出来損ないの転生魔術師〜三千年の時を越えて俺に会いに来たエルフがいるって本当ですか!?〜 作:☆あきつしま☆
ゴシゴシゴシ……ゴシゴシゴシ……
「ご主人様。かゆいところはないですか?」
「……いや、ない」
ゴシゴシゴシ……ゴシゴシゴシ……
「ご主人様。力加減はいかがですか?」
「……いや、特に言うことはない」
ゴシゴシゴシ……ゴシゴシゴシ……
「ご主人様。私に対する返事が淡白すぎるのでアウト判定です。さっきのと今のを合わせてツーアウトなので注意してくださいね?」
「…………」
現在。俺はケイティに頭を洗ってもらっている。
かゆいところはないし、力加減も最高だ。でも……やっぱこのケイティ怖えよ!
彼女がチラチラと俺の視界に入ってくるんだが、ずっと暗い笑顔なんだよ! 目のハイライトがないんだよ!
ある意味ホラー。いや、完全にホラーですわ。
ゴシゴシゴシ……ゴシゴシゴシ……
「ご主人様。これが終わったら次はお体のほうを洗わせていただきますので宜しくお願いしますね」
「…………いy――」
「――いいのですか? 本当に今言いかけた言葉でいいのですか? 次はスリーアウトですよ? そうなったら……そうですね……あ! いいことを思いつきました! ご主人様の体とか心臓に風穴を開けるのはどうでしょうか! ご主人様、昔『俺はハートを撃ち抜かれるのが好きなんだ』とか言っていましたし!」
まばゆい笑顔でそんなことを言ってくる。
……なるほど。おそらくはケイティの言っている意味と昔の俺が言っている意味が噛み合っていないと思われるが……もう時既に遅し。今の俺が何を言っても『うるさいですね。パンッ!』で撃たれて終わりだ。
俺はこの状況をどう打破しようかと考える。
……ふむ。……ふむふむ。……ふーむ。あっ……なんも思いつかないや。
いやー、こっちの俺は全く役に立たなくて辛いですな。地頭は良くないし、魔術をまだまともに使えないから実力行使で黙らせることも出来ないし……。
まあ、そういうわけでハート(心臓)を撃ち抜かれる未来を変えることは出来ない俺だが……どうせ撃たれるなら俺の好きな人に撃たれたい。ちょうど今、俺にはそういう人がいるのだ。
「……俺はお前に体を洗ってもらうわけにはいかない。特に前に関しては絶対に洗ってもらうわけにはいかない。これは最後の砦だ。今は高い塔の様になっているが……なんせ砦なんだ」
「……おとなしく私に洗われていれば痛い目を見なくて済んだのに……仕方ないですね。じゃやスリーアウトなので、これから――」
「待ってくれ。今から殺られるのは受け入れよう。だが、どうせなら好きな人に殺られたい。俺が大好きで大好きでたまらない人だ」
「……えっ……それって……」
ケイティの目にハイライトが戻り、彼女の顔が真っ赤になっていく。
呼吸が早くなっていく彼女とは対照的に、俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。
いざ言うとなると緊張するもんだ。今まで一度もこういうことを言ったことがなかったからな。
深呼吸を十分な数して落ち着いた俺はケイティの目を見据える。
彼女は俺の目線を受けて少しビクッとしたが……恐る恐るというような、それでいて期待の色が混じったような感じで俺の目を見てきていた。
よし、言うぞ! 俺は言うぞ!
「ケイティ」
「……は、はい……ご主人様……」
「今までは言ってこなかったんだが……俺には好きな娘がいてな……」
「……ゴクリ…………そ、それって……もしかして……」
「……ケイティは知っていたのか? 流石だと言わざるを得ないな。ただ、俺の口からも直接言おう。……コホン。俺が殺られてもいいと思うほど好きな娘は……俺が命を捧げてもいいと思うほど好きな人は――」
「――ご主人様……急にそんなことを言っていただけるなんて私、うれし――」
「――『紅蓮のアリア』に出てくるリーサちゃんだ!」
「…………はい?」
刹那。ケイティの目のハイライトが消える。
……まあ、分かっていたさ。こうなるとは思っていたし。てか、流石の俺も『たぶんこれ、ケイティ何か勘違いしているな』って気づくわ。様子が明らかにおかしかったし。でも、それでも一応お決まりって感じがしたから流れに身を任せていただけだし?
ただ、ここまで来たんだ。彼女の様子からしてリーサちゃんを演じてくれるとは思えないが、リーサちゃんに対する思いを口に出してから殺られたい。
俺は恐ろしい雰囲気を醸し出し始めているケイティに負けないように腹に力を入れて愛を語り始める。
「リーサちゃん。彼女は大人気ラノベ『紅蓮のアリア』の中盤辺りに初めて出てきた子なんだ。その子はおしとやかな感じで、主人公一筋。なにか素晴らしいことがあると『モーイ!』っていうオランダ語をよく口にするんだ」
「…………」
「でさ。その子は戦う力はないんだけどお金の工面に関しては色々出来てな? 主人公を生活面で支えていくんだよ。まあ、主人公が戦闘面で彼女を支えていく、みたいな感じだったからギブアンドテイクって感じなんだけどな」
「……………………」
「でさでさ。その子が主人公に猛アタックを仕掛けていくわけ。ちゃっかり夜伽もしようと迫るわけ。暗い部屋でも色々なところが見えるくらい薄い寝間着を着てな。でも主人公は訳あって興奮しないように自制するわけ。もう、そのやり取りも良くてな……。あそこを初めて読んだときはまじで羨ましいと思ったね。というか、リーサちゃんはメイドさんなんだけど、何処に言っても主人公にべったりだから読んでいて思わず『ムフフ』とか気持ち悪い声が出るっていうか。分かる? いやー、これはぜひとも分かって欲しい。というか、話していたらまた読みたくなってきたな……。ケイティ、どうだ? もし俺が生きたまま風呂を上がることが出来たら一緒に読まないか? あ、アニメも録画したものが――」
「――ご主人様。記憶が無いから仕方のないことかもしれませんが私、他の女の話をされるの大嫌いなんです」
「……え?」
ずっと黙っていたケイティがイライラした様子で口を開いてきた。
……ふむ。なんだか不穏な空気になっているが、俺的にはリーサちゃんについてある程度愛を語れたしもう満足だ。何時殺られてもいい。つまりはどういう応対をしても怖くないということだ。
開き直った俺をよそ目にケイティが話を続ける。
「私はご主人様一筋です。だったら、ご主人様も私一筋であるべきですよね?」
「まあ、そうかも知れないな。俺的にはハーレムが好物だが」
「ご主人様がハーレムを形成しようとするならご主人様を殺して私も死にますから」
「……話は変わるがケイティ。リーサちゃんのコスプレをしてから俺を処刑するっていうのは出来ないのか?」
「露骨な話題逸らしと他の女の話、それとその女の格好を私にしろという屈辱的な注文。これはもうアウト関係なしに風穴ですね。いえ、蜂の巣でしょうか」
「……そっかぁ……駄目かぁ……」
ケイティは『ちょっと待ってくださいね』と言って泡のついた手をお湯で洗い流し、タオルで水気をとった後、異次元収納空間から拳銃を取り出した。
ジャキッ!
「大丈夫です。私はご主人様を殺したりはしません。でも、お仕置きは必要ですから。少し痛いですが……安心してください。怪我は私が治癒魔術で全て治します。ええ、しばらくは動けない状態レベルまでは治しますとも」
「そっかぁ……」
「ではごきげんようです」
パンパンパンッ!
容赦なくケイティは俺を撃ってきた。
拳銃から発射された超高速の弾が俺の体を貫き……血が一気に抜けていく。
なるほど。一瞬激痛が走ったが、すぐに痛みが消えて気持ちよくなってきた。ケイティが何かしらの魔術を使って痛みを和らげてくれているのだろう。なんと優しいんだろうか。まあ、力がどんどん抜けて立っていられなくなって今地面に倒れたけど。
「ふふふふ……大丈夫ですよ、ご主人様……。私が、私がずっとついていますからね……リーサとかいう女がいなくても私が満足させてあげますよ……」
「……リーサちゃんは……今のヤンデレケイティとは違って……もっと優しくて……おっぱいめちゃくちゃ大きくて……癒やし系――」
パンパンパンッ!