サキサキとの出会いは力込めようと思ったら込めすぎた。だが反省も後悔もしていない。
どうも、貴一です。神様転生者です。
個人的な事を言わせてもらえば、甘いカレーは苦手です。
じー
それで、ゆいにゃんが失敗したのは見てたけど、セツのんはどうだったの?直接本人に話を聞きに行ったんでしょ?
じー
「…そうね。少しだけ話してみたけれど、駄目ね。夜更かしの理由やそれに近い事を聞こうとすると、はぐらかされたり無理矢理話を打ち切られたりされたわ。聞かれたくないって感じね」
じー
「…あたしの時もそんな感じ!よく分かんないけど、かなり頑なな感じだったよ」
じー
ああ、そっちは見てたから分かる。実は俺の方でも動いてみたんだが、あんま効果無かったな。
じー
「…聞いてないのだけれど。貴方が動く時は事前に連絡を入れなさい。何を仕出かすかわかったものではないのだから」
じー
や、そんなに褒めるなよ照れる(*´д`*)
ゆーて大したことはしてない。今日も遅刻してたみたいだから平塚先生に確認したら最近遅刻増えてんだってよ。なのでそのまま平塚先生に話をして貰ったんだが……まぁ手痛い反撃貰って平塚先生では無理だった。
や、まさかあんな当然のように結婚の事を出せるとは。お陰で平塚先生を宥めるの大変だった。昼飯の時間無くなるかと。
じー
「…それでお昼遅かったんだね。お陰であたし達までお昼遅くなっちゃったじゃん、バカ」
じー
いやそれは俺悪くなくない?俺の飯を横取り狙って自分の飯持ってこないのが悪くない?というか用意してあっただろ炊飯器に炊き込みご飯!冷蔵庫内にチンして温めるハンバーグもサラダ付きで入れてあったやないか!
じー
「……貴方を待っていてあげたのよ。感謝しなさい。じー」
「そうだよ!サカキン来てからの方がトッピング増えるし!じー」
じー
じー
明らかにトッピング目当てやないか!というかな、トッピングにハンバーグもう1枚って何だし!ただでさえ2枚あったやないか!400gあったやないか!おまけにとろけるチーズ3枚も追加とか…!いや2人とも最近ホントに食いいね!俺としては嬉しいけど体重大丈夫!?俺朝と夜は管理してないからあんま食べ過ぎるとどうなっても知らんぞ?
「じー、うぐっ、だ、大丈夫だし!つーか女の子に体重の話すんなしサカキンのバカっ!…あっ、じー!」
「じー……余計なお世話よ。これでも最近は夜を減らしているし、家に帰ってからのランニングも始めたわ。なんの問題もないわ。じー」
じーじー
じーじー
「いや問題アリアリだろ。あんま遅くに女子一人でランニングとか良くないぞ。気をつけろよ?」
「じー、そう思うのなら夜のランニングの時間を、もう少しハッキリしてくれないかしら。あと速すぎよ。もっとゆっくり走りなさい。…それで、何時まで無視してるつもりかしら?じー」
「え、何それズルい!あたしも一緒に運動する!!あっ、じー!そうそう、早く楽になっちゃった方がいいよサカキン!じーじー!」
じー!
じー!
ふーははは、なんの事だか分かりませんなぁ!ぼっちの鋼メンタルを舐めてもらっちゃあ困りますな!こちとら一人で焼肉屋とか行けるんでね!人の視線がどれだけ刺さっても平気なんですぅー!無駄無駄無駄ァ!ふーははは!
てか最近ちょっとランニングの時間被ってんのわざとだったのか。またストーカーだのセクハラだの言われっかと思って敢えて時間合わないようにしてたのに。ゆーていつも後ろからひっそり着いていってはいたんだが。毎回ダッシュで後ろ回ったりして。ほら、やっぱ心配だしね!
「…全然気が付かなかったのだけれど。貴方ストーカー能力高過ぎじゃないかしら。というか、そんな事するなら最初から声を掛けなさい!」
「な、なんかあたしだけ運動してない……あ、あたしも!あたしも一緒に運動する!2人だけダイエットなんてさせないよ!って、あ!駄目だよゆきのん!じー!じー!」
「あ、そ、そうね。…じ、じー!」
えぇ?なんかまた明日って別れた奴とその後に遭遇しちゃうと恥ずかしくない?というか声掛けて良かったのか。次は気を付けよう。あと俺はダイエットじゃないぞゆいにゃん。というかもう良くない?効果ないぞ、それ。
「くっ、強情ね榊君…!」
「良くない!早く観念しろサカキン!」
ヤダね。悔しかったら取ってみるがいい!
最も?それが出来ないから俺の首を親の仇のようにただ睨むしかない訳ですがねぇ?
「ぐぬぬ、そのネックウォーマー早く外しなよサカキン!見てて暑苦しいよ!」
「そうよ榊君、貴方の見た目が著しく景観を損ねているのよ!いい加減外しなさい!」
だが断る!何故なら俺の見た目は元々モサモサしてると言われている!今更ネックウォーマーひとつで景観に与える影響が変わるものか!元々俺の存在が空間に最大限野暮ったさを与えている!外した所で変化などない!俺は俺のままで既に!既に暑苦しいんだよォォ!!
「いやだから髪切りなよサカキン」
「良い美容院を紹介するわよ榊君」
や、丁重にお断り申し上げるぜ!なんか美容院とか響きがもう面倒臭いし。その辺の1000円カットで十分。てか男が美容院行くって何かチャラい感じしない?床屋の方が硬派な響きあるよね。
「美容院にどんな偏見持ったらそんなイメージを抱くのかしら。私としては床屋という場所に馴染みがないから分からないけれど」
「あたしも床屋は行ったことないから…でも床屋って見た目気にしてない男子が行くイメージ?」
いや、見た目を気にしてる男子がもうなんかチャラいと思う。トイレの鏡の前で前髪何十分も弄ってるような奴ってだいたい髪の毛染めてる奴だし。女子のそーゆーのは許せるが男子のはキモい。つまり美容院行ってる男に好印象なゆいにゃんはチャラい。ビッチ。
「ビッチじゃないっ!!サカキンのバカ!というか女の子は見た目に無頓着な男子より気にしてる男子の方が基本的に好印象だから!ねー、ゆきのん?」
「えっ、私に同意を求めるの?そ、そうね、まぁ何日もシャワーを浴びないような男性相手では好意的に見ろ、という方が無理ね」
「ほら、ゆきのんもこう言ってるじゃん!」
いや見た目に無頓着、と不潔かどうかはまた別な気がするが。というか俺は男女問わず何日も風呂入んない様な奴は無理。それが女なら許せるとか女子って凄いね。ちょっと引くわ。悪いけど俺はゆいにゃんだろうとセツのんだろうと何日も風呂入ってないとか言い出したら普通に距離取るぞ。臭いが改善されるまで物理的に3mは離れる。
「!?いやいやいや!そんな事言ってないから!というか何でもう距離取ってんの?!あたしはちゃんと毎日お風呂入ってるから!」
「由比ヶ浜さん……流石にそれは、ちょっと」
「ゆきのんまで何言ってんの?!入ってる!あたし毎日ちゃんとお風呂入ってるってば!何なら朝もシャワー浴びてから学校来てるってば──!」
いや知ってるけど。むしろ毎日風呂入るとか日本人の常識ですしおすし。そんな事大声で宣言されてもちょっと対応に困る。てかゆいにゃんもセツのんも風呂入ってなかったらすぐ気付くわ。俺チーターだし。何ならゆいにゃんが戸塚の依頼のあとくらいからシャンプーだかリンスだかを変えたことも知ってるわ。撫でる時ふんわり鼻にくる香りと髪の毛の質感違うからな!セツのんは元からサラサラだけども、最近のゆいにゃんつやっとすべっとしてるのだ!
とか言ったらセツのんに唖然とした目で見られた。ゆいにゃんは真っ赤な顔で酸欠の鯉みたいに口をパクパクさせてる。お?これ言い過ぎたやつ?チラッと彼女達の手元を見ると、2人とも本を読んでいたのでそれぞれ漫画を手に持っている。最近はオタク知識の布教も進みつつあるなと思いつつ、あれが飛んでくると予想。
だが甘いな!今日の俺にはこの懐かしの防災頭巾があるんだよ!しかも俺が小学生の時に自作しためっちゃクッション性を高めた分厚いタイプ!彼女達の膂力で放たれる単行本など怖くはない!さぁこい!見事防いで……いや、アレ?全然来ないな。時間差攻撃?
「サカキン、気付いて…くれて、たんだ。なんかちょっと意外かも」
「貴方、そういうのは分かるのね……」
あれ、何か攻撃する気配ないな。いつもならセクハラ扱いなんだが。女子の琴線分かんねぇなほんと。え、香りの違い?や、そこまで詳しくは分からんよ。違う事は分かるけど。強いて言うなら今のやつの方が髪の毛の手触りはいい気がする。香りの好みとか言われても、シャンプーの香りに好みができるほどシャンプーに詳しくないので分かりません。俺はメリット以外使わないし。
というか、俺は人の顔と名前を覚えないだけで覚えた人間の変化に気付かない男ではないぞよ。いや、平塚先生のアレは分かんなかったけど。そう、何気なく俺は人を見ているのだっっ!え、セツのん?セツのんはよく分かんない。いつ見てもだいたい美少女だし。ほんの少しだけ髪の毛切ったぽい事しか分からん。
「……本当によく見てるのね。少し、いいえ、普通に気持ち悪いわ」
ふ、それほどでもあるぜ!自分でも言っててちょっと気持ち悪いと思ったから言われる心構えは出来ていた!なのでダメージは少ない。
つかそろそろ話戻そうぜ。実際どーすんの、川崎姉の方は。
なお、何か戸塚に聞いたら毎日学校が終わったらそっこーそそくさと帰ってるらしくて、平塚先生に聞いたら遅刻が増えてる。そんでもって川崎少年に聞いたら家に全然帰って来てない。つまり学校帰りになんかやってる訳だ。
「それに川崎君の話にあったエンジェル何某という店からの電話、という情報を加味すると、十中八九バイトかしら?」
「ま、だろうな」
「え、いや。そうとも限んなくない?なんの店か分かんないけど、川崎さんって何となく凄そうな感じするし、バンドとかかも……」
や、たぶんそれは無い。川崎少年の話だとほぼ毎日朝5時過ぎに帰ってくるらしいし、バンドだとしたらそう毎日朝5時まで居るとも思えん。皆普段の生活がある訳だし。最も、その普段の生活を犠牲にした夢見るミュージシャンと、という可能性が無いわけではないので、バンド説も可能性はゼロじゃないが。
「そうね。川崎君によると、お姉さんの川崎沙希さんは、元々かなり真面目な人だそうだし、今やっていることが真面目な理由か、不真面目な理由かでだいぶ対処が変わるわね」
「え、どゆこと?」
んーと、例えばゆいにゃんのバンド説だったとして、さっきも言ったが毎日朝5時まで、というのはちょっとやり過ぎなわけだ。と、するとそこには余程の理由がある訳だろ?それが駄目な男に入れ込んだからー、とかだったりするとすごい面倒臭い。そこ何とかしないと行けないからな。そうではなくて、単純に上手くなりたくて熱中してるだけなら、真面目に説得すればあっさり聞いてくれるかもしれんだろ?
「あー!なるほど!確かにそうかも!」
まぁ俺としては1番面倒なのは真面目な理由でバイトしてる場合だが。エンジェル何とかって店の名前が何かやな予感がする。風俗か飲食店のどっちかでよく使われる名前だし。
「…そう、ね。もしバイト先がそういう場所なら、帰ってくる時間を考えると、のっぴきならない理由があってお金が必要、ということになるものね。それはそうと榊君、風俗によく使われる名前とか分かるほど経験があるの?変態」
「ええっ!?そうなのサカキン!こ、高校生なのに!?……すっ、すけべっ!変態っ!サイテー!!」
事実無根で草。単に実家の方にそういう名前の店が多かっただけだわ。風俗に関しては前世は何回か利用したけど、流石に今世はない。つーか俺まだ未成年だぞ馬鹿なの?何でセツのんは頭の中そうピンク色なんだ。思春期にしてももう少し隠せよもう。女の子だから性欲が無い、なんてアホなこと言わんけど、もうちょっとこう、な?興味があるのは仕方なハッ!殺気!?
( っ'-')╮ =͟͟͞͞ ブォン
=͟͟͞͞( ˙-˙ )サ
ふ、甘いなっ!って、うぉぉ!?
( っ'-')╮ =͟͟͞͞ ブォン =͟͟͞͞ ブォン =͟͟͞͞ ブォン =͟͟͞͞ ブォン
( ◜௰◝ )サッ=͟͟͞͞ ( ◜௰◝ )サッ=͟͟͞͞( ˙-˙ )サ(; ・`ω・´))))))ササッ
いや投げ過ぎだろ!いい加減にしろこのむっつりスケベ!図星突かれたからっていちいち切れんなよ!というかちゃぶ台挟んだこの距離で投げんな危ないだろ!俺はいいけどゆいにゃんに当たったらどうすんだよ!っていうか俺が喋ってる時まで投げるなってうぉっ!
「図星?なんの事だかさっぱり分からないわ。私はただ不快だったから始末しようと思っただけよ。だからいい加減当たりなさい!」
と、その時ちょうど投げてた物が尽きて、たまたま手元に残ってたグラスをセツのんの手が掴んだ。
だが、暑いから飲み物には氷を入れてある。つまり汗をかいていたのでグラスが滑ったのか、投げたセツのんの手からグラスがすっぽ抜けた。
そしてそれはまるで、吸い込まれるようにゆいにゃんの顔に向かって──ー!
「わっ、すごいサカキン全部避けてる!って、わぁ!……あ、あれ?サカキン?」
……おいこら雪ノ下。今の、俺が防がなかったら由比ヶ浜に直撃してたぞ。いつも言ってるよな。他の誰かがいる時はぶつかっても問題ない物を投げろって。今まで投げてたマンガ本はともかく、これガラスのグラスだぞ。何考えてんだお前。
「!あ、や、やー!大丈夫だよサカキン!あたし頑丈だし、サカキン守ってくれたし!本当平気だから、ね?」
「ふん、貴方が居るのに他の誰かが傷付く訳ないでしょう。それに、元はと言えば貴方が…!」
そういう問題じゃねぇだろ。おい、まさか俺が言ってる意味分かんねぇとか言わねぇよな?それとも分かった上でそんな話してんだとしたら、俺も本気で怒るぞ。
「ちょ、ちょっとサカキン、そんな怒んないでよ。ゆきのんだって何があってもサカキンが居れば大丈夫だって信じてるからやったんだし、実際大丈夫だったんだし、ね?」
「由比ヶ浜、少し静かにしてろ。今は雪ノ下に言ってるから。おい、雪ノ下。お前俺が言ってる事本当に分かんないの?」
「ッ!……えと、その…ごめんなさい、由比ヶ浜さん。私のせいで、危ない所だったわ。その、つい、カッとなってしまって…悪気があった訳では無いのよ。本当に、ごめんなさい」
「ゆきのん…。うん、大丈夫だよ。サカキン守ってくれたし。でも、次からは気を付けてね?」
「ええ、…気を付けるわ」
……宜しい。いつも言ってるが、俺相手に多少の無茶をするのは構わん。けど、周りを巻き込む時は危険のないようにしろ。それが出来なくばするな。分かったか?
「……ええ、もうしないわ」
ならいい。
さて、じゃあとりあえず話し合いはここまでだな。川崎姉についてだが、俺ちょっと情報室のパソコン使ってエンジェル何某とやらの店を調べてくる。それ次第でこの後どうするか決めよう。2人はちょっと待っててくれ。
あ、飲み物とお菓子はいつも通り冷蔵庫内にあるから。勝手に取ってね!
そう言って俺は部室を出て、情報室の鍵を貰いに職員室へ向かったのだった。
◻️◻️
「行っちゃった……はぁぁ〜、あービックリしたー!」
「その、本当にごめんなさい、由比ヶ浜さん……」
もう一度、今度は心から彼女に頭を下げる。先程は頭に血が上っていた。確かに彼の言う通りだ。もしこのグラスが顔に当たって割れてたら、大怪我だったかもしれない。今更だが自責の念が湧いてくる。私は何と愚かな真似をしてしまったのか。
「へっ?あ、やー!大丈夫だってゆきのん!さっきも言ったけどサカキンがグラス止めてくれたし。何事も無かったんだからもーいーじゃん!終わり終わり!」
「でも、一歩間違えたら大怪我だったかもしれないし……」
「それでもいーの!それに、何となく分かるんだ。セツのんの気持ち。たぶんサカキンが何とかしてくれるって思ってたんでしょ?……分かるよ、私も何となくそう思ってるもん。あたしもたまに教室とかでコンパス投げたりするし。なんなら、さっきのグラスで大怪我してても何とかしてくれそうな気がするよね!」
「それは……」
事実だ。確かに私は何かあっても彼が何とかするだろう、と心のどこかで思っていた気がする。実際あれだけの至近距離で、あれ程唐突な出来事だったのに彼は驚くほどの素早さで、いつの間にか由比ヶ浜さんに向かったグラスを受け止めていた。本来あれはもっと驚くべき事だ。それに気付かないほど彼なら出来る、と私は思い込んでいたのだ。
だが、それこそまさに彼の言う通りだ。そんな事は問題ではない。彼がいれば大丈夫だからどうこう、では無く、そもそも由比ヶ浜さんに危険があるのなら止めるべきであった。我ながら浅慮が過ぎる。本来彼に言われるまでも無いことであるのだ。気を付けなさい雪ノ下雪乃……!
「ね、それよか聞いてよゆきのん。あたし最近サカキンにあだ名じゃなくて由比ヶ浜って普通に呼ばれるとビクってしちゃうんだけど!」
深く反省し、自分を戒めていると、ふと由比ヶ浜さんがそんな事を口にする。だけれど、困ったことにとても共感出来た。何ならビクっとするどころか普通に恐怖を感じるくらいだ。
「……彼は、その、怒ると普通に呼ぶものね。滅多なことでは怒らないけど、怒り出すと私でもたまに肩が竦むわ」
「あー……。なんか分かる。あたしがサカキンに直接怒られたことはまだないけど、見てるだけでも何か怖いもん。小さい頃親戚の怖いおじいちゃんに怒られた時のこと何か思い出しちゃう」
「!言われてみれば確かに。榊君が怒る時はどちらかと言うと叱られている気分になるわ。だから身が竦むのかしら?」
目から鱗だ。確かにそう言われるとしっくりくる。彼は怒っているというより叱っているのだ。まるで大人が子供に叱るように。随分小さい頃、躾に厳しかった祖母に叱られた時の事が頭をよぎる。あの時は祖母が無性に怖かったような気がする。……と、そこまで考えて気付いた。そうすると、私は無意識に……?
「この私が、精神的に彼を歳上と無意識に認めている……!?な、何という屈辱かしら……ッッ!!」
「ええっ!?いきなりどうしたのゆきのん!なんでそうなったの?!」
あまりにも認めがたい考えに行き着いてしまった。慌ててそんな事は無いと頭の中で否定してみるが、何故だか上手くいかない。これは駄目だ。何故か負けた気分になりそうだ、と思い、由比ヶ浜さんに心境を吐露してみた。彼女ならそんなことは無い、と言ってくれるのではと期待したのかも知れない。
「あ、あー。どうしよう、あたしもそれなんか分かるかも。サカキン、普段は訳わかんないことばかりやってるけど、時々妙に大人っぽいというか、同い年に見えない時あるし……」
なんという事だ、肯定されてしまった。見ると由比ヶ浜さんも何処か落ち込んでいるように見える。気持ちはよく分かった。あの榊君に精神年齢で負けている、と考えると非常に悲しい気分になるのだ。
いついかなる時でも暖かいご飯が思春期の体と心を健やかに保つ!故に炊きたて!(`・ω・´)キリッとか言って毎日お昼ご飯を部室で作るような男に精神年齢で負けている……?嫌だ!そんな酷い話があってたまるか!
「由比ヶ浜さん……提案があるのだけれど」
「…なに、ゆきのん」
「私達の心の安定の為に、今の話、無かったことにしましょう」
「大賛成……!」
何故かこの時、由比ヶ浜さんとの絆が深まった気がした。
「あれ?結局サカキンネックウォーマー外してなくない?」
「あっ」
……またしてやられた!
◻️◻️
「それで、ここがそうなのかしら?」
「えぇ……マジ?」
みたいだね。や、ホームページだと分かんなかったけどこれは凄いなー。
あの後パソコンで調べてみたら、どうにもこの近辺でエンジェルと名前に付く店は数店舗しか無くて、そこから更に朝までやってる店、で調べたら2店舗しか残らなかった。
それが最近出来たばかりのメイド喫茶と、今俺がいるここ、ホテル・ロイヤルオークラだった。で、アンサートーカーで確認したらこっちだった、というわけである。
まぁ最初から全部アンサートーカーで調べろって話ではあるのだが、たまにはこういうのも使わないとやり方分からなくなってしまうからな。
何かメイド喫茶の方へ行けばこの2人のメイド姿が見れた気もするが、付け焼き刃のメイドさんとか価値ないからね、仕方ないね!俺氏はメイドさんはエマさんくらいガチなのが好きです。
いや、半端な露出とかメイドさんにさせるくらいなら普通にエロいカッコさせた方がマシ(真剣)
それはさておき、これは一旦出直さないと無理なタイプじゃないの?ホームページで見た時普通に見逃してたが、このクラスのホテルに入ってる店とかどう考えても学生服じゃ入れないよね?そもそも朝までやってるみたいだし、1回着替えに帰らね?ちょうどウチのマンションすぐ近くだし。
「そうね……これは、制服どころかある程度のドレスコードが要求されるタイプね。私服でも普通のでは無理じゃないかしら?」
「え!?あたしそんなの持ってないよ?……2人は持ってるの?」
「んー、俺も無いからそこの店で買ってくるか。セツのん、男はスーツとかなら大丈夫だよね?」
「そうね、と言っても安いリクルートスーツみたいなのは止めた方が良いわ。大丈夫なの?」
それは問題ない。本当ならちゃんと身体に合わせたものをオーダーメイドした方が良いんだろうが、俺まだちょっとずつ身長伸びてるからな。今回は出来合いので大丈夫だろ。
で、それはそれとして、セツのんは持ってんの?ゆいにゃんは持ってないみたいだし、最悪俺一人で行ってくるけど。
「貴方一人で行ける訳ないでしょう……私は大丈夫よ。こういうのも何度か経験あるから。由比ヶ浜さんさえ良ければ、私の服を貸すけれど……?」
「えっ!いいのゆきのん!?ぜひぜひ!お願いします!ありがとー!」
……セツのんの服?ゆいにゃんが着れるのか?胸とかどう考えても無理がある気がするが……まぁいいか。たぶん何とかなるんだろきっと。深く突っ込んではいけないよね!うん。
さて、じゃあ後で合流するとして……ああ、もうこんな時間か。しまった、適当に買うにしても平塚先生が帰ってきてしまうな。んんんー、あ、どっちにしてもアレの確認しなきゃならんのか。2人共、結構夜遅くでも大丈夫?
「ええ、問題ないわ……と言うよりも、流石にドレス着てそれで終わり、という訳にはいかないから、1時間やそこらではどうにもならないわ。そうね、今が18時だから…夕飯をとってからと考えて、21時半くらいで どうかしら?」
そうだな。確認すること的にもその時間で丁度よかろ。では後でな。ゆいにゃん、「え、そんな時間かかんの?」って顔してるけど頑張れよ。セツのん完璧主義者だから下手したら軽いマナー的なことまで覚えさせられるかもしれんけど。そう言ってさっさと歩き出す。
「え"っっ!?」
「大丈夫よ由比ヶ浜さん、そこまで難しい事は言わないから。きっとすぐ覚えられるわ」
ちょ、嘘でしょ!?そんなの聞いてな──とか何とかゆいにゃんの声が聞こえた気がするが、多分気のせいだよね。何でサカキンは良いの!?とかも聞こえた気がするけど俺のログには何も無いな。うん。ゆいにゃんは犠牲になったのだ!セツのんの完璧主義の犠牲にな……ッッ!
この後無茶苦茶ゆいにゃんからメールきたよ!
◻️◻️
ザァー、と絶え間なく流れるお湯が艶やかに身体を流れていく。
うっすらと赤く染まった肌。
風呂の熱気のせいか。
それとも……
「はぁんっ、んぅ……ッ、ぷはっ、き、貴一……ッ!♡」
この行為のせいか。
シャワーのお湯を浴びながら、彼女の身体を浴室の壁に押し付けて、両手を握り合うように重ね、それでいて身動き取れないようにこちらも壁に押し付ける。
少し腰を落として真正面から唇を奪う。同時に、彼女の柔らかな胸の感触がこちらの胸に伝わってくる。
微かな身動ぎ。俺の体の表面を走る微弱な波紋に、ピリピリとした刺激を感じているのだろう。たちまち触れ合う胸に硬い感触が2つ生まれた。
「ンンッ!?あ、ま、待って貴一、んぅっ!」
小さな抗議、完全に口だけだと分かっているので、より強引に、より深く舌を彼女の口腔に侵入させ、無理やり黙らせる。
大きく、ゆっくり、動きが緩慢に感じる程にねっとりと舌を絡ませ、とてもとても弱く、ともすれば皮膚ならば感じない様な程に弱い波紋を舌先から流す。
とても微弱なその波紋は、柔らかく鋭敏な粘膜だからこそほんの僅かに、甘く微かな痺れとなって感じ取れる。絡まる舌と舌。元々形だけの抵抗が一瞬で消え、気丈に振舞っていた目がとろん、と蕩けた。
弱々しく、それでいて快感を逃すまいときちんとこちらの舌に合わせてくる彼女に、内心ニヤリと笑う。もうこちらのなすがままだ。
舌の動きを激しくする。壁に押し付けられた体が、少し下へとズレた。腰から力が抜けてきている、と確認すると、壁を滑らせながら両腕を上に持っていき、降伏させるかのように万歳の状態になると、彼女の手と手を繋ぐように合わせて、左手1本で両手を抑えた。抵抗など蕩けているので、本当にただ抑えているだけだ。
「んんんー!はふっ、んぅっ……ハァッ、じゅる……♡」
絡め合う舌と舌、やがて溜まってきた唾液を、何度も互いの口の中へに流しては戻し流しては戻す。2人分の唾液が、たっぷり混ざりあった所で、全て彼女の口の中へ流し込む。
そして全てが彼女の口の中へ入った所で、素早く唇を離す。すると、唇どころか口の周り全てがお互いの唾液に塗れててらてらと光った。
彼女の口は名残惜しそうに舌をこちらに突き出したまま、だらしなく開いている。その中に、大量の唾液があるのを視認する。空いていた右手、その人差し指と親指でそっと突き出た彼女の舌を摘む。
痛くないように細心の注意をはらいながら、優しく、ほんの少しだけ下に伸ばすように舌を引く。こちらの舌から流れていたものよりもほんの僅かに強い波紋を指先から流し込む。途端に舌先から痺れるように僅かに痙攣し、ビクリッと腰が跳ねた。快感が背筋を伝って腰まで反応したらしい。
その反応が可愛くて、摘んだ舌の表面を優しくなぞるように親指で擦る。ビクビクッ、と彼女の腰が連続して跳ねた。
先程よりも蕩けた瞳に、顔の高さを少しだけ上にして至近距離で視線を合わせる。蕩けた瞳に意志を確認するように見詰める。僅かな頷き。準備は出来ているようだ。指を離す。
「飲め」
「ンっ……ごきゅ。は、ぁぁ……♡」
強く。それでいて端的に、且つ居丈高に。
それは正しく命令だったが、彼女は躊躇なく2人分の唾液を嚥下した。
「良い子だ……さぁ、次は脚を開きなさい」
「ふぅ、ん………はい、分かり、ました……♡」
耳元で小さく囁くように命令を下す。おずおずと彼女が脚を広げ始めるのを見ながら、柔らかく形の良い胸を、下から掬うように揉んだ。
さわさわと震えさせるように動かしながら、胸の付け根のあたりを輪郭に沿って小指でなぞる。既にもう指先からは絶え間なく、それでいて彼女の好みよりほんの少しだけ強めの波紋が流れていた。
「あぁん!ふわ、…-んぁ、ちょ、ちょっと、待っ……♡」
流される波紋と、指の動きによって彼女の体を走る快感が、彼女のの動きを何度も阻害する。脚を少し開くだけの僅かな動きが未だ完遂出来ない。
あまりにも不甲斐ないので舌に少し強めの波紋を流しながら、彼女の特別弱い性感帯である耳の裏をべろりと舐め上げる。途端に上がる嬌声。それを無視して、柔らかく挟むように彼女の耳を甘噛み。ビクビクビクッ、と先程よりも
大きく腰が跳ねた所で、耳の中に直接喋りかけるようにボソボソ、と呟く。
「どうした…?脚を開くだけなのに、まだ出来ないのか……?」
「ひ、アッ…、そ、んなこと……ひゃんっ!いわ、れてもぉ…!」
そんなこと、なんだ?この程度の命令も聞けないなら、今日はもう止めにするか?それならそれでも構わないが。
「んぁっ、それ、はぁ!やだ、やる…や、るぅっ!からぁ♡」
絶え間なく襲う快感に振り回されながら、咄嗟に閉じてしまう脚を、ガクガクと膝を震わせながらなんとか広げ、膝を開いて見せる彼女。蕩けながらも何処か期待する様な目でこちらを見る。
宜しい。では弄って欲しい所を自分で広げて、何処をどんな風にして欲しいのか言ってみろ。そう言って、頭の上で拘束していた腕を離す。
「えっ?あ、そん、なぁ……!」
「出来ないのか?」
自分で、という事が余程恥ずかしいのか、流石の彼女も戸惑いを見せた。言われた通りに広げるかどうか、お腹のあたりに手を置いて、悩むように僅かに上下させた。
では終わりだな。そう言って密着していた身体を離し、踵を返して浴室の扉へ手を掛けた。
「あっ!や、やだ、待って!する、するから!」
途端に慌てた声で引き留められた。扉に手を掛けたまま顔だけ振り向くと、先程よりも大きく股を開き、自らの手で性器を広げてみせる彼女の姿があった。
「こ、ここを……私のここを、き、貴一の手で、弄ってほしい……です」
消え入りそうな声。顔は真っ赤に染まり、羞恥のせいか体がぷるぷると震えている。絞り出すような嘆願を、更に突き放す。
聞こえないな。なんだって?
「ッッ!う、うぅ……わ、私の!ここ、弄って欲しい、ですっ」
何処を?ちゃんと言ってみろ。
「うぅ〜ッッ……わ、私のヴァギナ、を弄って、ください!」
駄目だな。
そう言って扉から手を離して振り返り、唖然とする彼女にもう1度近付くと、絶頂させないように波紋を切る。そして唐突に彼女の両乳首を抓り上げて、言ってやる。
「んぁぁあああっ!!ま、なん、っで……?」
ヴァギナだぁ?何お上品ぶってんだよ。アンタ、自分が分かってんのか?11個も歳下のガキのちんぽ欲しさに14日間も好き好んでお仕置きされてるド変態だろうが。もっと相応しい言い方があんだろ?オラ、言ってみろ。飾らず、ド変態のアンタに相応しい言葉でちゃんとオネダリしてみろ!
「〜〜ッッ!!ぁん!あ、あああ……!わ、私のっ!おまんこっ!弄って、くださいっ!」
泣きそうな目、羞恥で真っ赤に染まった顔。震えた声。それでも、絞り出すように、吐き出すように自ら性器を大きく広げてそう叫ぶ彼女の姿は、普段の凛々しい教師としての姿とは比べようもないほど無様で淫靡だった。
だが、更に強く乳首を抓りあげて拒否を伝える。冷たく笑って、目だけでまだカッコつけてる、と教えてやる。もっと無様な姿を見せろ、と声には出さずに命令する。
「……ッッ!わ、私のぉ!、11個も歳下のおちんぽ欲しくて仕方ない、スケベで下品なド変態まんこっ!貴一の手でっ、ぐちゃぐちゃに……バカになるまで!好きなようにお仕置してくださいっ!お願いしまずぅぅぅ!!」
ヘコヘコと腰を振りながら、自らの女性器を大きく広げて、涙なからにそう懇願してみせる彼女。嫌がっているようでその実、辱められることにこれ以上ないほど興奮しているのは、広げられた性器からぽたぽたと垂れる大量の愛液が教えてくれる。
実にみっともなくて、とても無様で、この上なく惨めな姿。しかしそんな彼女が、この上なく愛おしく見えた。良いだろう、そう言って乳首を抓りあげていた右手だけ離して、彼女自ら広げたままの性器へ手を伸ばす。
最初から波紋を流しつつ、しかし常に強弱を入れ替えながら、一切の遠慮なく中指を彼女の中に突き入れた!
ぐちゅ!
「んきゅぅぅっ!!はぁんっ!き、気持ちいいですぅ……私のド変態まんこ、弄ってくれてありがとうございますぅぅ♡」
1度自分で言わせたら、理性が焼き切れてしまったのか、命令してもいないのに指を入れたことにお礼を言う彼女。律儀にも自らの性器を広げる手を離すことなく、無防備に晒すように、捧げるように、こちらの指の動きに合わせてヘコヘコと腰を振る。
ぐちゅぐちゅ
自分の口角が、ひとりでにつり上がっていくのを自覚する。彼女の情けない姿がもっと見たくて、沸き立つ嗜虐心が止まらなくなる。指の動きがより大きく、より早くなっていく。しかし、彼女の中の1番いい所をあえて強く触れることなく、少しずつ、本当に少しずつ絶頂へと導いていく。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!
「あっあっあっあっ、ああああ!いっっ………!」
そして、とうとう彼女が絶頂する。正しくその直前に!一際強く突き刺した指を引き出さずにピタリと止めて、波紋も一気に全部消す!
「っっっく♡………え、あ?…え?」
あと少し。本当に後ほんの少し、という所で快感を与えるのを一切止める。同時に、彼女自身が動いて勝手に絶頂するのを阻止する。これはあくまでも彼女のへのお仕置きだから、絶頂させる事は絶対にないのだ。
「あっ、うそ?そんな……っ!や、やだやだ!後ちょっと!後ほんのちょっとなの!お、お願いします!もう少し、もう少しだけ弄って下さい!お願いします、お願いします貴一さまぁぁぁ!!」
「………」
先程とは違う意味で泣きそうになりながら、俺の指が入ったまま先程よりも大きく激しく腰を振る。もどかしさで堪らないのだろう。しかし、中指以外の指で彼女の股間にピタリと張り付いた右手は、どれだけ激しく動こうと、ピタリと張り付いて一切動かない。ただ振られる腰に合わせて動くだけで、絶対に絶頂へと辿り着くことは無い。
俺はあえて何も言わず、ただただニヤァ、と笑って、みっともなく腰を振りながら懇願する彼女を見詰めている。これがそう言うお仕置きだと何度も説明したはずなのに、どうしても我慢できないのか、遂には涙を零しながら榊様お願いしますと叫ぶ彼女。いつの間にか様までついている。しかし何も言わず、ただひたすらに懇願する彼女を見ているだけ。
やがて完全に快感の波が引いてしまったのか、悄然とした彼女は、ふるふると唇を震わせながら、それでも律儀にまだ自分の性器を広げている。
「そんな、あと、後ほんのちょっとだったのにぃ……ひどい、ひどいぃぃ………っ!ふぇっ!?あっ、ふぁぁんっ!うそっ、なん、でぇっ!?あっあっあっ♡」
呆然と何故、と呟く彼女を無視して、再び指の動きを再開する。1度完全に快感の波が引いてしまったので、それを叩き起すように波紋を流した指で、彼女の1番喜ぶ所を、Gスポットを容赦なく突く。
「はぁぁぁぁんっ♡なんでっ?なんで急にぃっ!あっあっあっ、凄いっ、一気に、くるっ!あっあっいくっ!イクイクイクイクッ♡」
先程とは違い、容赦のない責め。1番完全に波が引いた筈の彼女の体は一瞬でふるいたち、一気に絶頂まで上り詰め──!
「イッッッ……えっ?あ、うそ、また!?や、やだやだ!こんなのやだぁ!」
しかし無慈悲に手を止める。再び逃した絶頂。今度こそ絶頂に達する筈だった体が、再び梯子を外されて、その切なさに、そのもどかしさに激しく暴れるが、容赦なく快感を途絶する。そしてまた、快感の波が治まった頃に………
「あ、またっ?あっあっあっあっあっあっあああ──っ♡いっっ……い、え?あ、ああ、あああああ──!!やだ、やだやだやだ!こんなのひどい!ひどいよぉ!お願い、お願いだからちゃんとイかせてっ!おまんこっ!私のド変態まんこイかせてっ!貴一さまっ、貴一さまぁ!お願いしますからぁぁぁ!!」
もはや完全に羞恥などかなぐり捨てて、無様に泣き喚くように懇願する彼女。
そのどうしようもない姿に、俺の嗜虐心もまたどうしようもない程に高まってしまい、結局この後、平塚先生は1度も絶頂することが出来ないまま、何度も何度も辛い責めを受けたのだった。
◻️◻️
いやー。
ついやり過ぎた。大丈夫ですか平塚せんせー?
「……鬼、悪魔、鬼畜!貴一の、バカ……ッッ!」
や、申し訳ないです。流石にちょっと虐めすぎましたね。まぁ明日からもするんだけど。それにほら、平塚先生が魅力的過ぎるのがいけないと思うんですよね。
「クッ……!そんなこと言っても誤魔化されないからな!今朝はしなかったから今日はもうご飯食べて寝るだけだと思ったのに……どうしてくれるんだ。これじゃまた火照って眠れないじゃないか……!」
あっはっはっ!まぁその、頑張ってください?
そう言ったらとうとう平塚先生はソファーに寝転がったままクッションを頭から被ってそっぽ向いてしまった。完全に拗ねている。まぁ今回は俺が悪いからね、仕方ないね。だが反省も後悔もしていないしなんならまだまだ追い込む。平塚先生は完全に俺のものにすると決めたのだ。容赦などない。
セツのん達と別れた後、ちょうど目の前にあったよく分からんけどブランドらしい成人服のお店で、それなりに大人っぽく見えるスーツを店員さんに選んでもらってササッと一式買ってきた。地味に高くて15万くらいしたけど、まぁ仕方あるまい。幸い俺は今世では小金持ちなのでどうということも無いし。
そしてササッと家に帰ってダッシュで夕飯の準備を済ませると、帰ってきたばかりの平塚先生を風呂に押し込んで、この後出掛けるから今日の分のお仕置きをこれまた唐突にやったのが先程までの話である。
そして現在は色々な意味で逆上せそうだった平塚先生を見て慌ててお仕置きを終了し、何とか彼女を着替えさせてソファーで休ませながら温め直した俺特製ビーフシチューとその他もろもろをテーブルの上に並べているところだ。
地味に平塚先生を虐めるのに時間を掛けすぎて、この後着替えてそれなりに準備することを考えると時間的にギリギリである。何とか早く食事を済ませたいが、平塚先生が拗ねてしまったのでちょっと困っている。
おーい、平塚せんせー?ご飯の準備出来ましたよー?一緒に食べませんかー?
「………フンッ」(`^ ´ *)プイッ
俺の声に反応して、少しだけこちらに視線を戻したが、直ぐにクッションを被り直して向こうを向いてしまった。どうやら流石に堪えたらしい。まぁやり過ぎたかな、とは俺も思うので自業自得ではあるのだが。
ほーら、謝るからご飯食べましょーよ平塚せんせー。俺が悪かったですって。
「…………」ムスッ
反応がない。どうやら本気で拗ねてしまった様だ。これは参った。たぶん時間を掛ければ何とでもなる気がするが、今日はその時間がない。これはどうしようもないな。
やれやれ、じゃあご飯はここに置いておくので、好きな時に食べてください。ビーフシチューは冷めてたら適当に温め直して下さいね。それと、今日は俺この後出掛けるので、こちらで寝ても向こうで寝てもどちらでも構いませんが、向こうで寝るなら合鍵を置いて行くので、戸締りをお願いします。
そう言って俺は席につき、1人で頂きます、とてを合わせた。するとそこで平塚先生が跳ね起きた。
「なに?どういう事だ貴一。これから出掛けるって、何処へ行く気だ?もう高校生が出歩いていい時間じゃないぞ!」
や、実は奉仕部の依頼でして。ほら、昼間平塚先生に協力をお願いした川崎……川崎……えっと、川崎姉子?の弟から、姉が夜帰ってこないから何とかして欲しいとの事でして。で、調べたらどーもこの近くロイヤルオークラで深夜バイトしてるみたいなので、奉仕部の3人で様子を見に行くついでに原因を探りに行こう、ということになりまして。
「川崎沙希、だよ。姉子って誰だ馬鹿者。ロイヤルオークラって、あの高級ホテルか?しかも深夜バイト……なんだそれは、どうなってるんだ」
や、俺らもまだよく分かっていません。そもそもの依頼が、その川崎何某の弟から、姉が夜帰ってこない理由が分からない、その理由を調べて、出来るなら止めさせて欲しいって話でして。え?そもそも川崎少年の依頼を何故受けたか?あ、やー。それは俺がちょっとやらかしまして、迷惑掛けたお詫びにって感じです。全部説明しても良いんですが、今日は時間ないんですいません、今度でお願いします。
「馬鹿者、お前ら高校生だけでそんなところ行かせられるか。というか、そんな所お前らが入れる訳ないだろう。あそこもの凄いエリートだけが集まる婚活パーティーとかじゃないと使われないような高級なホテルだぞ。ドレスコードだって当然……ああ、だからそこに見慣れないスーツが掛かっているのか」
ですです。まぁそんな訳でそういうのに経験があるらしいセツのんがゆいにゃんの分のドレスも用意出来るとの事だったので、この後変装してちょっくら潜入してきます。地味にそろそろ時間ないんで、すいませんがお説教は後でお聞きします。
そう言って食べ始めると、平塚先生は呆れた様にため息を1つついて、結局ソファーからこちらへ来てテーブルに着くと、頂きますと両手を合わせてシチューを食べ始めた。
「全く……今日はもう時間もないし、私もドレスを前回使ってからクリーニングしてないから仕方ないので許可するが、本来依頼とは言えお前達も未成年なんだからな?次は事前に私の許可を取るんだぞ!いいな!」
うっすうっす。了解でやんす。
すいませんねぇ苦労をおかけします。いや、最近未成年なのに未成年がしては行けない行為を歳上の女教師としまくってるせいか自分が未成年って忘れがちでして。
「うぐっ。………その歳上の女教師を良いように嬲り尽くしてる奴が、被害者面するんじゃない!第一、セックスになるとお前キャラが変わり過ぎだろう!このドS!ベッドヤクザ!」
「そういう平塚先生はドM過ぎでしょう。何ですか貴一様って。俺そんな事命令してないですよ?歳下に様付けとかどんだけ変態なんですか?」
「うぐぐぐ……く、口の減らないヤツめ!」
平塚先生も流石に先程の自分の痴態がヤバすぎる自覚があるのか、あまり強く言い返しては来れないらしい。まぁあれだけみっともない姿じゃなぁ。
ま、ゆーて俺はそんなドMな平塚先生も好きですけどね。それに、ドSとドMって相性抜群な感じがして俺は嫌いじゃないし。まだ本番してないけど、俺ら絶対身体の相性も良いと思うんですよ。勘ですが。けど、オタク的趣味も好みが似通ってて、更に性癖も噛み合ってて身体の相性も良いとか凄いですよね。
「……うるさいっ。そんなこと言っても私は安易に誤魔化されないからなっ!そんな言葉で私が喜ぶと思うなよっ!……それに」
めちゃくちゃ頬緩んでますけど。何ですか分かりやすいそのツンデレは。まぁ、何でも良いですけど。ご馳走様です。では俺着替えますね、平塚先生。
「………むぅぅぅ!」
あれ、どうかしましたか平塚先生「それだ──!!」うぉっ、なんすか急に。
「2人きりのっ!時は名前で呼び合うって貴一が言ったんじゃないか!何で私が貴一って呼んでるのに貴一は平塚先生って呼ぶんだ!」
え、あー、それで怒ってたんですか?すいません、実はそれやっぱり止めとこうかと思いまして。あ、いや平塚先生の方は好きにしてもらって構わないんですが。
「止める!?何故だ!!な、何か嫌な「や、違います。単に問題が発覚しまして」……問題?なんだそれは」
「や、平塚先生を静さんって呼ぶの、思ってたよりしっくり来すぎて何気なく学校でも静さんって呼んでしまいそうでして。普段から平塚先生って呼ばないとうっかりやらかしそうだな、と」
それくらい2人で生活するのに違和感感じてないって事なんだけども。ま、今はまだそれがバレちゃまずいですからねー。恋人同士で名前で呼び合うの、好きなんですけどね。流石に平塚先生の生活壊す訳にも行きませんから、もう少し名前呼びは我慢しておきますよ。
「……やだ。名前で呼べ」
「いやいや、話聞いてました?」
「それでもやだ。私は貴一に名前で呼ばれたい。多少のリスクには目を瞑る。だから名前で呼べ」
や、そういう訳にもいきませんって。俺から言い出しておいてなんですが、すいません我慢してください。バンッってうわなにんぅっ!
平塚先生がテーブルを叩いたと思ったら、身を乗り出してこちらを引き寄せ、無理矢理キスされる。そういやキスは向こうからも禁止してなかったな、と頭の片隅で考えつつ、ビーフシチューの味がする彼女の舌を受け入れる。
「……ンチュ、っはぁ……つべこべ言わず、名前で呼べ。……名前で、呼ばれたいんだ。他でもない、貴一に」
「……知りませんよ、どうなっても。覚悟してくださいね、静さん」
「うるさい、問題な、んぅっ!……ぷはぁ。元より、リスクのある関係じゃないか。今更だ」
お返しにこちらからもキスをしつつ、何となく嬉しくなって意味もなく彼女の名前を口にした。
「静さん」
「貴一」
額が触れ合う程の至近距離で、俺たちはそうやって何度も名前を呼び合い、キスを重ねて……あ、やべ。時間ないんだった!
すっかり恋人モード入ってしまってたが、元々着替えなきゃなんだった!すいません静さん、とりあえずイチャイチャはこの辺で。続きはまた明日で!
「あっ………はぁ、忙しないな、もう。仕方の無い奴だ、まったく……!」
そう言って再び不貞腐れる彼女を置いて、洗面所に駆け込む。風呂に入った時からあまり乾かしてない髪をもう一度濡らして、無理矢理押し潰すと、タオルを押し付けて潰したままざっくり水分を取る。買ってきた無茶苦茶ハードなタイプのワックスをベッタリ使って潰した髪を全て後ろへ流していく。
途端に顕になる視界。要はオールバックだが、風呂上がりでも髪の毛を全て持ち上げるのは久しぶりなので、この視界も結構新鮮に感じる。良くなった視界に、未だ首筋に残る跡が強烈にアピールしてくるので、波紋とスタンドを使ってサッと治す。そしてそのままドライヤーで髪の形を固めると、着ていたものを全て洗濯カゴに放り込み、自室で買ってきたばかりのスーツに着替えた。
ワイシャツに袖を通し、ネクタイを締める。前世ぶりにスーツを着るが、何処か懐かしい感覚と共に気が引き締まる。やはり自分にとってスーツは仕事服なのだろう。ま、前世とは顔が全然違う訳だが。
そう内心で独りごちて、鏡に映る今世の自分の顔を見て苦笑する。彫りが深めの、日本人だけど純粋な日本人には見えない、中途半端にロシア人めいた、鋭い目付きの怖い顔。自分で見てもパッと見その筋の人だ。
こればっかりは仕方ないので、いつだったか、髪を伸ばし始める前とかに印象を変えようと試行錯誤していた時があった。その時、店員さんに掛けると印象が柔らかくなる、と言われて購入した丸い伊達眼鏡をかける。……まぁ、無いよりはマシだろう。買った時でさえ進めてくれた店員さんも顔が引き攣ってたが。
準備は終わったので、玄関に買ったばかりの革靴を置いて、平塚先生に声をかける。すいません、それじゃこれ合鍵、置いときますね。
「ああ。気を付けて行って──ー…………なぁ、本当に、それで行くのか?」
え?まぁ。流石にいつものモサモサでスーツ着ていったところで、ですからね。あ、すいませんが流石にスーツにネックウォーマーは合わないので、キスマークは消しましたよ。御不満ならまた後で付けて良いので、今は勘弁「今付ける」ってうわ!ストップストップ!
慌てて彼女から離れる。今付けられたら何のために消したのか分からない。しかし彼女は我慢できないと言った様子で、怒ったように距離を詰めてくる。ちょ、ちょっと待って、どうしたんですかいきなり!俺の顔見たの、静さんは別に初めてじゃないでしょう!?
そう、彼女だけは結構俺の素顔を見ている。最初はそれこそお前ヤクザみたいだな、とか言われたが。昨日、俺の髪をかきあげて目と目を合わせた時に何も言わなかったのは、普段から見ているからだ。それにちょっとスーツ着てワックスつけたくらいである。何でそんなに……あれ、もしかして今嫉妬してます?
「当たり前だ!私だってそんなにきっちり決めた姿の貴一を見るのは今が初めてなんだぞ!?それなのにこれから私じゃないドレス姿の女2人と深夜のホテルに行く!?……嫌に決まってるだろ!ああ、今からでもドレス……うぅ、無理かっ!化粧もしてる時間……ぅぅぅっ!む、虫除け!せめて虫除けしないとっ!」
や、落ち着いて下さい。キスマークが虫除けって他の女性は虫ですか。てかどう見たってヤクザもどきでしょう俺。そんな気にしなくても大丈夫ですよ。むしろ怖がって誰も寄っては来ませんよきっと。なんせほら、俺ですし。
「やだ!……なぁ、やっぱり行くの止めないか?ほら、雪ノ下は慣れてるんだろ?それなら彼女達だけでも……なっ?ってんぅっ、んん〜〜〜〜!?」
静さんが嫉妬してめんどくさくなるのは、実を言うと俺は嫌いじゃない。むしろ可愛いと思っているのだが、今は時間が無いので本気のキスで無理矢理黙らせる。しばらく続けて、彼女の体から強ばりが抜けた所で唇を離した。
や、ほら。流石に夜のホテルの上の店とか、女子高生2人で行かせる訳にも行かんでしょうよ。逆ならともかく。それにほら、丁度いいのでこの変装で高級ホテルの店を騙せるか確認してきます。大丈夫だったら、今度は二人で行くのはどうですか?静さんさえ良ければ、ですけど。
「………うぅぅ、行く。絶対、行く。う〜ッ!浮気!浮気はするんじゃないぞ!それは絶対許さないからな!」
「や、俺らまだ付き合っては居ないんで浮気にはならないのでは?……ウソウソ、冗談ですよ。そんな不安そうな顔しないでください」
「……本当か?嘘だったら、泣くからな。冗談抜きで、人前でわんわん泣いてやるからな………ッ!」
そりゃ大変だ。じゃあ泣かせないように頑張りますよ。さて、そろそろ本当に時間なんで行ってきますね。朝ごはんの用意はしてないので、遅くともそれまでには帰りますよ。
そう言って静さんの顔に手を当て、今日何度目か分からないキス。舌は入れない、唇だけのキス。たっぷり30秒、唇を触れ合わせたあと、彼女の頭を一撫でして、家を出る。よく考えたら今の行ってきますのキスだな。やっべ新婚生活みたい。
正直、静さんのおかげで今世楽しくなってるよなぁ、と思う俺だった。
◻️◻️
ホテル•ロイヤルオークラ
えーと、たぶんこの辺にいると思うんだけども……?
あの後普通にマンション出て徒歩でここまで来たのだが、笑えるほど周りの人間が俺を避けて通っていくので正直俺モーセかな?とか思いながらやっぱり見た目って大事だな、と思いました。第一印象は見た目が8割、とか断言してた前世の高校は正しかったなぁ。
などと思いつつ、先程送られてきていたメールを確認する。平塚先生とイチャイチャしてた間に着てたみたいなのだが、おかげで全然見てなかった。内容は「皆居るとこ同じマンションなんだから一緒に行く(´・ω・`)?」とゆいにゃん。そして少し後に「先に行きます」とセツのん。の2つ。うん。ちょっとイチャイチャしすぎたよね!だが私は謝らない!
とか言いつつメールでは「ごっめーんっ!ちょっとケータイ見てなかったてへぺろ!」と送ったんだが、返ってきた言葉は「きも」の2文字のみ。なんでいきなり顔文字消してしまうんですか由比ヶ浜さん!
とりあえず、2人が今居る場所とやらに向かっているんだが、ホテルそのものはぶっちゃけ変装とか全然要らないみたいだった。普通の服の家族連れたくさんいる。そりゃそうか、庶民だって偶には贅沢して高いホテル泊まることもあるもんな。
そんなこんなで連絡された場所で2人を探してるのだが、何処だろうな……って居たわ。後ろ姿だけど、あれは間違いない。いや、日常生活では絶対に目にすることはないようなドレス着てるし髪型も普段と違うけど、あの淫乱っぽいピンクヘアーはどう考えてもゆいにゃんしか居ないので間違いない。なのでその隣にいる黒髪の優雅だけどどこか怜悧な感じのする美人はセツのんに違いない。ハッキリわかんだね。やっぱ髪染めるにしてもピンクは普通じゃねぇな。流石ゆいにゃん!
とか思いつつ2人に声を掛ける。よっすよっすー、おまたー。
「へ?ひゃっ!?……あ、あの……?」
「………申し訳ないのだけれど、ナンパは他所でしてくれるかしら。人を待ってるの」
待ち合わせの筈の2人に声を掛けたらとても酷い扱いを受けた件について。というかゆいにゃんビビり過ぎてセツのんの背中に隠れてるんですけど。よく見るとセツのんもちょっと足が震えてる。
えっ、俺そんな怖い?ヤクザっぽい見た目なのは自覚あるけど、嘗て店員さんが選んでくれた雰囲気優しくなる伊達眼鏡も掛けてるのに………!と、とりあえずガチで警戒されてるので誤解を解く。
「や、2人ともビビり過ぎだから。ま、慣れてるけど」
「ふぇっ?………え、その声、サカキン、なの…?」
「むしろ他に誰が居るというのか」
「驚いた……!貴方、本当に榊君なの?普段とは別人じゃない」
何を言うか。ぶっちゃけスーツ着てワックスで髪型変えただけだぞ。というかセツのん会ってから今までで1番の驚きっぷりですね。え、違いすぎ?そうでも無い……ああいや、伊達眼鏡があったな。ん?……そうか、だから2人とも気付かなかったのか。眼鏡って凄いな。だから芸能人って変装って言うとサングラスとか掛けたがるのか。
「うわ、本当にサカキンだ……!あたし怖い人に声掛けられたかと思っちゃったじゃんもー!っていうか変な変装しないでよ!なんでそんな怖い顔にする必要があるの!!」
え、何それ。ひょっとしてゆいにゃんこの顔特殊メイクかなんかだと思ってる?地顔なんですけど。
「えっっっ!?うそっ!サカキンって本当にこんな顔なの!?」
「なにそれ傷付く」
「仕方ないわよ榊君。私も正直暴力団関係者かと思ったもの」
くっ、自覚あるから文句言い難い…!い、いや待て!よく考えたら今の俺は伊達眼鏡をしている!流石にヤクザは言い過ぎだ!もう少しこう……マイルドな表現にだな、えっ?外してみろ?い、良いけど…はい。
「もう一回掛けてみて」
「はいよ。……どうよ、雰囲気柔らかくなったろ?」
「………なるほど。よくわかったわ。普通のヤクザと頭の良いインテリヤクザの違いね。確かに結構印象変わるわ。眼鏡って凄いのね」
「そういう違い!?」
「あ、ホントだ。そう言われるとしっくりくる!」
しっくり来てしまったらしい。なんということでしょう!眼鏡の印象操作能力は頭が良さそうに見える以外に無いらしい。ヤクザはヤクザにしか見えないって事だネ!……道理で店員さんが顔を逸らす訳である。
とても悲しい事実が発覚してしまったが、嘆いた所で顔が変わるわけでも無い。肩を竦めてため息を1つ着くと、行こうぜ、と2人に声を掛けた。
返事を待たずに先に歩き出すと、2人が少し後ろから、気持ち早歩きで着いてくる。2人が待ち合わせ場所として指示してきたのはここ、ホテル・ロイヤルオークラのエレベーターホール。
これから向かう川崎少年の姉が居るらしい店の名前は、エンジェル・ラダーというらしいのだが、オシャレな名前過ぎてこういう機会が無ければ行こうとは考えないだろうな、と思いつつ、エレベーターのボタンを押す。高層ホテルだけあって、恐らく目的の階まで行ったら直ぐに呼ばれない限り一旦1階に戻るタイプだ。直ぐにエレベーターの扉が開いた。
中はガラス張りで、中途半端に東京にありそうな感じが千葉だなぁ、なんて思いつつ、エレベーターに乗り込んで目的階へ。2人とも無言だが、何故か何処か落ち着かない様子だった。流石に緊張しているのだろうか。ゆいにゃんはともかくセツのんは慣れてるんじゃなかったっけ?まぁいいか。
ポーン、と音がする。着いたようだ。少しの停止の後、エレベーターの扉が開く。降りようとして、ふとマナーを忘れていた事に気が付いた。そうだ、2人とも。
「え、な、なに?」
「…何かしら」
「正直最初は誰かと思ったよ。綺麗だぞ、2人とも」
女性の格好はとりあえず褒めるのがマナーらしい。出来れば具体的に。とはいえドレスの具体的な良いところとか俺に聞かれても困るので、2人一緒に褒めただけのおざなりなやり方だが、それ以上は俺に求められることはないだろきっと。というかゆいにゃん普通に着てるけど、あれほんとにセツのんの服なんだろうか。胸部分が倍は違うんですけど。いや、深く突っ込みはいれまい。
とりあえず、マナーは済ませたので先にエレベーターを降りる。レディファースト?いや、そういう貴族みたいなマナーは知らんです。
そのまま止まらずに進むと少し先に大きな扉。その前にスーツ姿のガードマンが2人立っている。うわ、本当に高級感出てきた!とか思っていると、少し慌てた様に2人が着いてきた。ふと見ると2人ともちょっと耳が赤い。2人とも髪をまとめているので今日は形の良い耳がよく見えるな、と思いつつ。
「コホン……そ、その、榊君。貴方もよく似合っているわよ。……顔は堅気に見えないけれど」
「うんうんっ!サカキンもカッコイイよ!……見た目はヤクザだけど」
お、男の姿も褒めるマナーとかあるの?とか思いかけたが、ちゃんと聞いたら顔がヤクザだとディスられただけだった。やれやれである。とりあえずありがとうとだけ返して、先へ進む。
するとガードマンっぽい2人は何も言わず…それこそ何名様ですか?ご予約ですか?遂にはいらっしゃいませとすら言わずに普通に扉を開けて、手でどうぞ、と店を差して頭を下げた。
とりあえず何事も無かったかのように、無表情で入店してみるが、何も言われずに普通に入れた。なんだろうこれ、いい事なんだけどあっさりしすぎてこんな変装する必要があったのかと肩透かし感も半端ない感じ。
薄暗い様に感じる程度の照明がなされた店内は、落ち着いた雰囲気でありながら何処か荘厳で、映画でしか見たことの無いような高級感溢れるバーラウンジだった。少し先のステージでは、白人女性が何の曲か知らんけど凄いなーと感じちゃうほどに見事にピアノを弾いていた。何これ凄い。そんな言葉しか浮かばない。
とりあえず俺自身の顔は動かさずにスタンドの目で周りをキョロキョロしていると、隣でゆいにゃんがセツのんにキョロキョロするなと静かに窘められている。良かった俺スタンドでやって。
それが終わると、少し照れたような顔で、いきなりセツのんが俺の右腕を取った。なんぞ?と俺が聞くより先に、セツのんがゆいにゃんに自分と同じようにしろ、と指示をだす。言われたゆいにゃんは少し戸惑っていたが、やがておずおずと同じように俺の左肘に手を添えた。よく分からんけどこういうものらしい。俺は?
「そのまま……背中を丸めず、自信を持って歩けばいいわ。あと、もう少しだけ、顎を引いて」
こういった店のルールなんかさっぱり分からんので、セツのんに言われた通りにする。や、セツのん居て本当に良かったな。そのまま、ゆっくりと3人で店内を歩く。両手に花でしかもどっちも綺麗。この姿記念に写真に納めたいなーと思ったけど、平塚先生に見つかったら怒られそうだから止めとこう。
何となく雰囲気的にベラベラと話しながら歩ける店ではなさそうなので、無言で進むと、カウンターを見付けた。そこには1人の女性ギャルソンが、黙々とグラスを磨いている。左隣でゆいにゃんが居た!と小さく声を上げだ。セツのんも目を細くして、見付けたと言った。どうやらアレらしい。言われてみればあんな顔だった気がする。2人が川崎姉に声を掛けた。
「雪ノ下……!に、由比ヶ浜か。2人ともどうしてこんな所に、と言うべきか?」
何かセツのんの名前呼ぶ時だけ恨み籠っている感じがするけどとりあえず置いておいて、俺だけガンスルーされた事を少し悲しんでいると、川崎姉が唐突に小馬鹿にしたように笑って、とんでもない事を言い出した。
「知らなかったよ、あんた達2人がヤクザの女だったなんて。あ、だれにも言わないから安心しなよ。その代わり「誰がヤクザか」……えっ?」
しばらく2人に任せようかと思ったが、失礼過ぎて思わず口を挟んでしまった。や、そう見える自覚はあるけど、お客さんにヤクザと言っちゃ駄目だと思うんだよね。というか、本当に俺がヤクザだったとしたらそれこそヤクザだって言っちゃいけないと思うんだけど、店員さんはどう思う?
「……!失礼しました。それで、お客様はどなたでしょうか」
「クラスメイトの顔も覚えてないとか正気か」
「それサカキンが言うの!?」
「というか、今の貴方は普段同じ部活の私達ですら言われないと同一人物には見えないのだけれど」
おっと、俺としては真っ当な事を言ったつもりだったのだが、何故だか川崎姉よりも俺が責められてる。どういう事だろうか。ふと見ると先程まで澄ました顔でバーテンダーしていた川崎姉がとても驚いた顔で呆然としている。とりあえず取り落としそうだったグラスを身を乗り出して受け止める。気を付けなギャルソン。
「っ!あっ、ありが、とう……。え、えっと、由比ヶ浜?本当にその、クラスメイトなのか?」
「あ、あー…うん。分からなくても仕方ないとは思うけど、サカキンだよ。ほら、いつも髪の毛モサモサの、目元が見えないあれ!」
どんな説明だよそれは。もっとこう、色々あるだろ?その……あれ、自分でも他に自分の説明が出来ない?や、でもそれじゃ伝わらないだろうに。
「モサモサ?あ、あー!居たなそんなの!確か榊……えっ、これがアレ!?マジ?」
伝わってしまった。なんだろう、好き好んでぼっちしてる俺が言うのもなんだけど、俺ってやっぱモサモサで覚えられてるんだな。もう名前もモサモサでいい気がしてきた。ふとセツのんが静かだなと思って見ると、顔を背けて長手袋をした右手で上品に口を抑えながら笑い声を堪えてた。俺の印象がモサモサで通じたのが面白かったらしい。酷い話だ。
とりあえず3人でカウンター席に座ると、気を取り直した川崎姉が注文は?と聞いてきた。まぁこういう場ではまず注文しないとだよね。
「私はぺリ「俺はカミカゼ。2人にはノンアルコールカクテルを。そうだな、雪ノ下は甘過ぎるのは苦手だから、少し酸味が効いたのを。逆に由比ヶ浜には甘めのを頼む」……ちょっと、榊君?」
セツのんが注文しようとしたのを遮って、代わりに俺が注文する。当然セツのんが厳しい視線を向けてくるが、ニヤリと笑って誤魔化す。
「や、せっかく来たんだから、依頼の話だけするのはもったいなかろ?俺たちがちゃんと入れるようになるのはまだ先の話だし、少しは楽しんで帰らないとな。特にゆいにゃんは完全未経験なんだから、酒を飲む場の空気くらい味わっておかないと」
というか、ペリエとか美味しくないもん頼むな。あんなもんほぼただの炭酸水じゃないか。どうせここの雰囲気に呑まれてるゆいにゃんはセツのんと同じもん注文するに決まってんだから。
「なんでわかっ……ふ、雰囲気に呑まれてなんかないし。なんか大人な雰囲気だなーって思ってただけだし!……でも、その、ありがと」
「……まぁ良いわ。それはともかく、私達は全員未成年なのよ。貴方もノンアルコールにしておきなさい」
え、やだ。それにほら、多分この中で俺が未成年だと思われなかったからこそ入店出来たんだと思うし、未成年っぽい事はしない方針で行こうかなと。
「榊君、貴方「頼むよセツのん。今日だけ、な?」……ッッ!!こ、今回だけよ!」
目を見て真摯にお願いしたらセツのんも引いてくれたので、それで頼むと川崎姉に頼む。彼女は呆れたように畏まりました、と言って3つドリンクを作り始めた。どうやらクラスメイトの飲酒は黙っててくれるらしい。ありがたいね。
しばらく待つと俺の前には注文通りにカミカゼが、ゆいにゃんの前には紫とオレンジの対比が綺麗なカクテル……たぶんカシスコンク使ってたからカシスオレンジのノンアルコール版だろう。そしてセツのんには小さなグラス中に琥珀色の液体と、それを隠す様にレモンの薄い輪切り、そしてこんもりと盛られた砂糖……っておい。
「わぁ、きれー!あたしカクテル飲むの初めて!って、これノンアルコールなんだっけ?まぁ何でもいいや!」
「これは……初めて見るわね。なんというドリンクなの?」
嬉しそうに色んな角度からノンアルカシオレを見るゆいにゃんはさておき、興味深そうにしげしげとグラスを見詰めるセツのんの前から、グラス事カクテルを取り上げる。この匂い、やっぱりか。さっきのことと言い、セツのん川崎姉になんかしたの?めっちゃ嫌われてるじゃん。
「ちょっと榊君、興味深いのは分かるけれど人のドリンク取らないで貰えるかしら。飲みたければ自分で注文なさい」
「アホか。おいギャルソン。これニコラシカだろうが。ノンアルコールを頼んでんだよこっちは」
そう言ってギャルソン川崎に作り直し要求する。琥珀色の液体は普通にアルコールの香りがしたのでブランデーだった。つまりノンアルじゃない。てかニコラシカはほぼ原液でブランデーを飲むかなり強めのカクテルだ。1杯だけとは言え、酒を飲みなれてない未成年がいきなり飲むもんじゃない。
とりあえずノンアルコールじゃない普通のカクテルを出された事を理解したのか、セツのんの川崎姉に向ける視線が鋭くなるが、当の本人はそちらを一切見ることなく驚いた様にこちらを見て笑った。
「へぇ、意外。分かるんだ。勉強してたの?……そんな怖い顔すんなよ、これでも援護してあげたつもりなんだけど。ヤクザじゃなかったみたいだけど、アンタの女には変わりないみたいだったからさ」
これは地顔だっつの。勉強という程でもない。昔結構好きだっただけだ。そしてこの2人と俺は付き合ってないし、大きなお世話だ。俺はその辺のしょーもない大学生とは違うので、女口説いてベッドまで連れてくのに酒の力なんて要らん。
そう言って目の前のグラスから、砂糖の山を零さない様にレモンスライスを折り畳んで口に放り込み、少し噛んで口の中に甘酸っぱさが広がった所でグラスに残ったブランデーを一気に呷る。途端に広がる複雑で芳醇な香りと、コクのあるまろやかな甘み。そうしてそれらが口の中で混ざりあって初めて出来上がるカクテルを、味わうように舌の上で転がしてからゴクリと飲み込んだ。レモンと砂糖があってもほぼほぼ原液のブランデー。喉を焼く様な感覚と共にカクテルが食道を流れて行った。
「レミーマルタン?しかもこの香りと味はVSOP?……いや、ニコラシカみたいなカクテルで使う?こんなの」
「うわ、銘柄まで分かるの?飲み方も分かってるみたいだし、高校生の癖に結構飲んでんの?普段はモサっとしてんのに、結構遊んでるみたいじゃん」
遊んどらんわ。前世では一時期無駄に高い酒飲むのとか、無駄に癖の強い酒飲む俺かっこえー!とか頭の弱いこと考えながらハマった時期があったけど、今世ではそういうことは流石にしていない。や、食料とか日用品とか大量に集めた時酒も色々な奴空間倉庫に放り込んであるけど、流石に調理酒以外手を出したことは無い。若いうちにカッコつけて飲んだってどうせ味もよく分かりはしないからな。
つーかそれよかセツのんに新しいドリンクはよ作れこの不良ギャルソン。あとニコラシカにするなら個人的にはコニャックよりカルヴァドスが好みだ。それもこんなに高級なの使わんでいい。高級品出すならロックかストレートで出せ。もったいない。
「はいはい、失礼致しましたお客様。直ぐに新しいのをご用意致します……モヒートでいい?」
「アルコール抜いたらほぼただのミント炭酸水じゃねーか。さっきのレミーマルタンといい、実はお前まだよく分かってないだろ……?いや、よく考えたら俺が悪かった、酸味が効いたカクテルでノンアルコールとか言われても困るか。ピーチコンクある?ならノンアルレゲェパンチ頼むわ」
「流石にまだ味が良く分からない……というか、味の良さが良く分からなくてね。助かる、今作るよ」
よく考えたら酸味が効いた、と言うとジントニックとかその辺が真っ先に浮かぶがあの辺は酒を抜いたらただのライム入り炭酸水みたいなもんだ。トニックは若干甘いけど、大きな違いはない。素直に甘さ控えめって言っとくべきだったな。
そんなこと考えてたら両サイドから袖を引かれる。どったの2人とも。あ、セツのんはもう少し待ってね。俺のオーダーが悪かったよごめん。ゆいにゃんはカシオレは綺麗だけどそのまま飲むと美味しくないからしっかり混ぜてからお飲み。大丈夫、それノンアルコールだから。
「そうじゃないよ!……なんて言うか、サカキンが手慣れすぎててちょっと引くんだけど」
「そうね。それに随分とお酒にも造詣が深いみたいじゃないの。あなた未成年よね?不良木くん」
誰が不良か。俺はズルして経験豊富なだけで、不良とかそういうのはゆいにゃんや川崎姉みたいな事を言うんだ。一緒にするでない。
「あたしも別に不良じゃないし!というか、その顔とそのお酒の知識で不良じゃないのは無理があるよサカキン……今だってそのお酒の飲み方、妙に様になってるし」
「それは私もだよ。こんな所で働いてるのだって別に遊ぶ金欲しさじゃない。そこらのバカと一緒にされんのは心外。……お待たせしました、レゲェパンチでございます」
や、そうは言うけど2人とも髪色ヤバいじゃん。ゆいにゃんのピンクもヤバいけど川崎姉の水色もヤバい。綾波レイじゃないんだから。不良じゃなかったらバンドマンかレイヤーくらいしかしない髪色。つまり2人とも超不良。俺はこれ地毛なのでノーカンです。ああセツのん、それはレゲェパンチ。別の名前はピーチウーロン。そんなに不味くないと思うよ。川崎姉の腕が悪くなければ。
「そうなの?……あら、桃と烏龍茶って意外に合うのね。悪くないわ」
「うっさいな、髪の色は趣味だよ。それに最低限マニュアル通りに作れないとこんな所でバイトにドリンク任せられるわけないだろ」
それもそうか……で?なんでこんなとこでバイトしてんの?家に全然帰ってないらしーじゃん。川崎少年がスーパー心配してたぞ。姉ちゃんが家に全然帰ってこない、姉ちゃんが急に不良になっちゃった!って。
「川崎少年?…大志か。あー、最近その2人や先生が急に絡んできたのはそのせいか。いや、さっきも言ったけど別に遊ぶ金欲しさにこんなことしてる訳じゃない。アンタらが大志に何言われたか知んないけど、あたしから大志に言っとくから気にしないでいいよ。……だからもう大志に関わんないでね」
「はいそうですか、と引くとでも思ってるの?弟さん、心配してたわよ?」
「だから?友達でもないアンタらにそれを言われて、こっちもじゃあ辞めます、なんて言うと思ってんの?関係ない奴に口出しされる事じゃない」
そう言って睨み合う2人。何これ険悪ゥ。セツのんとゆいにゃんが川崎姉を説得しにかかっているので、俺は黙って酒を飲みながら見ていることにする。
「あの、川崎さん、なんでそんなにお金が必要なの?……いや、あたしもたまにお金ない時とかバイトするけど、川崎さんみたいに夜中までとかはしないし、理由が、その、……気になって」
「そんなの必要だからに決まってんじゃん。細かい理由は赤の他人のアンタに話す必要は感じないね」
にしても流石は高級ホテルの中の店。ドリンカーの背後の棚に並ぶ酒の銘柄はかなりいい物が揃えられている。この体が未成年じゃなかったら今世は金もあるし、シャボーのXOとかストレートで飲みたいところなのだが。如何せんまだ酒の味を楽しめる舌とは言い難い。やはりここは軽めのカクテル辺りでお茶を濁すのが正解かな。
とかやってたら話が結構進み、ゆいにゃんに再び袖を引かれる。どうやらセツのんがいきなりシンデレラがどう人魚姫がーとか言い出したので話に着いて行けなかったらしい。なので制限時間過ぎてるよって説明をしてやる。
今は労働基準法で未成年は夜10時以降は本来働いてはいけないのだ。現在の時間はもうすぐ夜の11時。当然俺達も川崎姉もアウトだ。しかしこれ程レベルの高い店がその辺のルール守らないわけないので、川崎姉は年齢詐欺ってると思われる。セツのんはそれをバラすぞって言ってる訳だね。
「そういうことか。ありがとサカキン!」
「まぁ、そういうことなのだけれど、辞める気はないの?」
「ないよ。ここがダメでも他に行く。あたしは進学する気だからね。邪魔された所で止まる気はないよ。悪いけど」
ほーん。なるほどねー?
とりあえず川崎姉がなんで働いているかはだいたい分かったが、まだセツのんとやり合ってるのでもう少し様子見よう。と、思ってたら突然川崎姉がキレた。
「アンタの父親県会議員なんだろ?金に困ったこと無いあんたみたいな奴にあたしの気持ちなんか分かるわけない。部外者は黙ってろ」
そう言い放った川崎姉の顔はとても憎々しげだった。なるほど、さっきからやたらセツのんの事を嫌ってるみたいだったのはそれが原因か。成績とか容姿とかでセツのんに噛み付くタイプには見えないし、セツのんぼっちだから元々友達で仲悪くなったパターンもないよなーとは思ってたんだよね。
しかし呑気に聞いていたのは俺だけで、言われた当の本人は余程言われたくない言葉だったのか、思わずグラスを倒してしまった。幸い割れてはいないが中のドリンクがドレスに掛かったら大変であるのでササッと拭き取っておく。見るとセツのんは唇を強く噛み締め、カウンターに目を落としている。あまり見ない、明確にセツのんが傷付いた姿だった。そして今度はそれを見たゆいにゃんがキレた。
カウンターをバンと叩いて立ち上がり、今ゆきのんの家の事は関係ないじゃん!と吠えた。周りの注目集めそうなので咄嗟に俺らの周りの空間固めて声が響くのを止めた俺は超えらい。
普段のゆいにゃんからは想像もつかない剣幕に、流石の川崎姉も少したじろいでいたが、顔も背けながらも一言、じゃぁ、あたしの家のことも関係ないじゃん、と呟いた。それはその通りなので、途端にゆいにゃんも勢いを失って俯いてしまった。
そして始まるお通夜みたいな空気。まぁそらそうなるよね。お金の問題なんて本来部外者が口を出すことでは無いし、出していい事でもない。ましてや俺らはただの学生で、法を犯して働く川崎姉を咎めるのすら俺たちのすることでは無い。まぁ、そもそも現在進行形で飲酒してる俺が言うことじゃないけど。
………ま、本来ならな。
とりあえず、セツのんは大丈夫か?
「え?え、ええ……問題ないわ。由比ヶ浜さんも落ち着いて。ただグラスを倒してしまっただけよ」
「ゆきのん……」
とりあえず大丈夫そうなので2人のことはさておき。なあ川崎姉よ。
「……なに?まだなんかあんの?」
「とりあえず500万あれば足りる?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
なんかおかしな事言っただろうか。や、俺口あんまり挟まなかっただけで別に聞いてないわけじゃないよ?で、俺なりに話纏めた感じ、要は金が必要だってだけじゃん。違う?
「い、いや違わないけど、うちの親が用意できないものをアンタなんかに……ひょっとしてアンタも雪ノ下みたいに家が金持ちってこと?」
いや全然違うけど。俺の実家はただの農家だし。農家だから持ってる土地はそれなりに広いが、それだってちゃんとした大農家と比べたら微々たるものだ。間違っても金持ちではないし、見ず知らずの他人にポンと数百万円も払えるわけはない。
「それならなんで……まさか借金でもしてあたしにくれるとでも?はっ、馬鹿なのアンタ」
「榊君、流石にそれは私も川崎さんと同意見なのだけれど」
「アホか。俺の金だわ。なんで俺が借金してまで川崎姉に貢がなならんのか。俺に貢がせたかったらせめて髪の毛黒くしてこい不良娘が」
不良じゃないとか何とか言ってる川崎姉は置いといて、セツのんもゆいにゃんも俺が金に困ってないことは知っていても、流石にそこまで金持ってるとも思ってなかったみたいで疑惑の目で見てくる。まぁ平塚先生にも教えてないしな、当然だ。
面倒なので、両手の掌を川崎姉に見せる様に広げて、ゆっくりと重ねる。それを見た川崎姉がなんだコイツ?みたいな顔をしてくるが、無視して召喚……ッッ!とか適当な事を力を込めて言います。するとあら不思議、腕の中から銀色のアタッシュケースと1つの銀行通帳が!
「えっ!?何これ手品!?ちょ、アンタ今何やったの!?」
「フッ……イリュージョンさっ!」(`・ω・´)キリッ
これは決まりました!流石ですね俺氏!あまりの見事なイリュージョンっぷりに川崎姉も2人も度肝を抜かれています!!
「そういうのは今いいから」
「ふざけてないで本題に入りなさい」
2人が冷たい(´・ω・`)
さておき、この通帳はいくつか分散させた預金のうちの1つで、このアタッシュケースは念の為常備してる現金のうちの一つだ、と説明する。
「は……?いや、そんな訳ってうわ、バカ!」
面倒だったのでアタッシュケースを開いて見せたら慌てて身を乗り出してきてバタンと閉じられた。いや、そんな心配しなくても俺らの周りの空間歪めて外からはよく見えなくなってるし、話してる声も聞こえないので大丈夫なんだが。
とりあえずこんな所でそんなもん広げんな、と怖い顔で川崎姉が言うので、仕方なく中から札束3つくらい取り出して見せる。ほーら、本物ですよー?
「う、わ……マジだ。玩具の銀行券とかじゃない。なんでこんな金、アンタが……?」
「や、基本は株とかなんだが、最近たまたま電子マネーで大当たりしまして。その通帳見てもらえれば分かるけど、結構俺こう見えても稼ぎいいのよ?」
まぁ前世と違ってこのタイミングで電子マネーが跳ねたのはびっくりしたけどな!名前もボットコインだし。なんかザコ敵っぽい名前だよね。いやビットでもそれは変わらんか?だがしかし我がアンサートーカーさんにこう言った事で負けはないのだ。名義だけは一応親のものを借りているが、全部俺がやっている事なのは事実だ。
「え、じゃあ本当にこれ、サカキンが?嘘……!」
「貴方、一体幾つ引き出し持ってるのよ……!」
フッ。俺氏チーターですから!フホホホ!(。・ω´・。)ドヤッ
ま、そんな訳で金を出せと言われれば別に出せる訳ですが。なんだっけ?君の親が用意できないものを俺に出せるわけがない、だっけ?ならこれで文句無いな。あっ、もちろんタダではあげないよ!それをすると魚の取り方を教えるタイプのうちの部の方針と違っちゃうからね!それなら文句ないだろセツのん。
「い、いえ、それは確かに無いのだけれど、そもそも貴方のお金の使い方に私が口出しできる訳じゃ……!ま、まぁいいわ。続けてちょうだい」
だそうだ。部長の許可も出たし、後は俺と川崎姉の話し合いですね。で、君はどーする?
「ドヤ顔してる所悪いけど、あたしはあんたの施しを受ける気はないよ。例えタダだって。あたしは自分の力で何とかする!」
「ふーん。で、足りるの?
「!?……アンタ、なんでそれを……ッ!大志だって知らないはず。両親だってアンタなんかに話すわけないし……?」
俺がチーターなのもあるけど、川崎少年の話と川崎姉の話をちゃんと聞いてれば誰だって何となく分かるよ。要するに君は進学したいけど、君の親は川崎少年の学費までで精一杯ってことでしょ?兄弟多いらしいし、まぁ仕方ないね。それに川崎少年にだけは何も教えないってのもよく分かる。そりゃ言えんわな。良い姉ちゃんじゃねぇの。
でも、現実として足りるの?歳誤魔化してここで働き初めてどのくらいになるのか知らんけど、調べた限りじゃここのバイト代は深夜手当付けても最大時給1500円くらいか。まぁ千葉だからな。高級ホテルとは言ってもそんなもんか。
ま、アルバイトとしちゃ高額だが、受験勉強することを考えたら今の生活ずっと、って言う訳にも行かんだろ。どこ狙ってんのか知らんけど、必死こいて働いてるところを見るにおいそれと奨学金狙えるところでもないっぽいな。となると、勉強の時間は必須で、スーパー頑張ってもこのバイトを続けられるのは今年いっぱいぐらいか?現実的に考えて。
今がこの店の開店から閉店までフルで毎日働いてるとして、この店17時開店だから閉店の朝3時まで、それに店の閉め作業があるからまぁだいたい朝の4時までかな。開店1時間前からと計算すると最大で14時間。それに時給で計算すると約21000円だけど、時給1500円は最大値だし、実際深夜手当は10過ぎないと出ないはずだからまあ2万は行かないかな。
そしてひと月に何日働けるか、っていう所だけどこれは店が年中無休だったとしてもこれだけの高級店だと休み無しでは入れてくれんだろ。月6日休みだったとして……おお、40万位になるのか。凄いな!12月までの6ヶ月で240万!確かにこれならギリギリ足りるかも知れんな。……このまま行けばだが。
当然こんな無茶なスケジュールだと月の残業時間がヤバすぎるので36協定でも庇いきれんだろし、よしんばこの店がそれをよしとするブラック企業だったとしても、年齢詐欺は店には通用しても国には通用しない。すると未成年が半年で200万も稼ごうとするとくそうざい税金の問題で絶対国税庁が口を挟んでくる。あいつらこういう事にはくっそうるさいからな。すると違法労働で何言われっか分からんだろう。
それにそもそもこんな無茶なスケジュール計算で働いて体が持つわけないしな。今だって睡眠時間2、3時間くらいしか無いみたいだし。そりゃ遅刻も増えるわ。学費の為に必死にアルバイトして結果学業疎かにしちゃあ本末転倒だろう?なら──ーって。あれ?どしたの3人とも。なんか固まってるけど。なんなの?俺今嘗てないくらいシリアスな話してんだけど。
「え、あ、いや……サカキンが突然頭良い感じ出してきてちょっと驚いてるというかなんというか。正直さっきのお金持ちってことよりもこっちの方が意外過ぎて呆然としちゃったっていうか」
「率直に言って貴方がそういう計算や会話が出来ること自体が違和感を覚えるわ。貴方、本当に榊君よね?」
「あたしはなんか見た目がヤクザみたいだし、話し方もなんかこっちを追い詰めるみたいで、アンタが本当に堅気の人間か疑ってるところ」
酷くない!?
俺めっちゃ真面目に話してたんだけど!!それなのにこの扱い酷くない!?お前らな、俺がいつも陽気なスーパーイリュージョ二ストと思ったら大間違いだぞ!謝って!こんなに真面目に会話した俺に酷いこと言ったこと早く謝って!
「あ、良かったいつものサカキンだ。ごめんごめん!」
「そうね、やはりこっちが榊君ね。疑ってごめんなさい」
「や、なんかごめん?」
謝罪が軽い!?
……や、もういいわ。何か真面目に会話すんの疲れた。で?足りんの?いや、出来んの?
「……それは。でも、やるしかないんだよ」
なんだ、流石に無理があることは分かってるのな。良かった、安心したわ。そこまで馬鹿じゃないのね。川崎少年が姉ちゃんは真面目だ、って言うのが本当で良かったよ。
「うっさいな。言ったろ、そこらのバカと一緒にすんなって。あたしだって考えてるんだ」
「ああ、とても真面目だ。そういう所は俺から見てもカッコイイ。良い女だな、アンタ」
「なっ!?い、いきなりなんだよ!」
何って素直な感想ですが。って痛い痛い。ちょ、2人とも俺の耳を引っ張るんじゃない!別にナンパじゃないから!単に褒めただけだから!
「駄目だよサカキン、川崎さん困ってるじゃん。いきなり変なこと言うのは良くないよ!」
「ここに入店するための口実とはいえ、私達2人を傍にはべらせておいてナンパとか流石ねエロキ君。だけど今は一応依頼中だからそう言うのは控えなさい」
人をナンパ師扱いするでないわ。というか褒めただけだって言ってるだろ。実際凄くない?高二でもう親に頼らず自分で学費稼いで大学行こうとしてんだぜ。しかも結構無茶なスケジュール組んで。俺が川崎姉ならたぶん普通に諦めて高卒だと思うよ。頑張っても何年か後に大学入るかどうか。
下手したら親か兄弟恨んでるかも知れぬ。でも川崎姉は恨み言一つ言ってないじゃん?諦めもあるだろうけど、それでも俺は素直に凄いと思う。
「……止めろ!なんかそれ以上言われると背中が痒くなる!別に誰かに褒められる様な事じゃない!自分の為に自分で出来ることしてるだけだ!」
「良いじゃないか自分の為で。自分の為になる事でも、自分から動ける若者って意外と今少ないんだぞ?」
具体的には前世の俺。仕事で使う資格とか何だかんだ理由つけて手に入れる勉強とかするのめっちゃ遅かった。だから昇進も遅かった。逆に早くにそれが出来る奴は当然早く昇進した。周りにも俺と同じような奴は沢山いたから、きっと出来て当然なものではなく、自ら努力し続けたからこその結果なのだろう。だからきっと川崎姉も凄い女なのだ。うんうん。
「〜〜っ!なんなのよ、もう…ッ!」
「………」ジトー
「………」ジトー
なんか1人で勝手に感心してる間に川崎姉が不貞腐れてるがそれはさておき。後途中から黙り込んでる2人から凄いジト目向けられてるがそれもさておき。川崎少年は姉ちゃん超頭良いって言ってたけど川崎姉は実際どれくらいの成績なの?特別奨学金とか、もしくは予備校のスカラシップとか取れるくらいには成績良かったりするの?
「……正直に言えば、結構厳しい。総武は進学校だけあって全体的なレベルが高いし、総合順位で15位より上は取れたことない。……あと、そろそろそれ止めろ」
「え、それでも凄くない!?あたし総合順位なんて100位以内にも入ったことないけど!!」
「由比ヶ浜さん、貴方の順位はこの際参考にならないから置いておきましょう」
や、普通にかなり良いと思うけど、ここに学年1位を譲らない女がいるから感覚狂うね!でも学費免除みたいなスーパー良い補助は受けられないかもな、それだと。その上更にこれだけバイトしてると勉強してる時間取れないよね。こっから上は難しい。うーん、え、なにゆいにゃん?俺の成績?よく覚えてないな。結構浮き沈み激しいから。
「あ、やっぱりそんなもんだよね。良かったー、サカキンがインテリキャラだったらあたしはどうしようかと思ったよー!」
「ふ、俺をセツのんや川崎姉と一緒にするでない!俺はもうぶっちゃけ普通に生きてく分には働く必要なんてないのでテストとかノリでやってるのだ!」
「いや、それはそれでふざけてると思うけど。……ていうか、それ止めろって言ってるだろ」
「由比ヶ浜さん、その男の言葉を真に受けてはいけないわ。その男、本当にテストの点数の浮き沈みは激しいけれど、あくまでノリでやってるからよ」
「ふぇ?ゆきのん、それってどゆこと?」
「簡単に言えばその男の浮き沈みの上限は1位で、その逆は最下位よ。つまり、腹立たしいけれどやる気になれば私より成績が上になるわ。とても腹立たしいけれど」
「え""っっっ」
てへぺろ(´>∀<`)ゝ
ま、まぁほら俺氏チーターですしおすし?テストとかアンサートーカーで1発ですし?ただ俺自身は普通に英語とか苦手なんで本当に頭良い訳では無い。単に答えが分かるだけである。というかまだセツのん根に持ってたんだ。あれからちゃんとセツのんより上の成績行かないように気をつけてるんだけど。え、それがダメ?負けず嫌いってめんどくさいねぇ。
とりあえず涙目でサカキンの裏切り者ー!とかこちらをポカポカ叩いてくるゆいにゃんは適当に波紋式撫でなでで鎮圧しつつ、話を戻そうか。結局どーするかは当人の問題になるけど、川崎少年が割とガチで思い詰めた顔してたので俺としては手っ取り早く金貸すよと言いたい。
ぶっちゃけ寄付にしてもいいんだが、あまり無償でそういうことされても真面目な川崎姉は逆に居心地悪くなりそうだから、無難なところでってうわ、こらやめろブルーキュラソーの瓶でいきなり殴り掛かるでない。いきなりなんだと言うのだ。
「人の話を聞け!それ止めろって言ってるだろ!」
「は?そんな理由でバーテンダーが客に殴り掛かるとかそっちのがヤバくない?やはり川崎姉はヤンキーやな!やーいヤンキー!ってうお、バカよせ!ジャックダニエルの角は俺でも痛い!」
「なら1発当たれこら!っていうか椅子に座ったままでなんで当たんないんだよ!」
ふはははは!女性の中では武闘派の平塚先生ですら俺に一撃も入れられないのにこの程度の動きで俺に当たるわけが無かろう!スロー過ぎて欠伸が出るぜ!ってこら2人とも両サイドから抑えるのは卑怯だぞってうぉぉ!?く、くそう負けるか!まだだ、まだ終わらんよー!喰らえ奥義!いつの間にかピコハン!相手の武器がいつの間にかピコピコハンマーになるぅッ!!
「は?そんな訳ないだろ馬鹿か?「ピコッ!」えっ?うわ、何であたしピコピコハンマー持ってんの!?ジャックダニエルは?」
ふ!これが奥義いつの間にかピコハン!この技を使われたものは例外なく皆武器がピコハンになっちゃうのさっ(`・ω・´)キリッ
「くっ!この……訳わかんない手品ばっかり使いやがって……ッ!」
ふーはははは!負け惜しみですね!いやーすいませんね勝っちゃって!ところで今どんな気持ちか聞いてもいいですかぁ!?座ってる相手に武器まで持って殴り掛かり、その上2人に協力してもらって身動き封じたのにそれでも有効打与えられなかったとか今どんな気持ち?ねぇ今どんな気持ち?おっ、顔真っ赤ですねー!悔しいですか?ねぇ悔しいですか?悔しいですよね!実は運動神経いいタイプでやればだいたい出来ると思ってそうだもんね!でも残念!現実はそんなに甘くありませーんっ!おお?ちょっと涙目になってきたねその顔可愛いね!泣いちゃうのかな?店員の癖にお客さんに一方的に襲いかかってきて返り討ちにあった挙句泣いちゃうのかな?いいガスって痛っっった!!?
「え、今何で殴られたの俺?俺が殴られる理由あった今?っていうかそれディサローノ!?えっ、俺ディサローノで殴られたの!?なんて事するんだゆいにゃん!」
「うっさいサカキン!いつも女の子虐めるなって言ってるでしょバカ!もう!川崎さん大丈夫?ごめんねサカキン無神経だから……!」
「だ、大丈夫っ!大丈夫だから……!くっ、アンタいつか覚えてろよ…!って不思議そうな顔で後ろ見てんな!アンタだよアンタッ!」
アンタ、さん?私ちょっとロシア人の血が入ってはいますが名前が違うので人違いだと思いますが……あ、ひょっとして知り合いに似てます?いやーよく言われるんですよね!
「誰に言われるのよ……というかそもそも貴方、ぼっちじゃない」
失礼な!ぼっちだが言われることもあるよ!俺はよく庭園とかにある龍の髭とかいう草によく似てるって言われる。家族に。
「くっそ、何処までもバカにして……ッ!アンタ、名前は?」
「名前を名乗る時はまず自分の名前からが礼儀でしょ?そんなことも知らないなんてやっぱりヤンキーなの?やーい川崎姉はヤンキー!」
「だから川崎姉じゃない!………はぁ、あたしは川崎沙希。アンタは?」
それはどうもご丁寧に。私は榊 貴一と申します。ちなみにこっちが雪ノ下雪乃さんと由比ヶ浜結衣さんです。あ、知ってる?あらそう。とりあえずよろしくね!
「ふん!………で、条件はなんなの?」
「あ?……あ、俺から借りる気になったの?無利子無担保有る時払いの催促無しだから安心してね!」
「違っ、ま、まだ話を聞くだけだ!話を聞いてから少しは考えるってだけ!……っていうか条件を聞いてんの!」
条件?あ、そういやそんな事言ったかも。しまった、何も考えてなかった。ねぇセツのんセツのん、こういう時ってどんな条件提示すれば良いのかな?
「貴方、自分で勧めておいて内容詰めて無かったの?……はぁ、何で私こんなのに負けたのかしら」
「ふ、それは俺がチーターだからですね!」(。・ω´・。)ドヤッ
「黙りなさい。というか、お金の貸し借りでこの場で適当に決めるとか論外でしょう。後日また改めて話し合いの場を設けるのを私は勧めるわ」
む、それが妥当な所か。じゃあそれで良い?……って、あれ、何でちょっと安心した顔してるのゆいにゃん。
「え、いや、大丈夫信じてたよあたしは!サカキンがお金貸す代わりに川崎さんにエッチな事要求したりしないって!」
「はっ倒すぞ淫乱ピンク」(´^ω^`#)
「榊君、それは流石に外道過ぎて私も警察に通報するしかないわ。覚悟はいい?」
「ふぇっ!?あ、アンタそんなこと考えてたのか!?ぜ、絶対そんな条件応じないからなっ!」
いや考えてないし。セツのんは携帯電話仕舞え。淫乱ピンクのピンク色の思考に汚染されてるんじゃないこの思春期JK共が。まぁそういう年齢なのは分かるけど、あんまり妄想を人に晒すんじゃないよこのむっつり少女達。ゴンって痛った!お前2度もぶったなゆいにゃん!親父にも殴られたことないのに!
「ぶったがどうした!私は淫乱じゃないって言ってるでしょバカサカキン!」
ふ、淫乱じゃなければ自発的にピンクにはしないんだよ!それはさておき、細かい条件は後に決めるとして、やっぱ体にしよう。あ、めんどくさいから引くなサキサキ。心配しなくてもエロい事じゃないよこのむっつり。あ、むっつりだと逆に残念だった?ごめんねー、期待に添えなくて。
「残念じゃないしむっつりじゃないっ!……え、えっちな目的じゃないなら体ってなんだよ!」
「ん?これからの夏休みとか長期休暇は茨城の塾で講習受けてもらおうかな。そしてうちの実家の手伝いを頼みたいなと思って。塾の講習費用は借り入れではなく俺が別に出すし、住む所も用意して食事もちゃんと3食出すし、何なら更に別にバイト代も出そう。ただし期間中はあんまり家には帰れないかも。どうだ?」
「え、何だそれ。逆にそんなに好条件で良いのか不安なくらいなんだけど。なんの仕事すんの?」
「それあたしも思った!……あれ、サカキンの実家の手伝いって?」
「確か、農家だと聞いた気がするけれど……榊君?」
それで合ってるよセツのん。いや、2人はちょろっと話したけど俺の実家農家やっててさ。少し前に色々あって周りの農家と関係があまり良くないんだよね。おかげでアルバイトも回して貰えないから、人手が足りなくて、夏休みとか実家帰って俺も家の手伝いとかするんだけど、それでも足りなくてね!人手どうしようかと思ってたんだよね!ただ夏休みとか暑い時期の外の仕事だから、下手したら並のバイトよりも厳しいかも!農業は基本体力勝負の力仕事だからね!
「いや、それでも塾の費用とか別途で持って貰えるなら全然良いけど……あれ?住む所はどこになるんだ?」
「当然うちの実家だが?大丈夫大丈夫、部屋は沢山余ってるよ!」
「ちょっ、サカキンそれって同棲ってこと!?」
人聞きの悪いこと言うでない。ただの住み込みアルバイトだよ。本当は体力ありそうな川崎少年にお願いしたい所なんだが、こっちで夏期講習決まってるって言う話なんだよね。ま、とりあえずそんなもんでどうだろうかね。無理なら無理でも代案考えておくから安心して。なんにせよ金は貸すから。
「何でそこまで……?本当に変なことはしないんだよね?」
「口で言ったところで信用出来ないと思うけど、しないから安心しろ。というか、そういうことする相手にこんなまどろっこしいやり方しないし。ま、理由はそうだね、良い女に甘いのが男のサガって事で」
「分かった……考えておく。返事は何時までに返せばいいの?」
あほ、気が早いわ。まずは具体的な金額やら返済方法やら色々決めることがあるだろ。俺はぶっちゃけなくたって構わないが、こういうのはちゃんと書類に起こしてやらないと、俺がもし気が変わって悪どいことしたら、証拠が無くて泣きを見るのは自分だぞ。セツのんにそういう面倒いの纏めて用意してもらうから、それが出来たら1度部室に来い。細かい話はそれからだな。
「うぐ、確かに。……意外と気が利くんだな」
「というか、しれっと私に仕事を押し付けないで貰えるかしら?」
俺は元から気が利く男なんで。
なに、セツのんこんな仕事ゆいにゃんに出来ると思ってんの?え、なぜ俺がやらないか?ははは、俺がやったらそれこそどんな悪どい書類用意するか分からないじゃん?依頼人が被害に遭わないように配慮するのも部長の仕事でしょ?
「……はぁ、仕方ないわね。確かに貴方一人にそう言う書類を任せたらどうなるか分からないし、川崎さんを見殺しにするのも弟さんに悪いわ。……でも最低限は働いてもらうわよ?」
「え、ちょっ、ゆきのん!?さも当然のようにサカキンの発言流さないで!!あ、あたしだってやればできるよ!?やればできる子なんだよ!?」
「ははは、仕方ないね。部長に仕事押し付けてやろうと思ったのに。ま、元は俺が出した話だしね」
「そうよ、責任取りなさい」
「2人とも!?なんで無視するの!?……ちょ、ほんとに出来るってばー!」
ははは、ゆいにゃん、嘘はダメだよ?ははは!
ま、とりあえず今日のところはそんなもんか。じゃあ小難しい話は無しにして、せっかくだしもう一杯くれ。2人はどーする?
「う〜っ!もうっ!サカキンのバカっ!サキサキ、あたしにもお酒!あたしも飲んでみたい!」
「よしなよ由比ヶ浜。アンタ弱そうだし、適当にノンアルカクテルだしてあげるからそれで我慢しときな。雪ノ下、アンタは?」
「……そうね、同じの貰えるかしら」
「レゲエパンチね、了解……って、今気づいたけどいつの間にかピアノ止まってる?何かあったのか?」
あ、ごめんごめん、金の話するからね、他の人間に見せるのも聞かせるのも良くないからね。ここに来る客が金に困ってるとも思えなかったけど、念の為にね。ちょっと待って。
「は?榊、アンタ何言って「パチンッ」っっ!?!?ええっ!?ピアノの音が!?なんで!?」
「ふ、イリュージョンッ!」(`・ω・´)キリッ
「もうサカキン何でもありだよね」
「川崎さん。この男のする事に驚くだけ時間の無駄よ」
なんでこの2人はこんなに冷たいのか。最初の頃の新鮮な反応はどこへ行ってしまったんだい?え、毎日見てれば飽きる?それもそうね!
「……なんかよく分かんないけど、アンタがなんかしてたの?なんだ、こんな所で周りも気にせず大金出すくらいだからよっぽど危機意識無いのかと思ってたけど……?」
「俺は信頼出来そうな人間にしかこういう事はしない。ま、初対面のサキサキにしたのは、真面目そうだし、説得には現ナマあった方が分かりやすいし、あと川崎少年の頼みでもあるからだけどな」
「あっそ。……っていうかそれなら横の2人は良かったの?」
「なにが?あ、ひょっとしてこの2人が大金見た程度で何かすると思ってる?ははは、今言ったろ?……俺は、信頼出来る人間の前でしかこういう事はしないんだよ」
「……そ、仲良いのね。はい、カミカゼお待たせ」
まぁな。なんたって我々は……あれ、なに?2人とも。どうかした?何か顔赤くない?酒飲んでないよね?
「んんっ……何でもないわ」
「そ、そうそう!何でもないよサカキン!」
「ふーん?なんだ、あってんじゃん」
何かよく分からんけどまぁいっか。そういやふと思ったんだけど、もう零時回ったんだけどゆいにゃんどうやって帰るの?家に帰るならタクシー代出すけど?
「や、大丈夫!今日はゆきのんち泊まるから!それにゆきのんの作るご飯も美味しいんだよ!サカキン知ってた?」
知るわけないだろ。というかゆいにゃん自分で作るという選択肢は無いの?あ、たまに一緒に作ってるんだ。そっか。え、食材のカットと米とぎ?……お、おう。大変だな、セツのん。
「少しずつは上達してるもの。最初のクッキーの時に比べたら今は普通に食べられるだけずっといいわ」
「そーだそーだ!あたしだって成長するんだよサカキン!何なら今度お弁当作ってあげよっか!?」
じゃあ任せた。美味しいお弁当よろしくね!
「……へっ?」
何固まってんの?上達したんでしょ?じゃあたまには良いじゃん。何時も俺が君らに作ってばっかだし。女子の手料理食べたいし。期待して待ってるよ!
「……榊君、酔ってるの?」
「この程度で俺が酔うか。単純に、たまには誰かの手料理も良いなってだけだよ。最近は俺が作ってばっかりだしね。……自信ないなら無理にとは言わんが」
「……や、やるよ!大丈夫、めっちゃ美味しいお弁当作ってあげるから!期待しててねサカキン!」
「どうしようセツのん。急に不安になってきた」
「なんでよ!?」
「骨は拾ってあげるわ、榊君」
「ゆきのんまで!?」
「あははははっ!本当に仲良いねアンタ達。ま、あたしも話聞いちゃったから胃薬位は用意しといてあげる」
「サキサキまで!?」
ははは、正露丸だけじゃ突破されることが確認されてるから、2つくらい頼むわ。……ま、たまにはこういう夜も良いよね。うん。
この後結局遅くまで大人な世界を楽しんだよ!
◻️◻️
川崎 沙希
「いやー、凄かったねぇ。川崎さんの大学の友達だっけ?あの子達」
「は、はぁ。まぁそんな感じです」
実際は高校の同級生だが、それを言う訳には行かないので、職場の先輩の話に適当に相槌を打つ。この人は気さくなのはいいのだが、口より手を動かして欲しい。この店で働いてるとは思えないほどチャラいのは仕方ないけれど、仕事はちゃんとしてくれないと困る。
「凄いよねー!あの男の子、最初は凄いの来たな!って思ったけど、まさか川崎さんと同じ19歳とは思わなかったよ!それでウチの会計、ポンと払っちゃうんだもんなぁ。可愛い子を2人も連れてるだけあるよね!よっぽど裕福な家の子なんだなあ」
気持ちは分かる。確かにあれはヤクザにしか見えなかったし、同い年であんな大金持ってたらあたしでも金持ちのボンボンだと思う。つーか普通はそうであるはずだ。だから、あの歳で自分で一定以上の稼ぎがある、というのはかなり異常だと思う。それもエリートサラリーマンの年収よりも稼いでるとか、頭がおかしい。
……だからだろうか。
自分でも途中からは気付いてた。いつの間にかあの男には誰にも話さないつもりだったことをペラペラ喋っていたのを。成績に始まって、見ず知らずの人間に借金をするとか、普通じゃ有り得ない。冷静に考えればおかしい筈だ。なのに、何故かあの男を思うと不思議と私は話を受けてもいい気になっている。
無利子無担保有る時払いの催促無し、なんて、いくらお金持ちだからって普通じゃない。それこそ身体を要求されてもおかしくない気がするのに、何故かアイツはそんな事しない気がしている。アイツの異常性に危機感が麻痺してるのだろうか。そうだとするとあまり良くない状況だ。
「それよりも驚いたのは川崎さんだけどね!普段の川崎さんってクールな印象だったけど、友達の前だとあんな風に笑うんだね!」
「……えっ?」
「えっ、何驚いてるの川崎さん!驚いたのはこっちだってば!普段大人びてる川崎さんがすっごい楽しそうにしててさー。あ、でも気を付けなよ?チーフは少し難しい顔してたから。僕はすっごいいい笑顔だなと思ったんだけど、店の雰囲気に合わないからってさ!チーフは頭硬いよねー?」
楽しそうに笑ってた?あたしが?……そう言われれば最後の方は普通に笑ってた気がする。いやいや、当たり前だ。あたしだって人間だ。普通に笑うことだってある。だから別におかしなことじゃない。
……あれ?では何に驚いたんだあたしは。驚くような事じゃないのに。
……止めよう。今日は色々あり過ぎて頭が混乱してるんだきっと。それにここ最近は身体に疲れが溜まっている気がする。そうだ、早く家に帰って休もう。どうせ数時間しか寝れないけれど、少しは寝ないと流石にもたない。まだ一月目だ、この程度で倒れてたらこの先どうなるか分からな……
「……駄目だ。弱気になるな、あたし」
「えっ?ごめん今なんか言った?」
「いえ。なんでもないです。それより、終わったのであたし帰りますね。お先に失礼します」
「え、あっ、もう?あ、ちょ待って!今度の休み一緒に──」
自分の仕事は終わったので、あたしはさっさと帰ろうと思った。後ろから先輩が何か言ってたが、自分の仕事は自分でやってもらうことにした。
タイムカードを切って、女子更衣室に入る。女性スタッフはもうあたしだけだ。早く着替えて出なければ。そんな事を考えて、先程頭に浮かんだ気持ちを振り払う──ー………!
……駄目だ。どうしても暗い気持ちになる。考えないようにしていても、どうしても考えてしまう。
本当は分かってる。自分が思っていた以上に、今の生活はキツい。こんな生活をしながら、勉強なんて出来る気がしない。アイツの言う通り、自分の行きたい大学は結構な難関だ。下手したら今の時期から勉強を始めた方がいい。今のバイト止めて来年も勉強しながらバイト、なんて真似したら絶対落ちる。浪人なんてしたら余計に無駄な金が掛かる。だから1発合格以外にチャンスは無い。その為にもちゃんと勉強に専念する時間が必要だ。だから今こうして必死にバイトしてる。けど、そのバイトをやり切れるかどうかが分からない。まるで綱渡りだ。ゴールは見えている。たった数ヶ月後だ。けれど今にも落ちてしまいそうだった。
「だから、あんな話がこんなに魅力的に見えるんだろうか。あんな、胡散臭い話……」
そうだ、胡散臭い。あの時は思わず大金に目がくらんでしまったが、普通に考えて普段話もしない人間に数百万もの大金を貸す?無利子無担保有る時払いの催促無しで?有り得ないだろう。ニュースでこんな話に食いついて騙されたバカが居たらあたしは心底バカにする自信がある。なのに、今のあたしは思わず乗りそうになっている。バカなのかあたしは。
でも、だとするとアイツの目的が分からない。部活だとか言ってたが、そんな理由で人に大金を貸す人間がいるだろうか。いやいない。大志の事だって1度しか会ってないらしいし、口実だろう。だとすると何だ?株とか電子マネーが嘘だったとしたら、アイツがどうやって稼いでるのか分からないけれど、見せ金にしたってあれだけ稼げるならあたしみたいな貧乏人を借金漬けにしてどうこう、なんて無駄な手間でしかない、と思う。とするとやはり私の身体が目的?
「それにしては雪ノ下も由比ヶ浜も何もされて無さそうだったし……」
そう。あの二人は最初アイツの女かと思っていたが、見ている限りでは本当に違うみたいだった。まぁ、それはあくまでアイツだけの話で、由比ヶ浜と、意外なことに雪ノ下もアイツには何かしらの感情があるのは見て取れた。たぶんきっかけがあれば泥沼になる気がする。
だからこそ疑問だ。自分の見た目がそれなりに異性を惹き付ける自覚はあるが、かと言って傍にあの二人が居てわざわざ大金かけてまで私を狙うだろうか。他の同級生の男子みたいに胸に視線が1度も来なかった程度には、あたしはあの男からの執着を感じなかったし、あれだけ稼げて、見た目が怖い事を除けば顔立ちだって整っている。おまけに身長も高い。それでもあたしに拘る理由があると思えるほど、あたしは自意識過剰にはなれなかった。
「駄目だ、考えれば考えるほどどつぼにハマってる気がする!本当にもう帰ろう!」
ボタンを外す途中で止まっていた手を急いで動かし、サッと着替えてロッカー閉める。バタン、と大きな音がなってしまった。少し力を込めすぎた、と思ったが、それよりもロッカーの上から衝撃で本が落ちてきてあたしの頭に直撃したのでそれどころじゃなくなった。
「〜〜っ!痛っった……ちっ、ツイてない!」
自業自得だが苛立つ。それをグッと堪えて落ちた本を拾う。だいたい何でこんな所に本を置いておくんだ全く。と、苦々しく思っていると、ふと本の表紙が目に付いた。
「なにこれ、カクテル言葉?……花言葉みたいなアレか」
そう言えばチーフに研修の時少し教わった。流石にあの当時は覚えることが多くて全部覚えきれなかったが、お客との話の種になるから少しは知って置いて損は無いとか何とか。確かにこの職場は基本的に静かな客が多いが、たまに蘊蓄好きの客もいて、どこそこの酒がどうとか、賢しげに語ってたりする。そういう時、こちらもある程度話が出来ないと駄目なんだとか。幸いカクテル言葉はまだ誰にも語られた事は無いけれど。
正直なことを言えば、歳を誤魔化してるのもあってあまりお酒は好きじゃなかった。多少飲めない事は無いが、良さが分からないからお客にどれがいいか聞かれた時に、簡単に説明できる程度にマニュアルを覚えただけだ。それで何だかんだこれまで働けてるから問題も無いと思う。
そんな事考えながら、何となく本を捲る。特に勉強しようとか、興味があった訳ではなかった。本当になんとなくだった。ペラペラと適当にページを捲りながら、流し読み。覚える気は別に無かった、それなのに、とあるページで手が止まった。
「カミカゼ?あ、アイツやたらこればっかり飲んでたな。そんなに美味しいもんなの……か?」
いや。いやいや、そんな。流石にこれは偶然だろう。ちょっと出来すぎであるし。というか、カクテル言葉って飲む方に意味があるの?っていうか、アイツはそんな事一言も………。
「そう言えばあたし、2年に上がってから家以外で笑ったの初めてかも」
そうだ、1年の終わり頃に両親と話して、それから自分の将来のことを考えたらとても拙いことに気付いて、何とか高給のバイトに入れたと思ったら、バイトと学校両立させるのに必死で……気が付いたら、周りの連中がなんの苦労もなく学校生活を送っているのが腹立たしくなってて。
そんな事誰かに当たっても仕方ないから、見ないようにしてた。関わってる暇も無かったし。そんな状態だったから、高校に友達なんか当然いない。元々口下手な方だし、1年の頃も友達なんか数える程度だったから、2年に上がってすぐ独りになった。それを今まで気にした事も無かったけど。
ふと、何も気にしないで勉強していた中学時代を思い出した。あの頃は友達も結構いた。けれど同じ中学から総武に入った人には仲のいい友達はいなかった。仕方の無いことだ。自分の選んだ進路に後悔は無い。
………なのに、何故あの3人が居た時間を楽しかったと感じてしまうのだろう。
あんな喧嘩みたいなやり取りしてた筈なのに、気が付いたら最後には私も笑ってた。お金の話が終わった後は、ほとんどくだらない話ばかりだった。普段ならそれこそ馬鹿な連中だと切って捨てて、さっさとその場から立ち去った。今日だって他の仕事を口実にあの場を少し離れていれば彼らも帰ったかもしれない。でも、それをしなかったのは何故だろうか。ひょっとして、その時間が終わるのが惜しいとでも思ってしまったのか。それでは、それではまるで……!
「あたしが、寂しがってたみたいじゃないか……っ!」
バカバカしい。あたしはそんな弱い人間じゃない。それこそくだらない。こんな事を考えるなんて、本当にどうかしている。ああもう!それもこれもアイツが変な事ばかり言うからだ!だから最後にあたしもおかしくなってしまったんだ!そうに違いない!
──あんた、良い女だな。
「〜〜〜ッッ!!やっぱ1発思いっ切り入れときゃ良かった……!」
唐突にアイツのヤクザにしかみえない顔と、思いの外優しい声がフラッシュバックした。こんな事を思い出してる時点で疲れてるに違いない!きっとそうだ!早く帰って寝よう!
「………ふん」
もう一度だけ本を見る。そこには、とあるカクテルのカクテル言葉が書いてあった。とてもキザったらしいその一文をもう一度読んで、投げ捨てるようにロッカーの上に置いて、直ぐに更衣室を出た。
まだ残っていたチーフに一言挨拶して、そのまま店を出る。ホテルのエレベーターに乗って、駐輪場のある地下駐車場へ。自転車に乗ってそのまま外に出ると、外がもう白んでいた。すっかり慣れてしまったが、まだ明るいうちに店内に入って、休憩中もホテルの外には出ないので、夜を飛ばしていきなり朝になったようなこの感覚は、結構な疲れがどっと来る。きっと過ごした時間を一気に自覚するからだろう。
頭を振って気持ちを切り替える。早く帰らねば、と思い直した瞬間に、やらかした。
何も考えずにそのまま道を渡ろうとしてしまった。半分無意識に青信号だから動いた。だがここの信号は困ったことにこの時間は結構危険なのだ。
朝方だから人がほとんど居ないのをいい事に、大型トラックとかがたまに信号無視をするのだ。だから、信号が青になっても油断せずに車がいないか確認しないと、猛スピードのトラックが赤信号で止まることなく突き進んでくる。本来車の方が歩行者に配慮すべき筈なのだが、この時間の一部大型トラックは歩行者が配慮しろ、と言わんばかりだった。
だから普段は気を付けている。
だが今日は忘れてしまった。
なるほど、こんな風に人は事故に会うんだな、と。何処か冷静に、鳴り響くクラクションと目の前に迫る大型トラックをあたしは見ていた。足は竦んで動かなかった。
これは死んだかも知れない、せめてもの抵抗で、目を瞑った。その程度の事しか出来なかった。
そして、止まることなく大型トラックがあたしにぶつかって──ー!
轟音。
とても近いところで、大きな何かがぶつかったような音。ああ、すごい音だ。これが自分の体の音だと言うのなら、やはり助からないだろう。そんな確信があった。せめて顔だけでも綺麗なままだと良いんだけど。家族が悲しむから。
一瞬の浮遊感。気が付いたら身体が横向きになって居たのが分かった。ああ、知らなかったな。大型トラックに撥ねられると痛過ぎて痛みを感じないんだ。そんな事知りたくもなかったけど。
てか凄い、ほんとに全然痛くない………ってあれ?
「焦った。今のは本当に焦った……!ま、間に合って良かった…!ギリギリっ!本当にギリギリっ……!」
ふと上から声が聞こえて、恐る恐る目を開ける。すると目の前にはとてもおっかない顔したヤクザみたいな同級生の顔があった。冷や汗をダラダラ流しながら何事か呟いているが、あたしは何が起きたか理解出来なかった。
「………ふえっ?」
自分の口から馬鹿みたいな言葉が漏れた。でも仕方ない、それぐらい意味不明だったのだ。だって、あたしは今確かにあの大型トラックに撥ねられたと思ったのに、気が付いたら同級生に横抱きにされてるなんて……横抱き?
「ふえぇっ!?な、なんで?ていうか何コレ!?」
「うおっ!?わ、待てコラ!暴れんな!今降ろすからとりあえずちょっと落ち着け!」
いや待ってあたしそういうの考えたこともないっていうか憧れた事はあったけどいきなりは無理っていうかこんなに突然になってもぜんぜん受け入れられないっていうかもうちょっとムードが欲しいっていうかやり直しがしたい!
「何言ってんだお前!?待て、落ちるから!ていうか落とすから!だから暴れんなー!」
◻️◻️
くっそ焦ったでござる。
川崎少年の依頼でサキサキに会いにすごい感じのバーみたいなとこ行って、やたら綺麗に決めたセツのんとゆいにゃんと3人でサキサキを説得して、その後は大人の雰囲気を楽しむというか、背伸びして遊んだというか、まぁ俺は前世を思い出しながら酒飲んでただけなんだけど。とにかくこう、ちょっと悪い遊びみたいな気分で楽しんだ後、気が付いたら俺の酒1口飲んでたゆいにゃんが顔真っ赤になってたので慌てて会計済ませてゆいにゃん連れてセツのんと店を出た。
その後はタクシー拾ってマンションまで戻り、ゆいにゃん背負ってセツのんの部屋まで行って、そこで2人と別れた。それで自分の部屋に帰ると、俺のベッドで静さんが寝てたので、起こさないように着替えてたら、そう言えば日課のトレーニングを忘れてたことに気が付いた。
アンサートーカーで失敗したので、波紋にせよスタンドにせよ、使いこなせるようにトレーニングはなるべく欠かさないようにしている。なので気がついてしまったらやるしかないと、翌日の授業はサボることも視野に入れて、朝ごはんの準備だけ済ませたら、トレーニングウェアに着替えてランニングに出た。
時間が時間なのでいつもよりペースを早めて走ってたら、ふと長い水色の髪が見えて、ああ、サキサキこんな時間までバイトしてるのか。そりゃ川崎少年も心配するよなぁ、なんて呑気なこと考えてたら明らかに信号で止まる気のないスピードで大型トラックが走ってきた。正直危険運転だが、これだけ見通しが良ければ流石に気付く。まぁ大丈夫だろう、と思ってたら横断歩道の信号が青になった瞬間フラフラとサキサキが進み出して唖然とした。どうやらかなり疲れて居たんだろう。
ぶっちゃけあと2秒俺の意識が戻るの遅かったら助からなかったかもしれない。俺のスタンド能力は時間の巻き戻しが出来るが、死者は蘇らない。死んでなければ何があっても助けられる。だがあのスピードの10tトラックに撥ねられたら即死でもおかしくない。そうしたら俺に出来ることは死体を綺麗な状態にしてやる事だけだ。
なので慌てて時を止めて俺だけ加速してトラックを全力で蹴り飛ばし、その反動でサキサキ拾って歩道に戻った。思わずトラックぶっ飛ばしちゃったけど、トラックがサキサキに既に触れて居たから仕方ない。スーパーギリギリで、まだ皮一枚触れたばっかり、という所だったので、念の為サキサキの時間を少し巻き戻したけど、多分しなくても平気だったかもしれない。間一髪には変わりないけど。
トラックの運ちゃんは仕事熱心なのは分かるけど、赤信号無視したのは運ちゃんが悪いと思うので、トラックが壊れたのは自業自得と思って諦めて欲しい。そうでなかったら人一人殺してた訳だし。運ちゃん自体は空間防御張ったから多分無傷の筈だ。うん。
そんな訳で意識が戻って暴れ出したサキサキを1度降ろした後、落ち着くまで波紋式撫でなで。ついでキュアボイスも使って完全に鎮静化した。
それが済んだら念の為痛いところ無いか確認する。まぁ俺が巻き戻しかけてるからあるはずないんだけど、それから不注意を軽く説教した。流石に死にかけたからか割と大人しく聞いてくれたのでサッと切り上げて、トラックと一緒に木っ端微塵だったサキサキのチャリをイリュージョンとか言って直す。そして携帯で警察と救急車を呼んだ。
この時点でサキサキは家に帰そうと思ったのだが、何と当人が大きくひしゃげたトラックを見たあたりでようやく死にかけた事を実感してしまったらしく、気が抜けたというか腰が抜けてしまった。
タクシーで帰しても良いが、そうするとチャリを直した意味が無い訳で。本人も自転車が無いと通学にもバイトにも困ると言うので、仕方なく俺がサキサキを後に乗せて、サキサキ自転車を運転してサキサキの家に帰っているところだ。なんかサキサキがゲシュタルト崩壊しそう。
「……その、色々、ありがとう。助かった」
「別にいい。でも次はマジで気を付けろ。普段はこの時間には走ってない」
「……分かってる。あたしだって、死にたくないし」
「ならいい。それと掴まるのはいいが、少しくっつき過ぎだ。さっきまで走ってたばかりだと言っただろう。汗まみれになるぞ」
なお汗臭いのはもうどうにもならん。乗せる前に時間巻き戻すの忘れたし。面倒だから我慢してもらった。タクシーを嫌がったサキサキが悪い。たぶん。
「…別にいい。それに、腰に力入らないからこうしてないと、落ちそうだし」
そうか。ならいいけど。……まぁ俺のスタンドが臨戦態勢でサキサキ落ちても大丈夫な様に見張ってるんだけど、そんな事言われてもって話だしな。
俺はもう何も言わず、無言で背中に抱きつく彼女の感触を楽しむ事にして、ペダルを踏み込んだ。
……なお、サキサキは結局家に着いても腰が抜けてたので、彼女を背負ってインターホンを押したら、着替えた時にこの後どうせ汗かくならシャワーは後でいいやって後回しにしたことが災いして、ヤクザが娘を連れ帰ったとサキサキの両親がゴルフクラブを持って現れ。髪の毛上げてたせいで寝惚けた川崎少年も俺に中々気付かずに結構な時間無駄に修羅場になった。
何とか抜け出した頃には6時を回っていて、仕方なくトレーニングを切り上げて空間転移でマンションの自室に戻ったのだが、風呂に入る前に起き出して来た静さんに遅いと怒られながら捕まった挙句にゆいにゃんとサキサキの匂いを察知されてしまい、またしても嫉妬モードに入った彼女に首筋とそのまわりにキスマークと言うにはあまりに毒々しい真っ青な跡と、幾つもの血が滲む歯型を付けられてしまったのだった。
………不貞腐れて部室でずっと授業サボってた俺は多分悪くない。
続く。
エロはいついかなる時もぶっ込んでいくスタイル。最初が最後にきて、次が初めの方。そして今回が真ん中らへん。これで次からはどこに来るかは真に気分次第じゃ!
なお、カクテル言葉は興味がある方だけググって下さい。
恒例の登場人物紹介
・榊 貴一
神様転生系チーターオリ主。
普段はモサモサだが髪の毛を上げるとヤクザ顔。
ベッドの上でもヤクザ。
電子マネーで稼いだ金額は宝くじの20倍くらい。
好きな子は虐めちゃう小学生男子みたいな男。
色々なトラブルに巻き込まれるが、綺麗な2人女の子連れて高級ホテルに行くくらいにはリア充なので自業自得。
平塚先生には無茶苦茶甘い。
・雪ノ下 雪乃
ドレスとか普通に何着も持ってる上流階級。
オリ主の顔はヤクザだと思うけど何故か嫌いじゃなかった。
何気にゆいにゃんが頭撫でられてた時自分は撫でられなかったのが不満だったので後日ゆいにゃんが居ないところでオリ主に撫でさせたりしたらしい?
オリ主が金持ちなことには「こいつ、相変わらず無駄に有能だな腹立つ」くらいにしか思ってない。
・由比ヶ浜 結衣
さすがにドレスとかは持ってない一般階級。
念願のオリ主の顔が見れたが怖すぎて作り物かと思った。
綺麗なカッコでオリ主と大人な空間に行って夢見心地だったが、目の前でオリ主がサキサキばっかり褒めるので内心イライラしてた。
でもオリ主がお金持ちだと知ったとき、信頼してるって言われて一気に超ご機嫌になった。
オリ主が金持ちなことには「サカキンと結婚してもお金には困らないんだ……えへへー」と未来の事を妄想するのに忙しくて良く考えてなかった。
一瞬の隙を突いてオリ主の酒を飲み、間接キスに成功するもアルコール耐性ゼロだったので直ぐに落ちた。朝起きたときオリ主に背負われた事を知ってチャンスを逃したことに愕然とした。
オリ主の弁当はすっごい頑張って作った。
・平塚 静
優秀な国語教師にしてオリ主とゆいにゃんの担任。
同時に生徒たるオリ主にガチで手を出すヤバい奴でもある。
ドMにしか見えないが、ドMにもなれる、が正しい。
オリ主から他の女の匂いがすると病んで面倒くさくなる。しかしオリ主はそんなとこも好きなのでなんだかんだイチャイチャしてる。
良く考えたらサキサキが居る場所にオリ主と一緒に行ける訳ないと後で気付いてスーパー荒れた。オリ主の肩に歯型を3個増やした。
・川崎 沙希
川崎少年の姉にして髪の毛が青い不良娘
だが態度はともかく根は凄い真面目。
でも中学生時代は優等生だったとは思えない口調。
オリ主に怪しい取り引きを持ちかけられた。
オリ主に川崎姉、と呼ばれてイラついた理由は自分でもよく分かってない。
日々の忙しさから、本人も知らず知らずのうちにストレスを溜めて居たが、何故かオリ主達と絡んでたら少し気楽になって戸惑い、そんな時に死にかけて恐慌状態になり、そこでオリ主に波紋式撫でなでとウィスパーキュアを掛けられて鎮静化した。あれ?これ誰かと似てる気がする。
この後、カクテル言葉を勉強し始めた。
オリ主が初めて原作と同じあだ名で呼ぶ人でもある。
・川崎 大志
真面目で評判の川崎沙希の弟。
通称川崎少年。
寝起きはそこまで良くない?
寝ぼけ頭でオリ主の顔見て誰だこいつと素で思った。
声を聞いても直ぐには気付かなかった。
オリ主が姉の命を救ったと聞いてこの後土下座した。
・サキサキの先輩
チャラい。必殺技はごめんなサイクロン。
だが外面は完璧なので高級ホテルの高級バーでも働ける。
最大6股。
サキサキを狙ってたが、口説くために仕事サボってた所をチーフに見つかってぶちギレられた。反省はしていない。
この後ちょろちょろのちょろ、と背後霊たくさんの女の子口説こうとして心霊現象にあった。
口調は場所によって変えてる。
・チーフ
クソ真面目。
自分の働く店にこだわりのあるフリーター。
御歳42歳。
・川崎家両親
子沢山で今もラブラブ。
しかしハッスルし過ぎて貧乏暇なし状態。
大学は行かせてやれないけれど娘は超絶愛してる。
なので例えヤクザが相手でも娘に手を出すならば容赦はせん!と父親のゴルフクラブ二刀流、2人合わせて四刀流!と言ってオリ主を倒そうとしたがサキサキ背負ってたオリ主に1発も掠らせることもなく体力切れで敗北した。
その後娘と息子の話を聞いて全力で土下座した。
サキサキに似てというかサキサキの親なので根は真面目で面倒見の良い、人としてよく出来た人達。
だがしかしその後の娘の様子に父はそわそわと不安そうに、母はアラアラと楽しそうにしてるという。