※この作品はR-18です。

最強の最弱職、王女に手を出す   作:毒蛇

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第三十五話 サヨナラなんて許さない

 ──顔に感じる柔らかさに俺は静かに肩を震わせる。

 

 少し前までは信じられなかった状況。

 こうして少女の裸体を拝み、行為に及び、乳房に顔を埋める。

 

 ふにふにとした餅のような質感はこれからの将来性を感じさせ、後頭部に感じる掌の暖かさは俺に対する確かな友愛と愛情を感じさせる。

 性衝動とは違う、何か心の奥底から感じる安寧に俺は背中に回した手に力を籠める。

 

「カズマ様って子供みたいですね」

 

「男は皆、心は子供なんだよ。どれだけ年を取ったって子供心を忘れたら老化一直線だろうし。スケベ心を無くしたらそいつは死ぬ」

 

「流石にそれはないと思います」

 

 アイリスは男を舐めているようだった。

 とはいえ、それもまた仕方の無い事だろう。この王城という箱庭で他人から与えられる知識だけを吸収して来た無垢で可愛らしい少女なのだから。

 

「アイリスは抱き心地が良いなぁ……」

 

「そ、そうですか?」

 

 年下の少女の乳房を枕にして顔面に挟ませている絵面は通報一択だ。

 ただ王女と最弱職のいる部屋に侵入しようとする不届き者はおらず、時間帯を考えても流石にまだ第三者の介入の余地は無いだろう。

 柔らかな乳肉に顔を擦りつけながら王女の身体を弄り、アイリスの甘い匂いに鼻腔を擽らせながら鼓動に耳を澄ませる。トクントクンという心の鼓動に純粋にアイリスと過ごす時間を楽しむ。

 そんな俺の行動を叱る事もせず、頭を抱く彼女は俺の髪の毛を指で弄る。

 

「俺の髪の毛なんか触って楽しいか?」

 

「ふふっ、……勿論、とっても楽しいですよ。こんな時間をカズマ様と過ごせるなんて凄く嬉しいです」

 

「……お、おう」

 

 滅茶苦茶にアイリスに俺は甘やかされている気がした。

 

「カズマ様こそ、その……苦しくないですか?」

 

「大丈夫です。お構いなく」

 

「……ッ」

 

 呼気がこそばゆいのか密着していたアイリスの乳房がむにゅむにゅと動く。

 汗と少女の甘い体臭が混ざった芳香を肺に取り込みながらくすぐったそうに、恥ずかしそうに身体を揺らすアイリスを抱き締める。

 以前までなら気恥ずかしくて出来なかった事が、アイリスには平然と出来るようになってきた。

 

「あ、あんまり吸わないで下さい! ……恥ずかしいです」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

「何がですか!?」

 

 吸って吐いて息をする。

 そんな当たり前の事が出来る事に俺は少しだけ感謝していた。

 

「俺もアイリスの髪の毛触っても良いか?」

 

「もう触っているじゃないですか。……あ、あのそっちは違います」

 

「生え掛けだ~」

 

「…………」

 

「いたっ! いたた!!? おい、止めろ! 俺をハゲマさんにする気か!」

 

「カズマ様が変なところを触るからです! もう……ッ!!」

 

「御守りにいれるからちょっとくれよ。俺のやるから」

 

「……、だ、ダメです! それは流石にダメなのです!」

 

「今、ちょっと考えたろ」

 

 ちなみにハゲに回復魔法は効かないらしい。

 そんな風にアイリスと事後のピロートーク兼スキンシップに勤しむ。事あるごとにリア充爆発しろと思っていたし、こんな甘ったるい会話や触れ合いなど精々がセクハラや下着を被るのが精一杯だと思っていたが人生どうなるか分からない物だ。

 時計を見るとまだ少し寝ていても大丈夫だろう。時間に余裕はある。

 

「朝はいつもクレアが起こしに来るのか?」

 

「あ、いえ、流石に朝はメイドが起こしに来てくれるのですが……」

 

「ふーん……。てっきりクレアが起こしに来るのかと思ったんだが」

 

「前まではそうだったんですけど……、最近はちょっと……」

 

「ん?」

 

「なんというか、最近のクレアの眼と言いますか……偶にカズマ様がスタイルの良い女の人に向けるような目をする時がありまして……」

 

「そんな目はした事ないけどな。……こいつちょっと気持ち悪いなってなったのか」

 

「い、いえ……そこまでじゃないんですけど。なんとなく」

 

「そうか。アイリスも反抗期が始まったんだな」

 

「違います!」

 

 幼少期から教育係としてアイリスに様々な事を教えたであろうクレアとレイン。

 普段からずっといる分、家族よりも家族をしているから難しい年頃にとって少し疎ましいと感じるのだろう。思春期の少年少女にとって家族の干渉というのは意外と苛立つ物なのだ。

 

「私ももうすぐで大人なんですから、子供扱いしないで下さいと言ったじゃないですか」

 

「子供扱いはしてないだろ。大人の階段は上ったし、アイリスも殆ど大人だろ」

 

 そうでなければ佐藤和真はロリコンでは無いのだろうか。

 十四歳が成人とはいえ、現在十三歳と数か月のアイリスで童貞を捨てたのだ。この頃の年齢のめぐみんとはお風呂に一緒に入る程度だったのに、何がどうしてこうなったのだろうか。

 

「カズマ様がロリコン扱いされないように私も、もっと大きくなりますから」

 

「……いや、今更そんなの痛くも痒くもないし。モテない連中の僻みだって思うと笑えるだろ」

 

 王女に手を出した俺をロリコン扱いするというのは、アイリスをロリータ扱いするのと同義だ。一国の姫に対してソレは流石に馬鹿にしており、処刑は免れないだろう。

 そもそも俺をロリコン扱いするのはアクセルの冒険者と仲間たちと気にする事では無い。

 

「気にしなくて良いからアイリスはゆっくりと成長してくれ」

 

「…………」

 

「今のは格好良かっただろ」

 

「その一言はいらなかったです」

 

 何となく目の前の王女は焦りを感じているように思えてならない。

 大人になりたいという気持ちは理解出来る。だが別に慌てる必要も無いのではないのか。どのみち時間が経過すればアイリスとて大人になるのは確定しているのだ。

 俺の言葉に、眉尻を下げるアイリスは俺の頭を胸に抱き、小さく囁く。

 

「……別に焦ってなんかいません」

 

「本当か?」

 

 彼女の青の瞳に目を向けようとしてアイリスに抱き締められる。

 柔らかい感触と甘い香り、獣のように身体を重ねて覚えたそれらが劇薬のように俺の判断力を鈍らせる。

 

「時間になったら起こしますから」

 

「アイリスに起こされるなんて、俺は幸せだな……」

 

「本当ですか?」

 

「嘘じゃないって……。アイリスとエッチ出来たし、一緒にイチャイチャ出来たし……」

 

「ゴブリン扱いしていたアクア様とエッチしたりしましたもんね」

 

「……その事に関してなんだが――」

 

「もう少ししたら一緒に起きましょうね」

 

「…………」

 

「おやすみなさい」

 

 今日の事は明日の俺へ。今の事は一時間後の俺へ。

 そうして怠惰に行動してきた結果がコレなら幸せではないだろうか。

 そんなもでもないと、理解してはいても、何とかならないかと望まずにはおれないまま。

 ゆったりと、アイリスに抱かれて俺の意識は闇に呑まれていった。

 

 

 

 +

 

 

 

「良く眠れましたか?」

 

「ん、ああ。昼寝って意外にも二十分ぐらいでも一晩ぐっすり眠るのと同じくらい効果があるって知ってたか?」

 

「いえ、初めて聞きました」

 

「俺がいた国ではそういう研究結果があるんだってさ」

 

「カズマ様は色んな事を知っていて尊敬します」

 

「いや、アイリスの胸の中だから良く眠れたんだって」

 

「……アレくらいでしたら、いつでもカズマ様を甘やかしますよ?」

 

「マジで!? お願いします!」

 

 白い頬に朱色を差し俺を見つめる姿は正しく恋する乙女だろうか。

 多少調子に乗っている事はともかく、相思相愛であるのは間違いないだろう。ニコニコと柔和に浮かべた笑みは見る者を惹きつけるような色気を感じさせた。

 

「────」

 

 結局、アイリスは俺をギリギリまで起こさなかった。

 ──否、ギリギリアウトになってから起こしたと言っても良い。下着だけは身に着けた状態でアイリスの腕の中で起きた瞬間は驚いた物だ。

 

 アイリスは既に衣服を着ており、換気の為に窓は開けられていた。 

 ベッドの汚れたシーツを直すメイドの冷たい目が肌身に染みたのは忘れられない。

 

「流石に私は恥ずかしかったです」

 

「だったら早く起こしてくれたら良かったのに。適当に魔法で隠蔽とかして……」

 

「それではダメなのです。……カズマ様は恥ずかしかったですか?」

 

「いや全然。それくらいでメンタルにダメージなんか入らないし! アイリスとエッチしたって事実がメイドに知れ渡るってなんかちょっと興奮するわ」

 

「…………」

 

 ニートを舐めてはいけない。

 親戚の集いで言われた嫌味をスルーする男なのだ。メイドにはウインクを返すと、俺はアイリスと共に朝食の為に部屋を後にした。

 そうして朝御飯を口にして、習い事が無いというアイリスと共に散歩していたのだ。

 

「カズマ様? どうかされましたか?」

 

「うん? いや……アイリスさ」

 

「はい」

 

「事前にメイドとか執事に何か言ってたりしたのか?」

 

「…………」

 

 顔を洗って朝御飯を食べて、そして今更ながら俺は思い至る。

 当たり前だが王族の姫、その婚約者とはいえ正式に結婚していない男女の営み(片方未成年)を目撃したメイドが悲鳴も上げず、黙々と淡々と部屋の掃除を行い続けたのだ。

 それが教育の行き届いたメイドだと言われると頷くしかないが。

 

「悲鳴上げられて兵士呼ばれて処刑からのエリス様への出荷エンドになると思ったんだが」

 

「ドナドナですね」

 

 仮にも王城にてアイリスと共に過ごしていた時期がある。

 あの頃もセクハラによるメイドたちからの冷たい眼差しをモノともせず過ごしていたが、今回は王女と冒険者がねっとりとベッドに寝ていたのを目撃したのだ。

 第一発見者がクレアだったら抜刀どころでは済まなかっただろう。

 

 もしくは事前にこうなる事を予期してアイリスがメイドや執事に何かを言っていたのかもしれない。俺が気にしても仕方がないのかもしれないが、一応は知っておきたかった。

 

「勿論、こうなる事は予期していたので城の使用人には予め伝えておきました」

 

「やっぱり……」

 

「もう使用人たちは皆カズマ様が私の婚約者だというのは知っています」

 

「……ほぉ」

 

「でも、メイドさんに変な命令とかはしてはダメですよ?」

 

「すすす、する訳ないだろ! 俺はアイリス一筋だって……」

 

「ゴブリン程度にしか見えないとか言っておきながら結局アクア様を抱いたチョロいチョロいカズマ様。よく聞こえなかったので、もう一回言って下さい」

 

「ごめんなさい」

 

 ハーレムの道は遠い。

 やや冷えた廊下をアイリスと共に散歩する。本来ならばこんな寒い日はコタツの中に入るか布団から出ないのだが、流石にアイリスの手前恰好悪いところは見せたくはない。

 

 窓から覗く景色は相も変わらず雪が降っている。

 しんしんと静かに城の屋根や少し遠くに見える城門や兵士の頭にも雪は積もっていく。去年と比べて今年は随分と雪が降るなと思っていると、アイリスが顔を寄せてくる。

 

「カズマ様は、私と一緒にお城に暮らしたいと思いますか?」

 

「……ん?」

 

 唐突な質問に雪景色から目を離してアイリスに目線を向ける。

 一部三つ編みがされた金髪、雪のように白い肌、透き通った大空を思わせる青い瞳、王女と名乗るに相応しい少女が小首を傾げて俺に問い掛けていた。

 

「ん、まあ、そうだな……。暮らしたいですねぇ……」

 

 真面目に考えたかというとそうでもない。ただ何となく暮らしたいか暮らしたくないか、本能的な部分に問い掛けて、アイリスと楽しい生活を送りたいなと思っただけである。

 瞳を輝かせ、ニコリと微笑を浮かべるアイリスはコクリと頷く。

 

「それなら、良かったです」

 

「……ほらゲームとか一緒にしたり、エッチな事したり、遊んだり、美味しい物食べたり、アイリスと一緒にそういう生活送りたいなーって」

 

「ふふっ、そうですね。私もカズマ様と一緒に明日も明後日もずっと過ごしたいです」

 

「…………」

 

 鼓動が高鳴りを覚える。

 積極的なアイリス、明らかな好意をここまで向けられるのはめぐみん以来では無いだろうか。少し照れ臭くなりそっと彼女から目を背ける俺に微笑み掛ける王女は何を考えたのか、襟元を掴み目を細める。

 恥ずかしがる様子も無く、ただ求めるような顔でアイリスは求める。

 

「カズマ様……」

 

「流石にいきなり廊下でするなんて……、ほら、誰かが見てたらとか……」

 

「早くしてください。んー……」

 

「しょうがねぇな……」

 

 王女が唇を尖らせて求めているのだ。答えなければ失礼だろう。

 既にメイドや執事といった城の住人にはアイリスが手を回したのだ。仮にここで誰かが来ても口止めも容易いという事だ。 

 俺よりもアイリスの方が大胆なのではと思いつつも、ゆっくりと顔を近づけていくと。

 

「――あれ、助手くんじゃん!」

 

「…………」

 

「アイリスさんも! やあ、偶然だねぇ」

 

 見知った声音が背後から聞こえた。

 なんとなくキスをする雰囲気が霧散したのと、知り合いの前である事もあり俺はアイリスと僅かに距離を取る。

 微妙に不満気な顔をする王女を尻目に、俺が目を向けた先から歩いてくるのはメイドの少女。

 

「クリスじゃん」

 

「お頭だよー。ほら、今キミが何を思ったのか言ってみて!」

 

「いや、特に何にも」

 

「酷くない!?」

 

 黒を基調としたメイド服を着用したクリスが、俺に苦笑を向ける。

 白色のカチューシャを頭に乗せて、所々にあるフリルが付いたメイド服は可愛らしさこそあるが厭らしさは感じられない。

 何となく見た目だけは一流のメイドの雰囲気を漂わせている。

 

「お頭、いつの間に転職したんだよ? 中途採用? 面接何回やったよ?」

 

「いや違うからね。これはダクネスが盗賊の姿だと色々アレだからって事で着せてきて……」

 

「ほう? ダクネスもセンスがあるじゃん。普段から可愛いのを着たがっているだけはあるな」

 

「助手くん。……もっと直接的に褒めてくれても良いんだよ?」

 

 盗賊メイドの言葉は正論だろう。ただ、褒めろと言われて褒めるのは何となく嫌だ。

 天邪鬼なのは自覚しているが素直に似合うと言い難い、そんな複雑な男心を持つ俺をそっと押し退けて王女が正面から盗賊メイドと向かい合う。

 

「クリスさん」

 

「どうかな? この衣装」

 

「はい! 凄く似合います」

 

「でしょう?」

 

「はい、とってもお似合いです。メイドってところが凄く良いと思います」 

 

「ん? うん、ありがとうね。……アイリスさんも、その指輪、似合うよ」

 

「…………」

 

 ニコニコと笑みを浮かべるアイリスに、頬を掻きながら笑みを浮かべるクリス。

 にこやかな雰囲気に俺も適当に笑みを浮かべていると、ふと盗賊娘が王女に口を開く。

 

「そうだ、アイリスさん。レインさんがアイリスさんを探していたよ。舞踏会に関してだってさ」

 

「分かりました。ありがとうございます。……カズマ様、名残り惜しいですが」

 

「ああ、分かった。アイリス、あとは舞踏会で会おうな」

 

「はい! ……あの」

 

「ん? おっ……」

 

 クリスの言葉に頷くアイリスだったが、何を思い立ったのか俺の頬を掴む。

 言葉よりも行動で示すと言わんばかりにクリスを前にして彼女は俺の唇を奪うようにキスをする。少しだけ爪先を伸ばして両頬を固定してアイリスとするキス。

 初めて、一人とは言えども衆人環視での口付けに俺は思わず刮目した。

 

 そのまま何も言わずに微笑むアイリスは優雅に廊下を歩く。

 その背中が角を曲がり見えなくなるのを見届けていると、脇腹が少女の肘に突かれる。

 

「…………」

 

「なんだよ」

 

「別に。カズマさんも随分とプレイボーイな事をするようになりましたね」

 

「今のはアイリスからしてきたんだけどな」

 

 エリスの口調になる盗賊メイド。 

 彼女は半眼で俺を睨みつけると、その場でくるりと一回転、ふわりと揺れるスカートに目を奪われる俺は思わず一言告げた。

 

「その服、似合うじゃないですか。本体でも見てみたいですね」

 

「機会があったら見せますよ、カズマさん」

 

 クスクスと薄笑いを浮かべる銀髪の少女から目を離し、俺は窓の外を見る。

 アイリスの後を追っても良かったが、どのみち舞踏会はこの後すぐなのだ。先にクリスと話をしても悪くはない筈だろう。

 

「エリス様。今年の冬は暴風雪っぽいですけど理由はご存じですか?」

 

「たまにこういう季節もあったりするんです……。雪精達が活発に行動する事で冬将軍が荒れる……。自然の摂理としては別段珍しい程ではないんですけどね」

 

「そうですか……」

 

「まだカズマさんもこの世界に来て日が浅いですからね」

 

「…………」

 

「ところで、少し寒くありませんか?」

 

「え? ええ。まあ……、暑くはないですね」

 

「カズマさん。……舞踏会までの準備は出来ていますし、一緒に暖まりませんか?」

 

 そう告げるクリスはどこか妖艶な笑みを浮かべていた。

 微かな吐息に熱を孕み、此方を見る青紫の瞳が俺を捉えて離さない。

 

「暖まる?」

 

「はい。……ちょっとあっちに空き部屋があったんですが――」

 

「――――」

 

 メイドのスカートの裾から覗く白い膝。そっと生地を掴む盗賊メイドは主人の反応を楽しむように少しだけ捲り上げていく。

 挑発的は表情で、しかし隠しきれない喜悦を見せながら、淑やかにスカートを持ち上げる。

 

 徐々に徐々に艶めかしい脚が露わになる。 

 今日のクリスは何を履いているのだろう、その下着はいったい何色なのか――、

 

「助手くん」

 

「…………」

 

「その手はどうしたのかな?」

 

 気づくと俺はクリスの手首を掴んでいた。

 焦らした行為に苛立ち自ら捲ろうとした訳ではない。ただ男を誘う女神の行動を止めた、性欲よりもギリギリで理性が上回った。

 

「……ほら、このあと忙しくなるし。発散している場合じゃないかなって!」

 

「……ふーん」

 

「今ここでお頭をグチョグチョに犯してやっても良いけどな! それやって足腰立たないとかは、今はなりたくはないしな! 今回は我慢してやるよ!!」

 

「そう? ちょっとくらいなら良いんじゃないかな?」

 

「……例えばだがデザートを前にして半分だけ食べて明日の分にするなんて出来る訳ないだろ。やるなら全部食べたい。残さずに!」

 

「デザート……」

 

 怪訝そうに、満更でもなさそうにクリスは呟く。

 本来ならば先ほどのような挑発をするメイドに対しては当然主人としてお仕置きをするつもりだった。ただ、今はなんとなくアイリスの顔が脳裏を過って仕方ない。

 今更俺はアイリスに対して罪悪感を抱いているというのだろうか。

 

「まあ、そういう訳で一旦解散――」

 

「カズマさん」

 

 取り敢えず冷静になる為にクリスに背を向けると、首に巻きつく細い腕。

 

「嘘はいけませんよ」

 

「……いや、嘘じゃ」

 

「どうしてここは硬いんですか?」

 

「……セクハラですよ、エリス様」

 

 ふわりと漂う王女とは異なる少女の甘い香り。

 背中に感じる僅かな乳房の感触に、少し前まで触れていた王女の感触を思い出す。

 拘束されたように動けない俺の耳裏に唇を触れさせ、銀髪の少女の声が鼓膜を優しく震わせる。

 

「ごめんなさい、カズマさん。私って本当にいけない女神ですね。さっき見せようって思っただけで濡れちゃったんです。はしたないって罵られても仕方がないですよね……」

 

「――――」

 

「でもカズマさん。カズマさんが私をこんな風にしたんですよ?」

 

 背後から前面に回した腕に力が籠る。

 肩に乗せた少女の顎が、首筋に触れる少女の髪の毛が、俺の意識をクリスへと向かわせる。

 

「ねえ、カズマさん」

 

「――――」

 

「カズマさんがした事は、今更取り消す事は出来ませんからね。子供が出来るような事をしたんですから、――ちゃんと責任取ってくれないと怒りますよ?」

 

 …………。

 

「――『逃走』!」

 

「あっ!」

 

 俺は腕を解くと一目散に逃走スキルを発動させた。

 今更責任から逃れるつもりはない。ただ物理的に逃げただけだ。その証拠に。

 

「うるせぇ『スティール』――!!』

 

「ひゃああああ!!?」

 

「取り敢えず、パンツだけ貰うわ! ……ん? 染みついてないじゃん! 嘘吐きぃぃぃ!!」

 

「ちがっ……! まっ、待ちなっ、待ってよぉぉぉ!!」

 

 少し濡れた下着(紐パン)を持って俺は急遽一人になれるところを目指して、全力で走るのだった。

 

 

 

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