそこの神々……オーディンやロキといった神々……この世界には彼らも実在しているのか……

 

 「俺はお前に【強くなれ】と言ったが、【世界を滅ぼす要因だけは作るな】とも言ったはずだぜ……」

 「関係ない。俺は永遠に戦えれば良いだけだ」

 

 アザゼル様は悲しげな表情を浮かべる。

 「そうかよ……いや、俺は心のどこかでお前が俺の手元から離れていくのを予想していたのかもしれねえ……お前は出会った時から今日までずっと強い奴との戦いを求めていたからな……」

 

 カテレアはそんなアザゼル様を嘲りの目で見つめる。

 「今回の襲撃の下準備と情報提供は彼……白龍皇ですからね。彼の本質を理解していながら放置しておくなど、あなたらしくない。結果、自分の首を絞める事になりましたね」

 

 アザゼル様は悲しげな苦笑いを浮かべる。そしてヴァーリさんは自分の胸に手を当て、僕たちを見つめ名乗った。

 「俺の本名は、ヴァーリ・ルシファーだ」

 

 「えっ!?」

 「何ですって!?」

 僕らは驚く。ヴァーリさんが悪魔だとは聞いていたが、まさかルシファー……魔王の血族だとは……!

 

「ここにいるカテレアと同様、死んだ先代の魔王ルシファーの血を引く者なんだ。だが、俺は旧魔王の孫である父と人間の母との間に生まれた混血児でね……【白い龍(バニシング・ドラゴン)】の神器は半分人間だから手に入れたものだ。まあ、偶然だけどな。だが、それによってルシファーの真の後継者でもあり、【白い龍】でもある俺が誕生した。運命、奇跡というものがあるなら、俺の事かもしれない……なんてな」

 

 そう自らの出生の秘密を語ったヴァーリさんの背中から、これまでの光の翼に加えて、コウモリのような悪魔の翼が幾重にも生えだした……!

 

 「嘘よ……そんな……!」

 グレモリー先輩も驚愕の表情を浮かべている。だが、アザゼル様は彼の言葉を肯定する。

 

「奴の言う事は事実だ。もし、冗談のような存在がいるとしたら、まさにこいつの事だ。俺が知ってる中でも過去現在、おそらく未来永劫においても最強の白龍皇になるぜ」

 

 「では、覚悟を決めてもらいましょうか、アザゼル」

 カテレアが勝ち誇った様子でアザゼル様に冷たい視線を向け、アザゼル様も負けじと軽蔑の眼差しを彼女に向ける。

 

「チッ、さっきの膨れ上がったオーラの量……オーフィスの野郎に何をもらったんだ?」

「ええ、彼女は無限の力を有するドラゴン……世界変革のため、少々力を借りました。お陰で私はあなたと戦える。サーゼクスとミカエルを倒すチャンスでもあります。彼らは愚かな長……アザゼル、あなたもです」

 

 「俺はそうだ。愚かかもな……シェムハザがいなけりゃ何も出来ねえ、ただの神器マニアだ……けどよ、サーゼクスとミカエルはそこまでバカじゃねえと思うぜ? 少なくともカテレア、てめえよりは遥かに優秀だ」

 アザゼル様の言葉にカテレアは怒りで表情を歪ませる。

 

 「世迷い言を! いいでしょう、今、ここでトドメを刺します。新世界創造の第一歩として、堕天使の総督であるあなたを滅ぼす!」

 強い口調で叫ぶカテレア。アザゼル様は余裕の表情を崩さない。だが、本当に大丈夫なのだろうか? カテレアは無敵のドラゴンから強大なパワーを授かっているのだ。

 

 そんな僕の不安を感じ取ったのか、隣にいるレイナーレが僕の手を取ってささやく。

 「ミコト、大丈夫よ! アザゼル様は絶対にお勝ちになるわ!」

 「レイナーレ……」

 

「だってあの彼女の力、結局は労せずして他者から借りただけの【まがい物の力】にしか過ぎないもの。本物の強者には敵うはずがないわ! 私はそれを身を持って知ったもの……だから断言できるわ!」

 

 確信に満ちた表情でレイナーレは言った。それは彼女にとって辛く、悲しい……今でも彼女を苦しめ続ける、あの事件から彼女が学んだ教訓……それを悟った僕はレイナーレの肩を抱く。

 

「あっ……ミコト……」

「うん、僕らのアザゼル様は本当にお強いお方だものね!」

「ミコト……! ええ!」

 

 アザゼル様の勝利を確信して、敬愛する主の戦いを見守ろうという僕たち。その目前でアザゼル様は懐から1本の金色の短剣のようなものを取り出した。

 

 「それは……?」

 訝しげに見つめるカテレア。

 

「俺はとことん神器マニア過ぎてな。自分で制作したりもしてる。まあ、ほとんど屑でどうしようもねえ代物だが、神器を開発した神は凄え。俺が唯一、奴を尊敬するところだ。だが甘え……【神滅具】と【禁手】なんていう神と魔王、世界の均衡を崩せるだけの【バグ】を残したまま死んじまったんだからな……ま、だからこそ神器は面白れえんだけどよ」

 

 かつてはご自分の主であった神……その旧主の事をあのように言われるのは……やはりご自分を天界から追放した神にわだかまりがお有りなのかな……?

 

 カテレアは鼻で笑う。

 「安心なさい。新世界では神器なんてものは絶対に作らない。そんなものがなくても世界は機能します。いずれは北欧のオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」

 

 そういえばあのコカビエルも神器を嫌っていたようだったけれど、カテレアも同じか……それは神が作ったものであるからなのか、それとも彼女たちが軽蔑している人間が保持するものであるからなのか……? 

 

 でも、仲間であるヴァーリさんも神器の保有者だし、アザゼル様の先日のお話でも【禍の団】には人間の神器保有者も加わっているはずなのだけど、そうした仲間の手前、そんな事を言って良いのだろうか……?

 

 それはともかく、【オーディンに動いてもらって世界を変動させる】というのがどういう意味なのか、今の僕には分からないが、アザゼル様はご存じのようだ。

 

 「それを聞いてますますお前らの目的に反吐が出る思いだぜ。ヴァルハラ!? アース神族!? 横合いからオーディンに全部かっさらわれるつもりかよ。というよりもな、俺の楽しみを奪う奴は消えてなくなっちまえ!!」

 

 アザゼル様は短剣を持った手を高く掲げる。

 「…………っ!! ま、まさか! アザゼル、あなたは!!」

 

 驚愕した表情を浮かべるカテレア。何かを悟ったらしい彼女の前でアザゼル様は叫ぶ。

 「【禁手化(バランス・ブレイク)】っ!!!」

 

 その瞬間、短剣からまぶゆいばかりの閃光が発せられ、アザゼル様の体を包む!

 

 その光が止んだ後、そこには黄金の全身鎧を身につけたアザゼル様がいた。全身が金色に輝き、背中の十二枚の黒い翼から黒い羽根が周囲に舞う。手には巨大な光槍を持っている。

 

「【白い龍】と他のドラゴン系神器を研究して作り出した、俺の傑作人工神器だぜ。【堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)】、そしてそれの擬似的な禁手状態……【堕天龍の鎧(ダウン・フォール・ドラゴン・アナザー・アーマー)】だ!」

 

 アザゼル様は全身から凄まじいオーラを発している。その圧倒的なまでの力強さは、あのコカビエルなど問題ではなかった……!

 

 「な、なんて凄いのかしら……! アザゼル様は……! こ、こんなものまでお作りになられるなんて……!」

 レイナーレが感激の表情でアザゼル様の全身鎧姿を見つめる。僕も同様に、その神々しさに目を見張る。

 

 だが、その時、ディヴェリクスの声が響く。

 「いや、アザゼルも言ってるように、あれは正式な禁手じゃねえ」

 

「えっ!?どういう事!?」

「神器をバースト状態にして強制的な覚醒をしてるんだろ。一種の暴走って奴だ。あれじゃ戦闘後に神器が壊れるぜ。アザゼルは人工神器って奴を使い捨てで使用する気って事か……」

 

 使い捨て人工神器……! それでドラゴンの強大なオーラを発現出来るなんて……! アザゼル様の神器開発技術はなんて凄い……!

 僕は改めてアザゼル様に深い敬意を抱く。ちなみに本来の具現化タイプの神器は所有者が死なない限り、何度壊れても再生できる。

 

 「ハハハ! さすがだな、アザゼルは! やっぱり凄い!」

 ヴァーリさんは嬉しそうに笑う。強者を前にしてのこの笑い……本当に不敵……いや、まさに【戦闘狂】の面目躍如といって気がする。

 

 「ヴァーリ、てめえも相手をしてやりてえところだが……まあ、【赤い龍(ウエルシュ・ドラゴン)】と仲良くやってな!」

 「でも、アザゼルと戦った方が楽しそうだ」

 どうやら、アザゼル様はヴァーリさんの相手を兵藤にさせるおつもりのようだ。しかし……

 

 兵藤にヴァーリさんの相手なんか出来るのか? 確かに持っている潜在能力とパワーは凄まじいものがあるけれど……僕程度と2回も引き分けた彼に……

 僕はそう思った。だが、次の瞬間、僕は先ほど会議室で、アザゼル様が兵藤に何かを渡して盛んに説明されていたのを思い出す。

 

 もしかして、あの時、アザゼル様はこうした状況になる事を見越して、兵藤に神器をより有効に活用して、普通に戦ったのでは到底敵わない敵と戦う方法を伝授されていたのでは……!

 

 それに思い至る僕。一方、カテレアは訝しげな表情を浮かべつつ問う。

 「力を有したドラゴンをベースにしましたね……?」

 

「ああ、ちょっくら、【黄金龍君(ギガンテス・ドラゴン)】の【ファーブニル】をこの人工神器に封じてな。二天龍……兵藤一誠の持つ【赤い龍】とヴァーリの持つ【白い龍】の神器を模したんだ。今のところは成功ってとこか」

 

 そういえば以前、アザゼル様から【五大龍王】の名をお聞きした。その中の一匹がファーブニルだった。そんな強大なドラゴンを封じた人工神器を作り出すなんて……!

 

 「全く、アザゼルの奴はとんでもねえな……」

 ディヴェリクスがアザゼル様のあまりの能力に呆れたという感じでつぶやいた。僕も全く同感だ。

 

 カテレアもさすがに衝撃を受けたようでふるえる声で叫ぶ。

 「アザゼル! それだけの力を持ちながら! あなたは……!」

 

 彼女としてはアザゼル様が驚異的な能力を持ちながら、それを用いてこの世界を思うがままに支配するという自分たちの野望に同調しない。そのお気持ちが理解出来ないのだろう。

 

 「カテレア、【無限の龍神】をバックにしておいてよく言うぜ」

 アザゼル様は彼女を突き放す。カテレアはさらにふるえる声で言った。

 

「神器の研究はそこまで進んでなかったはずです……」

「その様子じゃ、俺の組織を裏切った奴らが、俺の神器研究を幾らか持ち出してお前らに伝えたようだな……だが、無駄だぜ。真理に近い部分は俺とシェムハザしか知らねえ」

「チッ…………!」

 

 悔しそうに舌打ちするカテレア。彼女の体を先ほどと同様に青黒いオーラが覆う。

 「私は偉大なる真のレヴィアタンの血を引く者! カテレア・レヴィアタン! あなたごとき忌々しき堕天使に負けはしないっ!!」

 

 その彼女にアザゼル様は挑発するように手招きする。

 「来いよ」

 

 「なめるなあっ!!」

 特大のオーラをまとって、カテレアが猛スピードでアザゼル様に突進する。僕たちは固唾を吞んで見つめる。ザンッ!! と交差する二人。その瞬間……

 

 「うああああああーーーーっ!!!」

 カテレアの絶叫が響き渡り、彼女の頭上に巻き上げていた長い髪がバサッ! とほどけて、眼鏡が吹き飛び、彼女の服が散り散りに切り裂かれて、彼女はほぼ全裸となり、張り詰めた大きな乳房がぶるるんっ! と豪快に弾みつつ露わとなった。

 

 「ぐっ……ううっ……」

 カテレアは豊満な裸体をさらしつつ、アザゼル様の槍で打たれた右肩を手で押さえて美貌を苦痛に歪める。かなりのダメージを受けたようだ。

 

 これで決着はついた……! 後は……

 僕はそう思った。だが!

 

 「ただではやられませんっ!!」

 カテレアは叫び、アザゼル様の方を振り向き、大きな乳房を弾ませつつ、腕を振るう。

 

【挿絵表示】

 

その瞬間、彼女の両腕は無数の触手に変化し、長く伸びてアザゼル様の左腕に絡みつく。その彼女の体に文様が浮かび上がる。

 

 「あれは……!! 自爆用の術式だわ!!」

 グレモリー先輩が叫ぶ。

 

 「何ですってっ! アザゼル様っ!」

 レイナーレが驚愕の表情を浮かべる。

 

 そうか……! 彼女はもうアザゼル様に敵わないと悟って、アザゼル様を道連れに自分の命を絶つ気か!

 

 アザゼル様は触手を引き剥がそうとされるが、一向に剥がれる気配はない。

 「アザゼル!! この状態になった私を殺そうとしても無駄です!! 私と繋がれている以上、私が死ねばあなたも死ぬように強力な呪術も発動します!!」

 

 「…………っ! 犠牲覚悟で俺に大ダメージってか……安っぽい発想だが、効果は絶大な訳か……」

 

 「イッセー!! ギャスパー!! 距離を取るわよ!! このままでは私たちも自爆に巻き込まれるわ!!」

 グレモリー先輩が叫び、彼女と兵藤、ギャスパーの三人がその場から離れる。だが、僕とレイナーレはその場に留まる。

 

 「おいっ!! ミコトっ!! レイナーレっ!! 早く離れろっ!! でないとキミたちも死ぬぞっ!!」

 僕たちの身を案じるゼノヴィアさんの声が響く。

 

 でも僕もレイナーレもその場を離れない。それはアザゼル様の、大切な主の身を案じてという事ももちろんある。だがもう一つ……

 

 「ア、アザゼル様っ……!! ミ、ミコトっ……!!」

 レイナーレが目を潤ませて僕を見つめる。その彼女に僕はうなずくと先ほどから胸に秘めていた【もう一つ】の思いをカテレアにぶつける。

 

 「カテレアさんっ!!」

 「な、何よ急に……!!」

 突然、名前を叫ばれたカテレアは驚いて僕を見つめる。

 

「もう、勝負はついたんですっ!! こんな事をして何になるんですかっ!! 潔く降伏してくださいっ!!」

「何をバカな事を!! 降伏して無様に敵に慈悲を乞えというのっ!!? 私は偉大なる真のレヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン!! そんな恥辱にまみれるくらいなら、潔く死を選ぶわっ!! 三大陣営の一巨頭を屠れるのなら、私の死にも意味があるわっ!! そうよっ!! 私は自分の命と引き替えに堕天使総督を倒した女として歴史にその名を残すのっ!! それは大きな名誉よっ!!」

 

「そんなの名誉じゃありませんっ!! 愚かしい行為として語り継がれるだけですっ!! それに恥辱と言いましたけれど……そんな事は一時の事に過ぎませんっ!! 生きていれば、きっと【あの時に命を捨てなくて良かった】って思える時が来ますっ!! ですからカテレアさんっ!! あなたも一時の恥辱を耐えて、ここは降伏してくださいっ!!」

「何も知らない人間の子供がっ!! 何を偉そうにっ!! あなたなんかに私の気持ちが分かるわけがっ!! 卑しい人間と一緒にしないでっ!!」

 

 僕の言葉に激しく反発するカテレア。

 そんな彼女に、レイナーレが言った。

 

「偉大なる真のレヴィアタン……その割にはこんな事くらいで取り乱して死のうなんてずいぶんと心が弱いのね!」

「な、何をっ!! 下賎な下級堕天使の分際でっ!!

何を偉そうにっ!!」

 

「偉大な存在を自称しながら、予想外の事態に陥れば無様に取り乱す……まるで昔の私じゃない! さんざんバカだクズだと嘲られた昔の私よ。どういうことか分かる? あなたが死んだらその時のまま永遠に愚弄されるってことなのよ。自らを偉大な存在と思うのなら、こんなところでヤケになって死なないでちょうだい!」

 

 「……………」

 激昂していたカテレアは黙る。レイナーレのまくしたてた言葉が自らの悲痛な体験に基づくものだったからだろうか。

 

 僕も諦める事なく彼女に叫ぶ。

 「カテレアさんっ!! お願いですっ!! 降伏してくださいっ!! お願いですからっ!!」

 

 「尊……レイナーレ……お前たち……」

 アザゼル様がそうつぶやいて僕たちを見つめる。そしてそれまで激しく反発していたカテレアの様子にも変化が現れる。

 

 「な、何でよ……? どうしてそこまで私の為に必死になれるのよ……? 私、あなたたちの事をあれほどに侮辱したのに……そんな私の為にどうして……?」

 カテレアの表情に戸惑いが広がる。その彼女に僕は伝える。

 

「それは……あなたに僕が愛しているレイナーレの事を重ねたから……彼女も以前は【至高の堕天使】になりたいと強く願って、その願いを叶えるためにあえて手段を選ばずに行動していました。でも、あなたも知っている通り、彼女はそれに失敗して心に深い傷を負った……でも、彼女は僕と愛し合う事に、その野望以上の価値を……喜びを見出してくれて、今はさっきも言ってくれていたように、【野望に突き動かされていた時よりも、今の方がずっと幸せ!】と言ってくれます」

 

 「ミコト……!」

 僕の言葉にレイナーレの目が潤む。

 

 一方、兵藤やグレモリー先輩は僕を呆気にとられた表情で見つめている。

 「國原……お前……」

 「ミコト……」

 

 「カテレアさん、あなただってきっと生き延びれば、そんな幸せを見つけられるはずです!! だからここは降伏して生き延びてくださいっ!!」

 必死で説得を続ける僕。レイナーレも叫ぶ。

 

「そうよ!! さっきも言ったけれど、私もかつては出世して名声を得る事……【至高の堕天使】になる事ばかりを考えていたわ!! でも、無様に敗れて追い詰められた時、ミコトが命を賭けて私を守ってくれて、私をどこまでも愛し抜いてくれたの!! だから私は救われて、今は最高に幸せなのよ!! だからあなただって生きてさえいれば、きっとそんな幸せを掴めるわ!!」

 

 「………………」

 カテレアは僕たちをじっと見つめている。そして僕たちはアザゼル様に向き直り、懇願する。

 

 「総督閣下、お願いいたします。どうか彼女の降伏を認め、助命していただきたく思います」

 「総督閣下、私からもどうぞお願いいたします」

 

 「分かった。そいつが降伏するというなら俺はそいつを殺しやしねえ。ただし……そいつの処置を決めるのは俺じゃねえ。サーゼクスやセラフォルーたち悪魔陣営の連中だ。俺がコカビエルを断罪したように、悪魔のそいつの処置を決めるのは同族である悪魔どもだ。だから降伏したなら、俺はそいつをサーゼクスたちに引き渡す」

アザゼル様はそう仰ると、カテレアの方を振り返る。

 

 「という事だが、どうする? このまま俺を道連れにするつもりで戦いを続けるか? それとも尊たちの言う通りに降伏してサーゼクスたちの裁きに身を委ねるか? それはお前次第だがどうするんだ?」

 

 するとカテレアはフッと笑ってつぶやいた。

 「アザゼル……あなたの部下たちって本当に甘過ぎますね……どうしようもないくらい……敵である私のためにここまで必死になるなんて……本当に甘過ぎる……でも……そこまで彼らが言い張る【幸せ】……それが私がこれまで必死で得ようとしたものを凌ぐほどに価値あるものなのかは私には分からないけれど……それに賭けてみるのも良いかもしれませんね……」

 

 その瞬間、アザゼル様の左腕に絡みついていた彼女の触手化した手がするっ……と外れて、彼女の手は元に戻った。それを見届けた瞬間、アザゼル様の鎧が解除されて元のお姿に戻った。そしてアザゼル様は手に宝玉にようなものを持ちつぶやく。

 

 「人工神器の限界が来たか。まだ改良の余地が十分にあるな。核の宝玉が無事なら、また作り直せる。もう少し俺に付き合ってもらうぜ、【黄金龍君】ファーブニル」

 アザゼル様はその神器の核らしい宝玉に口づけした。

 

 「決着はついたね。さすがはアザゼルだ」

 空から白い鎧をまとったヴァーリさんが降りてきた。

 

 「カテレア、これであんたのセラフォルーに代わってレヴィアタンになって、新たな世界を構築するという野望は終わったな。あんたはその器ではなかったという事か」

 ヴァーリさんは冷然とした口調で仲間であったはずの彼女に言った。

 

 その言葉にカテレアはフッと自嘲の笑みを浮かべる。

 「そうね……そういう事になるわね」

 

 「そうか。では、あんたと共に行動するのもこれが最後という事になるな。安心してくれ。あんたの目的は俺たちが引き継ぐから」

 「ご自由に。もう私には関係のない事だから」

 そう答えたカテレアの表情は憑き物が取れたかのようにさばさばとしていた。

 

「さてアザゼル。見事に勝ったのは良いが、あんたの鎧は解除されたな。まだまだ人工神器は改良が必要という訳だ」

「そうだな……」

 

 ヴァーリさんの言葉にアザゼル様は静かにうなずき、それから僕たちの方を見て命じられる。

 「尊、レイナーレ、お前たちはカテレアを連れてサーゼクスたちのもとへ戻って、こいつをあいつらに引き渡してこい」

 

 「で、でも……総督閣下は?」

 僕とレイナーレは戸惑う。そう、カテレアは戦闘から脱落しても、いまだ強敵のヴァーリさんが残っているのだ。

 

 「心配すんなって! 鎧がなくても俺は十分コイツぐらいなら戦える。それにここには【赤龍帝】もいるしな」

 「えっ!? お、俺が!?」

 アザゼル様のお言葉に兵藤が慌てる。

 

 するとヴァーリさんは僕とレイナーレを見つめて言う。

 「そうか、この二人にカテレアをサーゼクスたちのもとへ送らせるのか。だが、カテレアは手負いとはいえ、この二人よりは比較にならないほど強いよ。もし、彼女がその気にさえなれば、行く途中で二人を殺してこの場から逃走する事も十分可能な訳だが……」

 

 「ああ、それは分かってる。で、どうだ? 尊、レイナーレ、お前たちはそれを承知の上でカテレアをサーゼクスたちのもとへ送り届ける気はあるか?」

 

 僕は即答する。

「はい! カテレアさんは僕たちが必ずやサーゼクス様たちのもとへと送り届けます!」

 

 「よし!それじゃあ、行ってきな!」

 「はっ!」

 僕とレイナーレが一礼してカテレア……カテレアさんを伴ってその場を離れようとした時……

 

 「やぁ! ヴァーリ、楽しんでるねぃ! カテレア、どうやら負けちまったようだねぃ」

 その場の雰囲気に合わない、妙に陽気な感じのハイテンションな声が響いた。それと同時に金色の雲のようなものに乗った若い男が突然上空からヒュッ! と飛んできた。

 

 その男は爽やかそうな顔立ちに頭にはめた飾り、昔の中国で使われたような戦闘用の鎧に手には根を持っている。そして乗っている雲のようなもの……そう、あの『西遊記』に出てくる孫悟空そのままの姿をしている。

 「何だ【闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)】の末裔かよ?」

 

 【闘戦勝仏の末裔】……やはり……!

 アザゼル様の言葉に僕は納得するも、兵藤は訳が分からないという表情を浮かべる。

 「トウセンショウブツ? 何だそりゃ?」

 

 「お前でもソッコーで把握できる名で言ってやる……奴は孫悟空。『西遊記』で有名なクソ猿さ」

 「そ、そ、孫、悟空ぅぅぅぅぅぅぅつ!!?」

 兵藤はさすがに理解して驚愕の声を上げる。

 

 「正確に言うなら、孫悟空の能力を受け継いだ猿の妖怪だ。しかし、まさかお前まで【禍の団】入りとは世も末だぜ……いや、【白い龍】に孫悟空……お似合いなのかもしれねえか……」

 「俺っちは仏になった初代と違うんだぜぃ。自由気ままに生きるのさ!」

 アザゼル様のつぶやきを聞いた彼はケタケタと笑い、僕たちの方に向き直る。

 

 「俺っちは【美猴(びこう)】。今の堕天使の総督様の説明通りのモンさ! よろしくな! 【赤龍帝】に【紅髪の滅殺姫】、そして【黒龍王】に色っぽい堕天使の姉ちゃん!」

 僕たちに向かって自己紹介する彼……美猴。

 

 「美猴さん……あなたは僕たちの事を知っているのですか?」

 僕の問いに美猴はまた楽しそうに笑う。

 

 「ああ、ヴァーリから色々と聞いてるからねぃ。それとその色っぽい姉ちゃんとのコンビ技……【ニプルブラスト】だったかい? 今、結構評判だぜ! 俺っちにも見せて欲しいねぃ」

 「………………」

 その言葉にレイナーレは美貌を真っ赤に染める。

 

「それはそうと、ヴァーリばっか楽しむのはずるいぜぃ! 俺っちもまぜてもらわなきゃねぃ。じゃあ早速、堕天使の総督様、勝負といこうかねぃ。あんたの首をあげたとなりゃ、俺っちの名も大いに上がるってもんだぜぃ!」

 

 いきなりアザゼル様に挑戦状を叩き付ける美猴。どうやらこの男もヴァーリさんと同じく強い相手と戦う事に大いに高揚感を覚える【戦闘狂】のようだ。

 

 「なめた口利いてんじゃねえぞクソ猿! てめえなんざこの俺様と戦おうなんざ百万年早ええぜ! 速攻でブッ飛ばしてやるからかかってきな!」

 アザゼル様は凄みのある笑みを浮かべて構える。

 

 「アハハハハ! 大きく出たねぃ! それじゃ楽しませてもらうぜぃ!」

 アザゼル様の眼光に美猴は怯えるどころか、歓喜の表情を浮かべる。いよいよ両者の激突と思ったその時……!

 

 「君の相手はこの僕がしてあげるよ。孫悟空の末裔くん」

 その言葉と共に鬼崎が現れた。彼の体からは強力なオーラが漂っている。

 

 「鬼崎……!」

 「陽太郎……!」

 兵藤とグレモリー先輩が目を見張る。

 

 

 「鬼崎……」

 アザゼル様が訝し気な表情で彼を見つめる。だが、彼はそれを気にした様子もなく、一礼すると、前に進み出て美猴と向き合う。

 

「ほほう……! そのオーラ……お前さんもなかなかの強者のようだねぇ……何者かねぃ?」

「【魔人】鬼崎陽太郎」

 

 「ほう……魔人かい……いいぜぃ……堕天使総督の前に、まずはお前さんと手合わせするとしようかねぃ!」

 美猴も鬼崎を見て彼の力量を感じ取ったようで、彼との戦いに大いに乗り気のようだ。

 

 鬼崎はそっと両腕を突き出して瞑想するような仕草をする。すると彼の両腕にまばゆい光が集まり、次の瞬間、彼の右手にはあの金色の曲がった刀身に狼の頭部を象った鍔を持つ剣が握られ、左腕にはやはり狼の頭部を象った深紅の小型の盾が装着された。

 

 「ほほう! 面白いねぃ! だが、俺っちのスピードに付いて来れるなら付いて来なよ! 【觔斗雲(きんとうん)】!」

 叫ぶと共に美猴は金色の雲を走らせて鬼崎に空中から襲い掛かる。

 

 だが、鬼崎もそれと同時に叫ぶ。

 「【インフェルノ・ジェット】!」

 

 その叫びと同時に、鬼崎の足裏から蒼色の炎が噴出し、それと同時に彼の体は空中に飛び上がる。

 鬼崎……! 彼には驚異的な攻撃力とスピードに加えて飛行能力まであるのか……!

 

 「【如意棒】ッ!」

 美猴の叫びと共に彼の棍が長く伸びて鬼崎を襲う。だが鬼崎はその一撃を左腕の盾でバシ―――ン!! と弾き飛ばす。 

 

 再び美猴の棍が鬼崎を襲う。だが鬼崎はその一撃を跳ねのけると、右手の剣を振るう。すると、剣から先ほど彼の足から出たのと同じ蒼い炎の弾がボワッ! と飛び出し美猴を襲う。

 

 美猴はその炎の弾を棍を振るい弾き飛ばす。そこを鬼崎が突進し剣で突きかかるも、美猴は後ろに飛んでそれをかわし、再び棍を振るって鬼崎を攻撃するも、今度は鬼崎がそれを飛びのいてかわす。

 

 ガキ―――ン!! バシー―――ン!! ボワッ! ビュウウウンッ!!

 

 美猴が棍を振るう振動。鬼崎がそれを盾で跳ねのける音。鬼崎が放つ炎の弾の発弾の音とその光……激しい攻防が展開される。

 

どちらの動きも神速ともいえるほどに早く、その空気を揺るがす振動から凄まじい攻撃力である事を感じさせる……!

 

「す、凄えぜ……!! 鬼崎っ!!」

「陽太郎……!! あなたって一体どこまで強いのっ……!!」

「陽太郎くん……! 凄い……! 凄過ぎるよ……! 君はっ!」

兵藤と、グレモリー先輩、そしていつの間にか来ていた木場も鬼崎の戦い振りを感嘆の目で見つめている。

 

 「ハハハッ! やるねいっ! 魔人の兄ちゃんっ!!」

 「君もさすがだね。孫悟空の末裔!」

 美猴は強敵と全力で戦える喜びに嬉々とした表情を浮かべ、鬼崎も相手の実力を認めて、彼と戦う事に高揚感を覚えている。そんな感じを受ける。

 

 二人ともとんでもない強さ……今の僕など彼らが本気になれば一瞬で屠られる……! このままじゃとてもじゃないけど、僕はレイナーレを守れない! このままじゃいけないんだ!!

 

 そんな思いが僕の胸を駆け巡る。だがその時

 「尊! 何をしてる!  早く行け!」

 

 アザゼル様が叫んだ。その言葉に僕は我に返り、自分が命じられた任務を思い出す。

 「は、はっ! それではカテレアさん、行きましょう! レイナーレ、行こう!」

 

 僕とレイナーレ、そしてカテレアさんは鬼崎と美猴が激しく打ち合っている音を背後に聞きながら、会議室のある新校舎へと向かう。

 

 「あなたたち、もし、私がいきなり襲ってきたらとかって思わないの?」

 途中でカテレアさんがそう聞いてきた。

 

 「思いませんよ。カテレアさんにもうその気がない事は、僕もレイナーレも確信していますから」

 「本当に甘ちゃんね……フフッ……」

 

 カテレアさんは微笑む。その彼女の顔からは先程までの険が取れて穏やかな表情になっている。

 カテレアさん……こうやって見ると綺麗だな……

 

 もちろん、僕には誰よりも愛しいレイナーレがいるから、兵藤のような気持ちは一切抱かないが、カテレアさんはその整った美貌といい、大きな胸に腰もくびれたナイスバディといい、申し分のない美女だ。

 

 あのロッテンマイヤーさんのような髪型と眼鏡が彼女を老けた感じに見せてしまっていたが、こうして髪を降ろして眼鏡を外した事で大きく若返ったという感じがする。

 

 これなら、彼女に惹かれる男はゴマンといるはず……だけど……

 現実はそんなに甘い状況ではない事はもちろん僕も感じているし、誰よりもカテレアさん自身が重々承知しているはずだ。何しろ彼女は【禍の団】に組して現魔王たちにクーデタを起こした【裏切り者】で【重大な罪を犯した者】であるのだから。

 

 先に戦争を再び起こそうとしてアザゼル様に断罪されたコカビエルの件もある以上、悪魔陣営としても自己陣営の引き締めのためにも、外部勢力への対応上も、それなりの処罰をせねばと考えるはずだ。

 

 そんな僕の気持ちを察したのか、カテレアさんは覚悟を決めた表情で言う。

 「大丈夫よ。私はあれだけの事をしでかしたのだから……どんな裁定を受けようと、それを受け入れる覚悟は出来ているわ」

 

 「カテレアさん……」

 「カテレア……」

 僕とレイナーレは彼女を見つめる。するとその時……!

 

 ガキイイイイイイイインッ!!! ドゴオオオオオオンッ!!! ガシャアアアアアアンッ!!! と凄まじい硬い金属がぶつかり合う音と振動が響いた。

 

それは僕たちが先程までいた校庭のあの場所から聞こえてくる。同じ場所で行われている鬼崎と美猴の戦いの音とは明らかに違う響きだ。

 

 「あれは……!?」

 「あれは全身鎧(プレート・アーマー)を身につけた者同士が攻撃し合っている音だわ」

 カテレアさんが説明してくれる。

 

「えっ!? それならあれはヴァーリさんと……」

「ええ、片方は彼である事は間違いないわね。そしてもう一人は……あの【赤龍帝】の子ね……」

 

 「えっ!? あの一誠が!? 鎧を身につけてヴァーリと戦っているの!? そんな……!?」

 レイナーレが驚愕の表情を浮かべる。僕も驚く。

 

 兵藤はこれまで全身鎧姿なんて見せた事はなかったけれど……あの時、アザゼル様が彼がそれを発動出来るようにされたという事か……!

 

驚いている僕たちをカテレアさんが促す。

 「…………さあ、行くわよ」

 

 彼女は自ら新校舎の中へと足を踏み入れ、その後に僕とレイナーレが続く。

 そして……

 

 「國原尊、レイナーレ、ただ今戻りました」

 僕は職員会議室の扉をノックする。すると中から次々と声が響いた。

 

「えっ!!ミコト殿っ!?レイナーレ様っ!?」

「ミコトくんに姉さま!?」

「ミコトさん!? レイナーレ様!?」

 

 カラワーナさんにミッテルトちゃん、そしてアーシアさんの声。捕らわれていたギャスパーくんが解放された事で、皆、停止状態から解き放たれたのだろう。

 

 「えっ! 尊くんか! 分かった! セラフォルー、中に入れてやってくれ!」

 「はーーーーい☆」

 サーゼクス様とセラフォルー様の声が響いて、パタパタと駆け寄る足音が響いたと思うと、扉がガチャッ! と開く。

 

 「ミコトくん、レイナーレちゃん、外の戦いの方は……えっ!!? カ、カテレアちゃんっ!!?」

 セラフォルー様が僕たちの後ろにいるカテレアさんの姿を認めて驚愕の叫びを上げる。

 

 すると中にいたサーゼクス様やミカエル様もその声に反応して身構える。

 「何っ!!」

 「……!!」

 

 僕は慌てて叫ぶ。

 「お待ちくださいっ!! カテレアさんはもう降伏して、ここには自首するために僕たちと共にやって来たのです!!」

 

 「何だって!?」

 「カテレアちゃんっ! 本当なのっ!?」

 サーゼクス様とセラフォルー様が叫ぶ。

 

 そのお二人をカテレアさんは見つめ、そして答える。

 「はい、そうです」

 

 そしてカテレアさんは部屋の中に入ると、床にひざまずく。

 「……………とにかく、話を聞こうか……だが、ここではさすがに今の状況では話しづらい……場所を変えるとしよう。幸い、もう敵の魔術師たちも一掃されて状況は落ち着いている。我々がここを少し離れても大丈夫だろう。ミカエル、セラフォルー、一緒に来てくれ。そしてグレイフィアにソーナ、しばらくこちらを頼む」

 

 サーゼクス様の言葉にミカエル様とセラフォルー様はうなずき、グレイフィアさんとソーナ会長が応じる。

 「承知いたしました」

 

 僕たちは長の方々と共に近くの教室に移動して、そこで事の経緯を説明する事となったが、いざ移動しようという時、カラワーナさんとミッテルトちゃん、そしてアーシアさんが駆け寄って来る。

 

 「レイナーレ様、ミコト殿、一体何が起こっているのですか……?」

 「姉さま、ミコトくん、ウチら、正直不安っす……」

 「ミコトさん、レイナーレ様、イッセーさんやリアスお姉様はどうしているのですか? ギャスパーくんは……?」

 皆、見るからに不安そうな表情だ。

 

 無理もない。突然意識を失ってそこから回復したと思ったら、周りが戦場になっていて、校庭には死体が散乱し、自分の大切な人たちの姿が見当たらない……という状態になっていたのだから。もちろんサーゼクス様やミカエル様、セラフォルー様からある程度の説明は受けてはいるのであろうが、このような騒然とした状況ではそれも不十分であるに違いない。

 

 「うん! 皆、無事だよ! だから心配しないで!」

 「ミコトの言う通りよ! 詳しい事は後で話すから。もうすぐ全て解決するわ! だからもう少しだけ待って!」

 そう僕とレイナーレは彼女たちに言い聞かせて、まだ不安がぬぐえないという感じの彼女たちに申し訳ない思いを抱きつつも会議室を出る。

 

 そして、その教室に移動した僕たちは事の経緯を長の方々に話した……

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 「そうか……ヴァーリが【禍の団】に通じていたのか。そしてカテレアは君たちの説得を受け入れて降伏し、アザゼルは私たちに彼女の処置を一任した……という事か……」

 「はっ! その通りです。それでお願いです! どうかカテレアさんに寛大な処置をお願いいたします! 彼女は自分のした事を悔いて、いかなる処分にも従うという姿勢を見せておりますので! そして我が主、アザゼル総督閣下も僕たちと同じお気持ちでおられます!」

 僕はサーゼクス様にそう申し上げた。

 

 レイナーレも僕に続いた。

 「私も、罪を犯してそれを償い中の身でこのような事を申すのは申し訳なく思いますが、ミコトと同じ気持ちでございます! どうか彼女に寛大なご処置を!」

 

「君たちの気持ちは良く分かった。カテレアを説得してくれてありがとう。だが、この件については私とセラフォルーだけで判断する訳にはいかない。他の魔王たちの意見も聞いて、その上で裁決を下さねばならない。その事情は分かってくれるね?」

「は、はい……」

 

 「カテレア。その事は承知しているな?」

 「はい。私もあれだけの事件を起こした身。いかなる裁定をも受け入れる覚悟は出来ています」

 サーゼクス様の言葉にカテレアさんは神妙な表情で答えた。

 

 「よし。それではカテレア・レヴィアタンの身柄は我々が受け取り、魔王会議にて裁定を下す。セラフォルー、ミカエルそれで良いね?」

 サーゼクス様の言葉にお二人はうなずく。

 

 次いでサーゼクス様は僕たちの方に向き直る。

 「では、アザゼルにもそのように伝えてくれたまえ。そして今回の件では我が身内の起こした不祥事で迷惑をかけて申し訳なかった……そう伝えて欲しい」

 

 「はっ、承知いたしました……」

 僕たちはそう言うしかなかった。

 

 話が終わったところでセラフォルー様がカテレアさんのもとへと歩み寄る。

 「カテレアちゃん……」

 「セラフォルー、どうやら私は大きな勘違いをしていたみたいね。私は血筋の上に胡座をかいていただけの存在……セラフォルー、あなたの方がずっと魔王……レヴィアタンにふさわしい存在だわ」

 

 その言葉にセラフォルー様は目を潤ませる。

 「カテレアちゃん……ありがとう……カテレアちゃん、その髪を降ろして眼鏡を取った姿、とても似合ってるわ☆ すごく綺麗よ☆」

 

 「フフッ……ありがとう」

 カテレアさんは嬉しそうに微笑む。

 

 二人はしっかりと抱き合った。女性魔王と、その地位を争って敗れた旧魔王の血を引く女性、その二人が今、心からの和解をしたのだ。サーゼクス様とミカエル様はその二人の姿をじっと見つめていた。

 

 「尊くん、レイナーレ、ちょっとこちらへ……」

 しばらくしてサーゼクス様は僕たちを少し離れた場所へと導いた。そして……

 

 「あの場では立場上、言えなかったが、君たちと同様、セラフォルーはもちろん、私もカテレアに対して出来れば寛大な処分をと思っている。ミカエル、君はどうかな?」

 サーゼクス様は秘めていた自分の思いを僕たちに打ち明け、ミカエル様の意思も確認する。

 

 「ええ、私はサーゼクス、あなたたちに全て一任しますよ」

 「という訳だ。もちろん、先のコカビエルの件もあるから、カテレアを無罪放免とは出来ないし、それなりの罰は与えなければならないが、私とセラフォルーに加えて堕天使総督も、天使長も寛大な処分をと言ってくれている。だから最悪でも極刑は免れるはずだし、おそらくもっと寛大な判決となるはずだ」

 

 「ルシファー様……! そして天使長様……! ありがとうございます!」

僕たちはお二人に心からの礼を申し上げる。

 

「とんでもない。礼を言わなければならないのは我々の方だよ。改めて礼を言わせてもらうよ。尊くん、レイナーレ、カテレアを説得し、彼女を改心させてくれてありがとう……」

「ルシファー様……!」

 

 「私たちはカテレアを戦って破る事は出来ても、彼女を改心させる事は出来なかった。でも、君たちはそれを見事にやってのけた。君たちは凄いよ……!」

 サーゼクス様はそう僕たちを褒めて下さった。しかしその後、その端正な美貌を曇らせる。

 

「だが、済まない。我が妹と彼女の眷属たちは未だに君たちに対するわだかまりを捨てきれてはいない。我がグレモリーの一族は眷属間の情愛がとても強い……私の方でも彼女たちに改めてもう赦すようにと伝えておくが……もうしばらく我慢して欲しい」

「い、いえ……そんな……ルシファー様、ありがとうございます!」

 

 僕はサーゼクス様の謝罪に恐縮しつつ思う。

 今後も、グレモリー眷属との関係は一転して良好に、という訳にはいかない。とはいえ、こうしてサーゼクス様やセラフォルー様のご好意を得られたのはとても大きい……!

 

 「尊くん、レイナーレさん、今回の働き、見事でした。ではレイナーレさん、帰ったら早速、アザゼルにお願いして、あの私からのプレゼントを役立ててくださいね」

 

 ミカエル様の言葉にレイナーレは美貌を恥ずかしさで真っ赤に染めつつ、改めて礼を申し上げる。

 「は、はい! 天使長様、ありがとうございます!」

 

 「それと尊くん。あなたのお願いについてですが、叶えられる準備が出来たところでアザゼルを通じて連絡します。まあ、それほど長くはお待たせせずに済むかと思いますので、しばらくお持ちくださいね」

 

 「は、はい! ありがとうございます! どうぞよろしくお願いいたします!」

 いよいよだ……!! いよいよ僕はレイナーレと同じ堕天使になれるんだ……!!

 

 そしてサーゼクス様が窓の外を見る。

 「アザゼルたちが戻って来た。どうやらひとまず片付いたようだな……では、外で待っている部下たちを呼んで、後片付けをするとしようか……」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 僕たちがカテレアさんの事について話している間に、あれほど激しかった【禍の団】との戦闘が終わり、僕たちはサーゼクス様たち、及びカラワーナさんとミッテルトちゃんと共に校庭へと出た。

 

 そこには外で待機させられていた三大勢力の兵士たちが入ってきていて、そこら中に転がっている魔術師たちの死体を運ぶなど、激しい戦闘の後始末をしていた。その中には、普段、堕天使界でよく顔を合わせている知り合いの人もいる。

 

 僕たちは戻ってきたアザゼル様と兵藤、グレモリー先輩にギャスパーくん(?)と会う。

 

 「よう! お疲れ!」

 「総督閣下、お疲れ様です」

 アザゼル様が僕たちをねぎらってくださり、僕たちはそれに深々と頭を下げる。

 

 一方、兵藤とグレモリー先輩はそんな僕たちを複雑な表情で見つめ、ギャスパーくん(?)は僕たちを恐ろしげに見つめ、怯えたような様子で兵藤の背中に張り付いている。彼女?(それとも彼?)はどうやらかなり人見知りをするタイプのようだ。

 

 アザゼル様はそんな僕たちを見てやはり複雑そうな表情をされるが、その場では何も言われなかった。そしてアザゼル様はサーゼクス様とセラフォルー様の後に従っているカテレアさんに目を向けた。

 

 「……………………」

 先ほど、激しい戦いを繰り広げた二人が互いを見つめ合う。

 

 しばらくしてカテレアさんが吹っ切れたという感じの穏やかな表情で言った。

 「アザゼル、私の完敗です。あなたの力とあなたの部下は私の野望を完膚なきまでに叩き潰しました。あなたの力はその圧倒的な威力で……そしてあなたの部下はその優しさで……」

 

 「そうか……」

 アザゼル様も穏やかな微笑みを浮かべ、彼女に向かってこう仰った。

 

 「カテレア、その髪型、似合ってるぜ。眼鏡も取った方がずっと美人だぜ」

 「ええ、さっき、セラフォルーにもそう言われたわ……」

 カテレアさんは微笑んだ。

 

 それから彼女はサーゼクス様に告げる。

 「では、そろそろ行きましょうか」

 

 サーゼクス様はうなずくと、部下の人たちを呼んで指示をする。すると二人の兵士がカテレアさんの両腕を取って彼女に歩くよう促す。カテレアさんはそれに一切抗する事なく、引かれていく。

 

 彼女は引かれつつ、振り返って僕たちの方を見る。すると二人の兵士も気を使ってくれたのか、一瞬、歩みを止める。

 

 そこでカテレアさんは僕たちに向かって言った。

 「ミコト……レイナーレ……ありがとう……」

 

「カテレアさん……」

「カテレア……」

 

 彼女は僕たちに向かってにっこりと微笑むと両側にいる兵士たちに言った。

 「さあ、もういいわ……」

 

 カテレアさんはうなずいた兵士たちに再び引かれていく。彼女は用意されていた魔方陣へと導かれ、兵士たちと共に姿を消した。

 

 カテレアさんを見送った僕たちのもとにセラフォルー様が駆け寄って来た。

 

【挿絵表示】

 

 「ミコトくん、レイナーレちゃん、私からもお礼させてもらうね☆ カテレアちゃんを救ってくれてありがとう☆」

 

 「セラフォルー様……」

 「カテレアちゃんのあんな表情、初めて見たわ☆ 憑き物が取れたみたいに穏やかな表情だったわ☆ キミたちの優しさが彼女を変えたんだね☆」

 「い、いえ……それほどでも……」

 セラフォルー様のまさに天真爛漫といった笑顔と褒め言葉に僕もレイナーレも思わず照れる。

 

 「ソーナちゃんにもさっき伝えておいたわ☆ キミたちに優しくしてあげてってね☆ それじゃ、ミコトくん、レイナーレちゃん、またねー☆」

 セラフォルー様は笑顔で僕たちに手を振ると、魔方陣へと駆け出して姿を消した。

 

 その場ではアザゼル様とミカエル様、サーゼクス様が今回の出来事と今後の三勢力の連携について話し合い、それがまとまったというところでミカエル様が僕たちに微笑まれた。

 

 「では、私は天界に戻ります。尊くん、レイナーレさん、それではしばらく待っていてくださいね。準備が出来ましたら、あなたたちを天界へ招待しますから」

 「はい! 天使長様! ありがとうございます!」

 僕とレイナーレは心から感謝しつつ礼を述べる。

 

「アザゼル、よろしくお願いしますよ。あなたの大切な部下たちの願いを叶えるには、あなたの協力が不可欠なのですから」

「分かってるよ。任せときな」

 

 そしてその場を去ろうとするミカエル様を今度は兵藤が呼び留めて二人が何やら話を始め、そこにアーシアさんとゼノヴィアさんも加わる。さらに遅れて木場も加わり、彼らは皆で何か喜び合っている。

 

 そんな彼らの様子をミカエル様は微笑ましげな表情で見ていた。そのミカエル様に今度はアザゼル様が話しかける。

 

「ミカエル、ヴァルハラの連中への説明はお前がしておけ。下手にオーディンに動かれても困るからよ。後、須弥山(しゅみせん)にも今回の事を知らせておかねえとうるさそうだぜ」

「ええ、堕天使の総督と魔王が説明しても説得力がないでしょうから、私が伝えておきます。【神】への報告は慣れてますから」

 

 僕はそんなお二人のやり取りを聞きつつ思う。

 【ヴァルハラ】に【須弥山】……つい先日まで、ただの伝説に過ぎないと思っていたあらゆるものが、実はこの世界には実在していたんだ……

 

 僕はほんの少し前まで想像もしなかった今の自分を思い、感慨にふける……あの、恋人も友達もなく、日々、平凡過ぎる時を過ごしていた僕が、この上なく美しく性的魅力にあふれた堕天使の恋人と結ばれ、常に彼女と求め合う最高の幸せを得て、その名を聖書に馳せた堕天使の総督に仕え、やはりその名を馳せた大天使の知遇を得ているのだ……!

 

 僕の脳裏に全裸となったレイナーレの美しくいやらしい最高の裸体が……彼女の張り詰めて揉むと僕の手を押し返してくる弾力感にあふれる美しい大きな乳房が、その頂のカチカチに硬く勃起してビン! と突き出しているいやらしい大きな乳首が、引き締まったへそが、くびれた腰が、キュッ! と引き締まった丸く美しいお尻が、そしてその自慢の裸体を僕に見せつける彼女の妖艶な美貌が浮かび、僕は股間が激しくうずくのを感じる。

 

【挿絵表示】

 

そして僕は改めて思う。

 

 もうすぐだ! もうすぐ堕天使になれば、僕はずっとずっとレイナーレと一緒にいられて、彼女のあの素晴らしい裸体を永遠に愛し続ける事が出来るんだ!

 

 「では改めて。今日はこれで失礼します」

 ミカエル様は僕たちやグレモリー眷属の面々に挨拶すると、あのガブリエル様をはじめ大勢の部下の天使たちと共に天へと飛んでいった……

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 ミカエル様が去った後、アザゼル様は後片付けをしていた堕天使たちを集められた。私と尊、カラワーナとミッテルトも彼らと共にその場に控える。

 

 アザゼル様は皆を前に仰った。

 「俺は和平を選ぶ。堕天使は今後一切、天使や悪魔とは争わねえ。それに不服な奴は去ってもいいぜ。だが、次に会う時にゃ容赦なく殺す! 付いてきたい者だけが俺に付いてこい!」

 

 すると皆が、そして私も尊も、カラワーナもミッテルトも叫ぶ。

 「我らが命、滅びの時までアザゼル総督の為にっ!!」

 

 その忠誠の叫びは大音響となって当たりに響き渡り、一誠たちはびっくりした様子で見つめている。いかにアザゼル様が皆の信頼と尊敬を一身に集めておられるかが良く分かる!

 

 「ありがとよ!」

 そんな皆にアザゼル様は少し照れたような感じで礼を言われた。

 

 「今日はご苦労だった! では、もう戻っていいぜ!」

 「ははっ!!」

 アザゼル様のお言葉に皆は叫んで大きく礼をすると、次々と魔方陣を展開してその場を去って行った。そして悪魔たちも同様に次々と魔方陣を展開してその場から去っていく。

 

 私は胸が熱くなるのを感じていた。かつて、下級堕天使でアザゼル様にお目通りすら叶わず、アザゼル様のご意志に背いてあのような事件を起こして皆から後ろ指を指された私が、今、こうしてアザゼル様のお側に仕え、アザゼル様を目の前にして上級堕天使と共に忠誠の叫びを上げる事を許されているのだ。最愛の人と共に……

 

 その最愛の人……尊は私のすぐ隣で、私と同様に心からアザゼル様をお慕いして忠誠の誓いを捧げていた。この子はもうすぐ、転生堕天使となって名実共に身も心も私と同じになるのだ! そしてずっとずっと私と一緒にいてくれるのだ! ああ! なんて素晴らしい事だろう……!

 

 私はそんな熱い想いを抱きつつ、愛しいこの子に身を寄せる。すると尊は優しく微笑んで私の肩を抱いてくれる。私は彼に優しく抱き寄せられて、甘い幸福感にふける。

 

 しばらくすると、もはや校庭に残っているのは私たちとグレモリー眷属の面々、そしてアザゼル様とサーゼクス様を残すのみとなっていた。

 

 「レイナーレ様! ミコトさん! そろそろお帰りですか?」

 「ミコト! レイナーレ! お疲れ様!」

 アーシアとゼノヴィアが私たちのもとに寄ってきた。

 

「ええ、総督閣下もずいぶんとお疲れのようだし、そろそろね」

「うん、そろそろ帰らないとね」

 

 実際、さすがにアザゼル様も激しい激闘によってお疲れの様子が見える。私も尊も緊張の連続でかなり疲れていた。今は正直、早く帰って休みたい気分だ。

 

 私は気になっていた事を二人に尋ねる。

 「ところであなたたち、さっき、ミカエル様に何かお願いをしていたようだけれど、何をお願いしたのかしら?」

 

 「あっ、あれはイッセーさんがミカエル様に、私たちが神様に祈りを捧げてもダメージを受ける事がないようにして欲しいとミカエル様にお願いしてくれて、それをミカエル様が約束してくださったのです」

 「そう、ミカエル様はその願いを快く引き受けてくださった。嬉しいよ」

 二人はそう言って心から嬉しそうに笑った。

 

 「そう! それは良かったわね!」

 二人を心から祝福する私。そうなのだ。【神への反逆者】である悪魔や堕天使が神に祈りを捧げればダメージを受ける。それが天界の【システム】なのだ。

 

 しかしこの二人はずっと神に仕える身として生きてきて、たとえ悪魔となっても、たとえ神がもはや死んだという事実を知っても、なおも神を慕い、祈りを捧げていきたいと思っているのだ。何という一途な子たちだろうか。

 

 しばらくしてアザゼル様が私たちに近寄って来て仰った。

 「これから後の始末はサーゼクスに任すぜ。俺は疲れた……尊、レイナーレ、では帰るぞ」

 

 そこで私たちはまずサーゼクス様に一礼する。

 「それでは失礼致します。本日は大変ありがとうございました」

 

 さらにアーシアとゼノヴィアに伝える。

 「じゃあ、今日はこれで。また会いましょうね」

 「また会おうね」

 

 カラワーナとミッテルトも旧知のアーシアとゼノヴィアに声をかけている。

 

 「今日は色々と大変だったね。これからもよろしく」

 サーゼクス様は笑顔で私たちをねぎらい、そしてアーシアとゼノヴィアも笑顔で見送ってくれる。一誠やリアス・グレモリー、木場といった他のグレモリー眷属たちは、いまだ残る私たちに対するわだかまりのせいか私たちに険しい視線を向けているが。

 

 アザゼル様は私たちを引き連れて帰ろうとされるが、一瞬、立ち止まると一誠のもとに駆け寄って何かを小声でささやかれた。すると一誠が驚きの表情を浮かべる。そしてアザゼル様は私たちのもとへと戻って仰った。

 「じゃあ、行くぞ」

 

 アザゼル様の後に従って校門へと向かう私たち。私は

 一体、アザゼル様は一誠に何をお話されたのかしら……?

と気になった。その時は、それが私や尊の今後に大きく影響する事であったとは思いもしなかったが……

 

 そして私たちはアザゼル様の御厚意で、冥界に帰る前にレストランで御馳走を頂いた。そこで私と尊は今日、起こった事についてカラワーナとミッテルトに質問攻めにされた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 「陽太郎! さっきの手合わせ、ずいぶんと熱が入ってたぜぃ! おかげで体のあちこちが筋肉痛になっちまったぜぃ!」

 グレモリー眷属たちと別れて戻った僕を美猴が苦笑しながら迎える。

 

 「悪かったね。でも、僕も同じだよ。君の攻撃であちこち筋肉痛だ」

 そう。僕は事前に同じ【禍の団】のメンバーで仲間である美猴に、頃合いを見計らってアザゼルに戦いを挑み、それに僕が変わって応じるという形で一芝居打つ事を頼んでいたのだ。

 

 それは見事に成功し、戦いを見守っていたリアス部長や祐斗たちは僕の戦闘能力に目を見張ると同時に、僕に対する信頼をより強固なものにしてくれた。ただ、アザゼル、彼だけはいまだ僕に対する警戒を解いていないようだが。

 

「それにしても、今日は実に面白かった。カテレアの計画は失敗したが、【赤龍帝】の秘めた爆発力を見せて貰ったのは大きな収穫だ。彼は単細胞で戦略も何もないバカだが、その【火事場のクソ力】ともいうべきいざという時の攻撃の爆発力は実に凄まじい! 今日のあの力はアザゼルのサポートがあっての事で、しかもごく一時的なものでまだまだ未熟だが、俺のライバルになれる男である事は確認できた」

「ああ、それにしてもあの【赤龍帝】、ホントに面白い奴だぜぃ! 女の乳であそこまで力を爆発させるとはねぃ! ワハハハッ!」

 

「ああ、ホントに面白い。あの【黒龍王】も今はまだ弱いが、これから彼はミカエルの助けで堕天使になるという話だ。そうすれば今よりずっと強くなって面白い存在になるだろう。彼は本能で動く【赤龍帝】に対して、自分と相手の力量を冷静に分析し、戦術を駆使する能力に長けている。その上、彼も【赤龍帝】と同様、以前、俺に見せてくれたようにレイナーレが危機に陥れば、普段とは比べ物にならない驚異的な力を発揮する事も出来るしね」

「そういや、あの【黒龍王】もあの堕天使の姉ちゃんの乳で力を爆発させるんだったねぃ! 赤と黒の龍が共に女の乳で力を爆発させるって、実に面白いねぃ!」

 

 ヴァーリと美猴は一誠と國原尊の事で大いに盛り上がっている。僕も今日、ヴァーリを感嘆せしめた彼の爆発力を見て、大いに心躍るものがあった。さすがは【赤龍帝】の面目躍如だ。【黒龍王】、國原尊、彼はあまりにも甘すぎるが、彼もヴァーリや美猴が言うように、これからが楽しみな存在である事は変わりない。

 

 だが、僕の内心ではだんだんと葛藤が渦巻いている。僕を心から信頼して、今日の僕の活躍を称賛してくれた一誠に祐斗、リアス部長たち。たゆみない努力と大切な仲間への思いを糧にどんどん成長していく彼らの姿に魅かれている自分がいる。

 

 彼らの信頼を利用して事を起こそうとしている自分に僕は「本当にこれで良いのか?」と疑念がどんどん広がっている……!

 

 何を迷っているんだ僕は! 計画はこれほどに上手く行っているのに! 何を今更!

 僕は必死で心中の動揺を打ち消す。

 

「そういや陽太郎、オーフィスが寂しがっているぜぃ。早く帰ってやりなって」

「ああ、そうだね……」

 

 美猴の言葉に、僕は僕の帰りを待ちわびてくれているオーフィス、彼女への想いと、いよいよこれから決行しようとしている【あの計画】を見据える事で、心の中の迷いを封じようと努めた。

 

(次回に続く)

 




 今回は原作第4巻をもとに【禍の団】との戦いの顛末を描いたお話となりました。

 アザゼルVSカテレア戦。原作とアニメ版では細かい部分の描写が色々と異なるのですが、基本的に原作にのっとった形にしました。そしてアザゼルに勝てないと悟ったカテレアが彼を道連れにして自爆しようとした場面、原作及びアニメでは彼女はアザゼルの左腕一本と引き換えに敗れて死んでしまう訳ですが、この作品では尊とレイナーレに説得されて降伏し、生き延びるという形になりました。

 これについてはこの作品を愛読してくださっている方々から「カテレアを生かしてあげて欲しい!」というご要望を多く頂いたという事と、尊の性格なら間違いなく彼女を救おうとするはず!と考えてこうした形にしました。

 後、カテレアの髪を降ろして眼鏡を外した姿と、元の髪を上げて眼鏡をかけた姿とどちらが良いかという事、僕は作品中で尊やセラフォルーに言わせているように髪を降ろして眼鏡を外した姿の方が断然良いと思いますし(髪を上げて眼鏡をかけた姿は作中で尊が言っているように「アルプスの少女ハイジ」のロッテンマイヤーさんを連想させ、老けた感じに見えるので(笑))、ネットで見ていてもやはりそちらの方が多いようですが、中には髪を上げて眼鏡をかけた姿の方が良いという人もいますね(笑)

 そしてカテレアが降伏した後、尊とレイナーレはアザゼルの命令で彼女をサーゼクスたちのもとへと送り届けて、彼女に寛大な処置をとお願いする役目を担い、一誠VSヴァーリの戦いには立ち会わせませんでした。

 これは尊&レイナーレと一誠、あるいはヴァーリとのこれまでの関係からしても、この2人と一誠が、ヴァーリ相手に共闘するなど、少なくともこの段階では不自然ですし(尊とレイナーレにとっては、ヴァーリはこれまで幾度も自分たちの危機を救ってくれた恩人でもある)、この2人がアザゼルの命令でカテレアに同行してサーゼクスたちのもとへ行くことで、悪魔陣営がカテレアの助命・寛大な処置を行う事への説得力が増すという考えからです。

 鬼崎VS美猴。以前書いたお話にはなく、新たに付け加えました。これは最後の2人の会話にあるように事前に仕組んだ、いわば【やらせ】であった訳ですが、お互いの実力を認め合っている二人は、かなり本気で戦っています。少なくとも見守っていたグレモリー眷属たちから見れば真剣勝負としか見えない位に。それが「体のあちこちが筋肉痛」という二人の言葉に表れています。

 自らの【計画】とグレモリー眷属たちへの思いの間で葛藤する鬼崎。鬼崎の決行しようとしている【計画】とはどのようなものなのか、そして悩む鬼崎が最終的にどんな決断を下すのか、それらは今後のストーリーで次第に明らかになっていきます。

 次回はいよいよ、尊とレイナーレの二人にとって重大な転機となるお話となります。ぜひ次回をお楽しみに!^^
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