出来損ないの転生魔術師〜三千年の時を越えて俺に会いに来たエルフがいるって本当ですか!?〜 作:☆あきつしま☆
この人怖い! と思いながらも、しばらくの間されるがままに励ましの言葉を掛けてもらって……なんとか立ち直った俺は、ここから抜け出す方法を彼に聞くことにした。
「もうそろそろ現実に帰りたいんだが、ここからどうやって帰るんだ?」
「それはね。ここの階段をこうするっと降りて……って言えたら良いんだけどね。帰り方は僕も知らないんだ。だって、君がなんでここに来たのか、いや、なんでここに来られたのかが分からないんだから。でも安心して良いと思うよ。きっと僕たちの自慢の嫁であるケイティがなんとかしてくれるさ。ハハ!」
そう言って、お気楽な彼は虚空からちゃぶ台とお茶、それとお菓子を出して、『暇だし一緒にここに座って話そうじゃないか』と言ってくる。
他力本願なのはどうかと思うが、今の俺に出来ることなど無いので彼の言う通り床に座って……おしゃべりをすることにした。
「そういえば、なんであんたはこんなところにいるんだ? 死んだんじゃないのか?」
お茶を啜りながら『そもそも』というところを聞く。
彼はお菓子であるせんべいをボリボリと食べながら俺の質問に答えてくる。
「確かに僕は死んだよ。だから、今ここにいる僕は僕ではないわけだ。うーん、説明が難しいね……。じゃあ、こうしようか。僕は『天才魔術師アイゼア』の記憶を封印している番人みたいな? そんなイメージをもってほしい。なんで番人の顔とか性格、記憶を『天才魔術師アイゼア』と同じにする必要があったのかとか、そういうことは考えないこと。僕もよく分かっていないからね。まあ、記憶を封印する時に僕の魔術を使ったから、こうなったのかもしれないけど」
……よく分からんけど分かった。あれだな? 数学の公式において、なぜこうなったか分かんないやつがあったら深く考えずにそうなるんだと思い込め、みたいな。そんな感じだな?
俺はお茶とともに彼の話を頭に流し込む。
「あ、一つ言い忘れていたけど、ここで見聞きしたことは目が覚めたら全部きれいさっぱり忘れるように設定してあるからね」
……理解した意味ねえじゃん。というか、じゃあ、今まで俺にあれこれ説明した意味なくね? いや、今この時においては意味はあるんだけどさ。
「まあ、その通りだね。僕が君にあれやこれやを話したところで意味はないかもしれない。でも、気は紛れるだろう?」
「……まあ……そうだな……」
また俺の心を読まれたが……まあ、悪い人ではなさそうだし、いちいち口に出さなくても相手が考えを読み取ってくれるのは便利だからいいか。
その後。話が途切れて手持ち無沙汰地になった俺は、彼が食べているせんべいを自分も試しに食べてみて、『結構固いお菓子だな』と思っていると……思いついたような感じで昔のケイティのことを話をしてきた。
「暇だし、昔のケイティについて話をしてあげよう。少し興味があるだろう?」
「……まあ、無いと言えば嘘になるけど……」
「なら、遠慮せずに聞いてくれていいぞ。そうだな……まずは、俺と彼女が出会った頃の話をしようか。君は彼女が奴隷として売られていたことは知っているかい? まあ、知らなくても奴隷の首輪をしていたんだから、なんとなくは分かるだろう。で、街で売られていた彼女を僕が買って自分の家に連れて行ったんだ。でも、最初はものすごく怯えていてね。当時は、エルフの血や肉を魔術の触媒として禁忌と呼ばれるようなものを魔術師はこぞって研究していたんだ。そういうことを彼女は知っていたんだろうね。だから、死んだような目をしていてね。普段料理をしない僕が結構頑張って手料理を振る舞ったら、余計にそれが悪化したんだよ。なんというか、絶望したような目になってね。いやー、あのときはまいったよ。あははは!」
……ケイティが初めて俺の家に上がった時、『汚いですね』というようなことを言っていたが……最初に目が死んでいたのって、家が汚すぎたからじゃないのか……?
「あー、そういう理由もあるかもね。あのときは魔術研究に明け暮れていて、ろくに掃除していなかったし、食べた食器とかも洗わずに適当なところに放置。カビは生え放題の虫もうじゃうじゃいたかもしれない。おっと、少し気持ち悪いことを言ってしまったかな? 心を読んでいることと共にお詫びしよう。で、次にいっていいかい?」
どうせ止めてもすぐにしゃべりだすだろうし、俺の知らないケイティを知ることができるというのは中々に面白かったので、俺は首肯し彼に話を続けさせることにした。
「それで、死んだ目をしたケイティをなんとか元気にさせたいと思ってね。色々頑張ったのさ。例えば……近くにあった高級料理店でご飯を食べさせてあげたり、今で言うところの遊園地に連れて行って一日中遊んでみたり、彼女を抱っこした状態で魔術を使って空を飛んでみたりね。その甲斐あって、徐々に彼女の目に光が戻ってきてね。今までは僕と一言も言葉をかわそうとしなかったのに、ある時初めて『ご主人様』って言ってくれたんだ。あのときは嬉しくて、思わず爆発系統の魔術を撃ってしまったよ。僕が住んでいた家の近くにあった大きな山が跡形もなく消し飛んだが……今となってはあれもいい思い出だ、うん」
「……そ、それは良かっ――」
「――あれだぞ? あの頃のケイティは今とは違って少女だったんだぞ? そんな彼女が『ご主人様』って……僕の目を見て言ってきてくれたんだぞ!? あっ……あの頃を思い出していたら、なんだか左手が疼いてきた……。ちょっと爆発系統の魔術を撃っても――」
「――やめろ!」
彼は『まあ、冗談だよ』と言いつつお茶を啜る。
……目が冗談を言っている人のものじゃなかったんだよなぁ……
「これが僕とケイティが出会ってから半年くらいまでの話だ。で、次に……といきたかったところなんだけど、どうやらそろそろお迎えが来そうな感じがするね。ケイティが今ここにいる君の存在を把握したらしい。言っていなかったけど、今の君はいわば魂みたいなものだからね。まあ、ここらへんはどうでもいいか」
「……いや、それはどうでも良くないと思うんだが……」
「そうかもしれないね。ただ、それよりも君に言っておかないといけないことがある。まあ、目が覚めたらここでの出来事は全て忘れるんだけど……完全に消去されるわけではないから。きっと、その時がくれば記憶の封印解除を行った時に思い出すさ」
そう言ってズズズ、と茶飲みに入っていたお茶を全て飲み終えた彼は、俺の目を真っ直ぐに見据えて口を開く。
「まず一つ。三千年前の戦いは終わっていない。どうやら人間側には『勝利した』と伝わっているようだが……正しくは戦術的勝利であって戦略的には敗北している。僕は勝てなかったんだよ。まあ、そういうところが色々と影響して、輪廻転生した際に僕の記憶を封印するような魔術を起動した流れになったんだけどね。彼に今の君を見つけられるのは不味いから。おっと、意味深発言をしてしまったね。まあ、そのとおりなんだが……今は知らなくていい」
何を言いたいのかよく分からなかったが……まあ、その時が来たら分かるんだろう。
俺は『なるほどね』と相づちをうつ。
「で、二つ目。これから君の周りには様々なことが起きるだろう。これは仕方のないことなんだ。といっても、ほとんど僕のせいだから、どの口が言うんだ? となるかもしれないけど……まあ、僕は君で、君は僕なんだから後は宜しく! って感じだね。頑張って!」
肩をぽんぽんとして親指を立ててくる。
なるほど。つまりは、良くわからないが彼の尻拭いをさせられるわけだな?
「……そういうことだね。ただ、悪いことばかり起きるというわけではないと思うよ? ケイティの例もあるんだし。おっと、そろそろ時間だね。じゃあ、あと一つだけ。今の君とケイティだけでは足りない。君たち二人だけでは第一関門も突破できないと思う。だから、もう一人、探すんだ」
……何を言っているんだ? さっきよりも一段階、訳の分からなさが増したんだが……
「省きすぎたかな? うーん、簡潔に言うと、仲間をもう一人増やさないと近いうちに『死ぬよ』ってことかな」
「いや、俺、一回死んだんだけど……」
「それは君が悪い。そうではなくて、敵となるものに殺されるよってことだね。まあ、あまり深くは考えずに、仲間を探すんだ。と言ってもこれも忘れるんだよね……。心配しなくていい。あの人はすでに君と接触している。意外と近くにいる人物さ。今は……ちょっと距離をとっているらしいけどね。っと、ケイティがどうやら君をここから引き上げ始めたみたいだね」
俺の体が突然宙に浮き、徐々に上昇をし始める。
……色々おかしな展開だったが……なにやら今後の鍵になるようなことばかり教えて貰ったような気がする。あ、ケイティの昔の話はそれには当てはまらないが。
「じゃあ、これから上手くやるんだよ! あと、ケイティはもちろんのこと、次に現れるであろう人もちゃんと大事にするんだよ! 彼女も君のこれからのパートナーになるはずだから! ないがしろにしたら『神罰』が下るかもよ!」
「最後の最後で面白いジョークを言ってきたな! じゃあ俺も笑い方を真似して……アハハハハハ!」
彼は俺の言葉を聞いて心配そうな顔をしていたが、さっきのお返しとばかりに俺もグッジョブマークを作って……この謎の空間から抜け出した。