出来損ないの転生魔術師〜三千年の時を越えて俺に会いに来たエルフがいるって本当ですか!?〜 作:☆あきつしま☆
食事を終えて。
俺はいつもの習慣通りに食後すぐに風呂に入り……その後に彼女にも入ってもらう。
レディファースト? 俺が『ご主人』らしいからそんなものは関係ない。まあそれは嘘だが、ちゃんと聞いたんだぞ? 『先に入るか?』って。そしたらケイティが『ご主人様よりも先に入るなど恐れ多くて出来ません! でも……一緒に入っていただけるなら……』とか言ってくるもんだから、俺が先に入ることになったんだ。俺は悪くない。
まあ、そんな感じで彼女が風呂から上がるのを待っている間、俺は居間にある小さな魔動テレビを付けてゆっくりしていたのだが……ふと、あることに気がついた。
「そういえば……ケイティはパジャマとか持っているんだろうか……?」
そう、下着はもちろんのこと、パジャマを持っているのかどうか分からなかったのだ。
出会ったときも、ここに来たときも手ぶらだったから、おそらく持っていないんだろうが……この家には女物の服とかないしなぁ……仕方ない。不本意ではあるが俺のパジャマを貸してあげるか。
ということで、俺の寝室にあるタンスから服を取り出そうと腰を上げた瞬間、ガチャリと居間と廊下を仕切る扉が開いて……クマ耳が付いたフードを被ったパジャマ姿のケイティが現れた。
……えらい可愛い服だな。
でも……
「なあ、俺はそんな服は持っていないんだが……どこから取ってきたんだ?」
そう。そんな可愛らしいものを俺は持っていない。というか、持っていたら変態扱いされる。
何処かに隠し持っていたのかと思っていたのだが……ケイティは何の脈絡もなく突然、自分の胸に右手を突っ込んで……すぐに引っこ抜いてきた。
「お、おい! いきなり何をーー」
「ご主人様が何をそこまで慌てているのか分かりませんが、先にこれをお渡ししておきますね」
俺の慌てぶりが不思議で仕方ないような顔をしながら……銀行の通帳を渡してきた。
……え? なぜにこれを? というかどこから出したんだ? さっきまでこんなものは無かったはずだぞ……
「私はご主人様の奴隷です。奴隷契約がなくとも、ご主人様がたとえ生まれ変わろうともずっとあなたの奴隷なのです。と、奴隷契約の代わりにご主人様の奴隷です宣言をしたところで、その通帳の中身を見ていただけませんか?」
俺の求めていた回答ではない。というか、会話が噛み合っていないような気がするが……でも……なんか良く分からないけどめちゃくちゃ気分がいい。いや、クズみたいな感想だけど、分かんないかな? 彼女は『自分は俺だけのもの』と自ら宣言してきたのだ。これを聞いて気を悪くする男はいないと思う。いや、それは言い過ぎか?
俺は、にやけそうな顔をなんとか引き締めながら……通帳をペラペラとめくって見てみる。
「えーっと、……預金が……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せんまん……一億……十億……え? 約二十億ギーギル……?」
もう一度慎重に数えてみても、桁は間違っていないようだ。
なるほど。……なるほど?
金額がでかすぎて良くわからないが、現代では三億ギーギルあれば一生遊んで暮らせると言われている。
それよりも遥かにでかい金額なので……おそらくは子孫まで遊んで暮らせる金額だろう。
ほうほう。なるほどねー。
「その前に。この通帳って何処から出したんだ? あと、その着ている服も何処から取ってきた?」
少し頭を冷静にするために、まずはさっきから気になっていたことを聞く。
「どちらも異次元収納空間からですよ? 大抵の人は胸辺りにその空間へとつながる魔術的な穴を開けているはずですが……ご主人様にもありますよね?」
なんでもないことのように話してくる。
……そ、そういえば、周りの人達はそんな便利な空間を持っているんだった……
異次元収納空間とは、言葉の通り異次元に設置している収納空間のことで、その空間の広さは無限、入れられる物の大きさの上限もなし。おまけに収納した物の重量はゼロになるという超便利な空間だ。一人につき一つ作ることが出来る。
ちなみに、魔術を少しでもかじった人は、誰でもその空間を作ることが出来るらしい。
だが……出来損ないの俺は、初心者でも作ることが出来る空間を作ることが出来ず、結局途中で放り投げてあきらめてしまったのだ。
……くっ……これだから天才たちは……!
しかし、俺はここで嘘をつこうかどうかを迷う。正直、俺が魔術を使えないことは何回も彼女に言っている。ここで見え透いた嘘をついても……すぐにバレるだろう。
(まあ、ここらへんのことは嘘をついてもしゃあないもんな)
というわけで、事実を彼女に伝えることにした。
「……そんな便利な空間は持っていない。俺は異次元収納空間を何故か開けられなかったんだよ」
ケイティがどう出てくるのかと思って身構えていると……彼女は何も言わずに俺の頭を優しく撫でてくる。
あぁ……バブミを感じるぅ……ではなく。高校生にもなった男にそんなことをするなんて言語道断だ。注意しなければ。
「おい。気安く触るんじゃない」
「……あっ、すみません! 私が落ち込んでいると元ご主人様がよく頭を撫でてくださっていたので……つい……いや……でしたか……?」
「…………別に……嫌じゃないけど……」
「ーーじゃあ、しばらくこうしていますね! ご主人様、心配しなくても大丈夫です! 今は魔術を使えなくても、必ず立派な魔術師になりますから! いえ、私が立派な魔術師に育てます!」
謎の自信とやる気をケイティがみなぎらせる。
ポジティブだなぁ……と思いながら、彼女の気が済むまで頭を撫でさせてあげた。