※この作品はR-18です。

最強の最弱職、王女に手を出す   作:毒蛇

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第四十七話 開けた扉の先で

 蜂蜜のような甘い香り、身体の上に圧し掛かる少女の柔肌を身体で感じる。

 射精の余韻に浸りながら、まったりと婚約者との触れ合いを堪能する。若さとは恐ろしい物だ。何だかんだで三回も行為に及んだのはアイリスとの身体の相性や淫靡な誘いによる物か。

 

「……アイリス」

 

「何ですか?」

 

 ふと瞼を開けると薄暗い部屋に王女と目が合う。

 眦を和らげて小さく笑みを浮かべる彼女の姿はどこか妖艶さを感じさせ、此方を見つめる青色の瞳は気を抜いたら吸い込まれそうな程に美しいと、そう思わせる。

 身じろぐ彼女の乳房がむにゅりと俺の胸板に圧し潰される光景につい視線が向かう。

 

「眠るからどいてくれ」

 

「私、重いですか?」

 

「いや? でも胸が圧迫されると寝づらいし」

 

 如何に体重が軽いからと言って、身体を圧迫されて寝るのは厳しい。

 脚を絡め、成長著しい双丘を押し付けて、柔肉と彼女からの求愛を全身で感じ取りながらも、しかしこのまま眠るかというと現実的に少し苦しい。

 そんな事を告げると、途端に半眼を見せる彼女は僅かに身体を起こす。

 

「……ふーん」

 

 長い金髪がふわりと揺れ、汗と彼女の体臭が混ざった香りが鼻腔を擽る中で、彼女の白い細腕が俺の首をそっと撫でる。細い指のひんやりとした感触に脳裏を過るのは以前アイリスが俺の首を絞めようとした事だ。

 そっと撫でる彼女の細腕は、その気になれば俺の頚椎をへし折る事も可能だろう。

 

「――――」

 

 返答を誤ったのか、何か彼女の機嫌を損ねたのか。

 賢者タイムになった事で、少し雑な対応をした事が悪かったのだろうか。

 

 半眼で俺を見下ろすアイリスに思わず息を呑むが、その心配は杞憂だったのか首の感触を確かめるように柔らかい掌で撫でると王女は首から手を離す。

 僅かなくすぐったさと、正面から覗く瞳に何か暗い物を見せる彼女の姿に反応出来ずにいると、アイリスは肉布団と化していた己の身体を起こすと素直に俺の隣に寝転がる。

 

「カズマ様はデリカシーが無いですし、もし重いなんて言ったら怒ってましたよ?」

 

「アイリスはそんなに重くは無いぞ。というか変にダイエットとかしないでちゃんと食べろよ」

 

「ダイエットですか? そういった事は今までした事はありませんね」

 

 事後のスッキリとした感覚が抜け始めると同時に眠気が意識を覆い始める。

 ふあ、と欠伸をすると、同じように小さな口を開けて欠伸をする彼女は恥ずかしそうに口元を手で覆う。そのお淑やかさと可愛さに思わず苦笑すると、ジロリと俺を睨みつけるアイリス。

 

 むむむ、と睨み合いながら彼女の端正な顔をジックリと見ているとアイリスは何かを思い出したとばかりに枕の中に腕を突っ込む。

 典型的な隠し場所というべきか、彼女が枕の下から取り出したのは一冊の手帳とペンだ。

 

「眠る前に少しだけ……」

 

 記憶を刺激するソレは、少し前に見た事がある。 

 アイリスがしたい事を綴ったリストが書かれている手帳だった筈だ。横目で見る俺の視線を受けながら王女は手帳にびっしりと書かれていた文章のとある一文に線を引いた。

 文字を上書きするようにペンで引かれた横線、彼女の微笑を浮かべる横顔を見ると、したい事が叶ったと見るのが正解なのだろう。

 

「……何が叶ったんだ? 色んな体位に挑戦するとかか?」

 

「違います! そんなはしたない事じゃなくて、もっとずっと簡単な事です」

 

「新しいエロ本を見つけたとか?」

 

「どうしてカズマ様はそういう方向にもっていこうとするのですか!? 怒りますよ! 王族を怒らせるとそれはもう怖いんですよ!」

 

 小さく頬を膨らませる少女はムッツリスケベな王女様だ。

 普段はすまし顔の癖に、夜になると娼婦のようにエロい事に関して恥じらいを持ちながらも積極的だ。普段から隠し持っている日本産のエロ本の所為か知識に関して少し偏りのある彼女に揶揄い過ぎた事を謝ると、アイリスは手帳を見せてくる。

 

「……虫の排除?」

 

 彼女が先ほど線を引いた文章を呟く。

 言葉通りの意味だが、少し意味が分からない。薄暗闇が覗く室内の窓、そこからは微かにチラホラと雪が見える。この時期は虫どころかカエルすら地中に埋まっているだろうに。

 とはいえ、花が咲いたような満足気な笑みを見せるアイリスに疑問など吹き飛ぶ。

 ――彼女が楽しいのならば、水を差すような質問など野暮だろう。

 

「少し面倒でしたが、手間暇掛けてしっかりと退治出来ましたよ」

 

「それは良かったな。俺も虫は嫌いだからな」

 

「カズマ様もお嫌いなのですか?」

 

「俺はこう見えても綺麗好きだからな。部屋を汚したら黒いアイツと出会ったりするし何より不潔だからな。知っているかアイリス。出来る男の部屋は綺麗なんだぞ」

 

「カズマ様はニートなのにそういうところは気にされるんですね」

 

「おい、誰がそんな事を吹き込んだ。ダクネスか? クレアか?」

 

「でもそういう自由奔放なところも好きですよ」

 

「アクアだな。あと、急に好きとか言われると、ちょっと……」

 

 心の準備が出来ていない時に不意打ちで言わないで欲しい。

 行為の最中にも言われてはいたが、それでも彼女からの親愛の籠った言葉に思わず鼓動が高鳴る。信頼を青色の瞳に宿して俺に向ける彼女の微笑には、まだ慣れない。

 手帳を元の位置に仕舞って、アイリスは俺の身体に密着するようにして触れてくる。

 

「結婚したらカズマ様を養ってあげますね」

 

「いや……流石にそれは」

 

「嫌ですか?」

 

 年下の少女に貢がれる最弱職のニートという絵面は如何な物だろうか。

 別に俺自身は周囲の視線など気にする事は無いのだが、王女の結婚相手がそんなので良いのか。

 

 目の前の金色の王女と結婚すると、恐らくだが城には青髪のニートが追加されるだろう。

 白銀の少女は真面目だからメイドとして働きそうだが、あの女神はそんな事はしない筈だ。

 

 既に俺は働かなくても十分な資産を持ってはいる。

 しかし、今後の人生にあの女神がいるのなら、金はいくらあっても困らないだろう。趣味に近い商品開発をチマチマと続けているのはそういった理由もあるのだ。

 

「俺もそれなりには働くぞ? ……ほら、アクアの事とかも――」

 

 ふと、唇を塞がれる。

 アイリスの人差し指が俺の唇にそっと触れ、その感触に思わず閉口する。

 

 話を遮るかのようにアイリスに発言を止められた俺は彼女の行為の意味が分からず、目を白黒とさせる俺を前に王女は気に留めない。

 俺の背中に手を回す彼女は俺の唇に指で触れたまま、静かな口調で囁く。

 

「――もうこんな時間ですね。近所迷惑ですし、そろそろ眠りませんか?」

 

「……お、おう。そうだな」

 

「そういう話はまた今度にしましょうね」

 

 既に時刻は深夜を回っている。

 俺はともかく、アイリスはそろそろ眠った方が良いだろう。

 そんな事を考えると、途端に消えた筈の眠気が意識を深い闇へと沈み込ませる。

 

「おやすみなさい、カズマ様」

 

 瞼は重く、おやすみと言い返せたかは自信が無かった。

 

 

 

 +

 

 

 

 俺としてはそのまま昼まで寝るつもりだったのだが、婚約者とは言えども彼女がまだ未成年という扱いになる以上、今はまだ周囲の目や諸々の事もあるのだろう。

 早朝になる直前に勤勉な彼女に起こされると、重い瞼を開けて自室へと帰される。

 

 そのまま寝台に寝転がり、起きたのは昼頃だった。

 昼になり、食事の為に執事を呼ぼうと思っているとダクネスとクリスがやって来る。

 

 その恰好が気に入ったのか、或いはアイリスに雇われたというのは真実か、食事を乗せた御盆を持ってくる盗賊メイドと世間知らずのお嬢様という組み合わせだ。

 気が利く白銀の女神が持って来た湯気の立つ料理を受け取ろうと手を伸ばす。

 

「うむ、ご苦労であった。おや、お頭? スカート丈が少し長いのではないかね?」

 

「えっ? これくらい普通だと思うけどな」

 

「何言っているんだ? もう少し短かっただろう。俺が短くしてやるよ、オラッ来いよ!」

 

「助手君はまずベッドから出てきたら? ほら、こっちまでおいでってば」

 

「床は冷たいから……」

 

「――カズマ。ちょっと話があるんだが」

 

 アイリスが俺の婚約者となってから随分と大人しくなったダクネスは、セクハラの匂いを察知したのか、騎士然とした表情で俺とクリスの間に入る。

 いったい、急にどうしたのかと彼女の目を見るとみるみるうちに頬を赤く染める彼女。

 

「ん……、そんな情欲に塗れた目で私を見るなぁ」

 

「うん。ダクネスは平常運転だな」

 

「ねえ、キミと関わってからダクネスがどんどんおかしくなってくんだけど!」

 

 女神は決して万能な種族ではない。

 残念ながら、隣の大貴族の娘の性癖が既に取り返しがつかない、その事実を散々目の当たりにしても認める事が出来ずに人の所為にする女神は少し残念なエロい種族なのだ。

 なお、クリスの正体がエリスである事は今でもダクネスには知られてはいない。

 

「……で、どうしたよダクネス。急に改まって。あっ、二人は昼飯は食べたのか?」

 

「うん、食べたけど。美味しかったよ。あたしのお勧めはシチューかな」

 

 お盆の上に広がる食事は質素ながら美味しそうだった。

 城のシェフが作ったのだろう、野菜たっぷりのホワイトシチュー、白身魚のフライとサラダ、パンと香ばしいそれらを目の前にする俺にダクネスが話し掛けてくる。

 

「それよりも、めぐみんの事だ」

 

「めぐみん?」

 

 早速とシチューのゴロゴロとしたジャガイモや肉団子を頬張りながらダクネスを見る。

 せっかくなのでメイドの恰好をしているクリスに食べさせて貰うという案を思いついたが、ダクネスの様子が少し気になり口に出すのは控えた。

 武装はしておらず、普段の屋敷で見る服装の令嬢は僅かに眉を顰めている。

 

「ああ……、実は先ほど同じように昼ごはんの誘いをしたのだが部屋から出てこなくてな」

 

「はあ」

 

「朝からずっとだ。以前のようなニート状態にでもなってしまったのか……」

 

 何か知らないかと青色の瞳が俺を射貫く。

 その真剣な眼差しに、魚の揚げ物を口にしながら頭を回す。

 

「いや、知らないな。……ほら、アレだ、女の子の日なんだろう」

 

「最低か貴様は! というか私が喋っているのに何をモゴモゴとしているのだ!」

 

「おい、やめろ! シチューがこぼれるだろうが!! ……つっても本当に知らないぞ。知らない間に爆裂魔法を撃ちに行っていなかったとかじゃないのか? もしくは具合が悪いとか」

 

「いや、ノックをしたが反応はあった。それはクリスも確認した」

 

「うん。そうだね」

 

 ダクネスの言葉に頷くクリス。

 仮に部屋にいるにしても、食事を取りたくないという時もあるのだろう。

 少し過保護に感じる騎士を前に欠伸をする俺はパンをスープに浸しながら口を開く。

 

「放っておけよ。腹が減ったら勝手に出てくるだろ。めぐみんにだってそういう時ぐらいはあるだろ。元々病気みたいなもんなんだし。……というか、本当にどうしたんだ?」

 

「その……。ほら、前にアイリス様とめぐみんが衝突しただろ?」

 

「ああ」

 

「だから、その……落ち込んでいるんじゃないかと思ってな。心配だ」

 

「――――」

 

 目を伏せるダクネスは、膝に置いた手をぎゅっと握り締める。

 貴族としての責任感が強い彼女の事だ、仲間であるめぐみんの様子が気になるのだろう。確かにアイリスと二度も衝突して殴り合いに発展する程にまで事態は深刻な物になっている。

 何か思うところがあるのだろう、そんな彼女を前に、安易に気にするなとは言えない。

 

 …………。

 

「しょうがねえなあ」

 

 

 

 +

 

 

 

 めぐみんに対して思うところがあるのは俺も同じだ。

 色々とあって、結局彼女に告げるのが遅れてしまったから、アイリスとめぐみんがあんなに険悪なムードになってしまったのかもしれない。

 仮にそうでなかったとしても、めぐみんが引きこもる原因の一つの可能性は高いだろう。

 

 昼を過ぎて夜になっても彼女が部屋から出てくる事は無かった。

 部屋の扉、その横に置かれた食事には手は付けられておらず、彼女が突発的に引き籠りになったのではないのかと少し不安な気持ちになる。

 

「……めぐみん。いるか?」

 

 ダクネスよりも先に、こうして彼女の部屋の前まで来たが打開策は無い。

 昼頃に令嬢が来た時には反応があったというが、扉をノックしても反応は無い。

 

「おいコラ、返事くらいしろよな……。めぐみーん!」

 

 今更ながらどの面下げて彼女に会いに来たというのだろうか。

 さっさと言うべき事を言えば良かったのか。後悔はしてもどうしようもないが。

 

「ダクネスも心配してたぞー。……さっさと出てこないとお前の身体のバーコードの位置がどこにあるか、城内の連中に知らしめてやるからな。ほら、五秒前――」

 

 紅魔族には身体のどこかにバーコードのような刺青がある。

 かつてゆんゆんに聞いた事があるのだが、その刺青や身体のどこにあるのかは紅魔族にとって、人に見られたら裸を見られるのと同等かそれ以上に物凄く恥ずかしいマークという認識らしい。

 だから、ここまで言えば短気な彼女が扉を叩き開けて殴りかかってくるとすら思ったが。

 

「――――」

 

 本当にいるのだろうか。

 寝ているのではないのか。

 

 時間が経過する程の引き籠っているめぐみんに対する不安が強くなる。

 流石に自分の恥部に等しい内容を嘘でも公開すると言って、それでも出てこないのは彼女の事を知っている身からすると有り得ない事だ。

 俺の告げた言葉が冗談でも部屋から出てくる、そういう認識だから告げた言葉だったのに。

 

「……入るぞ」

 

 開錠スキルも持ってはいたが、何故か扉の鍵は掛かっていなかった。

 灯りは無く暗い部屋、暗視スキルの補正によりカーテンの閉め切られた部屋の惨状が目に映る。

 

 部屋中至る所に物が散らばっている。

 余程の事があったのか、壊れた机が扉の前に転がっていた。

 

 衣服や下着や、日用品、それらが床に落ちていて、暴れまわったような惨状だ。

 めぐみんは決して潔癖という程ではないが、たまに訪れる彼女の部屋は決してこのような状況になった事は無かった。

 まるで魔力が暴発したような或いは強盗でも入ってきたような、そんな部屋に眉を顰める。

 

「いたっ……!」

 

 ふと足元に痛みを覚える。

 目を向けて、刃を剥きだしにしたナイフを踏んだ事に気付く。

 悪態を吐き己の脚に慌てて回復魔法を掛けると、怪我の原因となったナイフを見下ろす。

 

 何を考えてこんなところにナイフを床に置いておくのか。トラップのつもりか。

 思ったよりも出血したのか、随分と赤黒い色に染まっていたナイフを拾い上げ――、

 

「――ぁ?」

 

 入り口付近に乱雑に散らばったそれらから目を離して周囲を見渡す。 

 暗視スキルとて昼間のように全てが見える訳では無い。

 だから最初は灯りを求めて壁側や入り口付近に目を向けてゆっくりと移動していたところを、足元に転がっていたナイフを踏んでしまって、それから、それに気づいてしまった。

 

「――――」

 

 床に、脚が投げ出されているのが見えた。 

 だらりと力の抜けた脚、視線をゆっくりと上へと移動していく。

 

 見慣れた赤色のワンピースがあり、上半身があり、それから。

 

「めぐみん……?」

 

 ぴくりとも動かない少女が、床に倒れていた。

 

 ――首元を赤黒に染めた、めぐみんが倒れていた。

 

 

 

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