出来損ないの転生魔術師〜三千年の時を越えて俺に会いに来たエルフがいるって本当ですか!?〜 作:☆あきつしま☆
で、ケイティの解説とエイエイオーが終わった後。
このまま三千年前の魔術を教えてくれる流れなのかと思っていたのだが……彼女は俺をじっと見つめてくるだけで何のアクションも起こしてこようとしない。
いや正確には、褒めて欲しいオーラ出しながら俺をじっと見つめてきているというべきだろう。
正直、俺に褒められても何の得もないと思うんだが……ケイティにとっては違うのかもしれない。
「……あー、お前はすごいと思うぞ。あんな難しい仮説を思いついたんだからな。えーっと、お、お前の主人として誇らしく思う」
「ありがとうございます! では、一つご主人様にお願いしてもいいですか?」
『お前の主人として』というところに照れがまじりながらもなんとか言い切ったのに……もうちょっと余韻というか、そういうものに浸る時間をくれてもいいじゃん? いや、浸ったら恥ずかしくなるだけかもしれないけどさ。
しかし、『お願い』か……。何を言われるのか正直怖いんだが……まあいいだろう。
「……ああ、いいぞ」
「ありがとうございます。では、私の頭を撫でていただいてもいいですか?」
あれ? 意外とまともなお願いだな。
もっと過激なものを言われるかと思っていたんだが……ほら、『抱きついてくれ』とか『キスしてくれ』とかさ。え? キモい? …………ノーコメントでお願いします。
「……俺が言うのも何なんだが、それでいいのか? 今までのお願いと比べて随分控えめなものだが……」
「ご主人様。ここは公衆の面前ですよ?」
「……そうだな」
ケイティにそういうことを言われることに何故か釈然としなかったが……彼女のお願い通り、俺は頭を撫でてあげた。
ケイティは目を細め、長い耳を高速振動させながら気持ちよさそうな顔をする。そんな彼女を見て、俺もだんだんと心が癒やされてきて……『あぁ……心が浄化されるぅ』……となっていたのだが、魔術訓練していたクラスメイトからの鋭い視線を感じて現実に戻る。
「――よし! もういいだろう! じゃあ、ケイティ! 早速魔術を教えてくれるかな!」
「……私的には、この授業が終わるまでずっと撫でていてほしかったのですが……」
勘弁願いたいことを言ってきつつもケイティは頭を切り替えてくれて、いよいよ俺は三千年前の魔術とご対面することになった。
「ご主人様。三千年前の魔術と言えども、別に難しいものではありません。詠唱するときに使う言葉をしっかりと覚えるのと、魔術を起動した時に起こるであろう現象を頭の中でしっかりとイメージできれば必ず起動するはずです。百聞は一見にしかず、ということわざの通り、自分で実際試すのが一番早いと思うので、早速先程私が使用した魔術を起動してみましょう」
ケイティは、小石を使って地面にさっき詠唱していた言葉を書いていく。
(やっぱりきれいな字だよなぁ……。俺のミミズみたいな字とは大違いだ。)
そんなことを思いながら待つこと数十秒。全文を書き終えた彼女が
「では、これを読みながらさっきの眩しい光を頭の中で想像して……詠唱してみて下さい」
と言ってきた。
ふむ。あの太陽が近くに現れた、みたいなイメージをしたらいいんだな? よし。
「光よ……我が道を……照らし導け!」
地面に書いている文字をぎこちなく読みつつ、俺は魔術を唱える。
すると……バチっと魔動電球のフィラメントが切れる瞬間のように、一瞬だけ眩しい光が目に入ってきた。最初に起動した『フラッシュ』とは全然違った、眩しい光だ。
「……ん? あれ? なんかケイティのものとは違ってしょぼいな。まともに魔術を使えたという点では大喜びするところなんだが……思ってたのと違う……」
俺はケイティみたいな視力を一時的に奪うレベルのものを想像していたのだ。欲を言えば、『天才魔術師アイゼア』の生まれ変わりなのだから、彼女よりもすごいことにー、みたいな? そんな期待を抱いていたのだが……
「確かに少し威力が低いですね。……おそらく、詠唱の時にスラスラと言えていなかったことが原因だと思います。ただ、それが主な原因だとは……。……これは確かめてみる必要がありそうです。というわけで、ご主人様。失礼しますね」
何やら思案顔をしつつ見解を述べているなぁ、と思っていると、ケイティは何の前触れもなく……いきなり俺にキスをしてきた。しかも舌入りのドギツイやつだ。
「ン゛!? ン゛ン゛ン゛!?」
突然の出来事に頭が追いつかず、思考が真っ白になる。
一瞬のうちに心臓の鼓動が早くなり、顔が真っ赤になっていく。ケイティの方も耳まで真っ赤にしていたが執拗に舌をねじ込み、俺に快楽を与え続ける。
『これ以上は理性での押さえが効かずに、ケイティを襲ってしまう!』となった瞬間、急に思考がクリアになり、先程まで感じていた興奮が消し飛んだ。そう、俺に掛けられていた記憶の封印が解かれたのだ。
「…………お前……さっきは『公衆の面前ですよ?』とかほざいていたのに……ようようやってくれたな……」
「失礼は承知だったのですが、『こちら』のご主人様の魔術を見たかったのです。記憶の封印を解除する手っ取り早い方法は『性的興奮』。以前のように胸を使っても良かったのですが、あれだと時間がかかってしまうのでキスをすることにしました。……その、ごちそうさまでした」
……何が『ごちそうさま』だよ。こちらこそ土下座して感謝するレベルだわ。でも……さっきからクラスメイトからの視線が刃のように鋭く俺に刺さるんだが、あれですか? こんな美人とキスをした代償ですかね?
そんなことを考えていたらあっという間に三十秒が経過してしまったのだが……前のように封印が元に戻る気配がしない。
「……あれ? 封印の解除って三十秒が限界じゃなかったのか?」
「いえ、あのときは初めてということでその時間だったのですが、今回は二回目ですし、それにこの前とは違って興奮度合いも段違い。つまりは『セロアドリン』が大量に分泌されているはずなので……そうですね。おそらく二分は持つかと思います」
ほうほう、なるほどね。
「じゃあ、今から俺が魔術を使ってみれば良いんだな?」
「そうですね。先ほどと同じものでお願いします」
そう言い残し、ケイティはタタタタッ! と俺から駆け足で離れていって……三十メートルほど離れた位置で止まる。
で、ケイティは俺に背中を向けて……両腕で大きな丸を作ってきた。魔術を使っていいよ、ということか。
……いや、そんなに離れる必要ある? さっきの威力と対して変わらんだろ。
ため息を付きつつも、俺は魔術を詠唱するための準備をする。記憶の封印が解けて分かったのだが、魔術を発動するときには適当に流れでするのではなく、色々と段階を踏んだほうが強力な魔術が繰り出せるらしいのだ。
そういうわけで、魔術の威力アップを目指す俺は、まず目を閉じて起動する魔術を思い浮かべる。記憶の封印が解除されたので、先程とは違ってかなり具体的な、かつ強固なイメージを描くことが出来る。まあ、全ての記憶に関する封印が解けたわけではないようだが……今はどうでもいいか。
次に目を開けて、魔力を左手に集中させようとしたんだが……ここで違和感を感じる。
さっきまでと違って、体にみなぎっている魔力の量が段違いに多くなっていたのだ。初めて記憶の封印を解除したときも、体の奥底から力が湧き上がってくるとは思ったが……こういうことだったのか……。
突然の魔力増幅に首をかしげながらも……使えるものは使おうということで、左手にその魔力を出来る限りかき集める。
「ご主人様!? 少し魔力を込め過ぎでは!?」
遠く離れたケイティが大声で俺に声をかけてくる。
(……これって込め過ぎなのか? 良く分からないんだが……)
しかし、ケイティが言うのだからそうなのだろうと思い、左手に溜めている魔力の量を半分くらいに減らす。
ちなみに、同じグラウンドで訓練をしていたクラスメイト達は知らない間にどこかへと行ってしまっていた。まだ授業中だと思うんだが……あれかな? お腹が空いて教室に戻ったのかな?
「……よし! 準備完了! そろそろ封印が元に戻りそうだしやるぞ!」
「お願いします!」
今度は地面に書いている文字を見ずに、左手を前に突き出しつつスラスラと三千年前の魔術を詠唱する。
「光よ、我が道を照らし導け!」
刹那。グラウンドに大人が一人スッポリ入るような大きさの光の球体が出現し……静寂の中、光の暴力が俺とケイティを襲ってきた。といっても、この魔術は最後を除いて攻撃魔術では無いのでただ眩しいだけだったが。ただし、目を開けていると網膜が焼け切れてしまうかもしれなかったので、ケイティと同じようにそっぽを向きながらまぶたも閉じる。
そうして耐えること数秒。ここでまさかのまさか。記憶の封印が元に戻ってしまい、今まで考えていたことをすっかりと忘れてしまう。最悪のタイミングだ。
(……ん? さっきまで何を考えていたんだっけ? 何かをしないといけなかったような気がするんだが……というか、これって何時まで続くんだ?)
自分が起動した魔術について訳が分からなくなった俺は、眩しさも大分マシになってきていたこともあり、かくれんぼのときのように『もういいーかい?』と心の中でつぶやきながら目を開けようとしたしたのだが……その瞬間。まるでその魔術の最後っ屁というような感じで猛烈な熱が襲ってきた。
まさかそんな事態に遭遇するとは露ほども思っていなかった俺は、何の対処もできずにその熱風をモロに受けてしまう。
「――アッツ! 熱ツツツ――ッ! ――ヒギギャー! なんかよく分からないけど死ぬぅううううううぅぅぅぅ……ぅぅ…………」
「――ご、ご主人様ぁ!?」
自分で繰り出した魔術でみっともなくも自爆した俺は、ケイティの駆け寄る足跡を聞きながらも地面に倒れ……意識を手放した。