それはさておき、皆さん色々な感想やら応援コメントやら、そして誤字報告。本当にありがとうございます。俺ガイルアニメ2期の再放送が終わったのにまだこの小説を書いているのは皆さんのおかげです。この場を借りて感謝を。
それはそれとして転職に成功したのでしばらく更新速度激落ちくんすると思います。何ならそのままエタる可能性もあるのでその時は諦めて下さい。
そして作者に文章を纏める能力がないことが発覚しました。全然25000字以内で収まらなかったので気を付けてください。
どうも、貴一です。神様転生者です。
やっぱり犬は日本犬が好きです。
「ではここに判子を貰えるかしら」
「分かった。………ねぇ、本当にこれでいいの?」
なにを今更。別にいいってば。無利子無担保だって初めに言ったし、その時点で保証人なんて居てもいなくても一緒だよ。サキサキに踏み倒されたら俺の見る目が無かったって事で構わぬ。
「そんな事するか!……何年かかっても、絶対返す」
「ならそれでいーじゃん。それに、もうこの内容でセツのんが書類作ってくれたんだし、今更俺が文句言うことは無いよ」
「でも、こんな…あたしばっかり得する内容で、榊に利益なんて全然無いじゃん」
そうか?農作業はかなりハードだぞ?俺としては実家を手伝ってくれるだけでもう別にいいと言うか。
「それだって塾の講習優先じゃん。あたし、朝と夕方に少しずつ働くだけで、学費も講習費用も食事もバイト代も出して貰ってるのに……やっぱりもっと講習期間減らした方が!」
要らん要らん。両親にはこの間最新のトラクターとアタッチメント買い与えたばっかりだしな。ちょっと手伝ってくれれば後は俺がやるし。本当に気にするな。
「でも……!」
「無駄よ川崎さん。その男は絶対にこういう事では引かないわ。諦めてなるべく早く全額返済出来るように頑張りなさい」
そういう事ですね!運が良かったと思って後は勉強頑張りなさいな。誰にでもする訳ではないし。とゆーわけでとっとと判子を押すがいい!
「……分かった。ありがとう。……でも」
「ん?」
「この恩は、絶対返す。……待ってて」
ははは、真面目だねぇ。ま、期待して待っているよ。では確かに。ではこちらの方は俺が。そちらは自分できちんと保管よろしくね。
「ではこれで無事に契約終了ね。もうお金は受け取ったのだったかしら?」
「ああ。……聞いてたよりもずっと多く入ってたけど」
いや俺サキサキがどこの大学行こうとしてて、そこの進学にいくら掛かるか知らんし。まぁ一千万入れたし、流石に足りるんでない?余ったら留学とかそういうのしたくなった時とかにでも使えば?どうせ使った分は返してもらうって契約だし。あ、逆に足んなかったら言って!
「いや、これで足りないような大学、進学候補に入れないから」
「もはや裏口入学が出来そうな金額ね……はぁ、まぁ貴方のお金の使い方に口出しする気は無いけれど、お金の事でやりすぎはあまり良くないわよ?」
わはは、権力者が贔屓するのは良くないが、一般人が誰かを贔屓するのは自由だからな。なんの問題もあるまい!俺は美人には甘い男だからな!ぬははは!
「びっ!?〜〜ッッ!と、とにかくありがと!今日は予定あるから、もう行くっ!」
「ああ、行ってらしゃい。またな」
「………うん、また」
控えめな声でそう言った彼女は、何故か名残惜しそうな顔で一度こちらを振り返り、何かを振り切るように頭を振って部室を出ていった。……飲み物だけじゃなくてお菓子も出すべきだった?
「そんな訳ないでしょう。……1週間前とは別人のようだわ。一体何したのタラシギ君?」
特に俺自身は何もしてないと思うが。強いて言うなら腰を抜かした彼女を背負ってインターホン押したら、彼女の両親に誤解されてゴルフクラブで殴り掛かられただけだよ。というか俺がタラシだったらセツのんとゆいにゃん口説いてないの不自然じゃね?
「一千万ほぼ見返り無しで貸してる時点でダウトでしょう、それ。……私を口説きたければ命を賭ける事ね?」
ははは、命を賭けて口説くくらいの価値はまぁ有りそうだな!ま、気が向いたら挑戦しよう。それはそうと、セツのんも色々ありがとね!お疲れ様!
「ええ、お疲れ様。まぁ、元は奉仕部としての依頼だから当然の事だけれど……分かってるとは思うけれど、本当は専門家を間に挟むべき事よ?」
分かってる分かってる。というかもう挟んだ。じゃなきゃサキサキは出元が不明の怪しい金で受験したことになってバレたら大変だからね!この書類はあくまで俺とサキサキの間で取り交わした個人的な約束だよ。どっちかが約束破ったってなんの効力もないのさ。
「……はぁ。そんな事だろうと思ったわ。どうせ川崎さんが気にすることの無いように、ご両親の方を説得したんでしょう?」
てへぺろ(´>∀<`)ゝ
「……流石に甘すぎだと思うけれど、寧ろご両親もよく得体の知れない貴方の説得に応じたわね?」
「ははは、それは不幸中の幸いってヤツかね?ま、これで川崎少年も高卒にならずに済むだろ。……あの家、さらにまだ下に子供居るからな」
実は、サキサキをギリギリ救出に成功したあの日、彼女を家まで送った時に色々あったが彼女の両親にとそれなりに打ち解けることに成功したので、思い切って事故になりかけた理由とか、川崎少年の思いとか、色々な話を本人達に内緒でご両親に打ち明けて、ついでにこちらからも色々な話をしてみた。
その結果、軽い紆余曲折を経て、サキサキは無茶な深夜バイトを辞め、俺からの借入を受ける決意をした。そして両親には専門家を間に挟んで、俺が初めに言った通り、無利子無担保有る時払いの催促無し、ついでに保証人も返済開始期限とかも全部無しのほとんど寄付みたいな条件を保証した書類、ようは返済しなくても大丈夫な事を証明する証拠を作って渡してきた。というか恐縮する両親無視して押し付けてきた。俺から両親に頼んだことは、この件の口止めだけだ。
これでもし何かあってサキサキが返済する事が出来なくなったとしても、彼女には返済義務が無いことになる。ま、本来はその辺しっかり取立てる方がいいんだろうが、あの子真面目だからね。下手するとそれで潰れそうだし、それが原因で潰れられたら何のために助けたか分からんし。それに何事も無ければ彼女はちゃんと返すと思うし。……この世界では原作の方法じゃ少し無理があったしな。別に良かろう。
「そんな所まで?……お人好しにも程があるでしょう」
「奉仕部のやり方としては外れてたか?」
「そうね。……でも、他に有効な方策も無かったのは確か。どんな形であれ、結果としてあの2人を救ったのも、また」
「そうか。では依頼達成だけど今回の勝負は引き分けって事でどうだ?」
「仕方ないわね。私は優しいからそれで見逃してあげるわ」
ははは、そりゃあ感謝しますよ部長サマ!よ、さっすが部長!かっこいー!では俺も今日は帰るから後よろしくね!お疲れ様でーす!
「褒め称える語彙が足りてないわ。もっと色々な言葉で称賛なさ──ー待ちなさい。どこへ行こうというのかしら?今日は由比ヶ浜さんも居ないのよ?」
ああ、何かユーミン達と遊びに行くとか言ってたねー。まぁだからこそ都合が良いんじゃないか。今日ならゆいにゃん着いてこないし。
「……部長を一人残して何処へ行こうと言うのかしら?納得出来る理由がなければ帰さないわよ」
えぇ……寂しがりなの?相変わらず素直じゃない猫みたいな子ねぇ。ほら頭を撫でてあげよう。ほーらよしよしー。おお、相変わらず頭撫でると猫みたいに目を細めるの可愛ええな。やれやれ、しょーがないなー、セツのんも着いてくる?
「私は猫ではないのだけれど。……んっ、もう少し強くても大丈夫よ。……それで、どこに行くの?」
「ん?女子中学生とデート、かな?なんっち「は?」……冗談だよ」
マジで冗談なのでそのびっくりするくらい冷たい目で見るのやめてもらえる?今一瞬俺ですらビクッとしたんだけど。あと撫でさせる気なら手首握り潰しそうな勢いで掴むのも止めて?すっごい撫でにくいから。
「……手は止めずに、詳細を話しなさい。早く」
だから、手を……ああはい。分かりましたよ。逃がす気はないって事ね了解。ゆーて単純な話ですよ。セツのんが言ってたゆいにゃんの誕生日、あれのプレゼントを、こまっちゃんに選ぶの手伝ってもらおうってだけ。ついでに彼女も一応は関係者だし、詳細はさておき、川崎少年の依頼達成したことくらいは説明しに行こうかと思ってね。
「こまっちゃん?……ああ、比企谷さんね。それは確かに貴方のセンスで選ぶよりもずっといい考えね。というか、それなら最初から私も誘いなさい。由比ヶ浜さんのプレゼントは私も買うのよ?」
や、俺は女子の欲しがるもの分かんねーからこまっちゃんに協力依頼したけど、セツのんは同い歳なんだから……俺が悪かった。今までそういうイベント参加したこと無さそうだもんな、セツのん。それなら分かるわけないよな。分かった、次からは最初からちゃんと誘う。とにかく今日は一緒に行こうぜ!ガスっ!痛っ!蹴るなよ!
「黙りなさい!私は好きで1人なのよ。1人では何も出来ない人達と一緒にしないでもらえるかしら」
ハイハイ、めんごめんご。俺が悪うございました。確かにセツのんは1人でも頑張ってるもんな。それは本当に凄いと思うよ俺も。
「……ふん。分かればいいわ。それじゃ、早く行きましょ」
え、結局着いてくるの?ああはいはい分かりました。何も言わずに行きますよ。やれやれ、まったく……最近のセツのんはお淑やかさを何処かに置いてきてしまったらしい。いや、よく考えたらセツのんがお淑やかとかそんなの1度も見たことないな。俺の気の所為か。じゃあ仕方ないね!ゴス!痛っ!急に足を踏むなよ!
「くだらないこと言ってないでさっさと歩きなさい。時間は有限よ」
「じゃあこの手離しても「は?」……いや、撫でながら歩くの結構大変なんだけど。……へーい。了解でーす」
まったく、そんなに警戒しなくてたって、今更置いてったりしねーっつの。
「ふん………一人にしたら、許さないわよ」
◻️◻️
「どーもどーも!お久しぶりです雪ノ下さん!」
「こんにちは、比企谷さん。急にお願いしてごめんなさいね?」
「なんのなんの!きーち先輩と2人きりより華やかでずっと良いです!むしろ良くぞ来てくださいました!」
「俺ポイントが下がったのでこまっちゃんデザート無しな」
「わぁー!ちょ待って下さい嘘です嘘です!きーち先輩が来てくれて小町ちょーうれしー!来てくれただけで小町感激ですっ!小町ポイント超高ーい!」
いや、来てくれたも何も呼んだの俺だから。
とりあえず一人っ子だから金銭感覚しっかりするようにお小遣い厳しいんですー!とこちらにしがみつく女子中学生を引き剥がしつつ、呆れた顔のセツのんに指で行くぞ、とジェスチャーする。
ここは千葉の高校生がデートによく使うらしい、東京BAYららぽーとである。知ってるような知ってないような名前だが、違いがわからんので気にしないことにした。
この場所は俺やセツのん、ついでにこまっちゃんの家からも少し離れてるので、学校帰りに電車に乗った乗ってわざわざやってきたわけである。なお、こまっちゃんとは現地集合だった。
今回こまっちゃんにはゆいにゃんの誕プレを選ぶのを協力してもらうに当たって報酬を用意してある。まぁ原作主人公と違ってこまっちゃんは俺の妹では無いので当たり前の事ではあるが。
報酬内容はこのららぽーと内のよく分からんけど女子に人気?のカフェらしい。本人がそれでいいなら何でも構わんが、別にもっと高いところでも平気だぞ?と一応確認したら、
「きーち先輩はお金持ってそうなので、1回だけ高いところ連れて行って貰うより、こまめに程々の所連れて行ってもらった方が結果的に色々食べられそうです!」
とメールが来た。凄い強かな考えだったのでこいつは恐らく大物になると思う。
困った事に、無闇に歩き回るにはららぽーと内は広すぎるのと、学校帰りだから時間はあまりない。俺達2人は揃って一人暮らしだから問題ないが、こまっちゃんは普通に中学生で実家暮らしだから仕方ないけど。
なのでまず構内地図で入ってる店舗を確認し、結構な頻度でゆいにゃんとメールのやり取りをしているこまっちゃんが、ゆいにゃんの好きそうなブランドに当たりを付けてくれたので、その辺を重点的に回ることになった。
右手でセツのんの腕を、左手で俺の腕を抱えるように引き寄せたこまっちゃんが、妙にウキウキで俺たちの半歩先を歩き、まるで俺たちを引っ張るように歩く。もう少し年齢が違ってたら幼い子が両親の腕をとってずんずん探検に行きたがってるみたいな構図だ。微笑ましいがぶっちゃけ歩きにくい。
「あ、ほらきーち先輩!あそこにハラダさんがいますよ!猫係長ハラダさんですよ!」
「ああ、相変わらずいいくたびれ具合だな。流石公式設定で社畜なだけある」
「猫が苦労する様な会社は滅びるべきよ」
お前はなにを言ってるんだ。
「あ、見てみてきーち先輩!あそこに地方名産品ショップありますよ!小町雷鳥の里が好きです!」
「ふむ?じゃあ後で買ってやるから両親と一緒に食べな。俺も仙台銘菓の萩の月と水戸ののし梅買うわ」
「貴方、茨城出身なのに茨城の銘菓買ってどうするのよ……」
地元茨城を応援してんだよ。何ならセツのんにも買ってやるから茨城を応援するがいい。え、やだ?まぁそう言わずに。今なら萩の月も付けるよ!あ、ごめんやっぱ無し。萩の月の印象しか残らない!
「あー!きーち先輩きーち先輩!あそこにハーゲンダッツ専門店がありますよ!小町アイスが食べたい気分です!」
「後でな。この後飯食うんだからその後食えそうなら買ってやる」
「ええー!?それはつまりアイス1つ分は食べられるお腹残しとけって事ですか!?酷いですっ!」
「別に甘いもんは別腹って言っても構わないぞ。出来るなら」
「前回のサイゼみたいな事はもうやめてね。あの時よりも人数少ないのだし」
「うぐぐ、雪ノ下先輩にそう言われては……!この私としてもあの時のような無茶はもう出来ませんし……うぐぐ!」
どんだけ食いたいんだアイス。あ?ハーゲンダッツ専門店だから?……また今度来た時にでも好きなだけ買ってやるから、今回は我慢しとけ。はいはい、約束約束ー
「……」
「あ!きーち先輩これ!これです!オススメの香水です!小町この香りきーち先輩に合うと思います!というか小町がこの香りのするきーち先輩に飛び付きたいです!」
「!?」
「こまっちゃんはマタタビに飛び付いちゃう猫かなんかなの?……買うけど自分で使えよ?」
「それじゃ意味無いですー!あ、ほら試供品あるじゃないですか!これを、こうして手に取って、はいきーち先輩!首に香水付けるんでネックウォーマー外してください!」
「だが断る」
「ええー!じゃあ胸元に付けます!ボタン外してください。ええー?これもダメ?じゃあもういいです。仕方ないので服に匂いつけます。ごしごしっと、じゃあちょっと抱き着くのでそのままでお願いしまーす!」ガバッ
「………」
「……満足したか?」
「すんすん……や、ちょっと今小町飼い主の膝の上から動かない猫の気持ちを味わってるんでもうしばらくこのままでお願いします」
「……左様か。全く仕方のな「ちょっと待ちなさい」え?」
え、なに?どしたのセツのん?
「どうしたの?ではないわ。色々聞きたいことがあるのだけれど、榊君?」
「ふみゃぁ、これ癖になる〜〜」
聞きたいこと?別にいいけど。ああほらこまっちゃん!あんまり頭を擦り付けるな、髪の毛ぐしゃぐしゃだぞ。はいはい、代わりに頭撫でればいいのね。了解了解。食らうがいい!波紋式・撫でなでっ!
「あっ……コホンっ!まず初めに、随分と比企谷さんと仲がいいみたいだけど?」
え?あー、3日くらい前だったかな。あの雨でセツのんがランニング諦めた日の夜。あの日何となく気分で何時もより遠くまで走りに言ったんだけど、唐突にファミチキ食べたくなって帰り道でコンビニ寄ったんだよね。そしたら何故かこまっちゃんに遭遇して、なんかこう……話し込んでるうちに?ま、元々初めて会った時から毎日LINEしてるからってのもあるかも。
「(イラッ)毎日?……先程から、色々買い与えているのは?」
なんかこう……娘を甘やかしてる、みたいな?なんかこまっちゃんにはつい買っちゃうよね。こないだもコンビニでお菓子を買い与えてしまった。こまっちゃんは甘え上手だよね(`・ω・´)キリッ
「小町もきーち先輩なんでも買ってくれるから大好きですっ!小町こんな優しいお兄ちゃんが欲しかったなー?あ、今の小町的ポイント高い!」
「ふ、俺ポイントも超高いぞー?俺もこまっちゃんみたいな妹が欲しかったわー」
「榊君、知ってるかしら?そういうの、援助交際っていうのよ?このロリコン犯罪者!」
何を言うか。援助交際ではない援助交遊だ!付き合ってないしただの後輩だからな!第一中学生とか守備範囲外です。俺としては先輩ムーブ出来れば満足。
「そーですよー雪ノ下先輩!私はただきーち先輩にこうして抱き着いて頭撫でてもらったりご飯奢ってもらえれば満足です!付き合いたいとかこれっぽっちもございませんっ!」
「それで、じゃあ問題ないわね、ってなるとでも思ったの?いいから直ぐに離れなさい」
「えぇー?それは横暴ですよ雪ノ下先輩!あ、そうだ、雪ノ下先輩も一緒にきーち先輩に甘えまし「比企谷さん?私は、離れろ、と。そう言ったのよ?」ははははハイっ!了解しました!」
うわ怖っ!久々に見たなセツのんのマジ睨み。耐性がないとむっちゃビビるよね。だから耐性のないこまっちゃんが即飛び退いた。そして直立不動の敬礼体勢だし。ワロタw
「榊君?何故貴方が他人事のような顔をしてるのかしら?」
「ふ、俺は後輩に甘い先輩という自覚があり、その事にどんと胸を張るッッ!」(`・ω・´)キリッ
「処刑するわよトムキ君?それともバスターコールがお好み?」
アッハイ。世界政府は許して下さい。それはそうと、とうとうワンピースも読み始めたの?偉いなーセツのん!どんどんネタに詳しくなっていくね!よーしよしよし!凄いぞーセツのん!
「読み始めれば意外と直ぐだったわ。主人公達だけ誰も殺せないとか無駄なお子様向け要素があるけれど、歴史上の海賊からオマージュされたキャラクターが数多く出るのは中々面白いわ。……ん、もう少しそのまま撫でてちょうだい」
そーかそーか、どんな形にせよ漫画を楽しめるのはいい事だ!その調子でガンガン読む事を勧めるぜ!また部室の漫画を入れ替えないとな。さて、それじゃそろそろ真面目にゆいにゃんの誕プレ選び頑張ろっか!
「ええ、そうね。ではあの店から行ってみましょう。行くわよ、榊君!」
え?ちょ、手を引っ張るな人が多いんだからここは!待てってセツのん!ちょっ、こまっちゃん頑張って着いてきて!
「りょーかいでーす!……うわぁ、あの超おっかない顔してた雪ノ下さんが秒でデレッデレになった。ホントに凄いなーきーち先輩」
「というか貴一先輩連れてかれた。やっぱり独り占めしたかっただけかー。素直じゃないなー、もう。そんな雪ノ下先輩も可愛いけど!」
◻️◻️
「……これなんてどうかしら?」
「わー!雪ノ下先輩可愛いです!その猫のエプロンよく似合ってますよ!」
「そ、そう?……あの、嬉しいけれど私ではなく由比ヶ浜さんへのプレゼントなのだけれど……」
あの後色々な所を巡ってみたが、ゆいにゃんへの誕生日プレゼントが中々決まらない。セツのんは最初、普通の服をプレゼントしようとしてたが、どうもゆいにゃんの好みが分からないのか耐久性とか機能性とかメインで選ぼうとするので、俺とこまっちゃんとの話し合いにより、最近ゆいにゃんが頑張ってるらしい料理に関係するものをプレゼントにすることにしたらしい。
それでエプロンを選んでいるのだが、まぁ確かに猫のエプロンはセツのんによく似合ってる。でも多分あれ自分が気に入ったから手に取っちゃっただけだな。ゆいにゃんは猫とか明確に可愛いものじゃなくもっとこう……ふわっとした可愛い物が好きそう。
自分で言っててなんだそれって感じの説明だが、上手く説明出来ないのでそのまま伝えたらセツのんとこまっちゃんに何故か伝わり、2人でピンクっぽいエプロンを選んでいた。なお、猫のエプロンは結局セツのんが自分用として購入していた。なんかセツのんの家猫グッズ多そうだなって思った。
さておき、俺は俺でゆいにゃんの誕プレを選んでいるのだが、これが難航していて困っているところだ。いや、最初は原作主人公と同じでいっか!と思ってアンサートーカーで原作主人公が選んだ誕プレ調べたんだよね。そしたらさ。
まさかの犬の首輪。
いや、なんかチョーカーと勘違いしてゆいにゃんが自分の首に巻くとか作中屈指の名シーンとかも調べた時出てきたけど、この世界のゆいにゃんワンコをそもそも飼ってないからね!贈れないよね!
そんな訳でこまっちゃんにアドバイスを受けながら探しているのだが、中々これと言うものが見つからない。なんでも贈り物のイメージでよくあるネックレスとかイヤリングとかそういうのは駄目らしい。よく分からん。
「ヘアピンとかシュシュみたいな、頭に付けるものはどうですか?女の子にとって髪の毛を飾るアイテムは実用性も高いですし、よっぽど派手とかでなければ学校とかに付けて行ってもあまり咎められにくいので気軽に身に付けられて良いのでは無いかと思いますが!」
「それ採用。というか、これ以上悩んでいても俺一人じゃ一生決められなさそう」
「良いんじゃないかしら。私はあまり髪型を変えたりはしないけれど、由比ヶ浜さんはそれなりの頻度で変えてるみたいだし、余程センスのないものを選ばなければ大丈夫よ」
ふむ。ではちょっと見てくるので、選んだものを確認して貰ってもいいか?よっぽどあれだったら遠慮なく文句言ってくれ。
「ええ、それぐらいは構わないわ」
「りょーかいですっ!あ、小町にもプレゼントしてくれても構いませんよっ!」
「考えておこう。では少し見ながら待っててくれ」
そう言って2人から離れ、ヘアピンやカチューシャなど、頭に付けるアイテムが所狭しと並ぶコーナーへ足を踏み入れた。なお、先程から物凄い他のお客さんから視線が突き刺さるが、モサモサな見た目でこんな所に1人で商品見てたらそれはもう不審者に見えるのは仕方ないので諦めている。
なお、セツのんとこまっちゃんの2人と一緒にいた時はもう少しマシだった。マシだったというか視線の種類が違ったというか。なんでこんなのがこんな可愛い子2人と!?みたいな。まぁそれはユーミンでもゆいにゃんでも変わらないんだけどね。
ぼっちメンタルを全力で発揮させて周囲の視線を無視しつつ、目の前の多種多様なアイテムも物色してみる。うわ、種類豊富過ぎてどうしたらいいか分かんねぇ…!
頭の中でそれぞれのアイテムをゆいにゃんがつけてる所をイメージしながら似合いそうなものを探しているが、使い方がわからん物とかはどうしようもない。正直コスプレグッズの中に置いてある犬耳が一番似合いそう、とか考えつつ、諦めずに物色を続ける。
うーん、こっちの動物とかキャラクターの顔みたいなやつは流石にガキっぽ過ぎるし、かといってメッキみたいな金とか銀とかの装飾の着いた物は流石にないなーと俺でも思う。シュシュはなんかこう、どれ付けても似合いそうだけどいまいち気に食わないしなー。
うんうん唸りながら端から端までくまなく見ていく。しかしふと見ると途中で棚が途切れてしまった。どうやらここまでで終わりらしい。むむ、今の中から選べと?参ったな、いまいちピンとくる物が無いな……およ?
頭をかきながら周りを見渡してみると、今までどちらかと言うと安価なアイテムばかりだったのに、急にギラっと光る光り物が並ぶコーナーに出てきた。どうやら高めのシルバーアクセサリーとかのコーナーに着いてしまったらしい。
置いてあるものを軽く見ると、ネックレスとかピアスとか、先程駄目だしされた物ばかりが並んでいる。駄目だ、良さげだけど女友達に送るものじゃないとか言われたばかりだ。止めとこう、そう思って──それを見つけた。
理由は分からなかったが、何となく目を引いたので近付いて見てみると、どうやらそれは簪だった。銀色の二股に分かれたスティック部分に、白い小さな花が連なるように枝垂れる飾り。見ると花はミモザと言う説明文。や、簪とかいつの時代だよと思ったが、ふとイメージが湧いた。
普段のゆいにゃんは髪の毛を頭の右側でぐるっと一巻にして纏めてるが、パッと見お団子ヘアーに見えなくもない。そんなお団子ゆいにゃんに頭の中で浴衣とか装備させてみる。そしてそこに刺さる簪……むむっ!似合ってる気がする!
何となくピンと来た!なんかこのちっちゃくて白い花連なっているのが儚げというか、ちょっと弱々しい印象なのに、しっかりとした可憐さがある感じがなんか良い!
普段はアホっぽいけど、結構人間関係とか苦労してて、困ったように、でも頑張って笑ってるゆいにゃんと、セツのんと2人で元気いっぱいのゆいにゃん。どちらのゆいにゃんの笑顔が頭に浮かぶ。何となくこの花がその笑顔と重なる気がした。
お、よく見たらミモザってアカシアって別名があるのか。つまり蜂蜜!ふわふわのパンケーキと蜂蜜と考えたら何かふわっともしてる!いやこれはちょっと強引か。値段は5万。ちょっと個人プレゼントには高いか?…バレなきゃそんな気にはしないだろきっと。うん。
簪って時点で普段使いは出来なさそうだったが、気が付いたら買ってしまっていたので、これは誕プレの1つという事にしてプレゼント用にラッピングしてもらう。店員さんに値札はしっかり取ってもらった。あ、2人に確認してもらうの忘れた!ま、まぁいいか!どうせ念の為にもう一つ買うしな!
慌てて元のコーナーに戻り、個人的にはギリギリこれが一番似合いそうなシュシュを選んで持っていく。明るい黄色と白の模様が、何となくひまわりの花を想像させて、元気いっぱいの時のゆいにゃんには似合いそうな気がしたのだ。まぁゆいにゃんは何時だってにこにこしてる訳じゃないので、俺的にはギリギリかなぁと思わなくもないのだが、こまっちゃんとセツのんはまぁ普通に良いと思うよ?くらいの反応だったのでとりあえずこれも買った。
というかうんうん唸ってる間に結構な時間が立っていた。具体的には30分くらい。ごめん待たせた!と謝ったが、何故か戻って来たらセツのんとこまっちゃんが凄い仲良くなっていて、お互いの呼び名もいつの間にか小町さん、雪乃さん、になってる。凄い、この短期間に何があったんだろう?
「特に何もないわ。……でも、そうね。強いて言うなら、女の子の秘密、かしらね?」
なにそれ?……ま、何でもいいか。セツのんがそんなこと言えるくらい仲良くなれたなら。今までゆいにゃん以外で女の子にこんな顔した事ないしな。このまま楽しそうに話せる相手が、俺やゆいにゃん以外にも少しずつ増えていったら良いな、と思った。……奉仕部、なんて特殊な空間なんぞなくても、彼女達が気負わずに居られる様になれば、きっとそれが1番良いはずだから。
なんて、くだらないことを考えたせいだろうか?少し表情に出てしまったらしい。セツのんに思いっきり怪訝な顔をされた。
「……何か変なこと考えてないかしら。顔の半分以上は見えなくても、少しくらいは分かるのよ?」
ははは、滅相もない。さっきからそこの棚に並ぶディスティニーランドの人気キャラ、パンダのパンさんが気になって仕方ないセツのん可愛いなーと思ってるだけだよ?というか猫以外にも好きな物あんのね。
「なっ!?き、気になってなどいないわ!……別に好きでもないし!」
「そう?さっきから色んなところでパンさんのぬいぐるみを目で追いかけてるから好きなのかと思ったよごめんねー。じゃあセツのんが誕プレ選んでる時に密かに取ってきたこのゲーセンのUFOキャッチャー限定モデルの特大パンさんぬいぐるみは要らないか。そっかー」
そう言って後ろを振り向いて、セツのんの上半身ぐらいありそうなぬいぐるみをさも後ろに置いてあったかのような動きで空間倉庫からぬるっと取り出す。
「なぁっ!?そんなものいつの間に……!くっ!……ええ、要らないわ」
「そっかー……じゃあ俺も要らないしこまっちゃんいる?」
「え?小町パンさん別に好きじゃないのでこんな大きいのは要らないですっ!って言うかきーち先輩、雪乃さんとイチャついてばっかいないで小町へのプレゼントはどうしたんですかー!」
はは、そこの鏡見てみ?
……しかしセツのんもこまっちゃんもいらないとなるとどうすっかな。仕方ない、そう言えばサキサキに小さい妹がいたとか聞いた気がするからそっちに聞いてみるかー?
「あれっ!?いつの間にか小町の頭にヘアピン付いてる!?なにこれかわいー!」
「えっ……?」
ふふふ、やっぱりこまっちゃんに似合うなそれ。ビーズで出来た星型のパーツが着いたヘアピンで、ビーズだが鮮やかな彩りの星が、何となくこまっちゃんの髪に似合う気がしたのだ。うむ、俺の見立てに狂いは無かったな!
「ありがとうございますきーち先輩!くふふ、まさか半分冗談で言ったのに本当に買って貰えるとは思いませんでした!!お礼にハグしてあげます!動かないでくださいね!」
「え?今日はもうハグは別にいいです。そろそろ行きたいカフェとかいうの行こうぜ」
「問答無用!くらえ小町タァ──ックル!ポスッ!……ふみー!やっぱこれ落ち着くー!」
どう見てもこまっちゃんが俺に抱きつきたいだけでわろりーぬ!てか、こまっちゃん本当にこれ好きだよね。はいよ波紋式撫でなでー!ん?どったのセツのん。何か用?
「んふふふー、きーち先輩ってホントに謎に癒されますねー!何か変なもの出てるんじゃないですかー?」
「っ!い、いえ……その、い、要らないなら」
いや出てないから。……あれ?よく考えたら普段から波紋の呼吸・常中はしてるよな。今こうしてこまっちゃんに波紋を流し込みながら頭撫でてるけど、それは好みの波紋の強さが違うだけで波紋自体は俺の体全体を流れてる訳で……あれ?
いや、それだと皆の好みに合うはずないから関係することもないか。と、いうことにしておこう。深くは追求すまい。うん。
「え、何で急に悩み出してるんですか?まさか本当になんか出てたり……?」
「いや?多分何もないよ。たぶん。きっと。恐らく。めいびー」
「めちゃくちゃ曖昧じゃないですかーもー!……まぁ、なんでもいっかー」
「そ、その……榊君?」
何でもいいのか。あ、落ち着く効果あるならなんでもいいの?そっかー。まぁそれならそれでいいとしよう。でもこまっちゃん1回抱きつくと離れるまで長いよ。……ん?何セツのん、どったのそんな顔真っ赤にして。
「話をっ、聞きなさいっ!」
「うん。なに?」
「そ、そのっ、要らないならっ!……要らないなら、私が!ぱ、パンさ「はいこれ」ひゃっ!……あ、パンさん……!」
ふふふ、やっぱり欲しかったんじゃないか。素直じゃない子ねぇー?ま、見ててよく分かったとは思うけど、セツのんはこんな感じにツンデレなので、たまにキツい事言うけど気にしないでやってな?こまっちゃん。
「っ!?榊君、何を言ってるのかしら?」
「いやー!本当ですねぇ!歳上でクールな感じの雪乃さんがこんなに可愛い顔するとは思いませんでした!随分わざとらしくスルーしてるなーと思ったら……こんなに可愛い雪乃さんが見れるなんて!!」
「ちょ、小町さん!?」
そうなんだよ、セツのんの可愛さは初見では分かりにくいからな!みたまえ、このちょっと戸惑ってるけどパンさんを両手でぎゅっと抱きしめて、絶対離さない!って感じ!顔も真っ赤で目がウルっとしてるけど普段とのギャップがあってヤバ可愛いよね!?
「よく分かりますっ!小町ちょっとさっきから胸キュン止まらなくて胸が痛いです!はぁー雪乃さんちょー可愛い!」
「……2人とも?」
むっ!よしこまっちゃん、逃げるぞ。ちょっと弄りすぎた。でもセツのんが可愛いのがいけないよネ!だから僕は悪くない!
「そう雪乃さんが可愛いのが悪いっ!だから小町も悪くなーい!」
「……辞世の句はそれで最後かしら?2人共ちょっとそこに正座しなさい」
ふ、だが断る!では俺達は行くぜセツのん!こまっちゃんの言ってた喫茶店に先に着いた方が勝ちな!店で暴れちゃあかんぜよー?ま、最もそんなでかいぬいぐるみ持ってまともに走れる訳ないけど!ではな!あでゅー!
「あでゅーでーす♪」
「っ!?ちょ、待ちなさい貴方達──っ!」
この後めちゃくちゃ追いかけっこした!
◻️◻️
少し時間を巻き戻して。
「考えておこう。では、少し見ながら待っててくれ」
そう言って榊君は1人でヘアピンやカチューシャが並ぶコーナーへ歩いていった。一応協力は受けても1人で選びたい、という気持ちは分かるが、この間と違って今日は何時もと同じモサっとした野暮ったい見た目なので、周りの女性客から凄い視線を集めている。
髪の毛を切ればいいのに、と思いかけたが、彼の素顔でこの女性客ばかりの店内にいる方が視線を集めそうだ。そもそも彼は1人でこういった店に入らない方がいいのかもしれない。
「や〜、きーち先輩相変わらず離れて見るとモッサモサですねー!なんかよく分かんない手品物使えるし、おかしな人だと思いませんか?雪ノ下先輩!」
顔も目も、未だにプレゼントを選んでいる榊君の背中に固定されたまま、そう楽しそうに話しかけてくる比企谷さん。正直おかしなのは貴方も変わらないわ、と思う。あの日、唐突に走り出した彼が辿り着いた先にいた彼女は、ほんの1週間の僅かな間に彼と随分距離を縮めていたようで、何故だか少し腹立たしく感じてしまう。しかし、彼女はまだ中学生だ。あからさまに態度に出すのは流石にはばかられた。
「……そうね。まぁ、榊君が無駄に変な事するのは今に始まったことでは無いわ。彼は、初めて会った時からだいたいあんな感じよ。ずっと変人」
そして、何故だか一緒に居ると安心する人。……なんて、心の中だけで独り言ちる。流石にこんな事、人に言う気にはならなかった。そう思いながら彼女を見る。思わずドキリとした。いつの間にか彼女の猫のような無邪気な目が、こちらを射抜いていた。
「変人!そーですよね!本当に変な人ですっ!……でも、何故だか一緒に居るとホッとしませんか?」
「っ!?な、何を馬鹿な……!そんなことあるわけ「嘘ですよね?」……嘘じゃないわ」
「んふふふー、本当に雪ノ下先輩って素直じゃないですねー!でも大丈夫ですよー!私は分かってますから!」
内心を言い当てられて少しムキになってしまった。しかし彼女の言葉に頷くのも業腹なので顔を背ける。べつに彼女の楽しそうな顔がちょっとバツが悪く感じるとか、そういうことはない。それに私は言いたい事はだいたい言うようにしている。それはつまり素直と言うことだ。なので比企谷さんの言うことは間違っている。
「……ねっ、雪ノ下先輩。不躾ですけど、御家族と……特にお母さんと仲悪かったりしないですか?」
その言葉に、頭が急に冷えた気がした。まるで冷水を脳に直接掛けられたかのように、自分でも感情が急に醒めた様な実感があった。
「……なんの話かしら?」
思わず冷たい言い方になってしまったが、踏み込まれたい話ではない。いや、別に私は母と仲が悪い訳では無いが。──ーただ、どうしようもなく、苦手なだけだ。私の全てを支配するかのような、あの人が。
しかし、そんな冷たい態度を取ってしまった私に、比企谷さんはホッとしたように笑った。何故だろうか。
「やっぱり。……ふふ、ホントきーち先輩はすごいなー。あんなギャルゲーの主人公みたいな前髪のくせに、本当によく見てる……」
「っ!それは、どういう意味?彼が何か話したの?」
少し口調が強くなったのが自分でも分かった。彼が自分の事を何か話したのだろうか。いや、そもそも彼に家や家族の事を少しも話したことはない。話せるような事など何も無いはずだ。それとも、私が知らない間に誰かが彼に私の事を──!
「あはは、そんなに怖い顔しないで下さいっ。単に私と雪ノ下先輩が似てるって言われただけですよー!」
「似てる?……私と貴方が?」
思っていた話とは違ったことに安堵する間もなく、彼女の言葉に疑問が湧いた。どういう事だろうか?自分で言うのも何だが、私は彼女のように社交的な性格とは言い難い。見た目や仕草だって似通っているところがあるとも思えない。
いったい、彼は何を思って私と彼女に共通点があると………もし胸を見てそんなこと言ったのなら、彼が戻って来た時殴りましょう。ええ、それはもう力いっぱい。
「さっき、私ときーち先輩が3日前に夜のコンビニで会ったって言ったじゃないですかー?実はですね、その日、私プチ家出してたんですよー!」
「!……それは、何故?」
「母と、喧嘩しまして」
いつもの事なんですけどね!とにこやかに笑う彼女だったが、その口調や表情と違って、本当は全然笑っていないことは、私にも分かった。同時に、彼女が母という言葉に込めた感情が、何故だか理解出来る気がした。何も、言われていないのに。
「………うちは、昔から父がとても私に甘いんですよ。私は一人娘で、両親とも共働きで朝早くから夜遅くまで帰って来ない分、会う時間が少ないから余計なのかも知れません。でも、そのせいなのか分かりませんが、母がとても私に厳しくてですねー」
どこを見るでもなく、しかし私に話し掛けるように、つらつらと彼女は語った。
「断っておきますと、別に母が嫌いな訳では無いんですよー。ただ、父が甘い分私をちゃんと育てようとしてるのか分かりませんが、うちの母は昔から何かと口煩くて、やれ何をしろ何はするなと何にでも口を出してきては私のやることなすこと自分の思い通りにしようとする癖があるんですよー。それに逆らうとこっぴどく叱られて」
「……それは」
身に覚えがあった。うちの母は叱ると言うよりは正論で叩き潰してくるが、私のやる事なす事全てに口出しするというか、何事も決めたがるのは母だ。
「昔はそれに疑問とかあまり無かったんですけどね。いつの間にか反抗期に入ったのか、その事に疑問を感じるようになって、これまたいつの間にか母と口論する事が増えました。でも、何というか………やっぱり母の方が言ってることは正しくて。何度も何度も言い負かされてるうちに、話すのも見るのも嫌になっちゃって……たまに、夜中とか1人でひっそり家を抜け出すようになったんです」
「……」
気持ちはとてもよく分かった。私は結局夜中に家を抜け出すとか、そんなことはできなかったけれど、そういう事がしたくなったことは何度もある。ひょっとしたら、それが高じて今、一人暮らしする事を選んだのかもしれなかった。
「母と会話するのも、顔を合わせるのも、同じ家にいるのも何となく嫌で。よくそうやって1時間とか2時間とか、近くのコンビニとかのテーブル座って、友達とかとひたすらメールしたりLINEしたりするんです。携帯の電池が無くなるまで、ずっと。きーち先輩は最近そこに加わった感じですね」
「あえて言わせてもらうけれど、女の子が夜遅くに、例え近くだったとしても一人で出掛けるのは危ないわよ?」
「あはは、それは皆に言われました。それこそきーち先輩には思いっきり叱られて、すごい痛いデコピンされました。バチン!ってすごい音がして、あまりの痛みで思わず涙出ました。ガチのヤツです」
ああ、それは何となく想像がつく。あのよく考えると頭のおかしいレベルの身体能力を持つあの男のことだ。たかがデコピンでも、とんでもない威力があっても何ら不思議ではない。
「……あの雨の日、私はそうやっていつものように色んな人とメールしてました。コンビニに長いこと居座るから、少ないお小遣いで買った飲み物一つだけいつも買って。店員のおばさんとはすっかり顔見知りになっちゃって。そんな時でした。きーち先輩が、ずぶ濡れの雨合羽姿でコンビニに入ってきたのは。入ってすぐですよ、あのいまいち感情の読み取れない顔で、『あ、こまっちゃん?』って」
目に浮かぶようだ。きっと直ぐに彼女に気付いただろう。彼は何故かちゃんと知り合いになるまで人の顔や名前を覚えないし、どれだけ側にいても認識すらしない。だがその反面、一度知り合ってしまえば今までのことが嘘のように親しげに話し掛けてくる。
「何時もメールとかでずっと話してるせいですかねー?なんか何事もなく普通に話せました。……先輩は初めて会った時みたいに、イリュージョン!とか言ってずぶ濡れだった雨合羽から一瞬で私服に着替えたりしながら、私にもファミチキ買ってくれて。それで、しばらく2人で話してたら、急にですよ?『で、何でこんな時間にこんなとこに居んの?家出?』って。デリカシーって言葉を知らないのかなと正直思いました!」
「あの男にそんなものあるわけないでしょう。女性のウエストの増減や体重の増減を、見ただけで分かるからと平然と太った?って面と向かって聞いてくる様な男よ?」
うわー、それ最低!最悪ですねきーち先輩!わざとらしく両手を口の前に持って行って、肩を竦めて怯えるようにそんなことを言う彼女。おどけた振りなのは見れば分かった。
「……それで、誤魔化しとか通じないし、仕方なく諦めて話したら怒られるわ叱られるわ。デコピンはやたら痛いし……もう私何でこんなことしてるんだろーって泣きたくなっちゃって!…でも」
「…でも?」
「あの人、ずっと居るんですよ。一人にしてくれないというか、デリカシーがとにかく足りない人なので、本気で泣きそうでも、どっか行ってくれなくて。……そのうちなんか腹立ってきちゃって。いつの間にかきーち先輩に文句言ってました。歳上とか全然気にせず、それはもう、たくさん」
「あら、それは当然の権利よ。あの男が悪いわ。思う存分言うべきね」
そう。あの男はデリカシーが足りなさすぎる。何と共感できる話だろうか。私も初めの頃はそれはもう色々言ってやったものだ。それこそ帰り道が一緒だからひたすら言った。……それこそ何度も、突き放すように。
それでも彼はずっとそこに居て、私が機嫌良かろうと悪かろうと、何をどれだけ言っても彼は何食わぬ顔でそこに居て、私の話を最後まで聞いていた。だから、きっと比企谷さんもそうだったのだろう。言いたい放題言ってるうちに、いつの間にか文句も罵りも出なくなって、普通に会話するようになってしまうのだ。そうでしょう?
「そうですそうです!不思議なもんで、いつの間にか普通に話してるんですよね!……それで、いつの間にか楽しくなってて。そしたらいきなり頭とか撫でてくるじゃないですか!いやいや先輩、漫画の見すぎですよ実際の女の子はいきなり親しくない人に頭とか触られたくないもんですよーって内心思ったもんです」
それも正しくその通りだ。あの男は本当にデリカシーが足りない。誰でも気にせず頭を撫でるのは悪癖と言っても過言ではない。そのくせ本人は割と本気で犬猫撫でるくらいの気分でいるからタチが悪いのだ。……でも。
「でも、困ったことに初めてでさえ不快じゃないのよね、あれ」
「そうなんですよっ!私も初めて撫でられた時すっごいびっくりしました!最近ではお父さんに撫でられるのもあんま好きじゃないのに、あの人だけは気持ちいいというか落ち着くというか……ぶっちゃけ撫でられると安心しませんか?」
「……ノーコメントよ」
「えぇー!?それはずるいですよー!……ま、雪ノ下先輩の本心なんて初めて会った時にきーち先輩に撫でられてる雪ノ下先輩の顔見てれば分かるからいーんですけどね。本当に素直じゃないなぁ、もう!」
「!?比企谷さん、貴方ね!」
「ま、そんなこんなで山ほどお菓子買って貰って、これやるから夜中に1人で出歩くなーって家まで送って貰ったんですよ!そんで私の家の前で、お別れする前にふざけて上目遣いでこう言ったんですよ。『小町、先輩と一緒の学校通いたいなー?』って。そしたらあの人なんて言ったと思います!?」
「こっちの話を聞きなさい!……もう!それで、なんて言ったの?」
「『良いんじゃないか?ちょうどこまっちゃんに一部よく似たセツのんもいるし、たぶん楽しめるよ』ですよっ!信じられます?ふざけて言ったので別にまともな反応期待してた訳じゃないですけど、ここで他の女の名前平然と出してくるか普通!?ってめちゃくちゃ腹立ちました!」
ああ、それは何というか……あの男らしい話だ。こちらの思惑を平然と踏み外していく辺りが特に。たぶん私でも面白くな──……いや、何を考えているんだろう私は。
「そこで名前を出された私にどんな反応しろと言うの、貴方は」
「や、たぶんめちゃくちゃ共感してくれるんじゃないかと。ほら、一部よく似てるらしいですし?」
「それ、私はまだ認めてないのだけれど?」
またまたー!と、手をパタパタ振りながら茶化す彼女。だが、彼の見解が正しいと言われるのは何となく癪なので絶対認めない。とても共感出来たが、それでも認めない。
「んふふふー!それでですね、腹立ったついでに言ってやったんですよ!行きたいけど総武高じゃ学力が足んないですって。そしたら、何ときーち先輩が勉強見てくれることになりまして!と言っても1時間だけですけど。でもそれから毎日1時間だけ勉強見てもらってるんですよー!」
「そう、彼が比企谷さんに勉強を………は?」
どういう事だそれは。あの男が実は勉強も出来ることなどは知っているが、誰かに教えるようなことなどしない筈だ。何故なら、教えるのが苦手だからという理由で勉強会の参加を断られたからだ。以前何度目かの勉強会の時に私と由比ヶ浜さんで誘ってそう言われたから間違いない。なのに何故?しかも毎日って、3日前以外は私も由比ヶ浜さんも一緒にジョギングして──?
「やー、流石にLINEのテレビ通話ですけどね!ほら、私は中学生なので夜に連れ回したくないってきーち先輩が言うので仕方なくですね?あ、でも駄々こねたら昨日は夜に家まで来てくれました!たまたま両親が帰りが遅い日だったんで手料理振る舞おうとしたら逆に振る舞われちゃって。あの人あんな見た目で料理すっごい上手ですよね!私人生でご飯3杯もおかわりしたの初めてかもしれません!」
「そうね。確かに私も気が付いたらついつい食べ過ぎてるわ。ある意味あの男の手料理は危険よ」
ハッ!?思わず反応してしまった!ま、まぁ確かにあの男の料理はとても美味しい。悔しいが無駄に有能なあの男の技術の仲で、私が唯一手放しで負けたと言わざるを得ないのが料理だ。恐らく由比ヶ浜さんと並んで学校で一番あの男の手料理を食べている私が言うのだから間違いない。先日食べたビーフストロガノフなんかとてつもない絶品だった。というか卓上ガスコンロで何故高級レストランよりも上の美味を創り出せるのか。正直頭がおかしいと思う。
「ですよねー!私サイゼと昨日のアレでちょっと体重計が怖かったですもん。本人は高笑いしながら、好きなだけ食べて好きなだけ太るがいい!とか言ってどんどん料理出してくるし。まぁおかげで余りを食べた両親も幸せそうで、珍しく家族で仲良く過ごせたんですけどね!」
「……気を付けなさい。あの男、基本的に自分が食べさせたい料理しか作らないから、体重管理は本当に自己責任よ。私や由比ヶ浜さんはほぼ毎日学校で食べてるけれど、油断するとあっという間よ」
「えぇ…そこだけガチトーンで言うの止めてくださいよ雪ノ下先輩!流石に私も恐怖を覚えそうというか……!」
「私と由比ヶ浜さんは最近ほぼ毎日ジョギングする羽目になってるわ」
「完全にガチのヤツじゃないですかヤダー!」
それはそうだ。何故なら全部本気で言っているのだから。え?自分達で食べる量を我慢すべき?それが出来る程度の味なら私達はお弁当も持たずに毎日お昼時に部室へ足しげく通ったりしないわ。
「な、なんと恐ろしい罠……!一度食べたら辞められない止まらないとか麻薬とかかっぱえびせんじゃないですか!き、きーち先輩は合法の売人だった……?」
「それは普通の商人じゃないの。というか、ドラッグとかっぱえびせんを同列に扱うのはやめなさい」
それに、かっぱえびせんはまだ簡単に止められるわ。本当に止まらないのはあの男の作る「無限揚げたてコロッケ」のようなことを言うのだ。あの薄く塗されたパン粉のサクリとした軽やかな食感、材料は厳選されたじゃがいもとコーン、チーズの3種だけ。粒が完全に無くなるまで丁寧にマッシュされたじゃがいもとチーズが混ざった種は、初めにとろりとした食感と程よい塩味にチーズの深いコクと旨みで口を満たし、そして後からじゃがいもの甘みとコーンの甘みがじゅわっと押し寄せる。そこに揚げたての熱気が絡むと、熱々なのに何時までも手と口が止まらなくなり、そこに濃いめで入れられた冷えた焙じ茶でたまに口の中を洗い流したりすると……
「無言で食べ続けて、気が付いたらお昼休みが終わっていたわ……!満腹を通り越していた事に気づいたのでさえチャイムの後よ。……午後の授業があんなに大変に感じたのはあの時が初めてだったわ……ッ!」
「ごくり……っ!で、でもそれは炭水化物と脂質の塊……っ!お、恐ろしい!なんて恐ろしい料理なんですか……!でも、その恐ろしさを少しは味わっておかないと対策の取りようが…!今度私も作ってもらおう……ごくり!」
「ええ、一度は体験しておきなさい。用法用量を守れない、真のヤミツキ料理というものをね……!」
ちなみに私はその日の夕食を抜いたわ。その上でジョギングの時間も増やした。だってあの1口大の小さなコロッケが1つで400キロカロリーなんて信じられる?私や由比ヶ浜さんが何個食べたと思ってるのよ……!10個じゃ到底きかないのよ!?本当に、あの男の作る料理は厄介だわ。分かっていても食べるのが止められないあたりが特に。
「んー、でもちょっと羨ましい気もします。だって学校ある日は毎日きーち先輩の手料理食べられるんですよね?」
「頑張れば貴方も1年間は食べられるんじゃないかしら?増量の恐怖と戦いながらになるけれど」
「あぅぅ、勉強する気にもなるけど勉強する気なくなる話でもあるー!小町、泣きそうです!」
「……さっきから思っていたのだけれど、言い辛いのなら好きな話し方で良いのよ?」
「へ?あ、あー…。いやたまに私、昔の一人称出ちゃうんですよねー。母親に子供っぽいから止めろって言われてから気を付けてるんですが、きーち先輩はそっちの方が私らしいからって言ってくれたので、あの人の前だと普通に出ちゃうんですけどっ!」
「なら、私の時も楽な方で話して構わないわ。歳は離れていても、そんなことでいちいち目くじら立てるようなこともないし。……それに、私も何故かそちらの方が比企谷さんらしく感じるから」
「えへへ、そうですか?じゃあそれならついでに雪ノ下先輩じゃなくて雪乃さんって呼んでも良いですか!小町的にそっちの方が親近感湧いていいと思いますっ!」
「構わないわ。由比ヶ浜さんや榊くんみたいに変なあだ名で呼ばれるより私もずっと親近感が湧くもの。私も小町さんと呼んでも良いかしら?」
「全然オッケーですっ!改めてよろしくお願いしますね、雪乃さん!」
「ええ、こちらこそ。小町さん」
そう言って差し伸べられた手を握った。小さいがすべすべした綺麗な手だった。目の前には本当に嬉しそうな満面の笑み。先程の笑顔とは大違いだ。
けれど、恐らく自分の顔も笑っている様な気がした。いつの間にか私も彼女との会話が楽しくなっていたからだ。後輩も先輩も同級生も、だれであれ、同性でこんな風に話せる相手が出来るとは、ほんの数ヶ月前までは夢にも思わなかった。それが高二になって僅か2ヶ月でもう2人も。本当に人生とは分からないものだ。
「んふふふー、ところで雪乃さん!同じきーち先輩に撫でられ隊のメンバーとして素朴な疑問なのですが、きーち先輩とハグした事はありますか?」
「そもそも私はそんな隊に入っていないし、別に撫でられたいとも思ってないからハグなんて必要ないのだけれど?」
「えっ?そうなんですか?なーんだ、じゃああの謎の幸福感については何も知らないんですね。小町以外の人がどう感じているか知りたかったのに。……んー、まぁいっかー。小町だけしてもらってると考えればそれはそれで♪」
「幸福感?どういうことかしら?まさか、撫でられるより安心するとでも……?」
何を馬鹿な、あの問答無用でこちらの心の騒めきを削り落として行く手のひらより上があるなんて……!?待て、言われてみれば確かに手のひらだけより全身でと考えた方が効果は高そうだ!何故そんなことにも私は気が付かなかったのか!い、いやだからと言って流石に抱きつくなんてできる訳が無い!
「あ、その反応!ホントに知らないんですねー?んふふふーじゃあ秘密ですっ!知りたかったら素直にハグして下さいって言えばきーち先輩の事だからなんだかんだやってくれますよきっと!小町はノリで抱きついてから会う度してもらってますけど……凄いですよー?1回は体験する価値アリアリですっ!」
凄い?凄いとは具体的にどういうことかしら?まさか本当に、あれよりも強烈な安心感が得られるとでも……!?ま、まさかそんな「よっすよっすお待たせー」さ、榊君!?
「んひひー、おかえりなさいきーち先輩!今実は雪乃さんがですねー?もごっ!」
「黙りなさい小町さん……!それ以上口を開くと容赦しないわよ?」
「ひぇっ……や、やだな〜。冗談ですよ雪乃さん!」
何が冗談なのか。止めなかったらきっと彼女は雪乃さんをハグしてあげてくださいっ!とか榊君に平然と言っていたはずだ。そして恐らくその場合の彼は普通にやる。私の羞恥心とかそういうのは恐らく考慮に入れないで……!
「…?何か2人ともやけに仲良くなってない?なんかあったん?」
あったけど一部の話は彼にだけは話せない。話したら絶対彼はにやにやしながらこちらをからかってくる。それはもう絶対からかってくる。それはかなりの屈辱なのでこれ以上の追求はさせてはいけない…!
「特に何もないわ。……でも、そうね。強いて言うなら、女の子の秘密、かしらね?」
こう言えば流石に何も言ってこないでしょう、ええ。さすが私、完璧な作戦だわ……あら?何故だか榊君が授業参観の時のお母さん方みたいな顔に……?
な、なんか不愉快な勘違いされてる気がするのだけれど!?
◻️◻️
喫茶店「チェリーブロッサム」
ついこないだテレビで紹介されたらしい人気店で、シックな店内や一流ホテルで修行した店長が作る華やかな料理がSNS映えすると女性に大人気であり、特に店名にもあるチェリーを使ったチェリーパイは正しく絶品で、見た目と味の両方で満足出来る何か凄いお店だゾッ!
……とのこと、だったんだが。
「………」
「………」
「………」
何というか、まぁ微妙だったな!
「言わないで下さいきーち先輩……。今小町、無駄に先輩に奢ってもらったことを後悔してる真っ最中ですので……」
「…まぁ、大人気店なのに私達の他にお客さんが居ないって時点で気付くべきだったわね。私とした事が失態だわ」
ははは、まぁこういう事もあるよ!俺も食べログの情報信じて何度も失敗したしな。よくあるよくある!ほら、口直しに俺がハリポタの小説に感化されて作った糖蜜のヌガーあげるから、元気だして!
「……はぁ。まぁいただきます。むぐむぐ……あー、ショックだぁー。何が1番ショックって紅茶とセットで1500円もした看板メニューのチェリーパイより、きーち先輩の作ったこのヌガーの方が美味しいのがショックだー……」
「むぐむぐ、榊君、私のヌガーやたらと糖蜜が多いのだけれど……ハグリッド風?口が開かなくなる様なもの再現しようとしないでくれるかしら」
ふ、俺は漫画や小説から料理のインスピレーションを得る男ッッ!でもソフトシェル丸ごとの肉まんは美味しくなかったです!ま、それはさておき。そんな落ち込むでないこまっちゃんや。結果的にあまり量頼まなくて良かったじゃないか。それに、悪い事ばかりじゃないだろ?
「えー?むしろ何かいい事あるんですかー?小町もう今日一テンションが低くなってしまったんですけどー……」
「ん?まだ食べられるんだろ?ならさっき言ってたハーゲンダッツ専門店、寄ってもいいんじゃないか?」
「それがありましたっ!そうですね流石にハーゲンダッツなら最低限の味は保証されてますしっ!よしっ、じゃあ小町ちょっとお手洗い行ってくるんで待ってて下さい!それから行きましょー!」
おお、一瞬で元気になったと思ったら走り去ってしまった。どうでもいいが女の子がデカい声でお手洗いと叫ぶのはどうなんだ?……まぁ本人気にしてないしいっか!
ところでセツのん、パンさん邪魔なら俺が持とうか?
「必要ないわ。むしろ持ってくれると言うのなら鞄の方をお願い」
いやどう考えてもパンさんの方がデカ……ああ、意地でも離す気ない顔だね。了解、鞄持つよ。
セツのんから鞄を預かると肩にかけた。俺の通学鞄は面倒くさがって既に空間倉庫に放り込んであるので、セツのんの通学鞄だけだ。ぶっちゃけ軽い。どう考えても俺がパンさん持つ方が良い気がするが、まあ本人がパンさんをあすなろ抱きしたままとても満足気なので良しとしよう。
「……ところで榊君?」
んぁ?どったん?
「小町さんに勉強を教えていると聴いたのだけれど……貴方、教えるの苦手だと言ってなかったかしら?」
「ふ、苦手だが出来ないとは言っていない!」(`・ω・´)キリッ
「あら、では今度また由比ヶ浜さんと勉強会をするのだけれど、貴方も参加する?」
ふ、実は俺氏その日忙しくて参加出来ないんだー!やー、残念だなー!仕方ないから2人で仲良くやっておいで?ゴスッって痛っ!?何故殴るし。
「まだ日程も教えてないのに忙しいとか言ってる時点で行く気ないだけでしょう。……そんなに、私達と勉強会をするのが嫌なのかしら?」
いや?そんな事は全然ないが。というか、うーん……まぁ今なら参加しても良い気がするなぁ。
最初の頃は正直セツのんとゆいにゃんに仲良くなって欲しかったから参加しなかっただけだし。やろうと思えば俺のアンサートーカーでも誰かに勉強を教えられなくはないし。1人につき1つずつしか教えられないから少し面倒なだけで。
実の所、単に部活の外なら俺が居ない方がひょっとしたらセツのんの交友関係広がるかなーと思っていただけだ。実際ゆいにゃん以外に戸塚もたまに参加してるらしいし、俺の目が無いことで広がる事もあるかなーと思ったのだ。平塚先生にも、ずっと見てる事が必ずしも人の成長に繋がる訳では無いって言われたし。
悩みながらチラ、とセツのんを見てみる。こちらを不審そうに見ているが、まぁ相変わらず美少女だ。出会った頃と変わらず、とんでもないレベルの。
だが、最近は少しだけ雰囲気が柔らかくなった気がするし、さっき見た感じこまっちゃんとも仲良くやれているっぽい。まぁこまっちゃんは単体でコミュ力高いのであれとしても、最初個人的な理由で一方的にセツのんを嫌っていたサキサキともここ数日で普通に話すことが出来るようになっていた。ふむ。
「はっきりしないわね……嫌なら嫌と言いなさい!」
「嫌という訳じゃねーよ。ただこう……勉強するくらいなら遊びに行きたいというか、そもそも普段勉強してないというか?」
「はぁ?貴方ね、そんな事でこの先やって行けると……?待ちなさい。じゃあ貴方、今までのテストどうやって……まさか!?」
当然ノー勉ですが何か。や、ほら何度も言うけどテストとかアンサートーカー任せだしね!……や、これは言ったら怒られそうだな。流石の俺でもこの顔のセツのんを見ればそれくらい分かる。うーん、なんて答えようか……ハッ!この手があった!見よ、古来より使われてきた、聞かれたくないことに関する質問を誤魔化す、伝統的な手法!これぞっ!
「ひゅー!ひゅー!」( ;゚³゚)ヒューヒュー
口笛吹いて誤魔化す的な術ッッ!
「口笛吹いてるつもりかしら?……というか、それで誤魔化されるはずないでしょう!!いい加減にしなさいっ!」
失敗しちゃった(*´∇`*)ゞ
そういやそもそも俺、前世から口笛吹けない民でしたわてへぺろ!
「ぐっ!く、屈辱だわ……ッ!こんな男に一度でも負けたなんて……ッ!汚点ッ!この私の人生最大の汚点……っ!」
うわ、ガチでカイジしてるくらい落ち込んでる……!ま、まぁそりゃそうか。俺チーターだからなぁ。こんな奴に真面目に勉強してて負けたらそりゃ怒るよね。ゲームの世界大会でチートで優勝するようなものだ。誰だってコントローラー投げる。改めて見ると本当に俺って屑だなぁ。まぁ、だからと言ってチート使わない選択肢は無いけどさ。俺チーターだし。チーターからチートを取ったらただの一般人だしね。
「えぇと、ごめんセツのん。やっぱ俺、勉強会の参加止め「駄目よ」……えぇー?」
「黙りなさい。問答無用よ!こうなったら「あれ?雪乃ちゃん?」……ッッ!?」
およ?どちら様?なんかいきなり知らない女性がやってきたけど……お?どったのセツのん、怖い顔して。
「やっぱり雪乃ちゃんだー!久しぶりー!こんな所で奇遇だね!」
おや、やたらフレンドリーですね。これはセツのんの関係者かな?……んんー、もはやほぼほぼ掠れてしまった前世の記憶にも、セツのんに姉だか母だかがいたような気がする?いや、母は居ないとセツのん生まれないか。
「姉さん……ッッ!!」
ん?なんかセツのんの反応が……んんー?何か複雑な顔してんな。苛立ちと不安と恐怖と……喜び?駄目だよく分からん。
とりあえずもう少し静観することにして、今も「なんでこんなとこに?あれ、制服じゃん!デート?デートかこのこのっ!」って凄いパリピみたいな絡み方してるお姉さんらしい人と、鬱陶しそうに顔をしかめながら塩対応しているセツのんの様子を少し離れたところで見ながら、お姉さんらしい人と一緒に来たらしい大学生っぽい男女が先に歩いていくのを確認する。ふむ?
しばらく2人の絡みを見ていたが、セツのんの表情が明確に変わった辺りで静観を止め、2人の方へ歩いていく。すると目敏くこちらに気付いたお姉さんが目をわざとらしくキラつかせてこちらに寄ってきた。ふむふむ。
「あっ!んふふふー?これが雪乃ちゃんのデートの相手かな〜?ねぇねぇ、君が雪乃ちゃんの彼氏〜?雪乃ちゃんは教えてくれなくてさー!」
「そうですけど」
「あーやっぱりー?君が雪乃ちゃんの彼氏……えっ?」
「えっ?」
「えぇっ!?」
「嘘です」
ん?なんか声が多いなって、あ、こまっちゃんおかえり。
「あ、はい。ただいまですっ!…じゃなくて!あのう、きーち先輩、今のは……?というか、このとんでもない美人さんはいったい…!?」
ん?俺もよく分からんがセツのんのお姉さんらしいぞ。よく見ると所々似てるところあるし、たぶんガチだよ。そんで今お姉さんに冗談言われたから冗談で返したら冗談が通じなかった。どうしようか、この空気?
「そ、それを小町に聞くんですか!?えぇ〜……きーち先輩ってやっぱどこかぶっ飛んでますよね?」
何を言うか失礼な。俺はチートがなければただの一般人ぼっちだよ。というかガチトーンで言うの止めてくれる?割と傷付く。
「……ハッ!?ちょ、ちょっと榊君?いきなり変なこと言わないで欲しいのだけれど?」
……?俺そこまで変な冗談言ったか?そうですしか言ってないと思うんだけど。というか俺とセツのんが付き合ってる訳ないしこんな分かりやすい冗談が通じなかった方が驚きを隠せない。つか、オレとセツのんが付き合ってないことなんてセツのんが一番よく分かってるだろ。何で一緒になって驚いてんの?
「ッッ!だ、黙りなさい!私は驚いてなんかいないわ!あ、あまりのくだらない嘘に固まっていただけよ!……でも、貴方の表情は読みにくいのだから、変に冗談を言うのは止めなさい。分かりにくいじゃないの……」
左様か。まぁ次からは気を付けよう。さて、こまっちゃんも戻った事だし、俺らもそろそろハーゲンダッツ食べに行こうか。
「ッッ!な、なーんだ冗談かー!もー、おねーさん一瞬本気でびっくりしちゃったよー!君も中々やるなー?このこのー!」
お、ようやく復活した。なるほど、思考停止レベルの衝撃は流石に復帰が遅いのか。その辺はセツのんに似てるな、やはり姉妹か。しかしセツのんよりその後の対応はスムーズかつスマート。これは出来る姉と見た!(`・ω・´)キリッ
そんなくだらないことを考えてると、急に物理的に距離を縮めてきたお姉さんらしい人に首に腕を掛けられながら「雪乃ちゃんを泣かしたら許さないぞー?」とか冗談めかして言われたので、言われた通りに今度は冗談抜きで返答しておく。
「いや、姉のんさん。すいませんが俺セツのんの泣き顔可愛いと思ってるんでこれからも機会があったら積極的に泣かしに掛かります」
「ちょ、榊君!?」
「姉のん!?泣かしに掛かる!?え、えぇー?き、君ちょっと変わってるって言われない……?」
(ぼっちなので)誰にも言われたことないですね。さておき、すいません姉のんさん、俺達これからハーゲンダッツ食べに行くので、そろそろ失礼しますね。こっちのちっちゃいの中学生なので、食べたら早く帰らないといけなくて……せっかくの姉妹の時間に水差しちゃってすいません。ほら、そろそろ行こう2人とも。
「ふぇ?あ、ああ!はいっ、了解ですきーち先輩!すいません雪乃さんのお姉さん!失礼しまーす!」
「えっ?ええ……それじゃ、姉さん。その、また……」
「えっ?あ、ええ…そうね?こちらこそ邪魔しちゃってごめんなさい。それじゃあまたね、雪乃ちゃん」
もう少し話させてあげたい気もするが、実際もういい時間なので、こまっちゃんは本当にそろそろ帰さなくてはならない。そんな訳で、まだ少し戸惑ってる姉のんさんを置いて、俺達はハーゲンダッツ専門店のある場所まで戻るのだった。
「行っちゃった、か……ふーん?なんか面白いことになってるねー?」
◻️◻️
「あー美味しー!やっぱりハーゲンダッツは外れないなー!バナナミルク最高!」
はいはい、それは良かったなこまっちゃん。だがちゃんと前を見て歩けよー?
「んふふふー!だいじょーぶですよきーち先輩!小町今ハーゲンダッツの力で元気100倍なので唐突にピンク色したUFOみたいなのが飛んできて、明らかに入り切らないロボットアームが飛び出してきてもワンパンですっ!って、わきゃっ!?」
おっと。ほれみろ言わんこっちゃない。新しい顔に交換してないのに張り切るからそうなる。空が飛べるのに地面で躓いてたら世話ねぇな?
「え、えへへっ!ありがとですきーち先輩。でも今のはほら、足元ですから!言われた通り前は向いてましたからノーカンですっ!」
「そんな訳ないでしょう……もう、危ないわよ小町さん?」
「あぅ、すいません雪乃さん……」
あれから、きっちりハーゲンダッツ専門店でアイスをそれぞれ購入した後、ゆっくり店内で食べてるほどの時間的余裕が無かったので、少々行儀悪いが食べながら帰ることにして、現在、俺達は駅に向かって歩いていた。
ちなみにセツのんは特大パンさんが邪魔でアイスを持てなかったので、嫌がるセツのんを無視して俺が一旦空間倉庫に収納した。先ほどまではぶつくさ言いながらクッキー&クリームを食べてたが、今は落ち着いたらしい。こまっちゃんは期間限定のバナナミルクをニッコニコで食べている。俺は店舗限定とかいうラムレーズンだ。や、アイスのラムレーズンは昔から好きだが、ハーゲンダッツは流石に質がいい。遠くなければ3日に1回くらい食べたい美味さだ。
「きーち先輩きーち先輩っ!ラムレーズンはどんな感じですかっ?小町あんまりラムレーズンアイス食べないので気になりますっ!」
「む?美味いぞ。元々俺がラムレーズン好きなのもあると思うが……少し食べてみるか?」
正直どうかと思わなくもないが、ものすごいキラキラした目で期待するように見られたらこう言うしかない。どうやらこまっちゃんはアイスが好きらしい。
「良いんですかっ!?じゃあ遠慮なく!あ──ん」
え、自分で食えよ。ほら、そっちのバナナミルク、俺が持っててやるから。
「あ──ーん!」
「………えぇ?はい、あーん」
どうやら俺にバナナミルクを持たせる気が無いらしいので、仕方なく手に持っていたスプーンで自分の持つラムレーズンを一掬い、開けっ放しの彼女の口の中に放りこんでやる。
「………!」
「んふっ!おおー?これは、何か大人っぽい味!ラムレーズンってこんな味なのかー……少しクセがあるけどこれはこれで好きかも!新しい発見だ!」
左様か。ま、美味けりゃ良かったな。ただ初めてのラムレーズンアイスがハーゲンダッツとか、他のじゃもう食う気にならんかもしれんけど。え、何?あ、俺にもバナナミルクくれんの?別に要らんのだけど……や、ごめん食べます。だからアイスたっぷり載せたスプーン、目に押し付けようとするのやめて。口には甘くても、目の粘膜には甘くないからそれ。
「はいきーち先輩あーんっ♪」
「あーん。うーむ、デリシャス!」
「ふふふー!そりゃ小町の愛情たっぷり詰まってますから!あっ!今の小町的にポイント高い!」
「………」ジトー
うむ、アイス作ったのハーゲンダッツだけどねー。で、さっきから地味になんか言いたそうなセツのん、どうかしたの?あ、ひょっとしてセツのんもラムレーズン食べたい?
「そんな訳でないでしょうこのロリキ君。今日ずっと思っていたのだけれど、貴方と小町さんの触れ合い、かなり目に余るわよ。そろそろ本気で通報しようか悩んでるわ」
ふむ?すまんがこまっちゃん、翻訳頼むわ。
「小町達ばっかりイチャイチャしてて狡い!って雪乃さんはご立腹みたいですよきーち先輩!これはもう雪乃さんも交えてイチャイチャしなくてはならないのでは!?」
なにぃ!?そうだったのかセツのん!!寂しい想いさせてごめんなーセツのーん!ちゃんと皆でイチャイチャしようなー?ほらラムレーズンあーん!
「脳までアイスみたいに溶けてるんじゃないの貴方達!?誰がそんな事言って……ッッ!ちょ、止めなさい、私はそんな事する訳なっ、無理矢理アイス食べさせようとしないでっ!」
「まーまー素直になりましょーよー雪乃さぁーん。ほらほら、きーち先輩と小町の愛がたっぷり詰まったあーん、受けてください!」
まぁやっぱりアイス作ったのは俺たちじゃなくてハーゲンダッツだけどな!ほらほら、僕のアイスをおたべー?あーん!
「ちょ、まっ、いい加減にしなさもごっ!?」
「ふっ、これぞ必殺、問答無用であーんの術ッッ」(`・ω・´)キリッ
「わぁ〜!きーち先輩セクハラー!そこに痺れるあこがれなーい!」
ふ、褒めるなよ照れる(*´д`*)
ま、それはさておきセツのん、ラムレーズンのお味は如何か?
「この上なく腹立たしい味ね……ッッ!思わずこの余ったクッキー&クリームを貴方の口に無理矢理全部詰め込みたいくらいだわ……!!」
はははは!そーかそーか。俺にそんなにあーんしたいか!気持ちは嬉しいがその前にこまっちゃんのバナナミルクであーんしてもらうといいよ!
「準備は万端ですよ雪乃さん!」(`・ω・´)キリッ
「貴方達本当にいい加減にしないと殴るわよ?……はぁ、小町さんまで榊君みたいな事言い出すの止めてもらえるかしら。頭が痛くなってくるわ」
そんな事もあろうかと、成分の半分が優しさということで非表示の胡散臭い頭痛薬だよ!使う?
「バファ〇ンを不当に貶めるのは止めなさい……もう、仕方ないわね。ほら、あ、あーん…」
ぐふッッ
うわなんだコイツ可愛い!なんか顔真っ赤だし羞恥でプルプル震えてるし何ならちょっと涙目だしヤバい!ヤバい今のはヤバい!語彙力が死んだ!心臓をハンティングライフルでぶち抜かれた気がする!胸きゅんっていうか胸ドキュン!って感じ!もうこまっちゃんが食べさせる側とかじゃなくてセツのんがあーんさせる側だけどどうでもいい!ヤバい!
くそ、駄目だ今の衝撃でセツのんをまともに見れない……!は、早く、早くあーんされないとセツのんが更に羞恥で泣いちゃうから早くあーんされないと……!そ、そうだこまっちゃん!頼むこまっちゃん、俺の代わりに……!?
「………かふっ」(`・ω・´)bアトハマカセタ……_(:3」 ∠ )_チーン
こまっちゃん!?こまっちゃぁぁぁん!?し、しんでる……!尊死だ……!胸キュン過ぎて心臓が止まってしまったんだ……同性を一撃とか、セツのん……恐ろしい子ッッ!
「…あ、あの榊君?早く食べてくれないとアイスが溶けてしまうのだけれど……それとも、嫌なの、かしら……?」
「んなわけ無いです。いただきます!」
「あっ」
あーん!うむ。クッキー&クリームも美味いな。だが今日ほど自分がモサモサであって良かったと思った日はないな!正直自分の顔が赤い自覚あるわ。セツのんマジかわえぇ。ヤバい。普段平塚先生でギャップ萌えに高い耐性のある俺でもダメージが致命傷クラス。何ならもう一発食らったら死ぬ。完全に二撃必殺の雀蜂。セツのんは砕蜂かな?たぶんこまっちゃんは雀蜂雷公鞭された。
とかなんとか必死にダメージを回復させてたら袖を摘まれる。ん?何セツのん。てか、そのつまみ方地味にキュンとくるから止めてくれない?
「あ、あの……さっきはやっぱり、味がよく分からなかったから……その、もう一口、ラムレーズン……駄目、かしら?」
やめてくださいしんでしまいます!
駄目だまだ死ぬなこまっちゃん!頼むまだ死なないでくれこまっちゃん!君が居ないと俺が死ぬ!こまっちゃん!こまっちゃぁぁぁん!!
この後皆で仲良くあーんしまくったよ!!
◻️◻️
ふぅ、先程はえらい目にあったぜ!
あの後普通に駅に行き、こまっちゃんの最寄り駅で皆で降りてタクシー拾おうと思ったのだが、こまっちゃんはチャリで駅まで来てたらしい。
俺達に合わせて、こまっちゃんに歩いて帰らせるのもアレだし、セツのんだけタクシーで帰らせ、俺がこまっちゃんのチャリ運転してこまっちゃんを送って帰ろうかと思ったのだが、2人から却下されたので大人しく3人で歩いてこまっちゃんを家まで送り、そこから更に俺とセツのんは歩いてマンションまで帰ることになった。
地味に1時間以上歩くことになるのだが、セツのん曰くジョギングの代わりらしい。いや俺この後どっちにしろトレーニングはあるんですけど。というか先程から平塚先生からの連絡がヤバい。ただでさえ今日は学校で虐めたし、その上で夕飯を一緒に取れなかったので相当キてるのか、メールとLINEの両方で俺でも読むのが怖いレベルの爆撃が始まっている。ぶっちゃけ電話してこない理性が残っているのが奇跡なぐらい。
なので俺はもうタクシー使ってささっと帰りたいくらいなのだが、タクシー代を俺が出すからと提案したら余計にセツのんに怒られた。セツのん曰く、
「貴方、今日だけで幾ら使ったの?何だかんだ私も一人暮らしだし、奢ってもらえるのは有難いわ。けれど、貴方がどれだけお金持ちだったとしても、そのお金はあくまで貴方が自分の力で得た物よ。無闇矢鱈に他者に使うべきではないわ。それが例え、あなたの意思であっても。……それに、私も貴方を金蔓にしたくはないわ」
……色々ツッコミどころはあるけれど、こんな事言われたら黙るしかないよね。ぶっちゃけ今日の食事代とか全部出てたのは俺がカッコつけたかっただけなんだけど、それも控えようと思った。セツのんの優しさを侮辱する事になってしまう。いやほんと、分かっちゃいたけど俺の周りっていい女だらけよな。
そんなわけで今はてくてく2人で夜道を歩いているのだが、既に夜8時を過ぎている。俺達の住むマンションとこまっちゃんの家は総武高を挟んでほぼ真反対なので、割と普通に遠い。
しかし、この時間は総武高周辺は本当にもうほとんど人気が無くなるな。まぁ学校周辺なんてそんなもんだろうけど。
「……ねぇ榊君」
ん?なに?あ、パンさんはマンションに着いたら返すよ。
「そうではないわ。いえ、パンさんは絶対に返してもらうけれど。……その、さっきの……姉さんの、事なのだけれど」
おう、姉のんさんがどうかしたのか?
「いえ…大したことでは無いのだけれど、姉といた時、貴方がいつもとは違うというか、まるで姉さんを嫌っているようだったから……何かあったのかと思って」
え?いや俺自身には特に何も無いけど。
「そうなの?……あら?それではまるで他の人に何かあったみたいじゃ……?」
「や、だってセツのんあの人苦手だろ?」
理由とかはわからんけど。だからとりあえず話早く終わらせた方が良いかなって。だから姉妹水入らずの邪魔して、こまっちゃんをダシにセツのんも連れ出したんだけど……あれ?ひょっとして違った?だとしたら謝るわ、ごめん。
「っ!……そう、だからあの時……本当に、よく見てるのね……いえ、謝る必要はないわ。貴方の言う通り、私、姉が苦手だもの」
そう?なら良かったよ。余計なお世話かもとは思ったんだがね。そうでないなら一安心だよ。
「ねぇ……貴方は姉さんをどう思う?」
どう思うか?……うーん、姉のんさんを、ねぇ……?
「……あの人に会った人は皆、あの人を誉めそやすわ。まぁ、実の妹である私から見ても容姿端麗、成績最高、文武両道、多芸多才、その上温厚篤実……文句の付けようが無い完璧な人だと思うわ」
や、そりゃセツのんの姉と考えたら当たり前じゃね?むしろそれくらいでなければセツのんの姉は務まらんやろと思うが。
「……え?」
何驚いてんの?だって今言ったのセツのんだってだいたい同じじゃん。温厚篤実はともかくゴスっ痛っった!おまっ、そういうとこやぞ!?
「黙りなさい。……それじゃあ、結局、貴方はどう思うの?」
「あー、なんだろ。気合いの入った着ぐるみの中の人?」
「えっ?それは、どういう……?」
どうも何も、よく知らんけどあれ外面でしょ?ものすごく丁寧に猫被ってると言うか。あれ?だから苦手なんじゃないの?ほら、暗殺教室で言うところの初登場時のビッチ先生みたいな?確かにアレを身内がやってるとこ見たら恥ずかしくて見てられないよね!……と、そんな感じで人前だと漫画みたいな凄い猫被ってる姉を見るのが恥ずかしいからセツのんが嫌そうな顔してんのかと思ってたんだけど?……え、何その顔。
「ぶっ、くくく……!ご、ごめんなさい、貴方を馬鹿にしてるわけではなくて、くくっ、まさか漫画知識で姉のあれが見抜かれるなんて……ふふふっ!しかも着ぐるみ……っ!だめ、我慢できない……ッッ!!」
や、笑いすぎやろ。俺そんな面白いこと言った?
「ふくくくく……!い、いえ、むしろ榊君は本当に凄いなと……くくっ」
嘘つけ。むしろ完全に馬鹿にしてるやないか。……はぁ、まあ何でも良いけどね。やれやれ、もう好きなだけ笑ってなさい。俺は先行くぞ。
「くふふっ、あ…!ま、待って。私も行くわ!ふふふっ」
完全にツボに入ってしまったらしいセツのんを置いて歩き出す。するとセツのんは笑いながら慌てて着いてきた。顔を伏せ、口に手を当てて物理的に抑えても笑いを堪えきれないらしい。俯いたままだとまっすぐ歩けないようで、口を抑えている手とは反対の手で俺の腕を掴み、縋るようによたよたと着いてくるセツのん。
ぶっちゃけ歩きにくいのだが、俺の手を離す気はないようなので諦めて珍しく笑いの治まらないセツのんの盲導犬役をしながら歩く。結局セツのんの笑いが治まるまでゆっくり歩く羽目になった。
「ふふふっ、ごめんなさい榊君。つい笑ってしまったけれど、今回は本当に貴方の事を絶賛してるのよ?」
「あっそ。まぁどうでもいいです」
それよか笑い治まったなら手を離しなさいな。歩きにくいよ?
「そう怒らないでもらえるかしら……本当の事よ。よく分かったわね、姉のあれが外面だと。大抵の人は気付かないのだけど……」
や、何も分かってないです。マジで。いや本当。割と適当に言ったし。
「そう不機嫌にならなくてもいいじゃない。本当感心してるのよ?よく見てるのね、凄いわ」
アホか。別に怒ってもなければ不機嫌でもねーよ。本当に姉のんさんのなんかに気付いたわけじゃない。というかそもそもそこまでちゃんと見てもない。何となくセツのんに似てたような気はするけど既にうろ覚えだしな。着ぐるみって言ったのもただの勘でしかない。セツのんに聞かれたからなんとか思い出して答えただけで、合ってようが外れてようがどっちでも良かったんだよ、俺は。
「そうなの?……それにしては的を射ていたから。てっきり、それに気付いたのかと思ってしまったわ」
俺が名前も知らん人間の事なんかよく見る訳なかろ。それがセツのんの姉だって知ったこっちゃないわ。同じクラスのゆいにゃんでさえ奉仕部で知り合うまで気付かなかったのに。……俺に分かったのは、セツのんが本当に嫌そうにしてた事だけだよ。それ以外は知らん。そもそも興味も無いからな。
「ッッ!………そう。…その、ありがとう……助かったわ」
「どういたしまして。それよか、歩きにくいんだけど?」
もう手ぇ離しても良くない?つーかさっきは腕掴んでただけだったのに、なんで今は腕組んでんの?まだ6月だから暑いんですけど。
「……そういう気分なだけよ」
「……左様か。まぁ、好きにしろ」
どうやら離れる気は無さそうなので、それ以上は何も言わないことにした。まぁ、飽きたら勝手に離れるでしょ。たぶん。
まぁ帰ったら確実に平塚先生に怒られるだろうけど、ここ3日間ほど前からこまっちゃんに会うとだいたい抱きつかれるので、散々抱きつかれた今日はもうとっくに手遅れだ。何なら先程姉のんさんにも触られている。また新しい歯型が両肩に増える事になるのは既に確定事項だ。今更一人分の匂いが増えたところで変わらないので諦めた。
それからしばらくはお互い無言で歩いていた。セツのんに腕を組まれていた俺の右腕は、いつの間にかセツのんの両腕の中にあった。何故かこちらの肩に預けられている彼女の頭が少し重い。けれど、同時に何の香りかは分からないが、とにかく良い匂いが彼女の髪から漂ってきた。女性って謎にそういうとこあるよね。これ本当にシャンプーが違うだけなんだろうか。
ふと、帰りにコンビニに寄ろうかと思い立ったが、右側の彼女はまだそういう気分なのか離れる様子は無い。この辺りはまだ学校の近くなのでたまに総武生徒がバイトをしている。俺はともかく彼女のこういう姿を見られるのは危うい気がしたので、諦めてコンビニに向けていた足を元の道へ戻した。
「……ねぇ、榊君」
「何だ?」
「変装してた時は外してたのに、まだネックウォーマー付けてるのね」
そりゃ首だけダイエットだからな。たまに外すことはあっても効果が出るまでは付けてるのが当たり前だろ。……もしかしてまだキスマーク説疑ってる?付いてなかっただろ、あの時。
「……別にそんな事疑ってないわ。本当にキスマークだったとしても、私にはどうでもいいもの」
「そりゃそうか」
実際にはあれから普通に毎日付け直されてるので、俺の首筋は毎日真っ青な訳だが。なんなら既に首筋だけじゃ収まりきらなくて胸元まで広がっている。お陰様で夏場なのに第1ボタンすら外せない。今日だってこまっちゃんに香水付けられそうだったのを拒否したのはそういう理由だし。
そんな事考えてたら彼女の両腕による締め付けが強くなった。見ると若干不機嫌そうな顔をした彼女。求めていた答えと違うのは分かっているが、残念ながら俺にはそれ以外の返答は出来ない。何も言わずに歩こうとしたが、彼女の方が足を止めてしまった。
仕方ないので俺も足を止めて彼女の方へ向き直り、空いている手で彼女の頭を撫でた。何故か俺の周りの女性陣は俺が頭を撫でても怒らない。調節して流す波紋に鎮静効果があるのはアンサートーカーで調べたので知っているが、俺は自分には波紋を流しても、発生源が俺自身だからか波紋による影響は受けても鎮静効果は感じられない。俺のスタンドはちゃんと自分にも能力が使えるのに、不思議なものだ。
撫で始めると直ぐに彼女の目が細められた。相変わらず撫でられた時の反応が猫と一緒だなぁと思いつつ、彼女の機嫌が治るまで撫でておく。数分もすれば彼女から感じた不機嫌な感情は無くなっていた。
もう大丈夫そうだと判断して撫でていた腕を離す。一瞬名残惜しそうな顔をした気がしたが、見なかったことにして歩き出す。出来れば右腕も解放して欲しかったが、そちらは頭から手を離した瞬間に更に締め付けが強くなったので諦めた。
締め付ける力が強くなりすぎて、下着の奥の控えめな感触まで腕から伝わってくる。こればっかりは平塚先生の方が圧倒的なので、そちらに慣れている俺の耐性を超えてくることはないだろう。こんなこと考えてるのがバレたら殴られるけど。
再び無言で歩く。もうマンションは見えてきていた。
とうとう我慢できなくなってきたのか、マナーモードにした携帯が断続的に震えている。メールなのか電話なのか分からないが、メールだとしたら見るのが本気で怖い。もうすぐ着くのでもう少しだけ待ってて欲しい。
「……出なくていいの?」
正直出たいところだが、この電話に出たら開口一番に怒声が飛んでくるのは目に見えている。この距離のセツのんにも絶対聞こえるので出るに出れない。もうすぐ着くから良いんだよ、と言って誤魔化す。そしてすぐに失言に気付いた。
「……そう、貴方の部屋に、誰かが居るのね?……貴方、一人暮らしでは無かったかしら?」
やっべやらかした。
慌てて母が泊まりに来ている、と嘘をついてみたが自分でも苦しい気がする。案の定「それならご挨拶に伺っても良いかしら?」と言葉が返ってきた。いや良くないです。
逃げようにも腕の締め付けはより強くなり、おまけにもうマンションは目の前である。先程解消したばかりなのに再び右側から強い不機嫌なオーラが漂ってきた。ちょっとまずい、どうしよう。
「……そういえば榊君、小町さんから興味深い話を聞いたのだけれど」
ほ、ほう。どんな話かな?
「詳細は省くわ。検証してみるので協力してもらえるかしら?」
「え、なにそれ。協力しようがなくnうおっ!?」
「……何してるの榊君?早く小町さんにしていたようにしてくれないと困るのだけれど」
えぇ……いやあーた、突然抱きついて来といてその発言はどーなの?おまけに顔どころか耳まで真っ赤じゃん。……あー、はい。分かりました分かりました。やりますよ。文句ももう言わないです。
仕方ないので言われた通りにする事にした。ようやく解放された右手は頭に、左腕は少し抱き寄せるように背中に。そして両方から波紋を優しく流す。平塚先生とこまっちゃんのお気に入りである。
「……なるほど、これは確かに……1度は体験しておいて損は無いわね」
「よく分からんが、満足したか?」
「まだ検証中よ。勝手に止めないでくれる?」
えぇ……流石に俺も恥ずかしいんですけど。人通りが少ないとはいえ、まだ夜の九時だ。俺達と同じくマンションに返ってきた人達がこちらも見ながらどんどんマンションの中に入って行く。いや本当に恥ずかしいんですけど!
「見なければ良いのよ。私は見てないから何も感じないわ」
そりゃあーた、俺の胸に顔擦り付けてるからね!見なくて済むよね!俺はそうもいかないんだよバーロー!これ平塚先生に見られたら間違いなく刺される案件だよ!まぁ俺包丁で腹刺されたくらいじゃ死なないけどさ。一応アンサートーカーで平塚先生が俺の部屋に居るのを確認しておく。
もう五分くらい経ったがセツのんの腕が緩む気配は無い。本人は何か幸せそうに「ん〜♪」とか言ってる。クソッこいつ可愛いなもう!ま、まぁ平塚先生には負けるけどね?……そろそろ理性がヤバくなってきたので引き剥がす事を真剣に検討してたら、意外なところから救いの手が伸びてきた。
ピリリリッ!ピリリリッ!
「……おい、携帯鳴ってんぞセツのん」
「……そうね」
いや出ないの!?俺と違って出ないとまずいのでは?
「……はぁ、仕方ないわね」
しばらく無視してたセツのんだったが、鳴り止まないコール音に観念したのか、ようやく俺から離れて携帯を取り出した。俺としてもちょっと危なかったので電話の相手が誰だか知らないが感謝しておく。
やれやれ、抱きつかれてたところが汗かいている。よくセツのんは平気だったな。夏場は外であまり抱き合うもんじゃないな。うん。どうせなら遠く離れた海とかで水着姿の平塚先生と抱き合いたい。
さておき、まだコール音が鳴り止まないのでセツのんを見ると非常に嫌そうな顔で携帯の画面を見ている。あ、俺相手誰だか分かったわ。
「じゃあセツのん、俺先戻るな?マンション目の前だけど気を付けて帰れよー」
「待ちなさい。まだ帰っていいとは言ってないわよ?」
咄嗟に逃げようと思ったが腕を掴まれてしまった。おまけにこちらに携帯を向けてくる。その画面には案の定、「姉さん」の表示が。わぁ俺がセツのん逃がした意味なーい!
何やらめんどくさい事になりそうだが、セツのんは俺の腕を掴んだままスピーカーボタンを押すと電話に出てしまった。
「……もしもし、私だけれど」
『雪乃ちゃんおっそ──いっ!こんな時間まで何処ほっつき歩いてんの?!お姉ちゃん待ちくたびれちゃったよー!!」
「……もうすぐ帰るところだけれど、その口振りだと姉さんはまさかウチへ来ているのかしら?」
『そりゃ来てるよ!せっかく雪乃ちゃんのボーイフレンドに会ったんだから!ただでさえ誰かと買い物なんてした事ない雪乃ちゃんが男の子だよ!?話を聞くに決まってるでしょ!!それよりいくら何でも遅いよー?雪乃ちゃんまだ高校生なんだから不純異性交遊はお姉ちゃん感心しないなー?」
うわ、セツのんが苦虫20匹くらい一気に噛み潰したような顔してる。ま、まぁ確かに家族にこーゆー事で勘ぐられたらウザいよね。気持ちは分かる。
だが、俺もそろそろ部屋に向かわないとまずいので、少しだけ姉のんさんの思惑に乗って上げることにしよう。
「失礼な。俺とセツのんは純粋(な友達としての)異性交遊ですよ?」
「ちょ、榊君!?いきなり何を言ってるのかしら?!」
ふ、援護射撃は俺に任せておけセツのん(ゲス顔)だってほら、スピーカーにしたのセツのんだしね!きっと俺にこうして欲しかったに違いない!
「違っ、榊君!?待っ」
『この声、さっきの……へぇー?やっぱり君、雪乃ちゃんと付き合ってたんだぁ。これはおねーさん、君にも話を聞かないと行けなくなっちゃったなぁー?」
「や、俺は名前も知らない人と話す気とか特に無いです。ですが、一応教えておくと俺達は付き合ってません。ただし、ひとつ屋根の下で暮らしています」
「榊君っ!?」
『へぇ……?そうなんだぁ。…さっきは自己紹介出来なくてごめんねー?私、雪乃ちゃんのお姉ちゃんで、雪ノ下「あ、結構です。というか自己紹介は普通面と向かってするもんだと思いますよ頭大丈夫ですか?」ちょっと!?』
「遅くまで妹さんを連れ回してしまってすいません。あと5分もしないで部屋に着くので、お話はその時(姉妹水入らずで)ゆっくりお願いしますね!それでは」
ピッ
ふぅ……良い仕事したぜ!ゴッスゥッッ!!痛っっっってぇ!?俺史上ナンバーワンの痛み!!何すんだセツのん!?
「それはこっちのセリフよ!貴方いきなり何してくれてるのかしら!?ひとつ屋根の下って何よ!?」
や、同じマンションだし嘘は言ってなくない?大丈夫大丈夫、俺がしっかり姉のんさんには先制攻撃しておいたから話した感じ結構動揺してるはず。後はセツのんが適当に口八丁すればたぶん姉のんさんに勝てるっ( *˙ω˙*)و グッ!
「何故私が姉と闘うことになってるのかしら!?下手したら引っ越しさせられるわよ!」
「それはそれでラッキーじゃねぇの?ほら、最初同じマンションだって分かった時よく言ってたじゃん。引越ししたいって!」
「何時の話してるのよ!そんなのもうとっくに……!」
「とっくに?へぇー?……とっくにどうしたのかなぁ?」
「〜〜ッッ!あ、貴方ねぇ……ッッ!!」
おやおやどうしたのそんなに涙目で?プルプル震えてるし、ひょっとして寒いの?いけないなー、きっと風邪だ!早く家帰って休まないとな!よし、そうと決まれば早く帰ろうか!ほら行くぞセツのん!
「ちょっと、榊君!?」
「雪ノ下の家の事は俺には分からん」
「……っ!」
「ただ、普段全く口にしないくらいには言いたくないような事があるんだろう?だけど、どんな形であれ、そこから脱却する為に、雪ノ下は今一人暮らしをしてる……違うか?」
「!!……そ、それは……」
ただ無意味に逃げるな雪ノ下。俺は知っている、お前自身には確かに意思がある事を。詳しくは分からん。勝つために始めたのか、ただ逃げてきたのかさえ分からん。だけど、お前は確かに、お前自身の意思で家の外へ出た。
「………」
ならばまずは逃げるな。とりあえず敵情視察してこい。ただやり過ごすんじゃない、まだ戦えないかどうかまずはちょっと調べておいで。逃げるかどうかは、それから決めれば良い。
「……なんで急に、そんな事言うのよ」
「勝ったからと言って、それで得たものが欲しかったものとは限らない」
「!?それは、どういう……?」
「同じく、負けて逃げた先で得たものが、価値の無いものとも限らない。……だが、それを知るにはまず、足を動かさねばならない」
「………!」
後ろにも前にも、どちらへどこへ進もうと、足を動かさねば話にならないからな。だから少しずつでいい、まずは自分で試してみな。なに、駄目だったらまた戻ってくれば良いのさ。
「……一緒に、行ってはくれないの?」
どうしても行けなさそうだったら少しくらい協力してやるよ。だが案外、行ってみたら簡単かもしれないぞ?
「……さっきは助けてくれたくせに」
「今日は散々甘やかしてしまったからな」
「ー?………ッッ!?そ、それならもう少し甘やかしてくれても良いのよ?」
さて、俺は誰にでも優しくする訳じゃないからな。ほら、普段頑張ってる良い子じゃなければサンタさんもプレゼントはくれないって言うだろ?
「私、普段から努力してると思うのだけれど……?」
「おっと、それは確かに。じゃあこの特大パンさんをお返ししよう」
パン、と両手を叩くとパンさんが空間倉庫から落ちてくる。それを大事そうに受け取った彼女は、しかし不満気に呟いた。
「プレゼントの使い回しはズルいわよ……小町さんにはあれだけ甘かったクセに」
うぐ、こまっちゃんを引き合いに出されると弱いなぁ。あれはちょっと特殊でな、俺にも色々あるんだよ。
「色々?……それは、その訳分からない手品擬きに関わる話?それとも、今も貴方の部屋で貴方の帰りを待っている、誰かの話かしら?」
「………ノーコメントで?」
「ふん。やっぱり話す気は無いのね……。まぁ良いわ。私もそろそろ行かないと行けないもの。今回は見逃してあげる」
そりゃ助かる。ついでにしばらく見ない振りしててくれ。具体的には俺が卒業するまで。
「嫌よ。……口止め料、くれるなら考えてあげるわ」
えぇ……一応聞いておくけど、何が欲しいの?避難所が欲しいなら一軒家くらい用意しとくけど。当座の資金付きで。
「私は逃亡犯ではないのだけれど……その家、手品が使えて料理が上手な17歳の家政夫は付くのかしら?」
「浮気は禁止されてるんで、同じ条件の人物で良ければ?」
「お断りよ」
ですよねー。じゃあ何が欲しいの?俺に払えるもので勘弁してくれると助かるなぁ。
「……今は思い付かないから、貸しにしといてあげる。だけど、利子は貰うわよ」
「えぇ、悪徳業者じゃん……何がお望みかな?」
なんかどんどん元気になってくのは良いんだけど、それを俺には向けるのは辞めて欲しいなー?とか思いつつ、しかし目の前の美少女はあまり容赦してくれる気はなさそうだった。少しだけ顎に指を添えて考え込む素振りをした後、形のいい唇を釣り上げて言った。
「そうね……貴方のおかげでこの後とても憂鬱な時間が待っているのだし、責任取って今度、ストレス解消に付き合ってもらうわよ?」
「……以前話した猫カフェでどうでしょうか?」
「あら、貴方はあの姉の厄介さが分かってないようね。一件で済むとでも思ってるのかしら?」
「1日付き合えと!?……流石に夜には帰してくれよ?」
「善処しましょう……では決まりね?」
参りました、と両手を上げて降参のポーズをする。彼女は大きなパンさんを抱えたまま、朗らかに笑った。それはまるで、雪解けに反射した月の光のように、とても透明で、この上なく綺麗な笑顔だった。
……そう言えば、俺が姉のんさんを着ぐるみって言った理由を言ってなかったな。
「姉さんを?……あれは当てずっぽうだと言ってたわよね?」
本当に着ぐるみかどうかは当てずっぽうだったが、そもそも着ぐるみって感じたのには理由があるんだよ。
「へぇ?……どんな理由かしら」
「……その、雪ノ下に似てる割に、笑顔が不自然過ぎるなと思って、な」
「何それ。……馬鹿な理由ね」
その時にはもう彼女は歩き出していて、その顔は見えなかった。
とても惜しいことをしたと、何故か確信した。
「………ほんと、馬鹿な理由」
◻️◻️
ガチャ
(そろーり)ただいま帰りましたよー?
「帰ってくるのが遅いぞ……?」
うわびっくりした!!な、何で玄関に居るんですか静さん!リビングに居れば良いでしょうに!ていうか声!何時からここに……?飲み物は?
「ん"ん"ッッ!貴一がメールにもLINEにも返信しなくなってからずっとだ」
ええっ?電車乗る前だから……2時間近くここに座ってたんですか?!これから少し連絡返せなくなるってちゃんと送ったじゃないですか!見ましたよね?
「私が貴一からの返信を見ない訳ないだろ!何十回も確認したよ!!……でも、今日は遅くまで女と一緒って言うから……不安で。電話にも出てくれないしッ!」
それもちゃんと説明したじゃないですか。ゆいにゃんの誕生日プレゼント買いに行くから、こないだ知り合った女子中学生と、セツのん連れてららぽーと行ってきますって。電話に出なかったのは隣にセツのん居たからですよ。聞かれちゃまずいでしょう?
「う〜〜っ!そうだけどっ!そうだけどぉ!分かっててもやっぱり嫌なんだよー!」
うわっ。ちょっと、落ち着いてください静さん。素足じゃないですか。ここ玄関ですよ、足汚れちゃいま「がぶっ!」いっっ!ちょ、待って待って!
俺の体にしがみついて、更に肩を齧り出した彼女を何とか抱えたまま靴を脱いで玄関を上がると、痛みを堪えてそのままリビングへ。荷物類はとっくに空間倉庫に放り込んでいるから静さん以外の荷物は無い。もうシャワーを浴びてしまったのか、薄着の彼女からは柔らかな感触と温もり、そしてとてもいい匂いがした。
「うーっ!うーっ!またっ、またぁ!貴一の身体から知らない女の匂いがするっ!消毒、消毒しなきゃ!貴一、今度は誰だ!また知らない女だぞどういうことだ!?」
「え、匂いで分かるんですか?や、今日は偶然セツのんのお姉さんという方に会いまして。なんかやたらとフレンドリーにこう、胸を肘でうりうりされたり、首に腕を掛けられたりしました。変わった人でした」
凄いな。なんかどんどん正確になってく。いつの間にか匂いで誰だか判別出来るようになってしまったらしい。噛みつき癖といい、少し犬みたいな所あるよね、静さん。
「雪ノ下の姉だと!?陽乃の奴か!……あいつめ、よくも私の貴一に許可なくベタベタと……!許さんっ、絶対に許さんっ!」
知ってるんですか?え、うちのOG?じゃあ静さんの昔の生徒なんですか?へー。まぁどうでもいいですけど。よく見てないし。
「本当か?実はちょっと良いなとか思ってたりしないか!?だ、駄目だからな?私以外は絶対駄目だからな!?」
「いやこれっぽっちも思ってませんが。え、むしろなんでそんな不安そうなの?」
……え、総武にいた時死ぬほどモテてた?彼女がいる男でも落とした?何なら男性教師でさえ手玉に取ってた?……ほーん?まぁよく分からんけどセツのんに似てるからそれなり美人だし、それでいてセツのんと違ってコミュ力高ければそういう事もあるのかねぇ。
「……本当に興味無いのか?」
「ある訳ないでしょ。俺の好みのドストライクが目の前に居るのに……まぁもうちょっと髪の毛長かったら顔ぐらいはちゃんと見たかもしれませんが」
「奴に今度会ったらベリーショートにしてくる。……そのまま、そのまま私以外見るんじゃないぞ!目移りしたら怒るからな!?くそっ、あと6日……早く過ぎないかなぁ!あぁ、ラナルータ使えたらなぁ……!」
ラナルータは使えないけど似たような事はできる俺としては反応しずらいなァ……。まぁ、いいや。静さん、ちょっと退いてください。風呂入って着替えてくるんで。
「やだ!もう少しこのままがいい!虫除けもまた付ける!」
勘弁してください。もうネックウォーマーだけじゃなくてシャツも1番上のボタン開けられないんですよ?このままじゃ俺夏服に衣替え出来ないじゃないですか。
「外せば良いじゃないか!夏服にもバンバン着替えればいい!そうしたら虫除けの効果も上がるし!」
何度言ったら分かるんですか?それは駄目です。せめて俺が籍入れられる歳までは我慢して下さいって。俺だって我慢してるんですから。これも何度も言ってますけど、本当に一緒に居られなくなっちゃいますよ?
「それはやだ!絶対やだ!……でも折角虫除け付けても効果無いし……うー!」
うーじゃありませんよ。そもそもこの虫除けが人前に見せられない時点で効果無いのなんでわかってた事でしょうに。どうせ効果無いんだし、もう付けるのやめません?
「それもやだ!……せめて、私の跡を付けておかないと、貴一が他の女といる事にもう耐えられない!むしろ仕事が無ければ全部ついて行きたい!」
それは駄目です。前にも言いましたが、現状でそれをやったらもう完全に俺がいないと静さん生きて行けなくなっちゃうじゃないですか。家事なんて出来なくても今は生きて行けますが、それをすると生きていけません。貴方がこの先も俺と居たいのならば、最低限の人間らしさは捨てないでください。
……それに何より、教師の平塚先生はカッコ良くて俺の憧れでもあるので、できればもうしばらくそんな静さんが見ていたいです。
「うーっ!その言い方はズルいぞ!そんな事言われたら、頑張るしかないじゃないか!バカ!」
ハイハイ、頑張ってくださいね。さて、そろそろ本気で風呂入るんで退いて下さい。その後もする事多いんですから。
「やだ。……どうしても入るなら、私も一緒に入る」
「駄目です。今日の分のお仕置きはもう終わりました。……学校で散々泣いたでしょ?」
「も、もう1回!もう1回してもいいから!なっ?」
駄目です。そういうのを我慢するのもお仕置きのうちです。それに、俺の方も我慢してるんですから。お仕置なしで静さんと風呂なんか入ったら我慢できなくなっちゃいますよ。
「……なぁ、貴一。我慢なんてしないで襲ってくれても良いんだぞ?私はもう何時でも貴一に犯される準備が出来ているんだ。本当だぞ?ここ最近、ずっと私のおまんこ、濡れっぱなしなんだ。貴一から襲ってくれればルール違反にもならないし……もう、学校でもずっと貴一のちんぽとザーメンの事ばかり考えてる。胸がずっと苦しくて、子宮がずっと泣いてるんだよ、貴一ぃ……!」
ええ、知ってますよ?とても良い状態だと思います。
それに最近は「平塚先生最近色気ヤバくね?」って学校中で評判ですもんね。俺ですら色んな人達が平塚先生良いなー!って噂してるの聞きますし。モテモテですね、平塚先生?
そう言えば昔はモテたいってずっと言ってましたね?願いかなっちゃいましたよ?今なら大抵の男は平塚先生から声掛ければ簡単に乗ってくると思いますが?
「分かってるだろ、バカ……!もう他の男の事なんかどうでもいい!私はもう貴一以外要らないっ!だから、2人きりなのに平塚先生って呼ばないで……!」
「ふふ、少し意地悪でしたね。ごめんなさい静さん」
まぁ俺としても静さんを今更他の男にやる気はないし、既に彼女の元彼連中の処理も済んだ。順調に
「頑張りましょう、静さん。俺も6日後がくるのを待ち焦がれていますよ」
「うぅぅぅ、鬼!悪魔!貴一!……6日後は足腰立たなくなってもしてもらうからな?」
「望む所です。静さんこそ、気絶したくらいじゃ止めないんで覚悟して下さいね?」
「分かってる。きっと私は6日後にぐちゃぐちゃにされるんだろ?……貴一以外の女なれないように、されちゃうんだろ?」
「当然です。…死ぬまで逃がしません」
「あ、あぁぁあぁ……!楽しみだ!……待ってるからな、貴一?」
返事の代わりに彼女の頭を両手で固定して、そのまま唇を奪った。
「んぅっ、はぁっ……貴一、大好き」
「ん、はぁ……俺もですよ、静さん」
逸る気持ちを抑えて、俺は6日後が楽しみだ、と無理矢理笑ったのだった。
続く。
登場人物紹介
・榊 貴一
神様転生者にしてこの作品におけるオリ主。
自分のせいで原作主人公が居ないので、ヒロイン達に妙に甘い所がある。
比企谷小町には特にそれが顕著。なお、外に出すことはないが、彼女を妹みたいに思っている。
しかし逆に彼女から兄のようだと思われる事には強い抵抗を覚えているらしい。
実は全身から癒しのオーラが物理的に出てる疑惑。
・雪ノ下 雪乃
実は歳と胸以外はオリ主の好みに突き刺さっている。
1週間近くしっかり下調べして頑張ってちゃんとした契約書類を作ったが、それは要するに見せかけだけの紙切れだった事が発覚した。しかしオリ主を責めない良い女。
今回色々あって女子中学生とも仲良くなり、順調に人間関係を広げて行っているらしい。
オリ主によって無理矢理戦いの場へ。この後初めて引き分けへ持ち込む事に成功した。
自分の気持ちを少しずつ自覚してきたのでちょっと背伸びして抜け駆け。
実はオリ主の胡散臭さに気付いているが、あえて指摘はしていない。
オリ主の攻略を始めた。
・由比ヶ浜 結衣
みんな大好きゆいにゃん!
にゃんと付いてもワンコ属性。
今回は登場しないが、オリ主にいい感じのプレゼントを貰うフラグが立った。
話の外で久しぶりにキラキラグループとカラオケに行っている。たまにはこういうのも楽しいなー!……とか思ってたら親友(と思ってる)に抜け駆けされてるとは一切考えてなかった。
最近は夜にちゃんと走ってる。
・平塚 静
言わずと知れたこの小説のメインヒロイン!
であると同時にヤンデレヒロイン!
でありながらどちゃクソチョロイン!
にしてもはやオリ主攻略済みのエリートヒロイン!
チョイ役でもオリ主のヒロインの座は一切譲らない!
つまりもはや無敵である。
・比企谷 小町
原作主人公が居ないせいで1番とばっちりを受けてる妹系女子中学生。
この作品では一人っ子の為、母親との折り合いが悪く、度々プチ家出を繰り返す準不良娘。
一人っ子の為原作より小遣いも厳しい。原作主人公並。
原作主人公が居ないので、少しだけ雪ノ下との共通点が出来ている。その結果原作より雪ノ下との仲が深まった。
メール打つのは由比ヶ浜より早い生粋の現代っ子。
オリ主によって無意識に感じていた寂しさや苦しみから少しずつ解放されてきている。
オリ主を兄のように慕うのは、本物の兄が居ないからだろうか。それとも……
・雪ノ下 陽乃
まだちゃんとオリ主と絡んではないラスボス系ヒロイン。
今回はオリ主の先生攻撃を受け過ぎてちょっと狼狽えてしまったが、本来のポテンシャルはこんなものでは無い。
シスコン。
この後めゃくちゃ雪ノ下とやり合ったが、オリ主のサポートにより初の引き分けに持ち込まれた。
続いたら大活躍する予定
・喫茶店「チェリーブロッサム」
色々な手を尽くしてテレビに出演、SNS映えするチェリーパイを武器に一躍大人気店になった。
が、あまりに従業員を顧みない経営体制の為、先日従業員の殆どが辞職してしまった。その中にはパティシエも入っており、そのパティシエの残したレシピで何とか形は取り繕っているが、内情はもうガタガタ。
結局立て直し出来ずに3ヶ月後に閉店する。
・ハーゲンダッツ専門店
ハーゲンダッツショップ、何で日本から撤退しちゃったんだろう……