すいません、そこの貴方。あ、そうです貴方です。すいません、つかぬ事をお伺いしますが、腐った魚のような目をした男子高校生を知りませんか?今の私と同じ制服の・・・?
あ、やっぱり知らないですよねすいません。突然失礼しました。では私はこれで、ありがとうございました・・・え?知り合いなのかって?い、いやー、面識はないんですよねこれが。ああ、すいませんお気になさらずに!では今度こそ失礼します!
そう言って薄桃色に髪を染めた女生徒から離れる。どうやらかなり気にしてくれているらしい。どんな人なんですか、と聞かれたが目が腐ってて犬庇って車に轢かれるような男子高校生です、と先程聞いた時の誰それ?っていう貴方の顔がもう全て何ですごめんなさい。
何となく予想はしていた。してはいたが外れて欲しい予想だった。
ヤバい、この世界の原作主人公居ないんですけど。
・・・いったいどういうことだってばよ!
◻️◻️
早いもので、生まれ直してからもうすぐ17年になる。
そう。生まれ直して、だ。今の俺は俗に言う転生者と言う奴だ。しかも神様にあって特典貰えるタイプの方。
当初はどんな世界か教えて貰えず、ある意味かなり厳しい世界だ、としか説明されなかったので、2つしかない特典で手堅く生きられそうなものを選んだ。
どんな恐ろしい世界なのかと戦々恐々としてたら普通に現代日本だったので、これはまさかゾンビ系とか言い出さないよな!?と心底ビビりながら特典をフルに使って色々備えながら生きてきた。
しかし一向にゾンビが日本に溢れることも無く、魔法少女が宝石みたいな石を巡ってゴン太レーザー撃ったりもしない。釈然としないまま生きて、14歳の頃、このまま普通に高校受験できるのか?と思ったらそこでようやく気付いた。
総武高校。
生まれ直して随分時間経ってたから直ぐに思い出せなかったが、どっかで聞いたこの学校の名前がどうしても気になって、必死こいて頭の中を掘り起こすように記憶を漁って、ようやく思い出した。
あ、これ俺ガイルだわ、と。
俺ガイル、正式名称は確かやはり俺の青春ラブコメはまちがっている、だったか。ちょっと既にうろ覚えだが、そんな感じの名前の奴だった筈だ。
目の腐ったぼっち系主人公が、何か凄いめんどくさい人間関係を経て青春しちゃう、そんな感じの内容だった気がする。うん、ヒロイン候補がたくさん居たのは覚えているが、顔は何となく思い出せるけど名前が全然出てこない。参った。
まぁでも、この世界に転生したからにはたぶん何か意味があるのだろう。主人公が原作と違って上手くヒロインと仲良くなれないとか。きっと俺はその仲立ちとかすればいいのだ。たぶん。
必要なければ傍観してれば良い訳だしね。うん。ならこの高校行くかー。いやまぁゾンビ系じゃなかったと分かって良かったな。うん。崩壊した世界でも生き抜けるように武器とか食料とかその他日用品スーパー備蓄しちゃったけど。うん。今までの俺の努力完全に方向性間違えてたけど良かった良かった。この時点で14年くらいの時間無駄にした気がするけど良かった・・・はぁ。
そんなこんなで俺は意外と偏差値高くてちょっとヤバいこの高校に頑張って合格した。いや、嘘。ごめん。特典の力で余裕のよしこさんでした。武力系の特典オンリーにしないでほんと良かった。
で、入学してから俺は1年間をぼちぼちぼっちでそれなりに過ごしてきた。いや、最初は主人公探したんだけど、全然見つからなくてさ。よくよく思い出してみたら、そういや主人公って確かヒロインのワンコ庇って車に撥ねられてしばらく登校してこないんだっけ?それでぼっちになったとかそんな感じだったなと思い出して、仲良くなるのは主人公が現れてからでいいやーって思ってたんだよね。
んで、その間にちょっと特典使って将来に備えて金儲けしてたら夢中になっちゃって、原作主人公とか完全に忘れてた。ヒロインもそういやそれっぽいの居るなぁと思ってはいたけど、原作主人公と一緒に絡もうと思ってたし向こうもぼっちに意味もなく構うような性格ではないから互いにガンスルー。唯一覚えている平塚先生は1年担当してないから絡み皆無って言うね。
そんで2年になってようやく思い出した。あ、そういや原作主人公見てなくね?って。いやー慌てて探したよね。初めて全クラス歩き回ったわ。
そして気付いた。どのクラスにも目の腐った男子が居ないって。ひょっとして学年間違えたのかと思って調べたら由比ヶ浜と雪ノ下(ようやく名前思い出しました)はきちんと居るし、何なら担任の先生は平塚先生である。
ここに来てやっとこさ俺は気付いたんだ。あれ、何かおかしくない?って。ひょっとして主人公再構成されて、苗字変わったり腐った目じゃなくなったり先輩か後輩になったりしたのだろうか、と今更焦って調べたんですよ。うん、唐突に全学年の中から1人の生徒探そうとしたから、やり方が全くわからず今までほぼ絡みの無かった平塚先生に名簿見せてくれ、何ならここ5年ほどの全部!っていきなりぶっ込んでしまった。
凄い怪訝な顔されたし何か怪しい人間と疑われた。正直自分でもやらかしたという自覚はある。反省した。
だけど流石に原作でもスーパー面倒見の良い先生なだけあって何だかんだ平塚先生は協力してくれた。でも分かったのは上の学年に城廻先輩と卒業生に雪ノ下陽乃の名前を見つけただけだった。
めっちゃ落ち込んだ。落ち込みすぎて協力してくれた平塚先生が凄い心配そうな顔してラーメン奢ってくれたくらいだ。その優しさに思わずウルっと来たけど、直ぐにそれどころじゃ無いってまた慌て始めた。
ひょっとしたらここは原作ではなくていわゆる二次創作の世界で、何か別の作品とクロスオーバーしてるのでは!?と思いついて、今度はその時たまたま思い出した知ってるクロスオーバーの元ネタを裏付けるものを探し出した。学園艦とかVRとかネイバーとか。当然の如く全然見つからなかった。
で、どうしようも無くなって、ひょっとしたら主人公死んだのか?と思って事故の原因であるピンク髪のなんちゃってビッチ由比ヶ浜さんに思い切って確認してしまった。
流石にあなたのわんこが原因で人間死んでませんか?とか聞けないので遠回しに聞くことになったけど。そして驚愕の事実が発覚した。
そもそもこの世界の由比ヶ浜さん、わんこ飼ってないらしい。
ウッソだろお前。
なので当然犬が原因での原作主人公の事故も無かった。そりゃそうだ。
・・・なので、非常に困った事に、どうやら俺が主人公のサポートの為にわざわざ入ったこの学校には、そもそも主人公が居ないようだ。その事に気付くのに1年掛かった俺が馬鹿すぎて辛い。
あまりにも自分が馬鹿すぎてちょっとヤケになって、今までを振り返って、みたいな作文に思わず「過去など要らない!ゼロにしてくれ!全部ゼロにッッ!」とかって書き殴って提出した。後先一切考えてなかったけど少しスッキリした。
当然の如く担任の平塚先生に呼び出しくらった。お前はどこの魚人族の王子なんだって凄い頭痛そうに怒られた。流石にここまではっちゃけた事書いた奴は他に居ないらしい。そりゃそうだ。
だがここでも俺はまたやらかした。この作文が何なのか完全に忘れていたのだ。そういや原作主人公もこんな感じで奉仕部に所属する羽目になったんだっけ?と何かふわっと思い出したと同時に平塚先生に罰を言い渡され、これはマズいとあーだこーだ言い訳してたら、衝撃のファーストブリットを食らわされ、あれよこれよといつの間にか空き教室に連れてかれてた。
うっわ、人気のない空き教室に生徒連れてきてどうするんですか!どうせ酷いことするんでしょ!?えろ同人みたいに!エロ同人みたいに!!
思わずこれまで平塚先生に口にした事の無い軽口が飛び出した。平塚先生は一瞬面食らった様だったが、すぐさま撃滅のセカンドブリットォ!と殴ってきた。痛い。
「どうやら未成年には不適切な書物の知識もあるようだな?・・・後で罰を追加してやる。感謝しろよ。」
まず暴力にしろエロにせよ、生徒に手を出すなよ・・・ってツッコミ入れたら抹殺のラストブリットまで飛んできた。だが甘い!ラストブリットがラストに使われたことは1度もないのだよッッ!なので避けた。バックステップで距離を取り、早く出せ、シェルブリットを・・・ッッ!って言おうかどうか悩みながら絶影とか傍にいそうな立ち方しておく。そのまま2人で睨み合ってたら突然教室の扉が開いて、美少女が現れた。
や せ い の び しょ う じょ! が、あらわれた!
大事なことなので2度言いました。凄い美少女が出てきた。
「平塚先生、部室の前で大声で騒がないで下さい・・・こちらの、野暮ったい彼は?」
「ああ、すまない雪ノ下。つい夢中になってしまった・・・紹介しよう、新しい部員の榊 貴一だ。榊、自己紹介しろ。」
え、何それ初耳。どーも榊です。何か新入部員らしいんですけど、この部ってそもそも何部ですか?入部特典とかあります?
脊髄反射でテキトーに返事したら原作主人公並になんか罵倒され始めた。その罵倒とかを聞き流しながら俺は思った。
あれ.原作主人公が居ないってことは、彼が関わることによって起こるはずだった青春イベントのあれこれや、人間関係の改善っていったいどーなるの?
・・・当然ながら、答えなどあるはずも無かった。