「うんっ……」
カーテンの隙間から差し込んできた日の光に照らされた僕はうっすらと目を開ける。
「あっ! ミコト殿、お目覚めになられましたか!」
「ミコトくん!」
カラワーナさん! ミッテルトちゃん!
そうだった……僕はお風呂でレイナーレと思い切り愛し合った後、バスローブを脱いだ彼女の素晴らしい裸体にいつもの事だけど感激して、それを愛撫していた最中に突然、背中に凄まじい激痛が走って意識を失って……
!? レイナーレは!!?
目覚めた瞬間に彼女の姿が確認できなかった僕は不安を覚えて、視線を横に移す。すると彼女はベッドの僕のすぐ隣に寝ていて僕を見つめている。
「良かった! 気が付いたのね」
僕は彼女の無事が確認出来てホッとするも、彼女に尋ねる。
「レイナーレ……ここで僕と一緒に寝ているという事は君も……?」
「ええ……あの時、あなたが倒れてびっくりしていたら、私も突然、胸が痛くなって意識が薄れて……」
「そう……でも、僕だけじゃなくて君まで……一体どうして……?」
「おう、気が付いたか」
僕とレイナーレを共に襲った痛みについて考えようとした僕の背後から声が響いた。
「総督閣下!?」
意識を取り戻した僕たちの前に、突然姿を現したアザゼル様に驚く僕とレイナーレ。
「お二人が倒れられたのに驚いた私たちは、ひとまずお二人をベッドに寝かせた上で、総督閣下に事態をお知らせしてお出で頂いたのです」
カラワーナさんが説明してくれる。
僕とレイナーレは介抱してくれたカラワーナさんとミッテルトちゃんにお礼を述べ、アザゼル様に感謝とご迷惑をおかけした事の謝罪を述べた。
「良いって事よ。だが、こういう事が起こるんじゃねえかとは薄々感じてはいたが……」
「総督閣下、今回の事に心当たりがお有りなのですか?」
「ああ……レイナーレが手に入れた神器【堕天の乳汁】は尊、お前の負った傷はもとより、疲労までも回復させる優れモノだ。だが、それだけの効果があるという事は……分かるだろ?」
「あっ……!」
アザゼル様の言葉の意味を僕はすぐに理解する。
「その上、お前はそれを普段のレイナーレとのセックスでも飲みまくっていただろ。それはお前の体に大きな負荷となっていた。それでもお前が堕天使になった事で人間時よりも体が強化された事で何とかもっていたが、ついに無理が来たって訳だ」
「…………」
「で、では……総督閣下、私の体に異変が起こったのも……」
「ああ、そうだ。あの神器を発動させる……あの乳汁を出す事もレイナーレ、やはりお前の体に大きな負担がかかる。それが積もって出たという事だ」
そんな……! じゃあ、僕はもう、あのレイナーレの乳汁を吸えないって事!!?
僕は大きなショックを受ける。だが、そんな僕にアザゼル様はニヤリと笑みを浮かべつつ言われる。
「ずいぶんな落ち込みようじゃねえか。尊、お前はこれからもレイナーレの乳を飲みたいか?」
…………!!
僕は羞恥心で体に血が上るのを感じる。でも、僕にとってはそんな恥ずかしさなど小さな事だ。
「もちろんです! 僕はレイナーレの乳を飲み続けたいです!」
「おうおう! その意気だ! レイナーレ、お前はどうだ?」
「は、はっ! 私も私のこの乳汁でずっとミコトを支えたい所存ですっ!」
ノリノリという感じのアザゼル様の問いにレイナーレは美貌を真っ赤に染めつつも、そうはっきりと叫んでくれる。
「よしよし、そうこなくちゃあな! さすがは最強バカップルの面目躍如だぜ! しかし、それにゃ、尊、レイナーレ、お前たち二人共に相当鍛えなきゃダメだぜ!」
「えっ、鍛えると仰るのは……?」
アザゼル様の言葉に僕は嫌な予感がしつつ、聞き返す。
するとアザゼル様はニヤッと悪戯っぽく笑われるとこう仰った。
「そうだなぁ……1000キロマラソンにでも挑戦してもらうか」
「えっ!? 1000キロマラソン……!!」
「カラワーナ、ミッテルト、お前たちも尊たちと一緒に走れ」
「は、はっ。それで総督閣下、1000キロとは具体的にどれくらいなのでしょうか?」
「ちょっと、ウチ、調べてみるっす!」
【1000キロ】と言われても今一つピンと来ないらしいカラワーナさんが疑問の声を上げ、ミッテルトちゃんがスマホを取り出して調べ始める。
「どひゃあっ!! 札幌から富士山までっすかぁ!!」
ミッテルトちゃんが驚愕の声を上げる。
「そうだ。最初は通しで走り、そしてとりあえずの目標としては1時間で走れるようにしろ」
「い、1000キロを1時間で……そ、それは……」
出来る訳ない! と僕は思った。何しろ僕は運動神経が鈍くて体育が大の苦手の、世で言うところの【典型的オタク】だったのだから。堕天使となって人間時よりも体力は大幅にアップしたとは言っても、そんなレベルに達するなんて到底不可能……
そんな僕にアザゼル様の言葉が突き刺さる。
「確かにお前はあの一誠のようなパワーファイターじゃねえ。戦略を駆使して戦う頭脳派タイプだ。だが、今のお前じゃ、その戦略タイプとしても限界が来てる。それはお前自身が一番分かってるはずだぜ。それに俺は、これでも現在のお前の状態を考慮して特訓のレベルを抑えてる。もし、これが一誠に対してなら、俺はずっと厳しい特訓を課すぜ」
「…………」
確かにアザゼル様の仰る通りだ。僕はあのレイナーレとの愛の結晶である必殺技【ニプルブラスト】をもってしても、コカビエルにも、【禍の団】の上級悪魔のメヌオとヴァルガにも何らのダメージも与える事が出来なかった。いずれの場合においても、ヴァーリさんや鬼崎の介入がなかったら、僕もレイナーレも間違いなく殺されていただろう。
だが、兵藤はアザゼル様の助けがあって、そして短時間だったとはいえ、あのヴァーリさんと互角に戦って、ヴァーリさんに自分のライバルだと認めさせた。アザゼル様の言葉が示すように、今の僕はヴァーリさんや鬼崎はもとより、兵藤と比べてもはるかに低レベルな存在に過ぎないのだ。
そう、こんな状態のままでは僕は今後、とても愛しいレイナーレを守れない! あの三勢力会談で兵藤に申し込まれた決闘も到底まともな勝負にはならない! 今まで危機を回避出来たのはただ、運が良かったに過ぎないのだ。
そしてヴァーリさんはこう言っていた。
「君の必殺技についてだが、今の君は彼女から得たエネルギーを十分に活用出来ていない。だから威力が今一つなんだ」
「今の君の体では、彼女から得たエネルギーの全てを受け止めるのに耐えられない。だから君の意思とは関係なしに、君の体が受け入れるエネルギーの量を制限している状態なんだ」
つまり、まだまだ僕の体はレイナーレから受けるエネルギーを受け止め切れる段階に至っていないという事……【ニプルブラスト】の発動パワーにしろ、【堕天の乳汁】にしろ……
「大丈夫だ、尊。これまでレイナーレへの想いを力に様々な困難を乗り越えてきたお前……そして今は堕天使となったお前なら必ずそれくらいは出来る! 俺が約束してやるぜ」
「分かりました。必ずやその特訓を乗り越えてご覧にいれます」
アザゼル様の激励に僕は決意を込めてそう申し上げた。
「総督閣下、私もミコトと共に必ずやその特訓を乗り越える事を誓います」
そうレイナーレが言い、僕の腕を取る。
「ミコト、頑張りましょうね!」
「うん!」
僕はレイナーレにうなずきつつ、気になった事をアザゼル様に尋ねる。
「しかし、総督閣下、それだけの特訓を行うには最低でも一か月くらいの日数は必要かと。その間、学校の方はどうすれば……?」
そう。学校を一か月も休むとなると、授業の遅れは後で何とかなるとしても、周囲の生徒や先生方にどう言いつくろっても違和感を覚えさせて何かと面倒な事になりかねない。特にこの場合、僕だけではなくレイナーレもミッテルトちゃんも、さらに先生であるカラワーナさんまで一斉に一緒に休む訳で、色々と勘繰られる事は必至だ。
「ああ、そりゃ大丈夫だ。ソーナに事情を説明して頼んどく。これからの【禍の団】とかとの戦いに備えて訓練の必要があると率直にな。そうすりゃ、学園の人間の生徒たちの記憶は操作しておいてくれるだろ。悪魔連中にゃそれは無理だが、ソーナ配下の生徒会の連中は事情を聞けばすぐに納得してくれるだろうし、グレモリー眷属の連中は多少勘繰るかもしれねえが、こちらに大義名分がある以上、少なくとも正面切っては色々と言えねえはずだ」
「なるほど……分かりました。それでその特訓はどこで?」
アザゼル様の説明に僕は納得しつつ、もう一つ気になっている事を伺う。少なくとも駒王町でやるのは他の学校関係者の手前、当然無理だし、他の日本の街とかでも目立ちすぎる。当然、アザゼル様はそれも配慮されているはずだが、一応確認しないと。
「ああ、堕天使界で行う」
「承知致しました」
こうして、僕たちの特訓が行われる事が決まった。ちなみにレックスも連れて行く事になった。彼を一人(犬だけれど僕たちの大切な仲間だから僕たちは【匹】とは言わない)で残していくととても寂しがるから……
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
アザゼル様の御提案で【1000キロを1時間で走る】という特訓に取り組む事が決まった私たち。
その過酷な特訓に尊は当初、明らかに驚き、動揺していたが、身体を強化しなければ私の【堕天の乳汁】を吸えず、それに私を今後、守っていく事は出来ないからと決意を込めた表情でアザゼル様に特訓を乗り越える決意を伝えた。そんなこの子の気持ちが私は嬉しい……!
そして私たちは今、堕天使界に戻り、アザゼル様からこれから行う特訓についての説明を受けている。
「いいか。まずは長距離を走り抜く持久力と体幹を付ける事が先決だ。その上で徐々にペースを上げて、最終的に一時間で1000キロを走り抜ける力を身に付ける。これがこの特訓の目的だ」
「はっ!」
「キャウン!」
アザゼル様の指示に一礼する私たち。尊の表情は大いに緊張を帯びている。
「よし。では背筋を伸ばして、正面の10m先を見るイメージで、両肩は真後ろに引いて胸を開き、肩の力を抜け。尊、お前は普段から猫背になりやすいから、常にこの姿勢を保つように心がけろ。体幹をしっかり保て。疲れてきても顎が上がらないように努めろ」
「は、はい!」
「走る時には左右の足に均等に体重が乗るようにしろ。息は走るリズムに合わせて口で吐くようにしろ。そうすりゃ、自然と空気が肺に入ってくる」
「はい!」
「よし、後は実践あるのみだ。レイナーレ、お前が尊のトレーナーだ。一緒に走りつつ、尊の足りない部分を補い、導いてやれ。カラワーナとミッテルトは……カラワーナ、お前がミッテルトの補佐役となれ」
「はっ! 承知いたしました!」
「そのケルベロスも走っていいが、言っておくが苦しくなってもそいつの背に乗せてもらうとかズルはするなよ……」
アザゼル様はミッテルトの方を見てクギを刺すように言った。
「は、はい……そんな事はしな……しませんです」
「キャオン?」
ミッテルトはギクッとした様子を見せつつも頭を下げて誓い、レックスは不思議そうな様子を見せる。
「総督閣下、大丈夫です。私がしっかりと見張っておきますので」
「………………」
カラワーナがアザゼル様にそう申し上げ、そんな彼女をミッテルトが恨めし気に見つめる。
「そして、これが一番大切なことだ、よく聞け」
「はい」
アザゼル様は、諭すような口ぶりで尊に告げた。
「最初に教えた姿勢は、あくまでも持久力を保ち体幹を鍛えるためのもの。必ず、その姿勢だけでは限界が来る。1000キロ1時間は無理だ。そういう時は短距離走の、前傾姿勢に徐々に変えていけ。俺が教えてやる。だがな――いいか、ここが一番大事なところだぞ――自分の体に最適な姿勢は、自分にしか完全にはわからねえんだ。そのためには、あらゆることを調べて、知って、考えて、そしてそれを自分用に昇華して試すんだ。いいな」
「はい!」
「じゃあ、ミコト、いくわよ」
「うん! よろしく頼むよ」
「ミッテルト、行くぞ」
「よ、よろしく頼むっす……」
こうして私たちの特訓は開始された。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
僕たちの特訓が開始された。走り出す前はあっという間にバテてしまう自分をイメージしていたが、予想外に走れる。やはり堕天使になった事で僕の体力は人間だった頃に比べて大幅にアップした事は確かだという事は確認できた。
そしてレイナーレが僕のすぐ傍で走ってくれている。その彼女の服装はあのいつもの黒のボンデージ姿だ。とはいえ、明らかに長時間走るには不向きな足のブーツや腕当て、及びそれに付いている鎖といった物は外して、靴は足にピッタリとフィットした走りやすいものを履いている。
カラワーナさんは胸下までしかないTシャツと短パンで引き締まったおへそが丸出しのタンクトップ姿で、ミッテルトちゃんもTシャツと短パン姿だ。ちなみにレックスは彼が本気で走れば僕たちなど遠く彼方に抜き去ってしまうはずだが、僕たちに合わせてくれている。
走っているカラワーナさんの大きな胸が大きく弾むが、僕は極力それは見ない事にする。レイナーレにそれを見ている所を見られたら大変だし、それ以上に僕は愛しいレイナーレの魅惑の姿を追っていたいから。
僕の目に乳首の部分だけを紐状の胸当てで申し訳程度に隠したレイナーレの張り詰めた大きな乳房が弾み、揺れ動く様が、彼女のほとんど丸出しになっている起伏に富んだ美しい背中が、黒のV字型パンティーで秘部を申し訳程度に隠しただけの、やはりほぼ丸出しになっている丸く形の良いお尻が映る。
「ウフッ♪ エッチなミコトは私がこの姿で走れば頑張れるでしょ♪」
彼女はそう言って、その姿で走ってくれているのだ。それは本当にその通りで、彼女のその美しくいやらしい体を見つめながらだと、僕の中でさらに頑張ろうという気力が湧いてくるのだ。
とはいえ……
「はあっ……はあはあ……ううっ……」
二時間も走ると、僕は息が上がって来た。苦しい……疲労感が半端ではなく、足も痛い……
「ミコトくん、もうバテたっすかぁ~~?」
「バカ! 失礼な事を言うな!」
ミッテルトちゃんの冷かす声と、それを叱るカラワーナさんの声が響く。
「ミコト! 頑張って! 顎を上げちゃダメよ! 余計苦しくなるわ」
レイナーレがそう言いつつ、僕の傍に寄って僕の太股を優しくさすってくれる。彼女のなめらかな手が痛む足に心地よい……
「レイナーレ、ありがとう……ところで僕はここまででどのくらい走ったのかな……?」
「そうね……もうすぐ300キロになるわ」
レイナーレは距離計測器を見つめて言った。
「300キロ……まだ三分の一も走っていないのにこの疲れ様……」
この先を考えて気が萎える僕をレイナーレは優しい目で見つめてくれる。
「最初だもの、仕方ないわ。それにミコト、人間の時のあなたを思い出して。あなたは2時間でこんなに走れた?」
「いや、とても……はるかにわずかしか走れなかったよ」
そう、人間時代、僕は学校の強歩大会で40kmほどの距離を何時間もかけてようやく走っていた。それを考えればはるかに大きな進歩には違いない。
「でも、レイナーレ、君やカラワーナさん、ミッテルトちゃんは息も切らしていないし全然余裕があるのに、僕はこの体たらく……」
「私たちは生まれついての堕天使だし、これまでの戦闘訓練でそれなりに体を鍛えてきているもの。当然よ。ミコト、あなただってこれから努力を積み重ねればどんどん体力は上がっていくわ。だから頑張って」
「レイナーレ……! うんっ!」
レイナーレの優しい言葉が、僕の萎えかけた気持ちを高揚させて、僕は再び走り出す。とはいえ、体の疲労は隠せず、ペースはこれまでよりも大きく落ちる。これまでならレイナーレの【堕天の乳汁】を飲む事で体力の回復が出来たが、今回のこの特訓ではもちろん、それを飲む事は厳禁だ。
途中、何度も何度も激しい疲労や足の痛みで立ち止まり、その度にレイナーレの励ましや、彼女に足をさすってもらう事でまた気力を振り絞って走り、歩んだ。
さすがに次第にレイナーレたちにも疲れが見えて来た。特にミッテルトちゃんははっきりとバテた様子を見せ、レックスの背に乗りたい様子を露骨に示してカラワーナさんにたしなめられている。
「ふわああああっ……足が痛いっすっ……レックス、アンタの背に乗せて……」
「こら、ミッテルト、お前、アザゼル様に直々にズルするなと命じられたのを忘れたのか! ミコト殿も頑張っておられるんだ! 泣き言言うな!」
そしてついに……!
アザゼル様が用意してくれたゴールが見えて来た。そこで待ち構えていた係の人たちが目に映る。僕はもう足がガクガクして力が入らず、息も上がって疲労困憊状態だ。
フラフラしながら、僕はゴールへと入る。係の人たちが拍手で迎えてくれる。すぐそばにはレイナーレが付き添っている。彼女も疲れた様子は見せているものの、僕に比べるとはるかに余力はある感じだ。
「おう、尊。9時間51分だ。ギリギリだが十時間以内だったな! 温泉もマッサージも手配してあるから、それで疲れを癒せ。その上で明日はさらに良いタイムを出せるよう頑張れよ!」
アザゼル様が現れて僕をねぎらってくださるが、僕はもう言葉を発することさえできない、そのままくずれおち……
「ミコト!」
レイナーレが急いで僕を抱きとめてくれる。僕は意識が朦朧となりながらも、彼女の張り詰めた大きな胸の感触を、彼女の大きく卑猥な勃起乳首が体に擦り付けられる感触を感じる。
その後、僕たちはアザゼル様が用意して下さった温泉に浸かって疲れを癒した。レイナーレは自分も疲れているはずなのに風呂の中でも僕を抱き締め、足をはじめ体のあちこちを揉んでくれた。僕は彼女の素晴らしい裸体の感触と彼女の自分への愛を強く感じて、疲労しつつも幸福感に浸る。
そして風呂から出た後、僕はやはりアザゼル様が手配して下さったマッサージ師の方から入念なマッサージを受けた。おかげで僕の疲弊した体はかなり回復した。そして寝室に入った僕とレイナーレは抱き合って休む。さすがに疲れ切った僕と彼女はセックスはせずにそのまま眠る。お互いの体の感触を、ぬくもりを、愛を感じつつ……
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
翌朝、僕の体はいまだ疲労は少し残っていたものの、予想外に回復していた。これなら、再び走れそうだ!
僕はレイナーレと共にまた走り出す。今度は昨日のスタート地点を目指しての走りだ。そして二時間が過ぎる。昨日、ペースが大きく落ちた地点だ。やはり疲れは出てきたが、それでも昨日と比べるとまだ余力はある気がする。
「レイナーレ、今の距離はどのくらい?」
「400キロよ!」
レイナーレが時間計測器の表示を僕に見せて微笑む。その彼女の笑顔と言葉に僕も嬉しくなる。昨日と同じ時間で100キロペースアップしたのだ! しかもまだ余力は残っている!
「ありがとう! 僕、もっと頑張るよ!」
「ええ! 行きましょう!」
僕とレイナーレは笑顔でうなずき合い、さらに走っていく。さすがにその後、次第に疲労が溜まり、ペースが落ちていったが、ゴールにたどり着いた時の経過時間は8時間17分! 昨日よりも二時間弱短縮出来た! とはいえ、ゴールに着いた時はやはり崩れ落ちてレイナーレにまた抱き留めてもらったが。
そして12日目には、信じられない事に僕は1000キロを3時間で走り抜けられるようになっていた。もちろん、レイナーレたちも僕と同様に以前よりも体の持久力と走る速さが上がっていった。僕自身、自分の足にそこそこ筋力が付き、お腹のあたりも幾分締まって、持久力と瞬発力が付いた気がする。
走り方も、最初のうちは体を真っ直ぐにする、いわゆるマラソンフォームであったが、次第により早く走るために前傾姿勢をとるようになった。色々調べる限り、そうするのが良いという事だ。
だが、そこから先にはなかなか進まなかった。
13日目、2時間50分。14日目、2時間43分、15日目、2時間35分、16日目には逆に2時間41分。
2時間の壁にぶち当たった。レイナーレも、ミッテルトちゃんもカラワーナさんも同じだった。誰も2時間を切れなかったのだ。「フォームを変えろ、自分に合ったフォームにしろ」というアザゼル様の教えに従い、足の踏みしめ方、手の振り方、姿勢の振れのなさをなくしても、最高記録は2時間12分。
たかが1時間、されど1時間。2時間を1時間にするには速度を2倍にする必要がある。
28日目、トップはレイナーレの2時間3分。僕たちは、途方に暮れていた。
そして29日目の朝。これまでと同じくスタート地点に立った僕たち。
「明日がノルマの1000キロ1時間だ。準備はいいか?」
「総督閣下……」
できません。という言葉がのどまで出かかる。この1月、僕たちはあらゆることをしてきた。知識を得て、姿勢を見直し、呼吸法からあらゆることを試したのだ。それでもなお2時間すら切れない情けなさに、僕はどうにかなりそうだった。
「申し訳ありません。今の僕にはできま……」
「今のままではできないのは知っているぜ」
!?
「いいか。俺は最後に何と言った? 自分用に昇華して試せといったはずだ。1000キロを1時間で走れるやつが人間にいるか? いいか。大切なことを1つだけ教えてやる。これまで誰もできなかったことを実現させるには、誰もやらなかった方法でするしかないんだぞ」
「……」
「これまでにないことを、これまでの知識で考えて試すんだ。そうしたら初めて、1000キロ1時間の道は開けるんだ。わかったな」
「……はい!」
「行け!」
アザゼル様の声で僕たちは一斉に走り出す。レイナーレ、僕、カラワーナさん、ミッテルトちゃん。皆は1言も話さず、あらん限りの力を使って手と足を振り続ける。
それでも、どうにもならなかった。
ちらりと見た100キロ地点。時間は12分ちょうど。やはりこれでは2時間になってしまう。どうする、どうする……
僕は、アザゼル様の言葉を思い出す。
「これまでにないことを、これまでの知識で考えて試すんだ」
これまでの知識。背筋を伸ばせ。空気抵抗。左右に均等。そして、そして……。
そうだ!
僕は、それを、やった。
僕は地面に向けて姿勢よく立ち、そのまま倒れ……
「ミコト! 倒れないで!」
「違うよ、レイナーレ。これが、正解なんだ」
体が地面に付く寸前の状態にして、走り出した。
「ミコト! ミコト、ミ……」
レイナーレの声が聞こえなくなったとき、僕は確信した。
今、僕は音より速く走っている……!
レイナーレたちを大きく引き離した僕は、そこで止まって彼女たちを待つ。しばらくしてやって来た彼女たち。
「ミコト、これは一体、どういう事なの?」
「なぜ次第に前傾姿勢になったか分かる? レイナーレ」
「それは……まさか!」
「そうだよ。一番大きな理由は、空気の抵抗を少なくするため。空気抵抗を少なくするにはどうするか。それは、正面の風にあたる面積を少なくすることが一番なの。だから、極限まで体を前に傾け、地面にほぼ平行な姿勢を保ったまま力強く走り続けることが最適なの」
「な、なんでそれが分かったんすか?」
「アザゼル様が早く走る為の特訓で、なぜ1000キロという長距離を走るように命じられたのかが全てのカギだったの。アザゼル様は、常に体幹という言葉を口にされていた。その事を思い出したら解けたんだ。地面とほぼ平行のまま走り続けるなんて、そのフォームを保てる持久力と体幹がないとできないから。そして、今の僕には出来た……!」
「となると、すなわち……」
「ええ。そうね!」
カラワーナさんの言葉にレイナーレがうなずく。
そこで僕は、力強く言った。
「そう、君たちにも、出来るはず!」
そこから走り出してからは、話し声、息遣い。何1つ聞こえなかった。もう、あらゆる音は僕たちには追い付けない。僕たちは、今、はっきりと、自分たちがこれまでとは違う次元にいることを知った。
そしてゴールに到着した僕、少し遅れてレイナーレも到着する。
「よし! 二人とも見事に目標をクリアしたな! ちなみにかかった時間は42分と42分15秒だ。余裕をもってクリア出来たじゃねえか! 俺としても嬉しいぜ!」
アザゼル様が近寄って来て祝福してくださった。
「はっ、そ、総督閣下、あ、ありがとうございます……」
僕とレイナーレは激しい鼓動でとぎれとぎれながら、礼を述べる。
「ミコト、私の負けね。でも次は負けないわよ」
レイナーレが悪戯っぽい表情で僕を見つめつつ微笑む。僕はその彼女をギュッ! と抱き締める。
「あっ……ミコト……ウフッ♪」
抱き締められたレイナーレは少し驚いた様子を見せたものの、そのまま僕に身を任せる。僕はその彼女の唇にそっと口づけをする。
そしてしばらくしてカラワーナさんが、ついでミッテルトちゃんがゴールインした。僕とレイナーレには遅れたものの、二人とも1時間以内はしっかりとクリアしていた。その後、レックスも走って来た。今日は彼は全力で走る僕たちの邪魔にならないようにと、僕たちがゴールに着く直前まで、アザゼル様にスタート地点に留められていたのだ。
「キャウン!」
「わっ! レックス! フフッ♪ くすぐったいよ♪」
レックスが僕に飛びついて僕の顔をなめ回す。彼も僕を祝福してくれているのだ。それが僕はとても嬉しい……!
そして全員がゴールインしてしばらくしたところでアザゼル様が言われた。
「よし! 今回の特訓については全員合格だ! だが、今回の特訓はまだまだ序の口に過ぎねえ……近々、さらに本格的な特訓を行う事になるから心しておけ」
「はっ! 承知いたしました!」
「今回のこの特訓が序の口……い、一体、どんなすごい特訓が課せられるっすかぁ~~!」
ミッテルトちゃんが驚愕の声をもらす。僕も不安を感じるものの、そんな僕の気持ちを察したレイナーレが優しく微笑んでくれる。
「大丈夫よ、ミコト、あなたなら乗り越えていけるわ。ウフッ♪ この私が傍についているんだもの♪ だから大丈夫よ♪」
「レイナーレ……! うん、そうだね! 君が一緒にいてくれれば大丈夫だね!」
「おいおい、相変わらずの熱々バカップルぶりを見せつけてくれるなぁ~~ それはそうと、今回の特訓を通じてお前たち二人の体の耐久力は大いにアップされた。だから、また【堕天の乳汁】を思い切り出しまくっても、吸いまくっても大丈夫だぜ♪」
「は、はっ……ありがとうございます!」
アザゼル様が僕たちを悪戯っぽい目で見つめつつ笑われ、僕とレイナーレは赤面しつつも、アザゼル様に礼を申し上げた。
こうして僕たちの特訓は大成功に終わり、僕たちはその日もう1日、堕天使界に留まって温泉とマッサージで疲れを癒した後、人間界に戻って駒王学園に復帰する事になった。
(次回に続く)
今回のお話は、以前のお話にはなかった全く新しいお話となりました。
尊たちの体力強化と早く走るための特訓。このお話を新たに加えたのは、これまでのお話で描かれてきたように、現状では尊はヴァーリや鬼崎はおろか、一誠にも遠く及ばない弱者に過ぎず、そんな彼やレイナーレたちが今後、グレモリー眷属や【禍の団】と渡り合っていくためには、今の内から能力を強化していく必要があるというご意見を読者の方から頂き、それはもっともだと感じたからです。
今回の特訓における順調に能力が伸びていったと思ったら壁にぶち当たる。それを突破するには発想の転換が必要。これは現実にもよくあるパターンですね。
普通の人間と比べれば圧倒的な能力を身に着けた尊たち、しかしアザゼルも言った通り、これはまだまだ序の口に過ぎない。その事を思い知らされる出来事が近々起こります。
次回は駒王学園に舞台が戻ります。そこでどんな事態が起こるのか……?
それでは、次回をお楽しみに!^^