――ブーツ裏に独特の感触が伝わる。
ざくり、と雪を踏み固めて僅かに積もった街道を進む。王都の街はアクセルほど詳しくはないが、それでも手を引かれて進むと目的地に問題なく辿り着く事が出来た。
運が良いのか、曇天ながらも雪は降ってはいない。
冬将軍との闘いの後、冬の精霊もアクアの鎮魂の儀を受けて収まったのか、豪雪が吹き荒れて住人の誰もが家に引き籠るといった事は無くなった。
とはいえ、本来ならば大雪が降らなくなった程度で外に出るつもりなどは無かったが。
俺の隣で楽しそうに声を弾ませるのはこの国の王女、アイリスだ。
暖かそうなフード付きのコートに身体を包み、周囲に身分を隠しながら俺と共にこうして白色に染まった城下町を徒歩で歩いていく。
周囲の木々も、足元の石畳も、店や住宅街の屋根も雪で白く覆われている。
つららが屋根から滴を垂らし隣を歩く彼女より少し年下らしい子供が雪遊びをしている。
「加わらなくて大丈夫か?」
「私は子供じゃないのでそういう事はもうしません! もうすぐ大人なのですから」
「いや別に遊んでも良いんじゃないか? ほら、混ざって来いよ。見ててやるから」
「……さっきから私を馬鹿にしてますか? あんな子供どころかカズマ様と雪合戦しても私は余裕で勝てますよ? ボコボコですよ。王族は凄いんですよ」
「おっと? 昨日城の広場で雪合戦して窓を割った人が何か言ってますね」
「あれはカズマ様がスキルを使ったから! ズルイ、ズルいです!」
「はあ? なんでもありって言ったから使ったんですけど! アイリスさぁ……なんでもって言ったら文字通りなんでも使うのが普通だ。相手に力で叶わないなら冴えた頭脳で勝つしかないだろ。今回の場合遊びに夢中になって窓ガラスを割ったアイリスの完全敗北だから。……大人を自称する癖に負けを認めないなんてとんだお子様ですね」
「ッ! お兄様! でしたらもう一回です! 雪合戦をもう一回しましょう!」
「いや昨日の事は昨日で水に流さないとな。いつまでも引きずるなよ」
「勝ち逃げは許しませんよ!」
自称大人な少女と共に向かうのは城下町の東側。
修復中の城を背中に俺とアイリスはある場所へと向かう。
雪が端に寄せられた大通り、俺の手を掴んで離さない彼女と共に見知らぬ広間に出る。
そこには小規模ながら露店と簡単な闘技場のような物があった。
ちょっとしたお祭り、話を聞く限り雪が解けて春が来る事をお祈りするような、そんな催しらしい。以前俺がアクセルで体験したエリス祭りやアクア祭りとは違い小さな区画程度での祭り、しかし円状の闘技場、その中にいる何かを見て興奮に叫んでいる人はそれなりにいた。
「王都だとそこそこ有名なお祭りなのですよ。ここの近くのお店で食べたピザが忘れられなくて」
「まあ、それは聞いたんだけど。……一応、俺もピザぐらいなら作れるけど?」
「それは凄いですね! そんなカズマ様と一緒に食べたいのです」
「――――」
誰よりも映える金髪をフードに包み、その奥から覗かせる青色の瞳。
油断するとどこまでも覗き込まれそうな大空を思わせる彼女の眼差しはどこまでも真っ直ぐに前へと向けられている。
フードから微かに覗く彼女の横顔から目を逸らし、火照る頬を冬空に冷やしながら口を開く。
ポンチョにフード、そんなお揃いな感じの装備で俺はアイリスに連れられる。
街の外に向かう訳でもないのに宝剣を携える彼女は俺の手を決して離そうとはしない。時折、チラリと俺に視線を向け、初々しい恋人のように信頼を寄せた瞳で俺を見る。
そんな彼女の眼差しに何となく気まずくなり目を逸らすと、クスクスと王女は笑う。
その姿が年下の少女とは思えない妖艶さを醸し出す。
ふと高鳴りを覚える鼓動、恋人握りを続ける手はアイリスのポケットに仕舞われる。
「カズマ様はあったかいですね」
「そ、そうか?」
「とってもあったかいです」
世間知らずの王女とは言え、以前よりも急速にスキンシップが増えたように感じる。
ふとした時にアイリスは俺に抱き着いたり、手を握ったり、湯たんぽを求める猫のように彼女は俺を求めてくる。そんな風に随分と積極的な態度を見せてくるようになったのだ。
宝剣もそうだ。戦う訳でもないのに俺とどこかに行く時には良く持つようになった。
王都は決して治安が良い訳では無いから。
一度、それを問い掛けるもアイリスの答えはそれの一点張りだった。
とはいえ、あまり気にする事ではない。他の個性豊かな人に比べたら些細な事なのだから。
「それでアレは何をしているんだ?」
「要するに賭け事ですね。雪ダルマを戦わせ、勝つ。それだけです」
「うん? 雪ダルマは戦わないだろ」
「え? 戦いますよ」
そう言ってアイリスが指を差すのは観客の隙間から見える雪ダルマ。
パッと見た感じ、別に騒ぐ事の程ではないが、よくよく見ると何かがおかしかった。下の胴体部分は間違いなく雪を円形に丸めた物だ。
ただ胴体の上にあるオレンジ色と緑色で着色されたような物には見覚えがあって――、
「……カボチャ?」
どう見てもカボチャだった。
黒くて厚い皮に包まれた存在感、ハロウィンのように刺々しい目と口を歪めたカボチャは雪の塊を胴体にしているかのように自在に動かして、もう一つの同じような存在に突撃をする。
その度に周囲はどこか楽し気な声を上げ、雪を溶かすような熱気と盛り上がりを見せる。
「何あれ」
「雪ダルマですよ? 毎年、農家の方が厳選し育てられたカボチャを雪に寄生させて競わせるんです。そして勝った農家の方はその名を広め、最後に生き残った物を皆で美味しく頂くという……」
「はい出た、異世界クオリティ」
キャベツは空を飛び、猫は火を吐く。ここはそんな異世界だ。
この世界の野菜はどうしてこんなにも威勢が良いのだろうか。俺は普通に食べたいのだ。
とはいえ、思った以上に盛り上がりを見せる催し。
異世界人と現地人の温度差はともかく、カボチャの種を吹き出し、雪玉から手足を生やし相手を殴る姿はただのモンスターにしか見えない。これの何が楽しいのか。
どちらが勝つかを勝手に賭けているらしい周囲の声はヤジや怒声と騒がしい。
王女の教育的にこの場所は如何な物かと思うが、当の本人はどこか楽しそうだ。
周囲の空気も含めて普段は見ないだろう光景に宝石のような瞳を煌めかせている。
…………。
「おっと、手が」
「ん!?」
往来の場で背後からアイリスに抱き着く。
周囲の喧騒で彼女の戸惑いの声は揉み消され、俺は背後から王女の身体に触れる。
「ちょ、ちょっと……」
「いや後ろから押されちゃって」
「そんなに人はいないと思うのですが……」
「おっと、ここで騒がれると周囲に正体がバレるんじゃないですかね」
「い、今、脅しましたか……ッ」
アイリスも日々成長している。それは戦闘技術や精神だけではなく当然肉体もだ。
しかし、それでも俺の背丈を追い抜く程ではなく、背後から抱き着くとちょうど鎖骨付近に頭が収まる。サラサラとした金髪の髪から仄かに香る少女の匂いに鼻を埋めたくなる衝動に駆られる。
周囲は雪ダルマの観戦に忙しく、今のところは気づいていない。
そんな中で、俺の手がそっとスカートの裾から中へと侵入し、王女の秘部へ伸びる。
「っ!」
指の腹でツヤツヤとした下着の感触を味わいながら、俺はアイリスを見下ろす。
下を向こうとする王女の顎を簡易闘技場に向け、俺が悪戯をする度に下唇を噛む姿を見せる。
「まったく、こんな短いスカート履きやがって……校則違反じゃないか」
「こ、これぐらい普通です。あと校則とは……?」
「ほら、静かに。パンツ検査だ」
この世界は紅魔の里と有志の寺子屋のような物しか学校は存在しない。
当然異世界用語の為、アイリスは小首を傾げるが、その余裕めいた姿に俺は無言のまま、しかし全力でスカートの裾をたくし上げる。
躊躇いなど無用、紺色のスカートは俺の手によって容易く巻き上げられる。
「ゃっ」
無意識に漏らしたであろう声にアイリス自身が驚いたようだった。
ふわりと巻き上がるスカート、黒いハイニーソと僅かに露わとなった水色の下着に目を細めるも、王女の手が凄まじい勢いでスカートを下げ、唇をきゅっと噛み締める。
僅か一秒にも満たない時間、スカートの裾を掴むアイリスは此方を涙目で睨みつける。
反応的に、もう少し悪戯しても大丈夫だろう。
「はっ、んん……」
彼女が着ているポンチョ、衣服を捲り双丘を包むブラを片手でずらす。
もう片方の手はショーツとニーソの間のつやつやとした感触の太腿を撫でる。
結んだ唇から出る筈だった呼気は王女の鼻腔から漏れる。
背後から恥部を指で刺激され、アイリスは暴力や逃げる手段を取る事もなく背中を丸めるようにして快楽に耐えた。
徐々に下着の湿る感触を指に感じる中、彼女の臀部に怒張を押し付ける。
調子に乗っているのは自覚するが、しかし止められない。
彼女自身が甘い麻薬、それを摂取する為に仕方の無い行為なのだ。
周囲が良く分からない物に歓声を上げる中、俺は彼女の横顔を見る。
どこか大人びて見えた王女の顔は快楽に耽る年相応な少女をしていた。湿る秘部を指で撫で、触れる度にピクリと身体を震わせる太腿は少女特有の柔らかさが掌に返す。
既に反り立つ怒張を尻肉に擦り付ける度に、アイリスは微かに睫毛を伏せた。
「おっ、アイリス。どうした? 見ないのか?」
「……い、いえ。何も」
「そうかー」
王女を抱き締め可愛がりながら、俺はふと近くにいた観戦者に話し掛ける。
身なりは冒険者ではない為、恐らくは王都に住む住人かこの催しに参加している農家か。我ながら大胆な事をしている自覚はあるも、他人である男と適当な会話を試みる。
「この勝負、どっちが勝つと思いますかね」
「そうだね。セオリーとしてはより熟している方が勝つから右のスノーマンかな」
「なるほど」
「お兄さん、この催しは初めてかね?」
「そうなんですよ。義妹と一緒にアクセルから来ていまして」
「んっ……ッ」
恥丘をなぞる手をきゅっと生腿が挟み込む。
その程度で指が止まる事は無く、生暖かい薄布を指で丹念にこすり続けるとアイリスは熱っぽい吐息を漏らす。
暖を取るように肌触りの良い生乳を円を描くように揉むと、スカートの裾を掴んでいた手で俺の腕を掴んで愛撫を止めさせようと形だけの抵抗を試みる。
「そもそもスノーマンとは? 雪ダルマとは違うんですか」
「どっちも同じ意味だよ。ただ殴るか殴らないか程度の違いだね」
「そうなんですね」
丹念に秘部を揉みしだいていると、フードから覗く王女の蕩けた顔が目に入る。
既に抵抗など忘れて、俺から与えられる快楽に縋ってよがる事しか出来ない。無意識なのか、むにゅりと柔らかな尻肉が剛直に押し付けられ、艶めかしく揺れる。
「んぁ」
衣服に包まれたアイリスの身体はまろやかで温かい。
その少女の体温を腕に感じながら、寒さに敏感となったのか硬さを帯びた乳首を摘まむと、俺の指に合わせ腰をくねらせる。
頬に差す朱は色濃く、胸の膨らみが俺の手の中で揺れ動く。
「ぁ、……っぁ……」
「ところで、お連れの方は大丈夫ですか?」
「え? ああ、少し恥ずかしがり屋なんです。……な?」
「……はい、だいじょうぶ、ですから」
俺は口内が乾くほどの興奮を覚えていた。
くち、くちゅ、と俺にしか聞こえないほどの水音、腿を伝う僅かな蜜液を指で掬いながら、何でもないような顔でアイリスの秘部を指で弄る。
腰を引いた王女を抱き、ショーツを片手でずらす手が止められない。
「んぁ……、ぁぁ……ッ」
耐えられないのか、鉤状にした指を口に含むアイリス。
汗ばんだ乳房を揉まれ、指で肉粒を擦られる度に少女の白く滑らかな肌に淫らな熱が帯びる。チラリと俺を見る瞳には淫熱と快楽に蝕まれ、その視線に脳が狂わされる。
「あっ……」
後ろから強く王女を抱き締めると、仄かな熱気と微かな甘み。
ホカホカ、出来上がったアイリスはそれでも懸命に周囲を気にしているが、執拗に彼女の恥部を指で弄り、反り立つ勃起を押し付けると息を呑む。
「んぅぅっ!」
ジッパーを下ろした俺が取り出した怒張、それをスカートの中へ。
湿ったショーツをずらし、蜜裂に宛がうと一息に挿入した。
「あ! くぅ……っ!!」
甘い喘ぎを必死に隠す。
尻肉を叩くように真下から突き上げられたアイリスがのけ反る。
フードから僅かに金髪が零れる中、脚を広げさせて腰を揺する。
ぱちゅ、ぱちゅ、と水音と共に奥へと竿を飲み込ませ、抽送を繰り返す。
「ぁ、ぁ、ぁっ……」
腹部に手を回し小刻みに腰を揺する。
ピストンというよりも奥に振動を与えるように亀頭で擦る。
「ひゃめ……、も、もう……」
運が良いのか、往来の場でこんな事をしていても王女の痴態に気付くのは数人程度か。
フードをしていて正解だったか、そもそもこんなところにアイリスがいる訳ないと思うのか。この国の王女が犯される様をチラ見する男たちは、しかし見るだけに留め、無言で目を細める。
そんな彼らの騒ぎ立てない姿に敬意を表して、僅かにスカートを捲る。
ニーソに包まれた脚、男を咥え込んだ結合部から地面に蜜液が垂れ落ちる様を数秒見せる。
「イリス。こんなところでイクのか? 他の人が見てるぞ?」
そして、俺の言葉に漸く自分の状況を理解する王女はかあああっと顔を赤くする。
衆人環境であるからかフードで顔を必死に隠して、同時に媚肉が剛直を締め付ける。
「カ、カズマ様……せめて、人のいないところで……」
「うるせぇ! 孕め! オラッ、イケ!」
「やだ、やだ、やら……ッ」
喜悦と自己嫌悪と羞恥を混ぜ合わせた表情。
乱暴に乳房を揉みしだき、彼女の媚肉を肉竿で感じるべく腰を振る。
パンパンと肉を叩くように野蛮なピストンを繰り返すと、簡単に王女は法悦の空に昇った。
「……うっ!」
「~~~~~ッッッ!!!」
俺の腕を掴むアイリスは全身を震わせ、声の無い悲鳴を上げる。
腕の中でびくっ、びくっと震える少女の奥へと濃厚なスープを注ぎ込む。
蠕動する蜜肉は俺の精子を一滴残らずねだり、まるで生き物のように勝手に動く中、脚を震わせるアイリスの身体を抱いて射精の余韻に浸る。
ポタポタ、と氷の溶け掛けの石畳に白濁と愛液の混ざり物が落ちた。
+
「もう、あの場所には行けません」
「悪かったよ。調子に乗り過ぎたから」
「最低です。カズマ様は最低……」
「悪かったって」
涙目の王女とピザを食べる。
最初の目的はこのピザを食べる事だったのだ。チーズが蕩け、程良く乗った肉、酸味のあるトマトは僅かに冷めてはいるものの、なるほどアイリスが連れてくるのも分かる出来栄えだ。
「来年になったら忘れてるだろ」
「…………」
「……ほら、もう一切れやるから」
「それはカズマ様が食べて下さい。そして、カズマ様がピザを私に作って下さい」
「まあ、それぐらいなら余裕よ」
料理スキルで解析する事で大まかな味についてに理解は容易い。元々料理人しか持たないようなスキル、それを戦いを生業とする冒険者が持っている方が少ない。
それはともかく先ほどの悪戯で雪の上で土下座を披露するかと思ったが簡単に許された。
これが婚約者補正なのだろうか。或いはピザでお腹が膨れたからだろうか。
目的の店でピザを購入、そのまま逃げるように王城へと俺と王女は向かっていた。
冷めては美味しくないとご機嫌斜めなアイリスと食べながらゆっくりと元来た道を戻る。
面白い事に、此方を睨みながらも俺の腕を離そうとしない王女。
その姿に親しみと何とも言えない心地良さを覚えながらピザの生地を一枚手に取る。
「そういえば、こういうのをデートと言うのですね」
「おっ、そうだな」
「……カズマ様は楽しかったですか?」
「楽しかったぞ。アイリスと一緒に色々出来たし」
「……次に変な事を言ったら折ります」
「いや、今のは変な意味じゃないぞ。アイリスがムッツリだから変な想像をしたんだって」
「あっ! また、そういう事を言うんですか!」
ピザを食べて良く分からない物を見て、エッチな事をした。
二人だけの思い出を、二人だけの時間を過ごせたのならば、それはもうデートだろう。そんな俺の回答に、頬を緩ませるアイリスは嬉しそうな顔でピザを手に取る。
庶民の食べ物を普段は食べないからか、俺が見る限り何でも美味しそうに食べる王女は懐から手帳を取り出す。黒色の表紙のソレは中身を開くと、取り出したペンである文章に横線を引く。
「何してるんだ?」
「私が行いたい事が叶ったので、リストの一つを消したんです」
「リスト?」
彼女の手帳に目を向けると、箇条書きで様々な事が記載されている。
例えば、どこどこに行きたいとか、何々を食べたいなど、ちょっとした欲のような物が書かれている。その一つ『ピザを食べたい』に横線が引かれていた。
アイリスが何を手帳に書いているのか、その意図を理解して頭を振る。
「なんか映画で見た事ある奴だな」
「エイガですか?」
「まあ、演劇みたいなの。要するにアイリスがしたいなって思ったのが書かれてるんだろ」
「ええ、まあ。……そうですね。いつかしてみたいなって思った事を書いてます。でも、私は王族ですから、城下町はともかく、勝手に外を出歩くのは本来ならば駄目な事なので基本的には叶わない事を書いて満足しているんです……」
「いやアクセルには来たじゃん」
「そ、それは別です!」
その気になればどこにでも突撃しそうな王女に、以前のような人見知りは見られない。特に物怖じする事も無くキチンと言葉を告げるようになり性格的にもかなり明るくなったと思う。
そんな王女の悲し気な顔から眼を背けると彼女の白い手にふと視線を向ける。
差し出されたらキスの一つでもしたくなる少女の細い指は、一部分がやけに白い。
「あっ」
「どうした? まだ食べたりなかったか」
「違います! もう十分です! ……そうじゃなくて、その……、指輪なんですが壊れちゃって」
俺の視線に気づき眉を顰める王女は左手の指の付け根を撫でる。
幻想を見るように、かつてはそこにあったのだろう、指輪に王女は瞳を揺らす。
ちょうどあの日は俺が上げた指輪や、以前見た事のある指輪も着けていたという。大事にしていたからか、無くなった事を俺に告げるアイリスの瞳はどこか虚無のように昏く濁んでいる。
「あの戦いで指ごと消し飛んじゃって……」
「それは……」
「でも」
「うん?」
「でも、良いんです。こうしてカズマ様と一緒にいられるなら、それで」
「――――」
こういう健気な事を言う王女に手を出したんだな、と今更ながらに俺は思う。
笑みを浮かべるアイリスに腕を差し出すと、パッと顔を明るくして自分の胸に俺の腕を抱く。
勇者よりも強くて地形を変えるような一撃を放てる癖に、こうして俺の腕を抱くときはアイリスの力加減は絶妙だ。
壊れ物を扱うように、そんな風に俺の腕を抱くアイリスにも慣れ初めて。
ピザも食べきって、王城の正門が見えた頃。
距離はあるが、俺の千里眼スキルが馴染みのある人影を映す。
「誰かいますね」
「……うーん。アイリス、喫茶店に行かない?」
「駄目ですよ、カズマ様。ちゃんと会わないと」
ローブとトンガリ帽子、そしてマナタイトを含んだ杖を持った魔法使い。
強大な魔力を身に秘めたような性格なのか、黒髪の少女が門兵に突っ掛かっている。その少女には見覚えがあり、そこそこの荷物を手に持つ彼女は新聞を持っていた。
その新聞の一面に大きくどこかの王女と冒険者の事が載っているのが見えた。
見えて、しまった。