※この作品はR-18です。

最強の最弱職、王女に手を出す   作:毒蛇

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第十一話 めぐみんの誘い

 意識の覚醒は唐突だった。

 ゼル帝の鳴き声でも爆裂魔法の爆音が轟いた訳でも無い。ただ窓のカーテンの隙間から覗く薄い陽射しにふと瞼を開いた。その柔らかい光におおよそ朝の八時頃だろうと見当をつける。

 

 ――もう少し寝ていたい。

 

 目覚めが快適であったとしても二度寝をしないかと問われるとノーだ。

 敢えて二度寝をする事でベッドの柔らかさと温かさ、そして浅い眠りだからこそ堪能できる心地良い夢を味わう事が出来るからだ。何よりも時期も冬に近づく中で、早朝の冷えた室内に対してベッドの中の究極的な柔らかさと暖かさに抗える訳が無い。

 

 心の中で青い髪の美少女が、カズマさん、カズマさん、と俺に囁き掛ける。

 どちらを選んでも後悔するのならば楽な方を選択しなさいな、と。

 アクシズ教徒になった訳ではないがその意見には大いに賛成だった。心の中の女神にサムズアップを返し、昼頃まで眠ろうと俺は頭の中のスイッチを切ろうとした。

 

 その時になって、俺は自分以外の温かさと息遣いが聞こえる事に気づいた。

 

「……すぅ」

 

「……?」

 

 瞼を開き、瞬きを繰り返すとぼやけていた視界が鮮明となる。

 視界の上半分を占めるのは大きな枕、下半分は銀色の物体である。

 俺の体勢は現在右側に横向きとなっているが伸ばしている右腕が枕と透き通るような銀色の物体に挟まれ固定されていた。唯一動く左手は柔らかい物に置かれ、両脚は何かに挟まれたり挟んでいる状況であり身体が固定されている。

 

 中々に不思議な状況だが半分寝ているような意識下においては気にならない。

 ひとまずは二度寝を優先するべきだと自由に動く左手で押し退けようとすると――、

 

「んー」

 

 唸り声のような物が俺の顎辺りで聞こえ、左手を置いた物体がもぞもぞと動く。

 動物、猫よりは大きく初心者殺しのようなモンスターより小さく温かいソレはよくよく見ると人間だった。銀髪の少女、仮面盗賊団の頭領、というかクリスの頭だ。

 現状を認識した途端、俺の脳は瞬時に加速し状況の把握と打破を開始した。

 

 俺の左手はクリスの肩に置いていた。右腕は枕と彼女の頭部に挟まれている。俺が右側、クリスが左側を向いている為、身体のほぼ前面が密着しており脚付近がどうなっているのかは確認が困難である。

 何となく脚を動かしてみると滑らかな太腿の感触が直に返ってくるが寝息を乱す。

 

「んゆ……」

 

 無防備な寝顔を晒したクリス。

 このままでは数分後には瞼が開くだろうという予感があった。

 

「やだなぁ……」

 

 クリスの目覚めが嫌という訳ではない。彼女の青紫色の瞳は好きだ。

 だが、果たしてこの状況下で何も起きないという可能性は高いとは言えない。

 

 トラックに轢かれたと思い込み心臓を止めた生前の人生ではいわゆるライトノベル作品も数多く読んできた。その内容にはこういった性臭漂う不測の事態に遭遇した際には大抵男側が理不尽な展開に遭うという事が多かった。

 ああいう展開を見る度に男を哀れに思うと同時に俺はそうはならないと心に決めていた。

 

 俺の名は佐藤和真。

 相手が誰でも理不尽な暴力にはキッチリと報復する男。

 

「いや、待てよ?」

 

 このまま理不尽に一発ビンタ辺りを喰らう事を前提とするなら。理不尽ではなく実際に行動を起こせば良いのではないのだろうか。そんな天啓が頭を過ると同時に左手が彼女の肩に掛かる毛布に触れる。

 厚手の毛布に包まれているが僅かに覗く白い肩には服も下着も見えない。

 脚が触れている感触的には昨夜の情事のままなのだろう、と思いながらシールを剥がすような面持ちで毛布を脱がしていくと肩甲骨、僅かな膨らみの上半分と徐々に白い裸体が露わになり。

 

「……くしゅん!」

 

「……」

 

 寒そうにくしゃみをするクリスに無言のまま毛布を掛け直した。

 流石に風邪をひかせるのは忍びなく、そういえば左手も冷え固まってきているなと思っていると、自身のくしゃみがトリガーとなったのか長い睫毛に縁取られた眼がパチリと開く。

 寝起き直後だからか、ぼんやりとした眼差しはゆっくりと目の前の俺を捉える。

 

「……おはようございます」

 

 俺はキメ顔で挨拶をした。

  

 

 

 +

 

 

 

 三十分後。

 朝食のソーセージを一本クリスの皿に献上すると、容赦なくフォークを突き刺し食べる彼女はニコリと微笑む。

 

「くれるのは嬉しいけど、急にどうしたの?」

 

「いや、予想よりも理不尽な展開にならなかったので」

 

「それは……、ほら合意って事だったし。騒いだのは悪かったけど。……あとは着替えをガン見するのはちょっとどうかなって思ったけど」

 

「いやガン見なんてしてないけど?」

 

「……」

 

「身に覚えはないけど、トマトもどうぞ」

 

「ありがとう」

 

 赤い果実が彼女の口に吸い込まれるのを見ながらフレンチトーストを齧る。

 ゆっくりと咀嚼する彼女は、特に顔を赤らめたり泣き顔を晒している訳ではない。

 どこか余裕を見せる顔からは、昨日までの情事を想像する事は難しいだろう。

 

「……そういえば昨日は激しかったですね」

 

「ぶはっ!!」

 

 何となく呟いた言葉だったが彼女には届いたらしい。

 喉を詰まらせたのかゴホゴホと咽るクリスの背中を摩ると冷気のような眼光を向けられた。

 

「……キミはアレかな? 不意打ちが好きなのかな……?」

 

「いや、そんな想像通りの展開を見せてくれるお頭ほどでは……」

 

 朝から掴み合う元気は無いのでオレンジジュースのグラスを差し出すと、容赦の無い女神は喉を鳴らしグラスの中身を半分ほど空にして返してくる。息は整えつつも脳裏に深夜の出来事が過ったのか頬を赤らめる盗賊娘はジロリと半眼を向けた。

 

「……サトウカズマさん? 朝からそういう話題は禁止です」

 

「夜なら良いんですか?」

 

「……と、とにかく! 今日で一旦別行動だから」

 

「おう。……意外に話逸らすの下手ですね、エリス様」

 

「エリス様って呼ばないでってば!」

 

 激昂するクリスが俺の皿にあるホクホクのポテトをフォークで突き刺し、小さな口に運ぼうとした瞬間にフォークの先端に食いつき奪取する。

 

「勝手に俺の芋を食べないで下さい、泥棒女神」

 

「キミこそ何回同じ事言わせるのさ! ……というか今私の事なんて呼びましたか!?」

 

「お客様、宜しければもう少しお静かに願います」

 

「「ごめんなさい」」

 

 その後和やかに食事を進めながら俺は彼女から今後の予定について聞いていた。 

 昨夜の深夜帯に侵入した貴族から得た神器の情報、アウリープという男爵についてはクリスが単独で調べるつもりらしい。ある程度の目星は付いているらしく任せて欲しいと薄い胸を叩く。

 

「……というか、どっかで聞いた気がするんだよな。食道あたりから出そうで出ない感じ。ダクネス辺りに聞いたら分かりそうな気がする」

 

「ダクネスって今、王城にいるんでしょ? 会えないかな?」

 

「いやわざわざ王城に会いに行くと、なんで王都にいるかを説明しないといけないし。逆に忍び込むにしてもアレ以来警備の質が上がったって聞くからな……。まあそろそろ屋敷の方に戻って来るだろうし帰ってきたら聞いてみるわ」

 

「それが良いかな。ダクネスにはよろしく言っておいて」

 

「自分で言えよ。あいつ結構ガチでお前の事探していたぞ。住所不定、財産らしい物はなく、奪った金は教会や孤児院に寄付するような奴がどこで冬を越そうとしているのかってな」

 

 出会った頃の気難しいダクネスに比べると随分と丸くなった。

 その為か以前ならば良しとしなかった貴族の権力に物を言わせる場面も増えるようになった。

 私兵や探偵を雇いクリスの行方を探っていると聞かれた時は驚いた物だと、そんなダクネスの話をすると盗賊娘は頬についた傷を指で掻き苦笑をこぼした。

 

「アハハ……。まあ、普通はそうなるよね。その辺りはあたしの右腕君がうまく誤魔化してくれるよね」

 

「さあ」

 

 肩を竦める俺をクスクスと笑う中身女神の盗賊娘と食事を終える。

 一度アクセルの街に戻る予定の俺は高級宿屋を出ると彼女とは別行動になる。ほんの少しだけ名残惜しさを感じながらテレポート屋に向かう俺と見送るクリスと城下町を歩いていると、ふと王城を目端に捉えた。

 ぼんやりと見上げた王城は改めて見ると荘厳な雰囲気があり王族と平民の格差という物を今更ながら俺は感じた。

 

「――お姫様に会いに行かなくて良いの?」

 

「また会えるさ」

 

 今すぐに会いに行く事も出来るだろう。

 以前とは異なり城を追い出されるという可能性も低い。

 ただ理由も無いのに逢いに行くよりは土産話でも持って行った方が盛り上がるだろう。

 

「じゃあ」

 

「うん」

 

 広場で脚を止めるクリス。

 脚を止めずにテレポート屋に向かう俺がチラリと振り返ると、視線に気づいたのか戸惑い気味に手を小さく振る。その姿に小さく頷くと足早にテレポート屋に駆け込むのだった。

 

 

 

 +

 

 

 

「ただいま」

 

 屋敷に戻るが誰の返答も無かった。

 アクセルの街に戻り、ついでに購入した食材をキッチンに置くと共同スペースであるリビングへと脚を向けた。

 パチパチと薪を焼く暖炉の火が点いており、ソファには少女が眠っている。

 

 赤を基調とした肩まで露出したワンピースを着た黒髪の少女。

 恐らくは爆裂魔法を撃ってきたのだろう、久方振りの遠出に体力も尽きたのだろう、以前とは異なり背中まで伸びた黒髪と少し伸びた身長は彼女のロリ属性の脱却を図った結果だろう。

 

「すかー……」

 

 無防備に涎を垂らし眠りこける寝顔を見ながら、何となしにソファに座る。

 ギシリ、と軋む音が鳴ったが目を覚ます事は無く俺の視線は彼女の露出した脚に向かう。

 ワンピースの丈も成長と共に短くなり少し捲るだけで彼女の下着が露わになる。

 

「今日も黒か」

 

 黒のレースの装飾やピンクのリボンが施されたショーツ可愛らしさと大人としての色香を放つソレは機能性よりも見た目を重視した物だろう。雄を誘惑する、その一点だけに存在するようないやらしい下着を無言のまま見つめていると、めぐみんがもぞもぞと身動ぎを始めた。

 そっとワンピースを戻して暫く暖炉の火を見つめていると爆裂娘が目を覚ました。

 ぼんやりとした眼差しは虚空を見つめていたが足元に座っていた俺に気づいたのだろう。

 

「ふあ……。おはようございます……カズマ」

 

「おはよう、ぐっすり寝てたんだな」

 

「ええ。良い昼寝でした。……そしておかえりなさい」

 

 ゆっくりと上体を起こす彼女に多少の体力をドレインタッチで譲渡すると、ありがとうございます、と礼を言いながらソファに座り直す彼女はそっと衣服の乱れを整える。

 

「カズマ」

 

「うん?」

 

「実は眠っている間に私が大人の階段を上っていた、なんて事はありませんよね?」

 

「当たり前だろ。何言ってんだ」

 

「そうですよね、カズマなら頑張っても下着を至近距離から見つめるのが精一杯ですよね」

 

「――――」

 

 クスクスと笑う黒髪の少女に一瞬、息が詰まる。

 途端、怪訝な顔をするめぐみんからそっと目を逸らして頭を手で掻く。

 

「カズマ?」

 

「……ああ、いや。それこそまさかだろ。俺がそんな事をする人間だと思ってるのか? この紳士サトウカズマを?」

 

「鬼畜度とセクハラに掛けては魔王級だと思ってるからこそ問い掛けてるのですが。……おい、私の目を見て貰おうか。私のパンツは何色でしたか?」

 

「黒のスケベパンツなんて見てませんよ」

 

 めぐみんという少女は基本的に直球勝負しか仕掛けてはこない。

 剛速球で愛を囁く事において恥ずかしがる事は無く、寧ろ当然とばかりに無い胸を張る。

 そんな彼女は俺の自白紛いの告白に対して、激昂するどころか余裕の表情を見せる。

 

 まるで釣り糸に引っ掛かる魚を見たような。

 否、男をたぶらかそうとする魔性の女は俺との距離を詰めて耳元に顔を近づける。

 友人同士で内緒話をするような距離、ふわりと漂う少女の甘い匂いに鼻腔がくすぐられる中で俺の太腿に手を置く彼女は耳元で大胆な言葉を囁く。

 

「そうですか。……カズマにならもっと凄い所を見せても良いのですよ?」

 

「……ほーん。例えば?」

 

「え? えっと……想像にお任せします」

 

「いやいや、想像とか良いから。思わせぶりな態度はもう良いから。めぐみんの口からもっと凄い所がどこかを聞きたいのだが」

 

「この男は! 何ですかセクハラですか! 白昼堂々と幼気な少女から何を言わせる気ですか!?」

 

「いや、ほら互いに齟齬があったら不味いだろ。例えば散々ソッチ方面に盛り上がった末に『見て下さいカズマ。偉大な魔法使いめぐみんの脚の裏を! ……舐めても、良いんですよ?』とかなったらガッカリだろ? 俺は嫌だね!! 舐めるけど」

 

「私だって嫌ですよ! ん? 今何か……いえ、それよりもっと凄い所ってそんな所じゃありませんよ!?」

 

「じゃあどこだよ。ほら言ってみろよ。普段詠唱しているそのお口で! はよ!」

 

「…………パ」

 

「パ? おいおい冗談止めろよ。どう考えてもマだろ? いやらしいな!」

 

「パーンチ!!」

 

「ぶるぁあ!?」

 

 魔王討伐後の上級冒険者と呼べるレベルの高い冒険者と魔法使い。

 片方は数多のスキルを使いこなすがステータスは高いとは言えない。

 もう片方は生涯でただ一つの魔法しか使えないがステータスは十分に高い。

 

 掴み合いは顎に先制攻撃を貰った俺が僅かに不利だったが、その後ドレインタッチを始めとしたスキルを使用する事で勝率を引き上げていく。関節を決められながらドレインタッチで元々無かった体力を吸いとると、どちらともなくソファに顔を埋める結果となった。

 

「無駄に疲れた」

 

「……そうですね。カズマ、暴れないので体力分けて貰えますか」

 

「おお、そうだな。その、悪かったよ」

 

「ふふっ、そうやってキチンと自分の非を認める事が出来るところも好きですよ」

 

「……ッ」

 

 柔らかいソファに沈んだ顔を彼女の方に向けると、めぐみんも俺の方を見ていた。

 もともと白かったが部屋にこもるようになってからは白皙のような色白となった肌に長い黒髪は良く映えた。

 紅の瞳を和らげて微笑み、告げる言葉に嘘は感じられず俺は何度目かの息を詰まらせる。

 

「――――」

 

 罪悪感のような何か。

 彼女は別に彼女ではない。仲間以上恋人未満の関係だ。

 だから、本来抱く感情としては見当違いである事は間違いない筈なのだ。

 

「カズマ? さっきからどうしたのですか? 少し変ですよ」

 

「あ、いや。俺が変なのはいつもの事だろ? それより何かめぐみんが言いたそうだなって」

 

 眉を顰め問い掛けるめぐみんに苦し紛れに放った言葉。

 根拠などなく少しでも追及を免れたいという思いで飛び出した言葉を幸運が拾う。 

 

「……そうですね。では私から」

 

 ドレインタッチで二度目の体力の譲渡を行うとソファに座る彼女。

 その隣に座る俺を見つめる紅の瞳から目を逸らし、暖炉の火を見ながら耳を傾ける。

 

「今日の朝にゆんゆんの宿から戻ってきたのですが。あのぼっちに少し頼まれごとをされましてね。紅魔族の族長の件についてですが……」

 

「おう」

 

「魔王討伐の前に、次期族長の試練にゆんゆんが合格したではないですか」

 

「ああ」

 

 めぐみんの言葉に、以前ゆんゆんが紅魔族の長になる為の試練に挑んだ事を思い出す。

 参加条件の前提としては上級魔法を使えるという事でめぐみんは除外されていたが、基本的に真面目で委員長気質の彼女は既に取得済みであり、いくつかの困難はあったが無事に乗り越え里の住人に認められた。

 その際に魔王を討伐するという功績を引っさげて里に戻る事を宣言していたのだが。

 

「魔王も倒されたという事で、そろそろ族長の仕事の引継ぎをしないか、と手紙が来まして」

 

「ほう」

 

 俺がクリスと戯れている間に、ゆんゆんの下にそんな内容の手紙が届いたらしい。

 現在怠惰なニートを脱却中のめぐみんもその手紙を見て思わず破いたというが、その腹いせか本心からか引継ぎを行う次期族長の補佐をして欲しいとゆんゆんに言われたのだと言う。

 

「つまり将来の族長補佐に就任だろ? ニートから出世じゃないか。良かったな」

 

「まあ、紅魔族随一の優秀な頭脳を持つ私をスカウトするというゆんゆんの判断は見事でしたね。自称私のライバルを宣言するだけの事はあります」

 

 思わず鼻で笑うとジロリと睨まれるが手を上げない辺りに彼女の成長を感じる。

 目線だけで謝罪をすると、彼女は元々近い俺との距離を縮め、上目遣いで告げた。

 

「それでどうしてもと頼み込んでくるゆんゆんの為に、……あと、ついでに完全な社会復帰の為に紅魔の里に向かおうと思うのですが、カズマも一緒に来ませんか?」

 

 

 

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