※この作品はR-18です。

最強の最弱職、王女に手を出す   作:毒蛇

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第四十話 最後になんとかする男

 瞬間、俺は覚醒した。

 

「……あ」

 

 最初の一声は弱々しく掠れてはいたが、間違いなく自分の声音だった。

 復活した肉体に痛みも欠損も感じられず、蘇生魔法は相も変わらず十全の力を発揮、俺の魂が天界から己の肉体への復帰を果たした事を確認した。

 瞬きを繰り返し、俺が今どこにいるのかぼやけた視界をクリアにしようとして――、

 

「あっ、やっと起きたわね? 遅いじゃないの」

 

「……アクア」

 

 鮮明となる視界、こちらを覗き込むアクアと目が合う。

 僅かに血の巡りが悪いのか、視界はともかく頭がぼんやりとしている。それ故に、俺を見下ろしているアクアの変わりない姿をジッと見上げる。

 

「……? なーに、変な顔して。変顔対決は私の評判を下げるからしないわよ」

 

「別にしねえし、お前の評判は下がりようがないだろ」

 

 相も変わらずその容姿は絶世の美少女、ただし無言であればという言葉つき。

 後頭部に伝わる独特の感触、アクアに膝枕をされているのだと理解し慌てて上体を起こす俺は、周囲を見渡して鼓膜に時折響く剣戟の音に漸く気づいた。

 

「は、あああああ!!」

 

『――――!!』

 

 殺意と決意を乗せたアイリスの斬撃に、同じく斬撃を合わせる冬将軍が吠える。

 その剣圧と剣風に全身を打たれながらアイリスは青い瞳を細め、平伏するように屈む。冬将軍の力に彼女の剛腕ですら耐えられなかったのかと思いきや、直後彼女の頭上を過る一人の男。

 

「うおおお……ッ!」

 

 魔剣使い、ミツルギが持つ魔剣での薙ぎ払い。

 あらゆる物を斬り裂く魔剣グラム、その一撃を脅威と見たのか冬将軍が後ろに飛ぶ。

 冒険者になってから片手剣を使ってきたが、彼女たちの剣技は別次元のソレだった。ただ二対一とはいえ彼女たちの剣技を刀一本で対処する冬将軍の技量は決して侮る事は出来ない。

 

 ガギィィンっと剣を叩く強烈な衝撃が頬を撫でる。

 まるで漫画のような一撃をホイホイと放つ両者に対してアクアが俺を見る。

 

「ねえ、カズマ」

 

「なんだ」

 

「一緒に帰らない? もうあの二人だけで良いんじゃない?」

 

「……まあ、言いたい事は分かる。けどそれは駄目だろ」

 

 気持ちは分かる。怯んでしまうというか、空気感が違うのだ。

 圧倒的強者、自分たちのようなヘタレが向かったところでどうなるかなど考えるまでも無い。ただ流石にソレは無い。アクアの言葉も気持ちも十分に理解出来るのだがその選択は頭にはない。

 

 両者の実力はほぼ均衡、やや冬将軍の方が上だ。

 時折、冬将軍の斬撃をダクネスが身体で受けて衣服をボロボロにしているのが目に毒だが、最硬の女という盾がありながらも、アイリスとミツルギだけの攻撃では決着がつかない。

 

 アイリスの攻撃に、いつの間にか片手の無いミツルギがフォローする形で冬将軍との闘いは成り立っている。ただ即席のコンビネーションという事もあるのか、彼女たちの連携に生まれる小さな隙を冬将軍が的確についてダメージを与えている。

 

 加えて冬将軍側は外から雪精を呼び、負傷した部分を回復している。

 こちらもアクアが回復魔法を掛ければ良いのだが当然疲労や出血までが無くなる訳ではない。要するに時間が経過すればする程、人間側は強いモンスターに勝てる確率が減っていく。

 ――まずはこの状況を崩さなければならない。

 

「アクア。あいつの弱体化が出来るってエリス様から聞いたんだけど」

 

「私が? そんなチートみたいな事を……?」

 

「おい、しっかりしてくれ。そんなチートみたいな事が出来る女神だろうが!」

 

「そうでした! 私、神じゃない! あんな精霊如き……出来るとは思うけど、回復妨害とか魔法防御力低下とかそんなのよ? それで魔剣の人とかアイリスが倒してくれるのを待つの?」

 

「いや、ここまで来て参戦しない訳ないだろ。魔王を倒した俺の真の力、今こそ見せてやる!」

 

「きゃー、カズマさん格好良い! 支援魔法はいるかしら?」

 

「全部下さい!」

 

 身体にアクアの支援魔法を受けながら、装備を確認する。

 事前に背中に隠していた装備、戦闘を想定して用意していたマナタイトは無事、ちゅんちゅん丸二世は先ほどの攻撃を受けた所為か、俺の身体ごと真っ二つになっておりナイフ並みの短さだ。

 とはいえ、近接戦闘の予定は無くなったので問題は無い。

 

「カズマ……!」

 

 今更ながら、チラリと此方を見たダクネスと目が合う。

 周囲のスプラッタな空間から目を背け、どこか空気となっていた彼女に頷く。

 

「ダクネス、お前いたのか。全然気が付かなかった」

 

「それはアレか!? 私の影が薄いという事か! ふざけるなよ、私はちゃんと働いている!」

 

 戦場でそんな悠長な会話をすれば当然周囲の人間も気づく。

 冬将軍はともかく、ミツルギ、そしてアイリスがチラリと此方に目を向ける。

 

「……!」

 

 冬将軍の放った横から縦への二連撃、それを小刻みのステップで回避。

 特に言葉を交わす事なく、しかし何か策がある事を信じるように俺に背を向け、剣を構える彼女たちの背中を見ながら、俺はアクアに指示を出すべく口を開く。

 

「アクアは、弱体化させたらアイリスとダクネス、あと魔剣の人にも支援魔法を!」

 

「支援魔法ならもう掛けたわよ」

 

「……! マジか!」

 

「私ってやれば出来る女神なのよ? だから、ちゃんとカズマも働いてよね」

 

「……まあ、チマチマとな」

 

 ひっ叩きたくなるドヤ顔を見せるアクア。

 彼女がヤれば出来る女神なのだったら、もっと早くヤるべきだったのか。そんな下種な思考に至る頭を振りながら、俺はダクネスやアイリスにも指示を行う。

 

「ダクネスはそのまま二人の盾に! アイリス! エルロードでやった必殺剣は出来るか!」

 

 床に転がっていた剣を拾うダクネスが頷く中、アイリスの反応はどこか鈍い。

 チラリと此方を見る青色の瞳は死者を見るように揺らぎ、小さな口は幾度となく開閉する。その隙をつき居合切りを繰り出す冬将軍の攻撃を咄嗟にミツルギが庇う。

 勇者らしい自己犠牲、しかしダクネス程の硬さは無い為に簡単に斬られる。

 

「ぐあああ!」

 

「『ハイネスヒール』!」

 

「す、すみません。ミツルギ様!」

 

「いえ、この程度の傷大した事はありません。アクア様も回復ありがとうございます」

 

 出来るようになった水の女神は空気を読み、回復魔法を即座にミツルギに放つ。

 戦線に生じた隙、それが生じた原因である彼女に再度問い掛けようとするが――、

 

「ぁ……で、出来ます! ただ、少し集中する時間が……いえ、必ずやります!」

 

「そ、そうか。分かった!」

 

 僅かに震え声、しかし俺に届けられるアイリスの声に頷くしかない。

 正直、アイリスが持ち得る剣技の中で王族に伝わるという技を二つ知っている。一つは『エクステリオン』という強力な斬撃。もう一つは『セイクリッド・エクスプロード』という爆裂魔法並みの超が付く程の斬撃である。

 少なくとも俺の目線からはいずれも強力な技、特に後者はドラゴンを一撃で屠った実績もあるのだが、流石に強力な技にはそれ相応の対価、或いは準備時間が必要なのだろう。

 

 スキルの詳しい詳細を聞いておくべきだったと後悔しても遅い。

 何よりもアイリス本人も多くの貴族を殺されてしまった事に内心では憤りや後悔、ショックを覚えているのだろう。恐らくそれが原因で戦闘に多少なり支障が出ているのだろうと判断し、脳内で構築しつつあった作戦の修正を行う。

 

「ねえ、カズマ。必殺剣ってあれよね? 前にあの金ピカなドラゴンを真っ二つにした技。……あんなのここでやったら城が崩れるんじゃないかしら」

 

「まあ、そうだよな」

 

「ねえ、カズマ。……敵を倒した後に借金地獄、みたいなパターンは嫌ですからね」

 

「俺も嫌だっつの。あとそのパターンってお前かめぐみんがやらかす奴だから……」

 

 アクアの疑問は最もだ。意外と冷静な彼女の意見に、周囲の壁に目を向ける。

 俺が斬り殺された時よりも、外の様子が見えるのは彼女たちの奮闘による成果だろう。元々大広間だったこの場所は廊下を挟み、城の外側に接している。

 以前アイリスが見せた技の威力を考慮しても、一部崩壊する可能性は高い。

 

 脳内で構築する作戦に修正、隣でアクアが弱体の準備の為、全身から神々しいオーラを出し始めているのを尻目に必死に頭を回しているとボロボロのスーツの袖を引っ張る感触。

 目を向けると、今までどこにいたのか、黒いメイド服を着た中性的な顔立ちをした美少女。

 

「さっきぶりですね、お頭」

 

「うん。何か思いついたでしょ?」

 

 もう既に思いついているだろう、と言わんばかりの言葉に苦笑する。

 少々重い信頼に肩を竦めながらも、クリスを見て思いついた作戦の決行を決意する。

 

「お頭、ワイヤー持ってますよね。特注の」

 

「うん。潜伏スキルで近寄ってバインド掛けるの?」

 

「大小なり隙は出来るので、あとはコンボを決めるようにして、魔剣の人やダクネスで繋いで、アイリスの高火力のスキルで決めます! アイリス、頼むぞ!」

 

「ねえ、それってもしかして他人任せ? キミは……?」

 

 残念ながら今回の冬将軍討伐パーティーにはめぐみんがいない。

 彼女が基本的に大物を吹き飛ばす役割を担うのだが、それが出来ない以上、最も可能性が高いのはアイリスの攻撃やミツルギの攻撃だ。次点で俺のスキルだろうか。

 

「俺たちは囮をします。あと、それ以上何か言うなら次はパンツとブラを剥ぎ公衆の面前で一枚一枚服を脱がせていきますから。……おい、アクア。お前は弱体化に成功したあと、俺が隙を作れなかったら皆で撤退するように言ってくれ」

 

「あんた、流石に連続の蘇生は魂に響くから、本当に危なくなったら逃げなさいよ。冬将軍に察知でもされたら今度は小間切れにされて復活するどころか指一本に至るまで暴風に吹き飛ばされて何も残らないなんてなるからね」

 

 ミンチになるのは勘弁だ。

 仮に失敗しても、次は痛くない死に方であって欲しい物だ。 

 

「大丈夫だって。俺をいったい誰だと思ってる」

 

「誰って鬼畜のロリニートでしょ。諦めが早くて童貞卒業して調子に乗っている事も」

 

「あとは何だ? 引きこもりで三股していて働こうとしない?」

 

「無駄に小器用で、陰湿で、イケメンじゃないし、私たちの下着で遊んでるし」

 

「ほっとけ」

 

「――でも、私を大事にしてくれた」

 

「――――」

 

 ふと、声の調子が変わり、俺を小馬鹿にする女神の声音に色が付く。

 性格が残念、運が悪い、空気が読めない、そんな欠点だらけな彼女を帳消しにするような、その声を色で例えるならどこまでも深い海のような、包み込むような青色。

 

 目の前にいる男がどれだけ駄目な存在か理解してなお消えない、柔らかな愛情が垣間見えて。

 思わず別人と錯覚するほどに、柔和な笑みを見せる女神が、俺には本当に慈母に見えた。

 

「――カズマなら、なんだかんだで最後にはなんとかしてくれるって知ってるから。首チョンパと惨殺された借りぐらいはさっさと返してきなさいな」

 

 

 

 +

 

 

 

 他人任せではない、相手を信頼しているからこそ為せる作戦を全員に伝えた。

 俺にあの冬将軍をどうにか出来るスキルなど持ってはいない。魔法抵抗力を下げたところでウィズに教えて貰った上位魔法でどうにか出来るなら城にいる魔法使いで余裕で倒せるだろう。

 最も火力があるであろうアイリスか、ミツルギの剣に全ては掛かっている。

 

 踊るように剣を縦横無尽に振り、斬撃の応酬を繰り広げている化物の巣窟に向かうのは骨が折れる。折れるが、拾った命なのだ。仮に失敗しても戦力外が消えるだけで撤退する事も現状の戦力なら可能ではないか。

 第一、こういう姑息な真似をさせたら誰にも負ける気がしない。

 

 クリスと一緒にテーブルクロスを被って移動する。

 間抜けな姿だが、これでも十分に潜伏スキルは発揮されるらしい。そろりそろりと移動すると、アクアが床に膝を下ろし天に祈りを捧げるように目を閉じて両手を合わせる。

 やがて彼女の身体から青白い光が周囲へと放たれ始める。

 

「この世にある我が眷属よ。水の女神、アクアが命ず…………!」

 

 俺は一度だけ彼女による弱体化の詠唱を見た事がある。 

 こういう時に限って見た目に沿った女神然とした態度を見せるのだ。

 

「荒ぶる者に鎮魂を」

 

 静かに、端的に紡がれたアクアの言葉。

 それだけで、周囲の空間には光と清涼感が漂い、血と死臭が浄化されるのを感じる。

 

 これでもう引き返す事は出来ない。

 死か勝利か、リハーサル無しの本番に時間は掛けられない。

 

 エリスの言葉通り、これで冬将軍の回復が遅延する事になっても人類側の消耗が減る訳ではない。回復魔法があっても疲労は蓄積され、アイリスやダクネス、ミツルギであってもいずれ限界は到達するのは目に見えている。

 加えて騎士団は王城にいる住民の避難、そして大半は既に屍となっており援軍は厳しい。

 

 故に、短期決戦。

 敵の撃破には一撃必殺が必要とされ、一瞬のミスも狂いも許されない。

 

「――――」

 

 潜伏スキルを併用、同時にクリスと共に手を冬将軍へ。

 チラリ、とアクアに目を向けると潜伏スキルを使用しているにも関わらず目が合うのが分かった。清涼な水を連想させる彼女の瞳は一切の不安は感じられず、安堵と信頼に包まれている。

 一仕事終えたからか緩み切っているあの顔にもう少し緊張感を持てと、そう言いたい。

 

「『バインド』!!」

 

「『ワイヤートルネード』!!」

 

 青い光が冬将軍を通過、同時に俺とクリスによるバインドとその上位版バインド。

 マナタイトを使用し互いの手から蛇のようにくねり冬将軍へと届くのは、白狼の上位互換であるフェンリルを容易く捕らえた実績のある特注のワイヤーだ。

 そのうちの一本は斬り伏せられるも、流石にアイリスとミツルギの攻撃を無視出来なかったのか、運良くワイヤーが絡みつく。それで僅かながら数秒程度動きを止められるだろうか。

 

『――――ッ!』

 

 僅かにこじ開けた隙、それに冬将軍は初めて明確な反応を示した。

 ワイヤーなど存在しないかのように冬将軍が握る刀が白く発光する。大技なのだろうか、作戦を破壊しかねない一閃が横薙ぎに振るわれようとしていた時、王国の懐刀が意地を見せる。

 

「『デコイ』!!」

 

 迫り来る斬撃、確殺の一撃はこの世で最硬の女に向けられる。

 白刀は生き物のように僅かにくねり、彼女が持つ剣ごとダクネスの胴体を斬り裂く。

 

「構うな!」

 

 飛び散る鮮血、遂にダクネスの身体に傷がつく。

 ボロボロのドレスは豪風でほぼ布切れと化し、胴体真っ二つとはならずもダメージを受けて倒れるダクネス。彼女が生み出したより大きな隙にミツルギが叫ぶ。

 

「『ルーン・オブ・セイバー』!!」

 

 脚を踏みしめ一撃を放った直後の冬将軍へ振り下ろす斬撃。

 光の軌跡を見せ、決意の表情と共に振るわれた魔剣は持ち主の意志、或いはそれ以上の期待に応える。白く輝く刀身は咄嗟に上げただろう冬将軍の左腕を肘から斬り飛ばす。

 

 血が噴き出る事はなく、雪のような白い輝きを切断面から溢しながらも冬将軍は決して怯むことも止まる事もない。痛覚など無いと言わんばかりに己の腕を奪った不届き者に返す刃で一直線に斬り裂こうと動いて。

 それ以上の脅威に気付いたのか、刀の軌道が変わる。

 

 俺とクリス、ダクネス、ミツルギで生み出した勝利への道筋。

 事前の練習などなく熟練の冒険者たちだからこそ出来た技の数々が、王女へと繋がれる。

 

 床に倒れ込むミツルギ。その背後から広間の床を蹴り飛ばす王女。

 突き出した宝剣、その剣尖には黄金の光束が幾筋も迸り、膨大な魔力が噴き出す。

 

「――『セイクリッド・エクスプロード』!!!」

 

 光の収束した剣、地を這うように前傾姿勢で猛突するアイリス。

 その一撃を脅威と見て、咄嗟の迎撃が間に合わないと判断したのか、冬将軍は白い刀身を前に置き、身体の前面をガードする。

 点の攻撃は防御がしにくい物だが、冬将軍の技量なれば当然あの細い刀でも対応出来るのか。

 

「セアッ!」

 

 短い叫びと共にアイリスが右手の剣を解き放つ。

 冬将軍が前面に置いた刀、その刀身を一瞬だけ掠めて火花を散らした宝剣は、人間で言うところの心臓、胸の位置へと突き刺さった。

 青色の瞳を見開いた王女の一撃は、鎧の一部を砕き、同時に莫大な光が周囲を照らす。

 

「……やったか!?」

 

「その台詞はやめろ!」

 

 光と衝撃が顔を叩く中、聞こえた言葉に思わず怒鳴る。

 馬鹿な言葉を言ったのは誰だろうか。生きていたらどうする。

 文句を言いたくなるのを抑えながら、アイリスの一撃でボロボロになり崩壊寸前の床を駆け抜ける。振っていた豪雪も少しは止んできたのか周囲の様子は良く見える。

 

 冬将軍は死んではいなかった。

 至近距離であれだけの一撃を食らってなお滅ぶ事はなく、腹から下が消し飛び左腕を失いながらも握った刀は手放さない。冬将軍は城の外に吹き飛び城の庭へと落下していく。

 つまり、まだ生きているのを確認した俺はそのまま広間から外へと飛び出す。

 

『――――』

 

「――――」

 

 敵が地面に落下するまでの僅かな時間。

 仮にこのまま見逃しても弱体化が掛かっている以上なんとかなりそうだったが、冬将軍に敵前逃亡の意志は無いらしい。

 総面の口から冷気を吐き出すと片手の剣を背後に振るい、その風圧で此方に迫り来る。

 

 何がなんでも決着をつけるつもりらしい。

 最悪の状況だった。必殺の一撃を放ったアイリスはめぐみんのように地面に倒れる事はないが、それでもすぐに継続戦闘が出来るかと言ったら不明だ。

 ミツルギもダクネスもアクアに回復して貰っても疲弊し敵を倒す事は厳しい。

 

 普段ならば、こういう時の決めてくれる火力担当がいるのだが。

 

「――――」

 

 そういえば、あれから一度も使った事が無かったスキルがあった。

 魔王を討伐する決定打となりながらそれ以降一度も使う事の無かった強力な魔法。

 彼女と共に散歩に出る度に何度も見た、人類最強の必殺魔法。その詠唱も癖も仕草も、魔力の流れも、何度も何度も見たからこそ習得出来た最も高度で複雑な魔法。

 あれだけのダメージなら、この場所なら、全てのマナタイトと魔力の全てを使えば。

 

『――――』

 

 上半身だけとなった冬将軍と目が合うのを感じた。

 俺の掌に宿る爆裂魔法の光、それを脅威と見たのか、先に俺を殺そうと刃を振るう。

 

 振るわれる白刀、そこから当たり前のように迫り来る斬撃に、ふと思う。

 なんでこんな事しているのだろうか、と。こういう事はヒーローになりたい奴がやれば良いと思う。今更、こんな正面から敵を倒すような、正攻法な真似をするのか、と。

 

 本当に今更だ。今更過ぎてこんな事を思いつけなかった。

 こんな俺TUEEEみたいな。俺があんな強大な敵を滅ぼそうなんて。

 

 魔王を倒したって、数多の敵を滅ぼしたって、俺はこういう事をしたい訳じゃない。

 こういうのは勇者願望や無双がしたい連中に任せて、ゴロゴロして昼まで眠って美少女とエロい事をして、俺を巡って争う姿とか見て、そんな退廃的な一生をニートとして送りたいな、と。

 

 そんな感傷は置いておき、冬将軍だけはここで倒す。

 なによりも、あいつらは俺がなんとかしてくれると信頼してくれるなら。

 

 その信頼だけには応えたい。

 

 

「『エクスプロージョン』――ッッ!!」

 

 

 ――斬撃が首に届くよりも先に、俺は魔法を解き放った。

 

 

 

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