※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D~情念の炎~(完全版)   作:ドミトリ

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 【禍の団】の悪魔たちを圧倒し、オーフィスと再会するアザゼル。彼らの目の前に現れたのは……

 一方、ついにディオドラの待つ神殿へとたどり着いた尊とレイナーレたちとグレモリー眷属たち、そこで彼らに何が……!


第42話・怒りと愛

 俺はオーディンのジジイの力で転送されてきた、レーティングゲームのバトルフィールドで部下たちと共に旧魔王派の悪魔の群れを迎え撃っていた。

 

 俺たちの周囲に雲霞のごとく群がっている悪魔の群れ。俺はそいつらに向けて腕を大きく横なぎにふるう。その瞬間、無数の光槍の雨が奴らに降り注ぐ。

 

 「ぎゃあああああああああっ!!!」

 絶叫と共に五十人以上の悪魔どもが光槍に貫かれて消滅する。さらに俺は次々と光槍のシャワーを奴らにお見舞いして片付けていく。

 

 「てめえらごときが俺を倒そうなんざ百万年早えぜっ!」

 すっかり怖じ気づいた悪魔どもに俺は決め台詞を決める。

 

「よし。後はお前たちに任せたぜ」

「はっ! お任せを! 総督閣下!」

 

 ザコ悪魔どもとの戦いを部下たちに任せた俺は宙を飛ぶ。背後から爆音とまばゆい光を感じるが気にしない。あの部下たちならあの程度の連中は問題ないはずだと信じてるからな。

 

 「総督閣下」

 通信機から声が聞こえた。尊の声だ。

 

 「おお、フリードとカラワーナの件はどうなった?」

 「はっ、フリードを倒し、カラワーナさんの救出に成功いたしました!」

 「よし! よくやった!」

 俺はあいつらなら間違いなくやってのけると確信はしていたものの褒める。

 

「はっ、ありがとうございます! それで総督閣下、申し上げたい事があるのですが……」

「何だ? 言ってみろ」

「先ほど頂いた地下室に隠れているようにとのご命令ですが、その……皆で協議をしたところ、ディオドラとの決着を自分たちで見届けたいと意見が一致いたしまして……グレモリー眷属たちも皆、ディオドラとは自分たちで決着をつけると言っておりますし」

 

 やはりな。レイナーレにとっちゃ、ディオドラは自分を利用した上に殺そうと図った仇敵だし、カラワーナも奴にさらわれて酷え目に遭わされた訳だしな。

 

「そんな訳で、僕たちとしてはディオドラのもとへ行きたいのです。許可を頂けますでしょうか?」

「まあ、仕方ねえだろう。行ってきな。ただし無理はするなよ。お前たちは俺の期待の部下なんだからよ。何かあったらすぐに知らせろ」

「ありがとうございます! 総督閣下!」

 

 全くグレモリー眷属の奴らといい、あいつらといい、心配する俺の身にもなってみろってんだ。まあ、連中のそんな所……大事な者を守る為には命も懸けられる、そんな所が俺は好きなんだがな。

 

 尊との話を終えた俺はさらに先へと進む。俺の懐のファブニールを宿した宝玉が光り輝き、ある場所へと導いてくれる。俺はフィールドの一番隅に人影を一つ認識する。その瞬間、さらに宝玉の輝きが増した。

 

 俺はその人影の前に降り立つ。腰まである長い黒髪の小柄な少女。黒いワンピースを身に着け、細い四肢をのぞかせている。その姿は、まさしく鬼崎の奴が見せてくれた写真そのままの姿……

 

 その少女はその黒目がちの大きな瞳の目線をフィールド中央に並ぶ幾つもの神殿の方に向けている。俺は目を細めて、静かに話しかける。

 「お前自身がここまで出張ってくるとはな」

 

 少女は俺の声に反応し、こちらに顔を向けて薄く笑う。

 「アザゼル。久しい」

 

「以前の姿とはだいぶ変わったな。今度は美少女様の姿で、しかもあの小僧と色恋たぁ恐れ入るぜ。何を考えている? オーフィス」

 

 そうだ。こいつは【無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)】のオーフィス!【禍の団】のトップだ! 間違いねえ。こいつから漂う不気味で言い様のないオーラはオーフィスのものに違いねえ。

 

 以前会った時は老いぼれた姿だったが、今回は黒髪美少女とはな。まあ、こいつにとって姿なんてのは飾りに過ぎねえ。いくらでも変えられる。とはいえ、この姿であの鬼崎の小僧と男女の関係になってるってのにはマジでビックリしたが。無限の時を生きてきたこいつがそんな気になったことなんざ聞いた事はねえ。どういう風の吹き回しだ?

 

 それにしても、こいつ自身が出張ってくるとは、今回の作戦はそれほどこいつにとって重要でデカいのか?それとも、【恋人】の鬼崎の事が気がかりだからか? 神殿の方に視線が向いているのは、そっちに作戦の中心があるからか? それともそこにいる鬼崎の事を気にかけているのか?

 

 胸中にそんな疑問が渦巻いている俺にオーフィスは言った。

 「見学。そして陽太郎に会いに」

 

 こいつ……本気であの鬼崎の小僧の事を? そしてマジでこの作戦が、【禍の団】がどうなっても良いと考えてるのか? いや、まだそう判断するにゃ早い!

 

「あの鬼崎がそんなに気に入ったのか? これまで悠久の時の中でそんな浮いた話なんざ一度もなかったお前が……」

「陽太郎は我にこれまでない気持ち、与えてくれた。一緒にいたい。話したい気持ち」

 

 こいつら……ホントにマジで……

 

 どうやら、少なくとも今、こいつに戦意はねえようだし、そもそも俺だけじゃこいつは倒しきれねえ。それに鬼崎との約束の事もある。とはいえこいつが【禍の団】のトップに立ち、その力を様々な危険分子に貸し与えた結果、各勢力に被害がもたらされてる。死傷者も日に日に増えてる。もう、無視できねえレベルだ

 

 何がこいつを突き動かし、テロリストの集団の上に立たせた? 俺にゃそれだけが分からねえ。今まで世界の動きを静観していた最強の存在が何故、今になって動き出した? こいつを倒すかどうかはともかく、それだけはちゃんと確認しとかなきゃならねえ。

 

「おお、アザゼル、ここにいたか? そしてオーフィス……俺たち一人では手に余る相手だが、2人ならば……」

バサッ! バサッ! と羽ばたきの音を響かせながら、巨大なドラゴン……元龍王のタンニーンが舞い降りて来た。こいつも俺と同様に旧魔王派一掃作戦に参加していたんだが、一仕事終えてこちらに向かって来たようだ。

 

 「せっかく若手悪魔が未来を懸けて戦場に赴いているというのに貴様が茶々を入れるというのが気に入らん! あれほど世界に興味を示さなかった貴様が今頃、テロリストの親玉だと!? 何が貴様をそうさせたというのだ!?」

 タンニーンは大きな目でオーフィスを睨みつけ、強い口調で俺が感じているのと同様の内容を問いただす。それに俺はうなずきつつ、さらに奴に問う。

 

「暇つぶし、なんて今どき流行らない理由は止めてくれよな。お前の行為で既に被害が各地で出てるんだぜ。今は鬼崎とよろしくやってるとしても、何故、お前がテロリストの親玉になったのか、それだけは聞かせろ」

 

 「何? 鬼崎? あの魔人の小僧の事か? あの小僧がどうしたというのだ?」

 タンニーンが不可解という様子で俺に聞く。そう、こいつはまだオーフィスと鬼崎の事を知らねえんだ。

 

 俺がそのタンニーンの疑問に答える前にオーフィスが言った。

 「………………静寂な世界」

 

 「は?」

 俺は一瞬、奴が何を言ったのか理解できなかった。

 

「故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい。ただそれだけ。でも今……」

 

 …………っ! そ、それが理由だったってのか? 【次元の狭間】、簡単に言うなら、人間界と冥界、人間界と天界の間にあるような次元の壁の事だ。世界と世界を分け隔てる境界。そこには何もない【無の世界】と言われてる。オーフィスがそこから生じたのは知ってたが……

 

「ホームシックかよと普通なら笑ってやるとこだが、【次元の狭間】ときたか……あそこには確か……」

「そう、【グレートレッド】がいる」

 

 【グレートレッド】……【真なる赤龍神帝】と呼ばれ、オーフィスと並ぶ最強の存在である強大なドラゴン……【次元の狭間】は現在、奴が支配してる。なるほど、オーフィスは奴をどうにかして【次元の狭間】に戻りたかったってのか……だが、今は鬼崎の存在があってその気持ちがぐらついてる。鬼崎は一誠やリアスたちグレモリー眷属と共にいたいと考えていて、それでこいつを説得したという状況って訳か。

 

 こいつ……まさか、そのグレートレッドを【次元の狭間】から追い出すのを条件に旧魔王派の悪魔や他の勢力の異端児に懐柔されたってのか……

 

 その時、俺の脳裏に一つの可能性がよぎる。

 そうか。ヴァーリ、お前の目的は!

 

 俺がそれに思い当たった瞬間、突然、オーフィスの横に魔方陣がきらめきつつ出現し、何者かが転移して来た。

 

 閃光の中から現れたのは貴族服を着た1人の男。色白で長い黒髪を髷に結い、耳は尖って左右に大きく突き出している。鋭い目つきで顔はなかなか男前だが。そいつは俺に一礼して不敵に微笑む。

 

 「お初にお目にかかる。俺は真のアスモデウスの血を引く者、クルゼレイ・アスモデウス。【禍の団】真なる魔王派として、堕天使の総督である貴殿に決闘を申し込む」

 こいつはまた……首謀者の一人がご登場かよ。

 

 俺は頭を掻きながらつぶやく。

 「旧魔王派のアスモデウスが出て来たか」

 

 その瞬間、そいつはドンッ! と全身から魔のオーラをほとばしらせた。どうやら俺の物言いが癇に障ったようだ。それにしてもオーラの色がドス黒いな。こいつもオーフィスの力を得たって事か。

 

 「旧ではない! 真なる魔王の血族だ! カテレア・レヴィアタンを堕落させた借りを返させてもらうっ!」

 ああ、そういやこいつはカテレアの彼氏だったか。尊とレイナーレがそう言っていたな。それにしても【堕落させた】とはよ……

 

 俺はクルゼレイの言葉に呆れつつも奴に伝える。

 「そのカテレアだが、お前も知ってるはずだが、あいつは俺の部下の國原尊とレイナーレの説得でバカげた考えは捨てて、今は冥界の牢屋で静かに過ごしてる。お前たちの態度次第じゃ会う事も可能だと思うぜ。どうだ? ここで一つバカげた考えは捨てて……」

 

「【バカげた考え】とは何だ!? 我々魔王こそが全世界の王であるべきなのだ! そうだ、カテレアが俺に手紙を送ってきた。【争いを止めて現魔王どもと協調すべし】とな! 嘆かわしい! 負けたからと下賤な下級堕天使どもの甘言に惑わされ、偽りの魔王どもに媚びへつらうとは! あんな女などもう知らぬっ! 魔王の誇りを失った堕落した女などに用はないっ! 四の五の言わず、早く戦え!」

 

 激高するクルゼレイ。ダメだこいつ、救いようがねえ。カテレアには悪りいが、ブッ倒すしかなさそうだぜ。カテレアもこんな奴とは縁を切って別のもっとまともな男を探した方が幸せってもんだ。その時は悲しいだろうが、長い目で見りゃ、その方があいつにとってもずっと良い。

 

 「良いぜ。タンニーン、お前はどうする?」

 「サシの勝負に手を出すほど無粋ではない。オーフィスの監視でもさせてもらおうか」

 こいつも根っからの武人だ。ドラゴンにしとくのがもったいねえぐらいだぜ。

 

 「頼む。さて、混沌としてきたが、俺の可愛い部下たちと俺の教え子どもは無事にディオドラのもとにたどり着いてる頃かな……」

 「陽太郎が一緒なら大丈夫」

 そうか、オーフィスが、こいつがこう言うって事は、あの鬼崎の小僧、やはり相当な強者だって事か。

 

 「なるほど。あの小僧はお前にとって自慢の彼氏だという事か。だが、ディオドラと決着をつけるのはあいつじゃねえ。一誠……赤龍帝、あるいは黒龍王の尊だぜ」

 そう、一誠は絶対に自分でディオドラを叩きのめしたいと思うはずだ。鬼崎もそんなあいつの気持ちを尊重して任せるだろう。あるいはディオドラが恋人のレイナーレに理不尽な仕打ちをした事、またカラワーナをさらった事に怒っている尊が引き受けるかもしれねえ

 

 「そういえば、陽太郎が言っていた。勝つのは【赤龍帝】だと」

 ほう……鬼崎の奴、こいつにそんな事を言ってたのか。

 

 「我は信じられない。我が蛇、飲めばたちまち強大な力を得られる。でも、陽太郎がそう言うから我は……」

 オーフィスは考え込む様子を見せる。どうにも信じがたいが、どうやらこいつが鬼崎に本当に魅かれている事は間違いなさそうだ。

 

「そうだ。一誠がこいつ……タンニーンとやり遂げた修行、それがどんなモンか、ディオドラ・アスタロトは身をもって知る事になるぜ。なんせ修行相手が龍王だ。正確には元龍王とはいえ、いまだ現役の伝説のドラゴンが一人の小僧を追いかけ回したんだぜ? 加減をされていたとはいえ、普通なら死ぬぜ。死んで当たり前だぜ。なあ、そうだろ? タンニーン」

「ああ、その通りだ」

 

「だが、あいつは耐えきった。生還して禁手に至ったんだ。その意味をオーフィス、お前はまだ分かっちゃいねえ。だがお前の彼氏のあの小僧はそれを理解出来た訳だ。一誠のそばにいて、あいつに引き付けられたあの小僧だからな……」

「………………」

 

 「オーフィス、貴公は一体……? 自慢の彼氏……? 陽太郎……? あの鬼崎陽太郎の事か……!? どういう事だ?」

 唖然とした表情で俺たちの話を聞いていたクルゼレイだが、ついに我慢しきれなくなったようだ。

 

 「何だ? お前、お前らのボスと仲間の事なのに知らねえのか? こいつ……オーフィスとあの鬼崎の小僧は恋人同士だってよ。その鬼崎は【禍の団】を抜けてグレモリー眷属の一員になる事を決心した。そしてこいつも鬼崎と一緒に【禍の団】のトップから降りるそうだぜ。そうだな? オーフィス?」

 俺はクルゼレイに説明しつつ、オーフィスに確認する。

 

 「我、陽太郎の決めた事だから、それに従う」

 「な、何と……血迷ったのかオーフィス……!? 【無限の龍神】ともあろう貴公があのような下賤な魔人の子供などと……」

 クルゼレイは驚愕し、声を震わせる。どうやら同じ【禍の団】のメンバーだったとはいえ、こいつは鬼崎に良い感情を持っていないようだ。

 

 そういや、ヴァーリはこいつらと結んでいるディオドラがレイナーレ襲撃の犯人だった事を尊たちに伝え、レーティングゲームの際のディオドラに関する疑惑について一誠たちに用心するよう伝えてたもんな。こいつらとヴァーリや鬼崎はただ、お互いを利用するだけの関係で、信頼なんざこれっぽっちもねえって事か。所詮、寄せ集めの集団で内部はバラバラって事だな。

 

 クルゼレイの言葉にオーフィスは奴を睨む

 「陽太郎への侮辱、許さない」

 

 「そ、そうか……! 貴様らが鬼崎を寝返らせ、奴を使ってオーフィスを誑かしたのかっ!【オーフィスの蛇】を独占し、我らを殲滅しようと……! 何と卑劣なっ!」

 クルゼレイは憎悪に燃える目で俺やタンニーンを睨みつけ、俺は心底呆れ果てる。

 

「おいおい……俺たちゃそんなマネしちゃいねえぜ。それにテロリストに卑劣呼ばわりされてもなぁ~~」

「もうよいっ! これ以上のくだらぬ問答は無用っ! 要は俺が貴様を倒し、ディオドラ・アスタロトが赤龍帝を倒せば良いこと! そうなればオーフィスも目が覚めよう! アザゼル、いざ尋常に勝負だっ!」

 

 クルゼレイはいきり立った様子で叫ぶ。まあ、俺もこいつとの問答には飽きたし、ケリをつけるとするか。

 

 「ああ、そろそろ行くとするか。さて、ファブニール、付き合ってもらうぜ。相手はクルゼレイ・アスモデウス! 行くぜ! 禁手化っ!」

 俺は黄金の全身鎧に包まれる。

 

 俺が槍を構えてカッコ良く決めようとしていたところで、突然、転移用魔方陣が乱入した。

 何だ……!? その紋様は……そうか、お前自ら出張って来たか……

 

 そう……輝く魔方陣から現れたのは【紅髪の王】サーゼクスだ。

 

「サーゼクス、お前、どうして出て来た?」

「今回、結果的に妹を我々、大人の政治に巻き込んでしまった。私も前へ出てこなければな。いつもアザゼルばかりに任せていては悪いと感じていた。クルゼレイを説得したい。これぐらいしなければ妹に顔向け出来そうにないんでね」

 

 ったく、こいつは……妹に顔向け出来ねえって、リアスの気性なら説得なんか考えず、ハナからぶっ倒しに出るだろうがよ。

 

 「お人好しめ。無駄になるぜ?」

 「それでも、現悪魔の王として直接訊きたかった」

 まあ、そこまで言うんじゃしょうがねえって訳で、俺は構えていた槍をひとまず引く。

 

 一方、サーゼクスを見たクルゼレイは憤怒の表情を浮かべて叫ぶ。

 「サーゼクス! 忌々しき偽りの存在っ! 直接現れてくれるとはっ! 貴様が……貴様らさえいなければ、我々は……っ!」

 

 サーゼクス、見ろ。これが現実だぜ。奴らにとってお前の存在は最大級に忌むべきものなんだよ。

あまりにも予想通りの展開だが、それでもサーゼクスは説得を試みる。

 

「クルゼレイ、矛を下げてはくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意出来る。前魔王の血筋を表舞台から遠ざけ、冥界の辺境に追いやった事、いまだに私は【他の道もあったのでは?】と思ってならない。前魔王の子孫の幹部たちと会談の席を設けたい。何よりも貴殿とは、現魔王アスモデウスであるファルビウムとも話して欲しいと考えている。捕えてある貴殿の恋人のカテレア・レヴィアタンも同席させよう。彼女も貴殿に会いたがっているはずだ。私としては彼女を解放して再び貴殿と共に暮らせるようにしても良いと考えている」

 

 サーゼクスの言葉は真摯だ。それゆえ、クルゼレイの感情を逆撫でる。

 無駄だぜ、サーゼクス。元々、こいつらにお前たち現魔王の言葉は届かねえ。お前は甘いんだ。

 

 俺のその予想通り、クルゼレイはますます激高する。

 「ふざけないでもらおう! あんな裏切者の女をダシに、この俺を懐柔出来るとでも思ったか! あんな恥知らずの女はどうとでもするがよいっ!」

 

 先ほどと同様、自分の恋人だった女に少しの気遣いもないどころか罵倒しまくるクルゼレイに俺は再び呆れ果てる。

 

 カテレア、お前、本当にもっと男を見る目を磨いた方がいいぜ。命懸けでカテレアを説得した尊とレイナーレがこの場にいたら何て言うんだろうな。さぞかし失望して、カテレアに同情するんだろうな。こんなところをあいつらに見せなくてホントに良かったぜ。

 

 「そもそも、堕天使どころか、天使とも通じて汚れ切った貴様に悪魔を語る資格などないのだ! それどころか、俺に偽者と話せと言うか!? 大概にしろっ!」

 あまりのクルゼレイの言い草に俺は嘆息する。

 

「よく言うぜ。てめえら【禍の団】には三大勢力の危険分子が仲良く集まってるじゃねえか」

「手を取り合っている訳ではない。利用しているのだ。忌まわしい天使と堕天使は我々悪魔が利用するだけの存在でしかない。相互理解? 和平? 悪魔以外の存在はいずれ滅ぼすべきなのだ! サーゼクス、貴様らはそれを何故分からない!? 悪魔こそが! 否! 我々、魔王こそが全世界の王であるべきなのだよ! オーフィスの力を利用する事で俺たちは世界を滅ぼし、新たな悪魔の世界を創り出す! その為にはサーゼクス、貴様ら偽りの魔王どもが邪魔なのだ!」

 

 あーこりゃダメだ。典型的な雑魚の親玉の発想だぜ。既に種として悪魔の存在自体が危ういかもしれねえってのに何を考えてやがるのか。サーゼクス、心中複雑かもしれねえが、よっぽどお前の方が王をやっているぜ。旧魔王がこんなだから、悪魔は滅びの道へ向かっていこうとしてたんだ。考え、認識、それらの根底からの相違……お前たちとこいつらとの溝はあまりにも深く、決して埋まらねえ。

 

 クルゼレイの放言を聞き、サーゼクスは寂し気な目をする。

 「クルゼレイ、私は悪魔という種を守りたいだけだ。民を守らなければ、種は繁栄しない。甘いと言われてもいい。私は未来ある子供たちを導く。今の冥界に戦争は必要ないのだ」

 

 そのサーゼクスの気持ちを込めた言葉もクルゼレイには全く響かない。

 「甘いっ! 何よりも稚拙な理由だっ! それが悪魔の本懐だと思っているのか!? 悪魔は人間の魂を奪い、地獄へ誘い、そして天使と神を滅ぼすための存在だっ! もはや話し合いは不要っ! サーゼクスよ! 偽りと偽善の王よっ! ルシファーとは! 魔王とは! 全てを滅する存在だっ! 【滅びの力】を持っていながら、何故、横の堕天使に振舞わないっ!? やはり、貴様は魔王を名乗る資格などないっ! この真なる魔王であるクルゼレイ・アスモデウスが貴様を滅ぼしてくれるっ!」

 

 クルゼレイには話してももう無駄だと悟ったのか、サーゼクスは今度はオーフィスの方を向く。

 

「オーフィス、貴殿との交渉も無駄なのだろうか?」

「我はもう【禍の団】を抜ける。だから今の話は関係ない」

 

 「何? それはどういう……?」

 事情を知らないサーゼクスが戸惑った表情を見せる。そこで俺が説明する。

 

「サーゼクス、信じられねえとは思うが、そいつには彼氏が出来た。その彼氏の説得でそいつは【禍の団】のトップから降りる事にしたんだそうだ」

「何……? 彼氏……!? それは一体誰の事だ!?」

 

 サーゼクスは信じられないという表情で俺に聞く。まあ、そりゃそうだよな。俺だってまだ完全には信じがたいくれえだからな。

 

「お前もよく知っている鬼崎陽太郎」

「何? 陽太郎君が! 本当か!?」

 

 サーゼクスは驚いた表情でオーフィスを見つめる。俺は奴に事情を説明する。

 「ああ、そうだ。実はあの鬼崎は【禍の団】のメンバーで、ヴァーリや美猴の仲間だったが、オーフィスと心を通わせ、こいつと相思相愛になった。そしてスパイとして駒王学園に潜入してリアスが部長を務めるオカルト研究部の一員となった。コカビエルやカテレアたちとの戦いの時にリアスたちを助けたのも、その信頼を得る事で奴らの目的……悪魔と堕天使、あるいは悪魔間の対立を煽って和平を崩壊させようって狙いだった。だが、奴は次第に一誠や木場やリアスたちグレモリー眷属の姿に魅かれていって、ついに【禍の団】を抜けて正式にグレモリー眷属の一員になる事を決意して、こいつにも共に抜けるよう説得した。奴は一誠と木場に自分の素性とその決意を打ち明け、俺も奴から話を聞いた。奴はその際、オーフィスの事を受け入れて欲しいと俺に頼んだって訳だ」

 

「オーフィス、今の話は本当か?」

「その通り。陽太郎は我にとって大切な存在。陽太郎の意思に我は従う」

 

 「そうか……貴殿が……変われば変わるものだな……こちらとしても貴殿に我々と争う意思がなく、【禍の団】の首領を退くというのなら、その意思を歓迎したい」

 サーゼクスは穏やかな表情を見せる。奴としても強大な伝説のドラゴンである【無限の龍神】オーフィスが敵対の意思を放棄する事は大いに喜ばしい事なはずだ。

 

「クルゼレイ、聞いての通りだ。貴殿たちの長であるオーフィスは、もう我々と争う気はないとの事。貴殿もそれに倣って矛を収めるべきだと思うが……」

「くどいっ! オーフィスはそこの汚らわしい堕天使やあの薄汚い魔人の子供にそそのかされているにすぎんっ! この俺が貴様やその堕天使を始末すればオーフィスの目も覚めるっ! さっさと決着をつけようぞ! 偽りの王っ!」

 

 やはりにべもなく拒絶するクルゼレイをサーゼクスは再び寂しげな目で見つめ、オーフィスに最後の確認をする。

 

「クルゼレイはあのように言っている。どうやら戦わざるを得ないようだが、貴殿としてはどうか?」

「クルゼレイには彼の考えがある。我は干渉しない。サーゼクスも思うようにして良い」

「そうか……分かった」

 

 サーゼクスは天を仰ぎ瞑目する。次に目を開けた時、その青い瞳には背筋が凍るほどの冷たいものが映り込んでいた。

 

 それを確認したクルゼレイは距離を取り、両手に巨大な魔力の塊を作り出していく。

 「そうだ! それでいい! その方が分かりやすいのだよ! サーゼクスっ!」

 

 クルゼレイは最初からこうなる事を望んでいた。サーゼクス、お前の話は最初っから通る訳がねえのさ。だが、それでもお前は話したかったんだろうぜ。自分の想いを……冥界への想いを。

 

 サーゼクスが右手を突き出し、手のひらを上にかざす。するとそこに魔力が圧縮していく。それは徐々に異様なオーラを放ち始めた。

 

 「クルゼレイ、私は魔王として、今の冥界に敵対する者を排除する」

 「貴様が魔王を騙るなっ!」

 クルゼレイが巨大な魔力を両手から掃射する。だが、サーゼクスは動じず、手のひらに生まれた魔力を無数の小さな球体に変えて、前方に撃ち出す。

 

 ギュバッ! ギュゥゥゥゥンッ!

 クルゼレイの攻撃はサーゼクスの魔力に触れた途端、削り取られるように消滅していき、サーゼクスの撃ち出す小さな魔力の球体は意思を持つかのように宙を縦横無尽に動き回り、クルゼレイの攻撃を打ち消していく。それで消しきれない攻撃はサーゼクス自身が避けたり、防御障壁を作り出す事で防いでいく。

 

 「クッ! ネズミのように動きよってっ! ウッ! ぐもっ!」

 クルゼレイの口内に滅びの球体が一つだけ入り込んだ。その瞬間ドウッ! とクルゼレイの腹部が一瞬だけ大きく膨れ上がり、それはすぐに元に戻るが、同時に奴が発していた魔力のオーラが一気に減少していく。そうか……! サーゼクスの奴、クルゼレイが飲んだ蛇を取り払ったって事か。

 

「【滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクステインクト)】。腹に入っていたオーフィスの【蛇】を消滅させてもらった。これでもう絶大な力は振るえないだろう」

「うぐっ……うぬぬぬっ……!」

 

 パワーアップの源であるオーフィスの【蛇】を消された事で、先ほどまで自信満々の表情を見せていたクルゼレイに明らかな焦りの色が見えてくる。

 

 サーゼクスの本気の攻撃を始めて見た。こいつが魔王に選ばれた理由の一つ……それは圧倒的なまでの消滅魔力だ。触れたものを全て消す。塵芥すら残さない、絶対的な滅び。

 

 モノは小さいのにとんでもねえ威力だ。絶大な滅びの力を溢れさせず、巨大にもさせず、最小のサイズでとどめ、それを複数同時に手足のように操る。緻密なコントロールと並外れた才覚が必要な技術だ。それをこのサーゼクスの奴は有してやがる。

 

 「おのれっ! 貴様といい、ヴァーリといい、何故、こうも【ルシファー】を名乗る者は恵まれた力を持っていながら、我々と相容れないっ!」

 クルゼレイは絶叫しつつ再び両手から魔力を放出しようとした。だがその瞬間……

 

 ギュバンッ!

 「ぐおおおおっ!!!」

 サーゼクスの魔力の球体の一つがクルゼレイの腹部に触れ、奴の腹を丸ごと削り取った。腹から血を噴出させ、激痛にもだえるクルゼレイ。

 

 「ぐほっ……な、何故……本物が偽物に負けねばならない……?」

 口から血を吐き出しつつ、クルゼレイは無念の血の涙を流す。しかし、もはやサーゼクスは甘さを捨て容赦ない。奴は瞑目し、手を横にゆっくりと薙いだ。その瞬間……

 

 「ぎゃあああああああああーーーーっ!!!」

 クルゼレイの体に【滅びの魔力】の球体が一斉にまとわりつき、奴は絶叫と共にその肉体を全て打ち消され、跡形もなく消滅していった。

 

 「サーゼクス、お見事だぜ!」

 「ああ……」

 圧倒的な力でクルゼレイを葬り去ったサーゼクスを俺は出迎える。だが、奴は寂しげな表情を浮かべる。

 

「出来ればクルゼレイを説得し、胸を開いて話し合い、分かり合いたかった……」

「仕方ねえよ。お前は精一杯の誠意を見せた。それを受け付けなかったのは奴だ。自業自得だぜ」

 

「ああ……だが、カテレアには気の毒な事になった。彼女がこの事を知ったら……」

「いや、これで良い。お前もクルゼレイの言葉を聞いたろ? 奴にはあいつに対する愛情なんざこれっぽっちもなかった。もし、カテレアが直接会って説得なんかしようものなら、何をしたか分からねえ。だからこれで良かったんだ」

 

「そうか。だが、彼女が傷つく事には変わりない。何とか希望を見つけてくれたら良いのだが……」

「それなんだがよ。今回の件が片付いたら、尊とレイナーレをあいつと引き合わせてやったらどうかと思ってんだ。あの二人ならこの事を知ったら自分からカテレアに会って力付けてやりたいと言うに違いねえし、カテレアもあの二人から伝えられるのが一番良いと思うぜ」

 

 「そうか……そうだな。あの時、カテレアの心を救ったあの二人なら。分かった。ではお願いする。アザゼル、気遣いを感謝する」

 俺の提案にサーゼクスは微笑する。

 

「さて、これからどうする? もう旧魔王派の奴らはあらかた片付き、残るは奥の神殿にいるディオドラ・アスタロトだけだが、正直、奴を倒すのに俺たちが出張るまでもねえし、一誠たちも自分でカタをつける気満々だしよ」

「ああ、ディオドラ・アスタロトだけならイッセーくんたちだけで十分だと思う。だが、もし、それ以外の者が乱入したら……」

 

「その時は様子を見て、必要なら俺たちも出向く事にしようぜ。取りあえず、俺はVIPルームで愛弟子たちの戦いぶりを観戦しようと思うが、お前はどうだ?」

「ああ、そうするとしようか。今、下手に出て行ったらリアスたちに怒られそうだしな……タンニーン、オーフィス、貴殿たちはどうする?」

 

 「ああ、俺も【赤龍帝】や【黒龍王】の戦いを見守らせてもらう」

 「我も同じ。陽太郎が見込んだ者。それを確かめたい」

 タンニーンもオーフィスも観戦する気満々だ。そこで俺たち4人はVIPルームへと向かった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 僕たちはグレモリー眷属の面々の後を追う形で走り、ついにディオドラが待つ、最深部の神殿にたどり着いたが……

 

 そこにはグレモリー眷属たちがいて、14、5人ほどのフードをかぶっている女性たち……ディオドラの眷属たちと向かい合って押し問答していた。これまでディオドラがグレモリー眷属との例のゲームで出してきた者たち以外の残りの眷属たちだろう。

 

「何よ!? あなたたち! 約束が違うわよ! ディオドラが提案したゲームでそちらが出して来た代表選手たちはもう全員倒したわよ! 今更新たに出してくるなんてあなたたちの主人はどこまでも卑怯者ね!」

「私たちは自分の意思であなたたちを止めに来ました。ご主人様は関係ありません」

 

 ルール違反に怒るグレモリー先輩に対してディオドラ眷属たちはその声色からしてやけに冷静だ。

 

 これは……彼女たち、【自分の意思で】とは言っているけれども、本当はディオドラによって自由意思を奪われているんじゃないのか……?

 

「まあ、何にせよ、倒して進むしかないわね。皆、良いわね。あら、堕天使たち、あなたたちも結局ここに来たのね。じゃ、一緒にサッと倒して進みましょう」

「おーーーっ!」

「はい!」

「ええ!」

 

 僕たちとグレモリー眷属を合わせて総勢13名。敵とは人数的にもほぼ互角だし、既にディオドラ眷属の精鋭たちはグレモリー眷属に倒されている。ここにいる眷属たちは力量的にはそれに劣る者たちだろう。まず負ける事はないはず!

 

 戦闘が始まるやいなや、兵藤はディオドラ眷属たちに向かって腕をかざす。その途端に彼女たちの身に付けているローブが散り散りにはじけ飛び、彼女たちは皆、全裸となる。

 

 「ヒャッホー!!」

 兵藤が興奮して叫ぶ。この男、やっぱりやるか……

 

 「下品な技っすね。でも、姉さまに使ったら鎖取れるんじゃないっすか」

 ミッテルトちゃんがボソっとつぶやいた。冗談じゃない! 僕のレイナーレにあんな下品な技を使われてたまるか!

 

 えっ? 自分だっていつも、そして今もレイナーレを戦闘中に裸にしてるじゃないかって、いや、それは別! あれは僕とレイナーレの愛の証なんだから……コホン……

 

 まあ、それはともかく、レイナーレも、カラワーナさんも、そしてグレモリー眷属の面々も皆、呆れた表情だ。ただ、純情な流音くんは顔を赤くし、ギャスパーくんは鼻血を噴き出しているが……

 

 だが、ディオドラ眷属たちは全裸にされた事になど少しも動ぜず、僕たちに向かって襲い掛かってくる。

 

 「へっ!? ぐわっ!? ぶぼっ!」

 当然、羞恥心のあまり体を隠すのを予想していただろう兵藤は彼女たちの飛び蹴りやパンチをまともに受けている。鼻血を出しながら……

 

「ワハハハッ! 君たちがここまでやって来た事を讃えて、面白い趣向を差し上げようと思ってね! 赤龍帝、君の技は既に研究済みだ。彼女たちからは羞恥心を奪ってあるから、その技は聞かないよ♪」

 

 またディオドラの声が響いた。やっぱりそうか……ディオドラにとって彼女たちはただの使い捨ての人形でしかないんだ! 彼女たちに罪はない! 悪いのは全てディオドラなんだ!

 

 そう思った僕とレイナーレに向かって全裸のディオドラ眷属たちが突っ込んでくる。

 「レイナーレ! 手を出さないで!」

 

 僕は隣にいるレイナーレを制すると同時に、突っ込んでくるディオドラ眷属たちに向かって両腕を突き出しつつ叫ぶ。

 「スプレッド・フォース!!」

 

 僕の両手の黒の手袋が破れて小さな破片になり、それが向かってくるディオドラ眷属たちの目を、鼻を、口を覆う。

 「うぐっ!!」

 「ふぎゅうううっ!!」 

 「ふがっ!! ふぐぐぐぐーーーーーーーーっ!!」

 

 羞恥心を、いや、心そのものを失っていようが鼻や口をふさがれて呼吸困難になれば苦しいのは変わらないし、目に布が貼り付けば視界がふさがれるのも変わらない。ディオドラ眷属たちは皆、目を、口を、鼻を抑えてもだえ苦しむ。その彼女たちを兵藤と塔城が次々と殴って気絶させていった。彼らもさっきの【禍の団】の悪魔たちとは違い、彼女たちをむやみに殺す気はないようだ。

 

 ちなみに兵藤は苦しんでいるディオドラ眷属たちに下品な表情で悪戯しようとして塔城に顔面パンチの制裁を受け、やむなくその後は気絶させるのに専念していた。

 

 アンドレアスさんは相変わらず僕たちの様子をパシャパシャと撮影している。既に彼の事はグレモリー先輩を通じてグレモリー眷属たちににも説明が行っているので、彼らもさほど気にした様子はない。

 

 「國原、お前の神器、なかなか役に立つじゃねえか!」

 兵藤が僕にそう叫び、グレモリー眷属たちはいよいよ神殿の中に入って行く。僕たちも彼らの後に続くが、そこでレイナーレが僕に話しかける。

 

「ミコト、あなたが彼女たちを殺したくなかったのはよく分かるけど、それにしてもあなた、一誠と違って、あの素っ裸の女たちが大挙して襲ってきても少しも動じなかったわね?」

「もちろんだよ。だってレイナーレ、君に比べたら……君のその素晴らしい美貌と体と、彼女たちじゃ比べ物にならないもの」

 

 僕は目の前に張っているレイナーレの張り詰めた大きな乳房を、ビン! と突き出してその存在を誇示している彼女のカチカチに硬く勃起した大きく卑猥な乳首をさする。そう、ディオドラの眷属たちは彼の好みなのだろうが、皆、童顔で胸も小さく、いわゆる【幼児体形】で、レイナーレの美貌とセクシーボディには到底及ばない。レイナーレの素晴らしい裸体を毎日堪能して、今もこうして見て触れている僕からすれば、全くそういう対象にはならない。

 

 「あんっ! も、もう、ミコトったら! でも、すごく嬉しいわ♪」

 レイナーレはとても嬉しそうに笑って、僕の腕に僕が好きでたまらない張り詰めた大きな乳房をぎゅむっ! と押し付けてくれる。腕に感じる彼女の乳房のむっちりとした弾力感と硬くコリコリの大きな乳首の感触をいっぱいに感じる。

 

「ミコト殿! レイナーレ様! 早く行きましょう! 全く、そんな所まであの男と張り合わなくて良いのに……」

「やれやれ、相変わらずっすねぇ~~このエロエロバカップルは……」

「いいねえ~~♪ やはりミコトくんとレイナーレさんはこうでなくっちゃねぇ~~♪」

 

 カラワーナさんに叱られ、ミッテルトちゃんには呆れられ、アンドレアスさんからは感心(?)されつつ、僕たちは神殿の中へと進む。

 

 やがて前方に巨大な装置が姿を現す。それは壁に埋め込まれた巨大な円形の装置で、あちらこちらに宝玉が埋め込まれ、怪しげな紋様と文字が刻まれていた。

 これは、何かの術式魔方陣を形作っているのか……?

 

 その時、レイナーレが驚いた表情で叫び、同時に兵藤が絶叫する。

 「あっ! ミコトっ! あそこに!」

 「アーシアァァァァアアアッ!!」

 

 装置の真ん中にアーシアさんが磔にされている。だが、見た様子では外傷はなく、衣類も破けていない。ケガとかはなさそうで僕は少し安心する。

 

 「やっと来たんだね」

 装置の横からディオドラが姿を現し、例の偽りの優し気な笑みを浮かべて僕たちに話しかける。その彼を兵藤が凄まじい表情で睨みつけている。そしてレイナーレもディオドラを厳しい表情で睨み付ける。

 

 するとディオドラはそんなレイナーレの様子を見て侮蔑の表情を浮かべる。

 「堕天使レイナーレ……素っ裸でご登場とは……顔と体で男を篭絡するしか取り柄のない恥知らずの君にはお似合いの姿だね」

 

 レイナーレに侮辱の言葉を投げかけるディオドラ。その時……

 

 「イッセーさん……?」

 アーシアさんの声が聞こえ、ディオドラを睨みつけていた僕も、レイナーレもハッとして彼女の方を見つめる。

 

 アーシアさんの目元は腫れ上がっている。泣いていたのだ。それも尋常じゃない量の涙を涙を流したのだろう。目が赤くなっている。今もその目からまた涙が流れている。その様子を見たディオドラはクククク、と楽しそうに笑い、今度は兵藤に話しかける。

 

「そうそう、赤龍帝、君たちがここに来る前に何があったのか教えてあげようか? 実は僕は教会の【聖女】とかいわれる女性が好みなのさ。そういう清純な女が堕ちる瞬間を見るのがたまらなくてね~~今までに何人ものそうした【聖女】と呼ばれる女たちを堕としてきたよ」

「ディオドラ……てめえ……アーシアに何をしやがった?」

 

 兵藤は先ほどとは打って変わった、凄まじい怒りの表情にドスの入った凄みのある低い声で聞いた。するとディオドラは微笑みつつ、既に僕たちはアザゼル様から聞いて知っていた事の説明を始めた。

 

「そもそも、アーシアが教会から追放されるシナリオを書いたのは僕なのさ。教会で【聖女

】ともてはやされていた彼女を初めて見た日からすっかり気に入って、絶対に堕としたくなってしまってね。でも、周囲の監視が厳しくて教会から連れ出すのはなかなか難しい……」

 

「そこで僕はアーシアについて情報を集めた。すると彼女が悪魔をも治す神器を持っているという話を聞いた。そこで僕は考えたのさ。【ケガした僕を神器で治すところを他の聖職者に見つかれば、彼女は教会から追放されるんじゃないかってね。そしてその通りになったって訳さ……ハハハハッ!」

「て、てめえって野郎はっ……!」

 

 ディオドラの告白に兵藤は怒りに身をふるわせる。そこで僕はある事に気づいた。兵藤が小声で何やらブツブツつぶやいているのを。どうやら数を数えているようだ。そこで僕はハッとする。

 

 そうだ……! 以前、アザゼル様から伺った。兵藤は禁手化を思い立ってから、それを果たすまでに2分かかる。彼は怒りながらもその時間を計っているんだ。その時が来たら即、ディオドラに殴りかかる気でいるに違いない!

 

 「てめえ……アーシアに今、言った事を話しやがったのか?」

 兵藤はまたディオドラにドスの効いた声で聞く。

 

 「うん、全部、アーシアに話したよ。フフフ、君たちにも見せたかったな。彼女が最高の表情になった瞬間を。全部、僕の手のひらで動いていたと知った時のアーシアの顔は本当に最高だった。ほら、記録映像にも残したんだ。再生しようか? 本当に素敵な顔なんだ。教会の女が堕ちる瞬間の表情は、何度見てもたまらないよ……」

 ディオドラは陶酔したような喜悦の表情で言った。それを聞いたアーシアさんはすすり泣き始めた。

 

 「本当に何て……」

 「ああ……最低の下衆だ……」

 流音くんとカラワーナさんの声が聞こえる。グレモリー眷属の面々も一様に怒りと嫌悪の表情でディオドラを見つめている。だが、そんな事には関わりなくディオドラの下劣な言葉は続く。

 

「でも、足りないと思うんだ。アーシアにはまだ希望がある。そう、君たちだ。特にそこの汚れた赤龍帝と下級堕天使、君たちのせいで僕の計画は台無しになってしまったよ。レイナーレ、君が一度、アーシアを殺した後、僕が登場して君を殺し、その場でアーシアに駒を与えて眷属にする予定だったんだ。だが、君が乱入した赤龍帝に無様に負け、その後、やはりそこにいる下賤な黒龍王と逃げ出してしまったせいで全て狂ってしまった。アハハ! 惨めな有様だったねぇ!」

 

 「………………」

 レイナーレは厳しい、怒りのこもった目でディオドラを睨みつける。だが、しばらくして彼女の美貌には不敵な笑みが浮かぶ。

 

「ええ、そうね。確かに私はあの時、ディオドラ、あなたの仕組んだ罠に愚かにもはまって、むなしい野望にかられてアーシアに酷い事をしてしまった……そしてあなたの言う通り無様な醜態を晒したわ。自分の実力も図れず、【至高の堕天使】と己惚れて散々粋がった結果があの醜態だったわ。でも、お生憎さま。今の私はあの時の私とは違うわ。最高の夫、【黒龍王】のミコトと結ばれて彼の愛に支えられて禁手化を果たした、今の私とミコトの前にはあなたみたいな下劣な悪魔なんて敵じゃないわ」

 

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「ほう……言ってくれるじゃないか。お色気しか能のない下賤な下級堕天使が……僕にそんな口をきいたからには、思い切り残酷に惨めに殺される覚悟は出来てるんだろうねぇ……」

 

 レイナーレを嘲笑するディオドラの顔は笑ってはいるが、その笑いは狂気じみた笑いだ。内心はレイナーレの挑発に苛立ったのだろう。そんな彼を僕は厳しい目で睨み、そして告げる。

 

「ディオドラ・アスタロト、あなたは僕の愛しいレイナーレを自分の邪な目的の為に利用して殺そうとした。さらにあなたは今も彼女に理不尽な危害を加えようとし、カラワーナさんをさらってひどい仕打ちを加えた。そんなあなたを僕は許さないっ!」

 

【挿絵表示】

 

 「いいぞ! ミコトくんっ! 恰好良いぞっ!!」

 アンドレアスさんが興奮気味に叫んでシャッターを切る。

 

「許さないねぇ~~っ! ハハハハハッ! 人間から転生したばかりの下級堕天使の分際で次期魔王たるこの僕にそんな口をきくとは、君もずいぶんと思い上がってるねぇ~~ 面白い! そこの色仕掛けしか能のない堕天使と一緒に身の程というのをたっぷりと教えた上で殺してあげるよ」

 

 僕たち2人を嘲笑するディオドラ。その後、彼は兵藤の方に向き直り、さらに放言を続ける。

 「さて、あの下賤な下級堕天使たちに話の腰を折られてしまったが、あの時、僕はいくらなんでも一応、堕天使のレイナーレに、人間から転生したばかりの下級悪魔の君が勝てるはずないと思っていたんだが、そうしたら君は赤龍帝だという。偶然にしては恐ろしい出来事だね。おかげで計画はだいぶ遅れてしまったけれど、やっと僕の手元に帰って来た。これでアーシアを楽しめるよ」

 

 「黙れ」

 兵藤は怒りの余り、非常に低い声で言った。だが、ディオドラは下劣な言動を止めない。

 

「アーシアはまだ処女だよね? 僕は処女から調教するのが好きだから、赤龍のお古は嫌だな。あ、でも、赤龍帝から寝取るのもまた楽しいのかな? 君の名前を呼ぶアーシアを無理やり抱くのも良いかもしれ……」

 

 ディオドラがそこまで言ったところで兵藤が絶叫した。

 「黙れェェェェェェェェェッ!! Welsh Dragon Balance Breaker!!」

 

 「ディオドラァァァァァァァァァァァァ!! てめえだけは!! 絶対に許さねえっ!!」

 兵藤が怒りの咆哮をする。同時に彼の体は膨大な赤いオーラに包まれて、次の瞬間、赤い全身鎧を身にまとっていた。

 

 「部長、皆、絶対に手を出さないでください! 國原、レイナーレ、お前らも手を出すんじゃねえぞ!」

 兵藤はグレモリー先輩を始めとするグレモリー眷属の仲間たちに、さらに僕たちに釘をさす。

 

 「イッセー、全員で倒すわ、と言いたいところだけれど、今のあなたを止められそうもないわね……手加減してはダメよ」

 グレモリー先輩が彼の背を押し、それにグレモリー眷属の面々が一様にうなずく。皆が兵藤の圧倒的勝利を信じているのだ。

 

 一方、ディオドラは高笑いをしていた。彼の全身がドス黒いオーラに包まれていく。それはやはり、あの時、カテレアさんがアザゼル様との戦いの時に用いたもの。

 

「アハハハハ! 凄いね! これが赤龍帝! でも、僕もパワーアップしているんだ! オーフィスからもらった【蛇】でね! 君なんて瞬殺……」

 

 ディオドラが言い終わる前に、兵藤は全身鎧の背中の魔力噴出口からゴォォォォオオオオオッ! と火を噴かし、瞬間的なダッシュであっという間に彼に接近し、ドゴオッ! と強烈な拳をディオドラの腹部に叩き込んだ。

 

 「……がっ」

 ディオドラの体がくの字に曲がり、その顔が激痛に歪む。そう、ディオドラは兵藤の速度に全く反応出来なかったのだ。兵藤は打ち込んだ拳をそのまま捩じり込みさらに強烈なダメージを加える。

 

 「ゴボッ……ぐっ……ぐええっ……」

 「瞬殺がどうしたって?」

 ディオドラは腹の中の内容物を血と共に口から吐き出し、兵藤が皮肉な口調で聞いた。

 

 「うっ……ううっ……」

 ディオドラは腹部を押さえながら、後ずさりする。その表情からは先ほどまでのような余裕のある笑みは消え失せていた。

 

 「くっ! こんな事で! 僕は上級悪魔だ! 現魔王ベルゼブブの血筋だぞ!」

 ディオドラは叫び、手を前に突き出して魔力の弾を無数に出現させて展開させる。

 

 「君のような下級で下劣で下品な転生悪魔ごときに気高い血が負けるはずがないんだーーっ!!」

 ディオドラは魔力弾の雨を兵藤に向けて放つ。この期に及んでまだ、そんな血筋を誇るだけしか己の存在意義を示せないなんて……

 

 兵藤はそのディオドラの魔力弾をまるで意に介さず、それを弾き飛ばしながら、ディオドラの本体に悠々と迫っていく。ディオドラの顔が恐怖に歪む。

 「そ、そんなっ……! バ、バカなっ……!」

 

 兵藤に目前まで迫られたディオドラは攻撃を止めて、慌てて距離を取ろうとするが、兵藤は背中の背中の魔力噴出口から、またゴオッ! と火を噴して、すぐにディオドラに追いつく。

 

 「くっ!」

 ディオドラは幾重もの防御障壁を作り出す。だが、兵藤はそれを意に介さない。

 

 「ヴァーリの作った壁よりも薄そうだな」

 兵藤は拳を振るってバリンッ! バリンッ! と次々と苦もなく防御障壁を叩き割っていき、ゴオォン!! とディオドラの顔面に強烈な拳の一撃を叩き込む

 

 「ぐぼおおっ!!!」

 悲鳴と共にディオドラの体は吹っ飛んで床にドガッ!! と叩きつけられる。そして顔を上げたディオドラの顔面は血にまみれ、涙を溢れさせていた。

 

 「痛い……痛い……痛いよ! どうして! 僕の魔力は当たったのに! オーフィスの力で絶大なまでに引き上げられたはずなのに!」

 泣きながら愕然として喚くディオドラ。そのあまりの惨めさに憎むべき敵ながら一瞬、哀れを覚えた。だが、怒りに燃える兵藤がさらに容赦なく彼に襲いかかろうとした時……!

 

 「そこまでだ!」

 突然、見知らぬ男の声が響き、僕たちはその声のした方を見る。するとそこには……

 

 軽鎧(ライト・アーマー)を身に着け、マントを羽織った、長身で栗色の長い髪の男が宙に浮かんでいた。整った顔立ちのかなりの美男だが、その体からは芯から冷え込むような冷たいオーラを発している。

 

 「シャ、シャルバ!?」

 兵藤に殴り飛ばされて顔面を血に染めたディオドラが驚いた表情でその男を見上げる。

 

 「誰!?」

 自分を見つめて尋ねるグレモリー先輩にその男は尊大な態度で名乗りを上げる。

 

「お初にお目にかかる。忌々しき偽りの魔王の妹よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正統なる後継者だ」

 

 そうか……この男が、カテレアさんや彼女の恋人と並ぶ【禍の団】旧魔王派の大幹部……そしてディオドラを操って今回の陰謀を計画した張本人という事か。

 

 「シャルバ、来たか」

 「鬼崎陽太郎……裏切者が……この後、すぐに始末してやろう」

 鬼崎がシャルバ・ベルゼブブに声をかけ、シャルバがそれに憎々し気に応じる。鬼崎も【禍の団】の精鋭であっただけに、互いによく見知っているのだろう。

 

「ディオドラ・アスタロト、この私が力を貸したというのにこのザマとは。先日のアガレスとの試合でも無断でオーフィスの蛇を使い、計画を敵に予見させた。貴公はあまりに愚行が過ぎる。ほとほと愛想が尽きた。ここで死んでもらおう」

 

 シャルバの冷酷な死刑宣告にディオドラは震え上がる。

 

「ま、待ってくれ、シャルバ……今のは油断したんだ……今度こそ、この連中をちゃんと始末するから……僕にはまだ【奥の手】があるんだ。だから、もう一度、僕にチャンスを……」

 

 ディオドラの哀願にシャルバはその端正な顔に、フッと冷笑を浮かべる。

 

「ほう、【奥の手】とは面白い。ではもう一度だけ、貴公にチャンスをやろう。今度こそ我々の役に立ってもらおう」

「わ、分かった」

 

 うなずくディオドラ。シャルバに睨まれて怯えつつも、その顔には喜色が浮かんでいる。下賤な下級悪魔と侮っていた兵藤に殴り飛ばされ、怯えて醜態を晒して追い詰められた彼としては、シャルバの乱入により、取りあえずは助かったという安堵なのだろう。それはつまり、【禍の団】の大幹部であるこのシャルバ、ディオドラなどより遥かに強大な敵であるという事…… 

 

 「さて……」

 それまでディオドラの方を向いていたシャルバが僕たちの方へと振り返る。

 

「本来であれば私はもっと後で来るつもりだったのだが……どうやら、そこのディオドラ・アスタロトでは貴公たちの相手は荷が重かったようだ。まあ、彼には汚名挽回の為に【奥の手】とやらで頑張ってもらうが、それでも貴公たち全員の相手は到底無理だろう。よって、私もここで参戦させてもらう」

 

 シャルバはグレモリー先輩を凍てつくような憎悪のこもった目で見つめる。

 「サーゼクスの姫君、貴公には眷属たち、およびそこの堕天使どもと共に死んでいただく。現魔王の血筋は全て滅ぼさねばならない。それに、これ以上、我々の計画を邪魔される訳にもいかないのでね」

 

 この男もかつてのカテレアさんと同じく、サーゼクス様やセラフォルー様たち、現魔王の方々への憎しみに満ちている。魔王の座を追われ、冥界の端に追いやられた事を恨み続けているのだ。

 

 そこでシャルバはいきなり、ミッテルトちゃんに向かって右手を突き出したかと思うと、ゴオッ! と強力な魔力弾を彼女に向けて放つ。

 

「!? ヒッ!!」

「なっ! ミッテルトちゃんっ!!」

「ミッテルトっ!!」

 

 突然の事に驚愕するミッテルトちゃん、そして、僕とレイナーレ。だが、そこに鬼崎が弾丸のような速さで走り込んできて、その魔力弾を剣でバシィィィンッ!! と弾き飛ばし、シャルバに向かってその剣を突き出す。

「シャルバ。ここにいる皆に手を出すというなら、僕が相手になろう」

 

【挿絵表示】

 

 自分が真っ先に標的にされるなど、当然、まったく予想していなかったミッテルトちゃんは仰天して小さな体をガタガタとふるわせている。僕も、なぜシャルバが彼女を標的としたのか、全く理由が分からなかったが、取りあえずは彼女を救ってくれた鬼崎とシャルバとのやり取りに注目する。

 

「鬼崎陽太郎。我々を裏切り、偽りの魔王どもの手先となった愚か者……なぜ、堕天使などを庇う?」

「別に彼女たちは仲間ではないが、一応、今は協力関係にあるんでね。それにさっき君は僕の仲間のグレモリー眷属の皆も殺すと放言したからね。捨て置けないさ。そもそも、裏切りなんて言葉が君から出るとはね。元々、僕と君たちとはお互い利用し合うだけの間柄……君自身、僕を汚らわしい魔人の子と見下し、体の良い使い走りとしか見ていなかっただろう?利用価値が無くなればすぐに切り捨てるだけ、そう思っていただろう?」

 

「フン……まあ、確かにな。あの忌々しきヴァーリの仲間で下賤な魔人。いずれ始末する気であったが、それが早まったに過ぎんか。そこの偽りの魔王の妹ら共々消えてもらおう」

「そう簡単に消せるかな? 自分が消される事になって吠え面かかなければいいがね」

「減らず口だけは達者なようだな」

 

 互いに挑発し合う鬼崎とシャルバ。どうやら、この二人、同じ【禍の団】の一員でありながら元々、決して仲は良くなかったようだ。シャルバの【忌々しきヴァーリの仲間】という言葉からしても、また以前見た、やはり旧魔王派のカテレアさんとヴァーリさんの関係からしても、旧魔王派と【ヴァーリグループ】はむしろいがみ合う関係であるような印象を受ける。

 

 睨み合う鬼崎とシャルバ。まず、シャルバがドウッ! と魔力の弾を鬼崎めがけて発射するが、鬼崎はサッ! とそれをかわすと手に持つ剣を振るう。するとその切っ先から炎の弾が発してゴオッ! とシャルバに向かうがシャルバはそれを防御障壁で打ち消す。

 

 シャルバが鬼崎に向けて腕をかざすと、そこからきらめく光線が発して鬼崎を襲う。だが鬼崎はそれをやはりサッ! とかわすと、目にも止まらぬ速さでシャルバめがけて突進する。

 

 するとシャルバは今度は防御障壁を創り出す時間がなかったようで、後ろに飛びのいて攻撃をかわす。

 

 「小癪な……下賤な魔人の分際で……」

 悪態をつくシャルバだが、その【下賤な魔人】の鬼崎が彼の想像以上の強敵である事を悟ったようで、その表情には苛立ちを隠せない。

 

 それにしても、光は悪魔にとって猛毒のはずなのにシャルバは今、光の力を使った……! 僕の目にシャルバの腕に取り付けられた見慣れない機器が映る。あれが光を生み出す源か? 【禍の団】では悪魔が僕たち堕天使や天使が持つ光の力を使えるような技術を既に生み出しているのか……!

 

 「鬼崎! 俺たちも加勢するぜ!」

 「陽太郎くん! 僕も!」

 兵藤と木場が鬼崎に向かって叫ぶ。だが、彼らをシャルバが嘲笑する。

 

 「そんな悠長な事を言っていて良いのかな? グレモリーの諸君。あの娘が拘束されているあの装置だが、もうすぐ起動する。そうなったら、このフィールドと観戦室にいる者は全て跡形もなく消滅する!」

 「何だってっ!!」

 その場にいる皆が驚愕する。

 

 「ふざけんな!! そんなの俺たちの攻撃を手前に向けさせねぇ為の、この野郎のハッタリに決まってるぜっ!!」

 兵藤が叫ぶが、それを聞いたシャルバは大笑いする。

 

「ハハハハハハハハハハッ!! 少し我々を見くびり過ぎではないかな!? 貴公らは疑問に感じなかったのか? ここまであまりにも上手く行き過ぎ……我々【禍の団】が無策過ぎやしないかと頭の片隅でも思わなかったのか?」

 

 ……………………!

 僕も、そして他の皆もハッ! とした様子を見せる。確かにこれまで【禍の団】及びディオドラの一味との戦いは上手く行き過ぎている感がある。僕たちにも、そしてグレモリー眷属にも死者はもちろんの事、重傷者も出ておらず、敵を圧倒してきている。

 

 その敵……【禍の団】の攻撃はというと、あの三勢力会談襲撃の時と同様に味方の兵士たちを犠牲を構わず、闇雲にただつぎ込むだけの人海戦術だ。僕たちを助けに来て下さったオーディン様の戦いぶりを見れば分かるように、こんなやり方では到底、こちらに来られている各勢力のトップの方々をまとめて一掃するなどという事は到底不可能。アザゼル様やサーゼクス様、オーディン様をはじめとするトップの方々にはそれほどの圧倒的な力があるのだ。

 

 つまり、敵はあの時から全く進歩しておらず、愚策をただ繰り返しているだけ、という事になる。だが、いくらなんでもそんな事があるだろうか? ましてや今回は、ディオドラのミスにより、事前にこちらに計画を察知されているのだ。それでも決行したという事は、前回とは違い、敵にも何らかの秘策があるはず……そう考えるほうが自然だ!

 

 つまり、あの人海戦術はあくまでも囮で、本当はこの装置を発動させる事で、それとは気付いていない各勢力の方々を一網打尽の形で一掃しようという事……!

 

 僕は愕然とする。見ると周囲の他の皆も一様に驚愕の表情を浮かべている。その様子を見てシャルバは嬉しそうに意地の悪い笑いを浮かべて嘲笑する。

 「さあさあ、装置の起動までもう、そう時間はないぞ。早く止めないと大変な事になるぞ! ハハハハハーーーーッ!!」

 

 「この男は僕に任せろ! 君たちはアーシアさんの救出と装置の無効化に専念しろ!」

 「分かった! 鬼崎! 頼んだぜ!」

 鬼崎の叫びに兵藤たちグレモリー眷属の皆がうなずき、彼らはアーシアさんが拘束されている装置へと一斉に駆け寄る。

 

 「おやおや、皆で総出で装置解除に向かうのかな? だが、私がそんな事を許すと思うかね? ディオドラ・アスタロト! 貴公にこれまでの度重なる失策を挽回するチャンスを与えよう! そこにいる者どもを倒すのだ!」

 「わ、分かった! 今度こそ……」

 シャルバの命令を受けたディオドラが緊張した表情だ。

 

 「よし、では早速、【奥の手】とやらを拝見しよう」

 ディオドラはうなずくと、ポケットから指輪のようなものを取り出す。

 

「これは我がアスタロト家に伝わる【禁断の指輪】さ。これをはめれば自分の魔力を極限まで……【オーフィスの蛇】を飲んだ状態よりもさらに大きく高める事が出来る!」

「じゃあ、何でそれをこれまで使わなかったんだ?」

 

 兵藤の問いにディオドラはニヤッと変質的な笑顔を浮かべる。

 「それは、この指輪で増幅された魔力を受け入れるには膨大なエネルギーを必要で、うかつに使えば僕自身の命が危ないからさ。だが、一つその危険を回避する方法がある。もったいないが、こうなればそれをするより仕方ない……我が下僕たちよ! 僕に力を貸しておくれ!」

 

 ディオドラの叫びに応えて、先ほど、神殿の入口で僕たちが破って気絶させていた、ディオドラの眷属の女性たちがあの時と同じ全裸のまま、ぞろぞろとやって来た。皆、目は夢遊病者のようだ。

 

 「御主人様、この身をお捧げいたします」

 彼女たちはそう言って一斉にディオドラに向かって一礼する。するとディオドラは先ほど取り出した【禁断の指輪】を指にはめる。すると……

 

 「おおっ……うおおおおおおっ!!」

 突然、ディオドラの体から閃光がほとばしり、彼の体が膨れ上がる。細身の彼が、腕も、胴体も、胸板もまるでスーパーマンとかアメコミの主人公のごとく筋肉モリモリの姿になり、身に付けている服が今にも弾け飛びそうになっている。

 

 「ち、力を……力をくれ……」

 ディオドラはうめくようにつぶやくと、目の前にいる眷属の女性の一人を捕まえて、その口に口づけをする。

 

 「ぐっ! ぐぼおおおおっ!」

 ディオドラに口づけされた女性はすさまじい悲鳴とも呼吸音ともつかない声を発する。そして彼女の姿は瞬く間に体が萎んでミイラのような無惨な姿となり、ディオドラは彼女の体を無造作に投げ捨てる。そうか、精気を吸い取ったんだ。それにしても、何てむごい事を……!

 

 「次だ!」

 ディオドラはまだエネルギー補給が足りないらしく叫ぶ。すると洗脳されているらしいディオドラの眷属たちは逃げようともせずに二人目が彼の手に捕らえられる。

 

 「やめろおっ!!」

 僕は思わず叫ぶ。だが、ディオドラはその女性の精気も瞬く間に吸い取り、そのミイラ化した体をゴミのように投げ捨てる。

 

 「ファッハッハーーーーーーッ!! これで僕はまさに魔王にふさわしい力を手に入れたあっ!! もうあの腐れドラゴンなんか敵じゃないっ!! さっきのお返し存分にさせてもらうよおっ!! 思い切り残酷にいたぶって殺してやるよおおっ!!」

 狂気に満ちた表情で高笑いするディオドラ。

 

 「てめえって野郎はっ!! てめえの眷属をまるで虫ケラみていにっ!! このクソ外道野郎っ!!」

 あまりのディオドラの非道さにまた兵藤が怒りを爆発させる。だが、僕はその彼を制する。

 

「兵藤くんっ! 彼の相手はこの僕がするっ! 君はアーシアさんの救出に専念してっ!」

「うるせえっ!! このゲス野郎がアーシアにしやがった事といい、てめえの眷属へのこの仕打ちといい、俺は絶対にこいつが許せねえんだっ!! 邪魔すんじゃねえっ!!」

 

 凄まじい表情で怒りをぶつけてくる兵藤。だが、僕は引かない。

 「兵藤くんっ! よく聞いてっ! おそらくあの装置の動力源はアーシアさん! そのアーシアさんを救い出せば、おそらくあの装置は止まるっ! そしてそれが出来るのは、アーシアさんの愛をその一身に受けている君しかいないんだっ!」

 「國原…………」

 

「それにディオドラ……彼には僕も大きな借りがある。この男は僕のレイナーレを自分の欲望のために利用して殺そうとして彼女の運命を狂わせ、さらに今回も理不尽な悪意を持って彼女に危害を加えようとし、カラワーナさんまで誘拐して辱めた。さらに自分の眷属にまで平気でこんな仕打ちを……これ以上、犠牲者を出さない為にも僕はこの男を止めるっ!」

「國原……そうか……お前の気持ちはよく分かった! そのゲス野郎を叩き潰すのはお前に任せたぜっ!」

 

 兵藤はそう叫ぶと、アーシアさんの方へと駆け寄って行った。こうして、この場の構図が決まった。すなわち鬼崎とシャルバ、僕とディオドラがそれぞれ戦い、レイナーレと流音くん、カラワーナさんとミッテルトちゃんが僕の補佐に付く。兵藤をはじめとするグレモリー眷属たちはアーシアさんの救出に総出で取り組むが、鬼崎が危険だと判断したらその助っ人に向かう。そんな形だ。

 

「下賤な下級堕天使風情が、このパワーアップした僕に勝てるとでも思っているのかい?」

「思っているよ。そのあなたの力は所詮、他人から借りただけのまがい物の力、そして他人を踏みにじって奪った汚れた力に過ぎない。僕がレイナーレと共に育んできた愛の力が、そんな力に負けるはずがない!」

 

 それは決して口だけのものではない、僕の心からの確信だった。そう、僕はレイナーレとの愛を通じて次々と生み出して来た愛の力で、これまで多くの危機を乗り越えて来た。名門悪魔の御曹司、魔王の後継者という家柄を鼻にかけ、他者を見下し、自分の大切なはずの眷属にまで非人道的な仕打ちをする、こんな最低な男に負ける訳にはいかない。

 

「言ってくれるじゃないか。じゃあ、この生まれ変わった僕の攻撃で無様に死ぬが良いよ。その後、君がずいぶんと執心している、あの女もすぐに君のもとへと送ってあげるから。その後は……僕に散々煮え湯を飲ませた、あの【赤龍帝】……腐れドラゴンに思い切り復讐してやる!」

 

 ディオドラが身構える。僕はレイナーレへの想いを胸に高鳴らせる。

 「【ニプルスピア】……!」

 

 僕はポケットから手のひらサイズの乳白色の棒状のものを取り出しつつ、つぶやく。するとそれは黄金色に光り輝き、あのレイナーレから受け取った、彼女の乳首から噴出した【堕天の乳汁】から精製された光り輝く槍【ニプルスピア】へと変化する。そう、あの槍は伸縮変形自在で、僕とレイナーレが一本ずつ持ち、戦闘の際にはすぐに取り出せるようにしたのだ。

 

 「ハハハハハハッ! 何だい? そのオモチャは!? そんなものでこの僕の攻撃を防げるとでも!?」

 ディオドラは嘲笑し、ドオオオオッ!! と大きな魔力の弾を放ってくる。それは相当な威力でまともに浴びれば僕の体は吹っ飛ぶだろう。

 

「ミコト殿っ!!」

「ミコトくんっ!!」

「國原先輩っ!!」

 

 カラワーナさんとミッテルトちゃん、流音くんの声が響く。だが、レイナーレは何ら動揺することなく、僕の方を見ている。僕はゆっくりとニプルスピアを持っている手を円を描くようにふるう。

 「ニプルシード……!」

 

 するとそこに光り輝く光の盾が出来て、ディオドラの放った魔力の弾はその光の盾に当たり、バシュン! と弾かれるように霧散した。

 

 「バ、バカなっ! じゃあ、これではどうだ!」

 ディオドラが手を上げると、今度は彼が魔力で作り出した大量の円盤状のものが出現する。

 あれで僕の体を四方から切り刻もうという魂胆か。なら……!

 

 僕はニプルスピアを宙に投げる。するとそれは僕の意思通りに、僕の体の周りをぐるぐると取り巻くように回転する。すると僕の体全体が光り輝く光のシールドに包まれる。

 

 ディオドラが放った無数の円盤が四方八方から僕に斬りかかる。だが、それは全て光のシールドに当たり、バリリンッ! と粉々に砕け散る。

 

 「くそっ! こうなったら力づくで叩きのめしてやるよっ!!」

 苛立ったディオドラは僕めがけて突進してくる。魔力の指輪によってその筋力が大々的にアップされたディオドラ。格闘、殴り合いに特化した屈強なパワーファイターの兵藤ならともかく、彼よりもずっとひ弱な僕なら力づくで叩きのめせると侮っての事だろう。

 

 僕はそのディオドラに対してニプルスピアを投げつける。するとディオドラは咄嗟に防御障壁を作ってそれを防ごうとするが、ニプルスピアはその障壁をバリンッ! と難なく突き破り、彼の肩をズバッ! と貫く。

 「ぎゃあああああっ!!!」

 

 ディオドラの左肩に風穴が空き、ディオドラは凄まじい激痛に絶叫してのたうち回る。そう、僕とレイナーレの愛の結晶であるニプルスピアはダイヤモンドをはるかにしのぐ硬度を持つ。あんな障壁程度で防ぐなど不可能だ。

 

 「ひっ……ひいいいいっ! 痛い! 痛いよおっ!」

 ディオドラは苦痛に涙をボロボロと流している。その姿を見てさすがに哀れさを覚えた僕は彼に伝える。

 

「これで分かったよね。ディオドラ・アスタロト。あなたの力では兵藤くんにも、僕にも勝てないという事が。だから、もう抵抗をやめてあなたが無理やり従えている眷属の彼女たちを解放する事を約束して、サーゼクス様におとなしく降伏して裁きを受ける事を約束するならこれ以上の事をするつもりはない。どうかな?」

「わ、分かった……おとなしくするよ……」

 

 「そう、じゃあ……」

 「バカめっ!! 甘すぎるんだよっ!!」」

 僕が踵を返すやいなや、思った通りディオドラは背後から襲い掛かって来た。僕が身を翻して向かえ撃とうとした瞬間……!

 

 「ミコトっ!!」

 バッ! と飛び出した全裸のレイナーレが、その美しい裸体を舞わせて、張り詰めた大きく美しい乳房をぶるんっ! と弾ませつつ、ニプルスピアをディオドラめがけて投げつけた。

 

【挿絵表示】

 

 ズシャアッ!

 「ぎゃああああああーーーーーーっ!!!」

 

 ディオドラの今度は右肩が貫かれて風穴が空き、ディオドラは床を転げまわって絶叫し、のたうち回る。

 

 こうして、両肩を貫かれ、もはや両腕を動かす事も出来なくなったディオドラは戦闘不能となり、決着は着いた。

 

「ディオドラ・アスタロト、もう観念すべきだ。あなたはこれまで他人を見下し、嘲って思うがままに利用し、犠牲にしてきた、大切にすべき相手まで粗末にしてきた。その報いがこの結果だ」

「ぐっ……ぐううっ……い、痛いっ……痛いよおっ……」

 

 両肩を撃ち抜かれた苦痛に泣くディオドラ……もはや僕の言葉を聞く余裕すらなく、子供のように泣きじゃくっている。

 

「ミコトっ!」

 

 レイナーレが駆け寄って来て、僕に抱き付く。僕はその彼女を強く抱き締めつつ、先ほどの礼を伝える。

 「ありがとう」

 

「ミコト殿! やりましたね!」

「國原先輩! さすがです!」

「ミコトくん、カッコ良いっすよ!」

 

 カラワーナさん、流音くん、ミッテルトちゃんが歓声を上げて迎えてくれる。その彼女たちに僕は笑顔で応える。そしてレイナーレが僕に抱き締められつつ、無残な姿で泣いているディオドラを見つめる。

 

 「………………」

 彼女にとって憎むべき、自分の運命を狂わせた男。だが、今、惨めな姿を晒している彼の姿を見つめるレイナーレの顔に喜びはなく、複雑な表情を浮かべている。それは彼女が、今のディオドラの姿にかつて、あの夜の教会で兵藤に追い詰められ、恐怖で泣き叫んでいた自分の姿を重ね合わせているせいなのだろう。

 

 鬼崎とシャルバは相変わらず一進一退の攻防を繰り広げていたが、こちらの勝負がついた事に気付くと、いったん戦闘を中断してこちらを見つめる。そしてアーシアさんを装置から解放しようと悪戦苦闘しているが、上手くいかず焦っている様子のグレモリー眷属たちもこちらに注目する。

 

 「やあ、見事にディオドラを打ち負かしたようだね。まあ、君たちが負けるとは思っていなかったが、おめでとう」

 ゼノヴィアさんが笑顔で僕たちに近付いて来て祝福してくれた。そして彼女は惨めにうずくまって苦痛にあえいでいるディオドラに剣をバッ! と突き付ける。思わずヒッ! と縮み上がるディオドラ。

 

 「本来ならばここで止めを刺す所だが、お前は腐っても現魔王の血族。その裁きは魔王様方に委ねる事にするとのリアス部長やイッセーの判断だ。だからここは命だけは助けてやる。ただし、これだけは言っておく。二度とアーシアに近付くなっ! 近付いたなら次は問答無用でその首をはねるっ!」

 「ひっ! ひいいいいっ!」

 ディオドラは瞳を恐怖で潤ませながら何度もうなずいた。

 

「ところでゼノヴィアさん、アーシアさんは助け出せそう?」

「ああ、それがな……あの枷、イッセーが赤龍帝の力を全開にしても、木場の聖魔剣や私の聖剣の力を使っても全くビクともしないんだ……リアス部長や朱乃さんの魔力も全く効果はない……」

 

 ゼノヴィアさんは途方にくれたという様子で言う。そこで僕たちもアーシアさんの所へ行ってニプルソードで切れないかと試してみたが、やはり全くビクともしない。

 

 その時、うなだれていたディオドラがつぶやいた。

 「無駄だよ。その装置は機能上、一度しか使えないが、逆に一度使わないと停止できないようになっているんだ。アーシアの能力が発動しない限り停止しない」

 

 「どういう事?」

 僕の問いに、ディオドラは淡々と答える。

 

「その装置は神滅具(ロンギヌス)所有者が作り出した固有結界の一つ。このフィールドを強固に包む結界もその者が作り出しているんだ。【絶霧(ディメンション・ロスト)】、結界系神器の最強のもの。所有者を中心に無限に展開できる霧。その中に入った全ての物体を封じる事も、異次元に送ることすら出来る。それが禁手に至った時、所有者の好きな結界装置を霧から創り出せる能力に変化した……【霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)、創り出した結界は一度正式に発動しないと止める事は出来ない」

 

 「ディメンション・ロスト……やはりあの男か……」

 「フッ……」

 鬼崎が心当たりがあるという反応を示し、シャルバは不敵な笑みを浮かべる。

 

 「発動の条件と、この結界の能力は?」

 「発動の条件は僕か、他の関係者の起動合図、もしくは僕が倒されたらだ。結界の能力は……枷に繋いだ者……つまりアーシアの神器能力を増幅させて【反転(リバース)】する事だ」

 木場の問いにディオドラが答える。

 

 やはり、この装置の発動の鍵はアーシアさんだったのだ。そして【反転】という言葉! 僕は、グレモリー家とシトリー家とのレーティングゲームで、アーシアさんが癒しの力を発動した時、シトリー眷属の花戒桃さんが、その【反転】の技を使ってアーシアさんをリタイアさせた事を思い起こした。それは聖を魔に、闇を光へと反転させる技……!

 

 そうか! さっきシャルバが

 【この装置が起動すれば、このフィールドと観戦室にいる者は全て跡形もなく消滅する】

 と自信満々で言っていたのはこの事だったんだ! 周囲を見回すとそこにいる全員が愕然とした表情を浮かべている。

 

 僕のレイナーレの【堕天の乳汁】ほどではないが、それでもアーシアさんの神器の回復力は凄まじい。悪魔も堕天使も癒す! それが増幅されてから【反転】して、効果範囲がこのバトルフィールドと観戦室だとするなら、確かにシャルバの言う通りに……!

 

 そしてディオドラはさっき、

 【装置の発動の条件は僕か、他の関係者の起動合図、もしくは僕が倒されたら】

 と言っていた。ディオドラに自分の命を捨てても僕たちに一矢報いる、という発想はないだろう。そうなると、他に装置を発動出来る人物は後一人……ディオドラ以外のこの件の関係者!

 

 僕はその男を見つめる。同時にそこにいる他の皆も一斉に彼に視線を集中させる。

 

「フハハハハハッ! ようやく気が付いたようだな! だが、遅すぎた! サーゼクスの妹君、その眷属たち、そして下級堕天使ども、貴公らはここで貴公らの兄や主たちと共に消え去るのだ!」

 

 高笑いするシャルバ。それと同時に彼は手に持っている小さな機器にカチャッ! とスイッチを入れる。するとその瞬間、ギュゥゥウウウウウン! と装置から音が出る。装置を作動させたのだ。

 

 「シャ、シャルバっ!! た、助けてくれえっ!!」

 恐怖に怯えたディオドラが泣き叫んで哀願するも、シャルバはそれを冷酷に嘲笑う。

 

 「ディオドラ・アスタロト、貴公には心底失望した。所詮は偽りの魔王の一族の落ちこぼれ。そこでそこにいる連中と共に朽ち果てるがよい」

 そう言い捨ててシャルバはそこを立ち去ろうとするも、その前に鬼崎が立ちふさがる。

 

「シャルバ、逃がさないよ」

「チッ……忌々しい下賤な魔人が……だが、この私をどうしようが、もはやここの連中は破滅から逃れられんぞ」

 

 とにかく、何としてでも装置を止めねばならない。兵藤が装置にドラゴンの波動をぶつけ、グレモリー先輩や姫島先輩も魔力をぶつけ、僕とレイナーレも改めてニプルソードを叩き付けるが、やはり装置はビクともしない!

 

 「クソッ! なんて事だ……どうすりゃ……」

 「イッセーさん、私ごと……」

 床を叩いて悔しがる兵藤にアーシアさんが、自らを犠牲にして皆を助けるように言いかけたが、それを聞いた兵藤は血相を変えて怒鳴りつける。

 

「バカな事を言うんじゃねえっ! 次にそんな事言ったら怒るからな! アーシアでも許さねえっ!」

「で、でも、このままでは、先生やミカエル様が私の力で……そんな事になるくらいなら、私は……」

 

 一体、一体、どうすればいいっ!?

 僕も内心激しく焦るが、そこである事に思い当たる。

 

 そうだ……この装置はアーシアさんが起動力。アーシアさんを拘束から解放すれば止まる。そして彼女の拘束を解けるのは彼女が一途に愛する兵藤だけ……その兵藤の能力は……!

 それにそう考えれば、あの不可解なシャルバの行動の理由も解ける! よし!

 僕がそれを兵藤に伝えようとした時……!

 

「【赤龍帝】、アンタがさっき使ってたあの下品な技、あれを使ったら良いんじゃないっすかぁ~~」

 

 ミッテルトちゃんの声が辺りに響き、そこにいる皆が彼女の方を見つめる。皆、一様に怪訝な顔をしているが、兵藤はミッテルトちゃんと拘束されているアーシアさんを交互に見つめ、そして納得したようだ。

 

 「そうか……! 」

 兵藤はアーシアさんのもとに歩み寄り、彼女を拘束している枷に触れる。

 

 「アーシア、先に謝っておく」

 「え?」

 兵藤の言葉にアーシアさんが首をかしげる。

 

 「高まれ、俺の性欲! 俺の煩悩っ! ドレスブレイクっ! バランスブレイカーブーストバージョンっ! BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!」

 とんでもない雄叫びを上げる兵藤。彼の鎧にちりばめられた宝玉が赤く輝く。とんでもないエネルギーが彼の体を駆け巡っているのが分かる! そして……

 

 バギンッ!! バババッ!! と大きな音が響き、アーシアさんの四肢を拘束していた枷は木っ端微塵に吹き飛び、同時にアーシアさんが着ているシスター服も吹き飛び、彼女は全裸となった。

 

 「いやっ!!」

 アーシアさんは叫んでその場にしゃがみこむ。

 

 皆がその様子を唖然として見ている。そしてアーシアさんが装置から解き放たれたためか、装置の動きが止まる。姫島先輩が魔力で服を作り出してアーシアさんに着せる。

 

 「チッ……気付かれたか……」

 シャルバが忌々し気に舌打ちする。

 

「そこの堕天使。なぜドレスブレイクであの枷を壊せると思ったのかしら?」

「ここに来た時に赤龍帝があの技でディオドラの眷属たちを素っ裸にしてるのを見たっすが、ミコトくんもレイナーレ姉さまをよく、似たような感じで素っ裸にしてるのをウチは見てるっすから、ミコトくんが姉さまを裸にする時に腕の鎖も一緒に吹っ飛ばしているように、赤龍帝のあの技でも鉄の鎖や枷のようなものでも破壊出来るんじゃないかと思って、それをふと口にしたんすよ」

 

「なるほどね……」

「そしたら、あのシャルバって悪魔が出て来た時、いきなりウチを殺そうとしたじゃないっすか。おかしいと思ったんすよ。何でわざわざウチのような下っ端を選んで殺そうとするんだって。そう考えていたら、気がついたんすよ。アイツ、ウチが言った事をどこかで聞いていて、それでこの装置の解除方法に気付かれたらヤバイと思ってウチを始末しようと考えたって」

 

 グレモリー先輩の問いにミッテルトちゃんはしっかりと答えた。やはり僕が思った通りだった。

 

 「根性だけの鳥頭堕天使だと思っていましたが、意外と頭も良いんですね」

 「ドチビ、また喧嘩売ってるっすか……?」

 塔城とミッテルトちゃんは相変わらずだが……

 

 グレモリー先輩が今度は兵藤の鎧をコンコンと小突きつつ、彼に問う。

 「それにしてもドレスブレイクでね……あれって、女性の身に着けているものなら何でもいいの?」

 「よ、よく分からないんですけど、あのミッテルトって奴に言われてよく見直したら……枷は手首手足に密着状態でしたし、身に着けているものの一部としての要領でいけるかなー! って。全裸のアーシアを脳内で思い出して、その状態にしたいって真剣に妄想しましたし。たぶん、普通にやったら無理です。禁手状態とブーストバージョンで高めたから成功したんだと思います。グレーゾーンの領域を何とかクリアした感じかなと……」

 「うーん、イッセーの想像力と妄想も枷を壊す要因になったのかしら?」

 兵藤の説明にグレモリー先輩は首をひねっている。

 

 という事は、もし、アーシアさんの代わりにレイナーレがあの状態になって、僕がレイナーレの全裸を思い起こして、その状態にしたいって思ったら成功したっていう事か。もっとも今、レイナーレは全裸だけど……でも、あんな話を聞いてもグレモリー先輩は大して気にもしていないみたい。僕がもし他の女性であんな事をして、あんな話をレイナーレにしようものなら、間違いなく彼女は激怒すると思うけど……まあ、僕はレイナーレ以外の女性にあんな事を考えたりは絶対にしないけど、グレモリー先輩は兵藤と一緒になるためには彼の多情さを受け入れなくてはならないと考えているんだろうな……

 

 「ちょっとミコト、ボーッとして……何を考えているの?」

 レイナーレが僕の腕を引っ張って聞く。

 

「うん。もし君があの装置に囚われていたとして、僕が君の全裸の姿を思い起こして、その状態にしたいと思ったら間違いなく成功したって、そう思ってたの」

「も、もうっ! ミコトのエッチっ! でも、そうよね。ミコトだったら、あんな事が出来るのは私の裸でだけよね? 他の女を見てあんな事を考えたりしないわよね。リアス・グレモリーは一誠にあんな話をされても平然としているけれど、私はあなたがあんな事を他の女相手に考えたりしたら絶対に許さないから。ウフッ♪ 私のミコトに限ってそんな事はないわよね?」

 

 「もちろんだよ! 僕にはレイナーレ、君しかいないもの!」

 「ありがとう……! 嬉しいわ! 私のミコト!」

 僕が断言したのにレイナーレは美貌をパッと輝かせ、むき出しの張りつめた大きな乳房を弾ませながら僕に抱きつく。僕の体に彼女の張りつめた大きな乳房がむにゅっ! と密着し、彼女のカチカチに勃起した乳首がボンデージ姿の僕の肌をくすぐる。その感触が僕を興奮させ、僕の股間は激しくうずく。

 

「こらこら~~ミコトくんに姉さま、またこんな時にまでバカップル全開っすかぁ~~」

「全く、ミコト殿もレイナーレ様も人前ではお慎みくださいと何度申せば理解して頂けるのか……」

いつも通り、ミッテルトちゃんが冷やかしの言葉を、カラワーナさんは苦言を呈してくる。

 

 「全く男にとっては目の毒だよ……まあ眼福だがね♪ おかげでよい写真がいっぱい撮れたしね♪」

 アンドレアスさんは愉快そうに笑う。

 

 「も、もうっ! アンドレアスさんったらっ!」

 レイナーレは美貌をまた真っ赤にする。

 

 「さて……」

 グレモリー先輩がシャルバの方に向き直る。

 

「どうやら、あなたたちの計画は失敗に終わったようね」

「確かにな。今回の作戦はこれで終了。私たちの負けだ。まさか【神滅具(ロンギヌス)】の中でも中堅クラスの【ブーステッド・ギア】が上位クラスの【絶霧(ディメンション・ロスト)】に勝つとはな……私もわずかな可能性でも除こうとその堕天使の小娘を始末しようとしたのだが、まさか本当にそのわずかなほころびで失敗しようとは、想定外としか言えない。まあ、今回は今後のテロの実験ケースとして有意義な成果が得られたと納得しよう。クルゼレイが死んだが問題ない。私がいればヴァーリがいなくても十分に我々は動ける。真のベルゼブブは偉大なのだから」

 

 シャルバの言葉に僕とレイナーレは驚き、顔を見合わせる。

 「ミコト……! 今、あの男、【クルゼレイは死んだ】と言ったわね!?」

 「うん! 確かに……!」

 

 そう、クルゼレイはカテレアさんの恋人……カテレアさんは彼の事を気にかけていた。それを知っていた僕は思わず叫ぶ。

 「クルゼレイが死んだ!? どうして!?」

 

 シャルバは怪訝な顔をする。

 「何だ? 【黒龍王】、クルゼレイを知っているのか? まあいい、教えてやろう。クルゼレイはここにいるリアス・グレモリーの兄、あの偽りの魔王サーゼクスに討たれた。偽りの魔王程度に敗れるとは……所詮、あの男は真の魔王にふさわしい人物ではなかった。ただそれだけの事」

 

 「えっ、お兄様が【旧魔王派】のクルゼレイ・アスモデウスを倒したの?」

 グレモリー先輩も驚く。

 

 「そうか……サーゼクス様がクルゼレイを……」

 「そうなのね……カテレア……可哀想……」

 僕とレイナーレはカテレアさんがその事実を知った時の心情を思い、心を痛める。一方、そんな僕たちを事情を知らないグレモリー先輩は怪訝な表情で見つめる。

 

 シャルバもやはり僕たちを不思議そうな表情で見つめる。

 「何の事やら分からぬが……さて、そろそろここを去るとするか」

 

 その場から立ち去ろうとするシャルバ。先ほどは僕たちを皆殺しにすると言っていたが、【ディメンション・ロスト】を用いての計画が失敗に終わった事と、鬼崎が彼の想像以上に強くて、彼一人でも手に余るところを、ここにいる面々全てを敵に回すのは分が悪過ぎると判断しての事だろう。

 

「待ちなさい。このまま私たちがあっさり見逃すとでも思っているの? あなたのようなテロリストを放っておける訳がないでしょう」

「思い上がるな。偽りの魔王の妹の分際で。今回はこれにて去るが、次に会う時は眷属どももろとも皆殺しにしてくれよう。そして去り際のついでに……」

 

 シャルバが突然、右手を上げて僕たちの方に向ける。次の瞬間、カッ! とまばゆい光が僕たちを襲う。さっき見せた光の力を発動させたのか……!

 

 「キャッ!」

 思わずレイナーレが叫んで顔をそむける。僕が彼女を抱き締めつつ視線を送ると、まばゆい光の柱がそばにいたアーシアさんを包み込んでいた。

 

 異変にいち早く気付いた鬼崎が猛スピードでアーシアさんのもとに駆け寄ったが、鬼崎が彼女に手が触れようとした瞬間に、光の柱ごとアーシアさんの姿は消え去った。

 

 「クッ……!」

 鬼崎がガックリと肩を落とす。

 

 「……アーシア?」

 兵藤が愕然とした表情を浮かべる。

 

「フハハハハハーーーァッ!! これで今回の留飲は下がったっ!!」

「外道っ!! アーシアを殺した罪! 絶対に許さないわっ!!」

 

 高笑いするシャルバ。グレモリー先輩は激高し、最大にまでに紅いオーラを全身からほとばしらせる。姫島先輩も顔を怒りに歪め、雷光を身にまとい始めた。木場も怒り心頭という表情で聖魔剣を構え、ゼノヴィアさんは怒りと悲しみに身をふるわせて、今にもシャルバに斬りかからんばかりだ。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 アーシアさんを消し去った張本人であるシャルバに対してグレモリー眷属の皆の怒りが爆発する。僕も奴を許せない! だが、僕があの男とこれまで組んでいた事も事実。その過去を清算する為にも、グレモリー眷属の仲間たちの為にも、何よりもアーシアさんの為に僕はあの男を討つ! その決意を僕は固める。だが、皆が怒りを爆発させる中、最も怒りを爆発させるべき彼は……

 

 「アーシア? アーシア?」

 一誠はふらふらと歩きながらアーシアさんの名を呼んでいる。

 

「アーシア? どこに行ったんだよ? ほら、帰るぞ? 家に帰るんだ。父さんも母さんも待ってる……か、隠れていたら、帰れないじゃないか……ハハハ、アーシアはお茶目さんだなぁ……」

 

「アーシア? 帰ろう。もう、誰もアーシアをいじめる奴はいないんだ。いたって俺がぶん殴るさ! ほら、帰ろう。アーシア、体育祭で一緒に二人三脚するんだから……」

 

 一誠は過剰とも思えるほどにアーシアさんを大切に思っている。不幸で過酷な人生を歩んできたにも関わらず、常に周囲への優しさ、思いやりを失わず、健気に生きて来たアーシアさんを彼は本当に好きなのだ。

 

 そのアーシアさんを失って、悲しみのあまり夢遊病者のようになって歩く一誠。そんな彼を見て、小猫ちゃんとギャスパーくんが嗚咽している。いったん怒りに任せて戦闘態勢を取った朱乃さんも思わず顔を背け、頬に涙を伝わせている。リアス部長はふらつく一誠に駆け寄って彼を優しく抱きしめ、祐斗も涙を流して身をふるわせている。そして僕もこみ上げてくるものを止められない。

 

 「部長、アーシアがいないんです……やっと帰れるのに……先生が言っていた神殿の地下に隠れなきゃ……でも、アーシアがいないと……と、父さんと母さんがアーシアを娘だって……アーシアも俺の父さんと母さんを本当の親のようにって……俺の、俺たちの大切な家族なんですよ……」

 うつろな表情で一誠はそうつぶやき、リアス部長は彼の頬を何度も撫でている。

 

 「許さない……許さないっ! 斬るっ! 斬り殺してやるっ!」

 怒りを爆発させたゼノヴィアがシャルバを睨み付け、聖剣を握り締め、進み出る。

 

【挿絵表示】

 

 「うおおおおおおおおおっ!!!」

 「無駄だ」

 ゼノヴィアが怒りの叫びを上げつつ、飛び上がってシャルバに斬りかかるが、シャルバは動ぜず、ゼノヴィアの刀を光り輝く防御障壁で弾き飛ばし、ゼノヴィアの腹部にドン! と魔力の弾を撃ち込む。

 

 「ぐおっ!」

 ドオオンッ! と床に落ちるゼノヴィア、その聖剣が彼女の手を離れて宙に飛び、床に突き刺さる。

 

 「アーシアを返せ……私の……友達なんだっ……! 優しい友達なんだ……誰よりも優しかったんだっ……! どうしてっ……!」

 ゼノヴィアは床に叩きつけられても、息が止まりそうな激痛に耐えてそう言い、手元から離れた聖剣を求め、握ろうとする。僕はそのゼノヴィアのもとに駆け寄って告げる。

 

「君はここでじっとしていろ。あの男は僕が片付ける」

「よ、陽太郎……」

 

 そして僕がシャルバに向かおうと踏み出した時、シャルバは一誠に対してこれ以上ない嘲りの言葉を吐く。

「下劣なる転生悪魔と汚物同然のドラゴン……全くもってグレモリーの姫君は趣味が悪い。そこの赤い汚物、あの娘は次元の彼方に消えていった。既にその身も消失しているだろう。そう、死んだ、という事だ。さて、あの忌々しい魔人がまたしゃしゃり出て来た。そろそろ行くとするか」

 

 僕が自分に向かって来た事を察知したシャルバは転移用魔方陣を描き出そうとする。

 「逃がすか!」

 

 僕の中で激しい怒りが沸き上がり、奴の逃亡を許すまいと飛び上がりかける。だが、その時、僕はリアス部長に抱かれている一誠の視線がじっと宙に浮かぶシャルバを見ている事に気づく。

 

 「リアス・グレモリー、今すぐこの場を離れろ。死にたくなければすぐに退去した方がいい」

 一誠とは違う声が響いた。一誠の神器に宿るドラゴン……【赤龍帝ドライグ】の声だ。僕たちにも聞こえるように発声したようだ。

 

 退去……これからとてつもない事が起こるという事か!?

 僕は意味が分からなかったが、これから不穏な事態が起こる事は予測できた。一方、リアス部長や祐斗は怪訝な顔をしている。

 

 次にドライグの声はシャルバに向けられる。

 「そこの悪魔よ。シャルバといったか?」

 

 その言葉と共に突然、一誠がリアス部長を振り払う。

 「キャッ!」

 

 そして一誠は立ち上がる。

 「イ、イッセー、ま、待ってっ……」

 

 リアス部長が止めるのも構わず、一誠はゾンビのようなおぼつかない足取りでシャルバの方へ向かっていく。シャルバも異変を感じたようで慌てて転移用魔方陣を描こうとするが、強大な圧力がかかっているようで思うように手が動かせないようだ。またドライグの声が響く。

 「お前は……」

 

 一誠が宙に浮かぶシャルバの真下まで来た時、続くドライグの声が一誠の口元から発せられた。それは心身を底冷えさせるほどに無感情な一声……

 「選択を間違えた」

 

 その瞬間、ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!! 

 と凄まじい振動が起こり、神殿が大きく揺れる。一誠の全身から血のように赤いオーラが発し、そのオーラは次第に高まり、大きくなっていき、神殿内全域を赤い輝きで照らし始める。肌に伝わるこのオーラの質で理解できる! あのオーラは……危険だ!

 

 一誠の口から、呪詛のごとき、呪文が発せられる。その声は一誠だけのものじゃなく、老若男女、複数入り混じった不気味なものだ。そして僕はこの呪文に聞き覚えがある……!

 

 これは……! 【覇龍(ジャガーノート・ドライブ)】!

 

(次回に続く)




 お待たせしました! 今回のこの第42話は、以前書いたお話とは大幅な変更がありました。

 まず、神殿の入口での尊たち&グレモリー眷属とディオドラ眷属の戦い。この場面を新たに挿入したのは、この後のディメンション・ロストの装置の解除の方法について、ミッテルトが気付くという展開に持っていきたかった。その為には彼女が一誠のドレスブレイクを見ている必要があると考えての事です。

 しかし、一誠も尊もブレない(笑) 一誠が多情で相手がそれなりに見栄えの良い女の子であれば、年上でも年下でも、巨乳でも貧乳でも構わず、どんどんセクハラ行為にいそしむのに対して、レイナーレに一途な尊はディオドラの眷属たちが素っ裸で襲い掛かって来ても、彼女たちがディオドラに道具として使われている事に同情はしますが、一切、興奮も動揺もせず冷静に対処しています。自分がエッチな事をする相手はレイナーレだけと。

 対ディオドラ戦。以前のお話では原作と同様、ディオドラを叩きのめすのは一誠一人であった訳ですが、「尊にも見せ場を作るべきだ」という御意見を頂き、最初は原作通りに一誠がディオドラを殴り飛ばしますが、その後は尊が相手をするという形に変更しました。

 その場合、一誠の性格的に簡単にディオドラとの戦いを尊に譲る訳がない、という事で、シャルバを原作よりも早めに登場させ、彼が装置を作動させる事で一誠はアーシア救出を優先せざるを得ず、やむなく尊にディオドラとの勝負を譲るという形にしました。また、この時点の一誠では覇龍化していない状態でシャルバに勝つのは不可能だろうという事で、それまでのシャルバの抑え役を鬼崎にする事にしました。鬼崎は彼の親友のヴァーリと同等の戦闘能力を持っていますのでそれが可能という事で。

 そしてシャルバによるディメンション・ロストの発動と、一誠のドレスブレイクによるその解除、それがミッテルトの発案によるというもの。現時点でまだ神器を持っておらず、戦闘要員としては活躍出来ないミッテルトに活躍の場を与えてあげたい、という事でこういう形にしました。

 ミッテルトがしばしば尊がボンデージ姿の腕に鎖を付けたレイナーレを神器の力で素っ裸にしている様子を見ている事から、一誠のドレスブレイクを見て既視感を抱き、それを口にする→それを聞いたシャルバが装置発動の妨げになりかねないミッテルトをいきなり抹殺しようとした→その不自然さと前述の既視感から装置解除法に気付く、という流れにしました。

 尊VSディオドラ戦。前回、新たに開発した【ニプルスピア】が早速、その威力を発揮しました。既にタンニーンからも一誠と互角の力を持っていると評された尊が、ディオドラごときに負ける訳がない訳で、彼の圧勝となりました。最後のディオドラの不意打ちと無様な失敗は、ディオドラの卑劣でセコイ性格からして、まさに「お約束」という事で。

 今回登場した三人の敵、クルゼレイ、ディオドラ、シャルバ、この3人には共通点がありますね。高貴な血筋を誇るにも関わらず、それを鼻にかけて種族や地位で相手を見下す。他者から借りた力で無敵になったと勘違いし、それゆえに相手の実力を測れず、簡単に屠れると思った相手に無残な敗北を喫するといったところが本当によく似ています。

 次回はいよいよディオドラ編最終話。アーシアがシャルバに殺されたと思って覇龍化する一誠。次回は覇龍化して暴れまくる一誠と、それを止めようとする面々、そして事件の決着とその後の駒王学園体育祭での尊とレイナーレといった流れとなります。

 それでは、次回をお楽しみに!^^
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