※この作品はR-18です。

最強の最弱職、王女に手を出す   作:毒蛇

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第五話 盗賊潜入

 アイリスと別れて数日が経過した。

 特にやる事のない俺は夕ご飯の買い出しのついでにと、街のメインストリートから外れた通りにあるこぢんまりとした魔道具店へと脚を向けた。 

 そこはビジネスパートナー的な悪魔とふわふわしたリッチーが経営している店だ。

 扉を開けた瞬間に鳴るベルの音、それよりも僅かに此方を見るのは仮面の男だ。

 

「へい、らっしゃい。勢いで一線を超えつつもパーティーメンバーの関係が壊れる事を恐れ周囲に隠蔽工作を図ろうとする小心者の男よ。本日は何用か」

 

「おいやめろ! ……やめてくださいマジで。今日はまあ、冷やかしというか何か良い商品があったら買おうかなって」

 

「なるほど。良き取引相手である小僧とは我輩も良好な関係を築いていたいという物。そういうと思い、既にここに用意しているとも」

 

 そう言いながら何がおかしいのか高笑いをするのは口元が開いた仮面をつけた男。

 男とはいうが、あくまで外見上の物であり、悪魔という存在には性別は無いらしい。

 元魔王軍幹部で『見通す悪魔』の異名を持つ地獄の公爵にして、正真正銘の大悪魔だ。

 

「フハハハハハハ! 可も不可もない説明に礼を言おう! それよりもお客様。こちらのポーションは如何かな? 飲めば瞬時に髪の毛を生やす事が出来る毛髪ポーションだ」

 

「……デメリットは?」

 

「一生分の毛髪を一瞬にして生やすので、その後髪の毛が増える事は無い。なにより毛の無い禿には効果は無い」

 

 ――どうでも良いが禿は回復魔法でも直せないらしい。

 

「いらない。それよりもウィズは? 接客なら胡散臭いお前よりも眼球疲労の取れるウィズの方がいいんだけど」

 

「貴様が見たいのは耳年増の首から下の一部分だけであろう? 貧乏店主ならば作業室の方で昼夜問わず商品の作成中だ。ノルマを課すことでその日の食事のグレードを変えるようにしたのでな。最低値は水のみとするとそれはもう必死で働いてくれる。それだけ必死に働けるのならばと余計な品物を買わせる暇を与えずあくせく働かせているわ」

 

「お、おう。飯ぐらいはちゃんとした物を食わせてやれよ……」

 

 知らない間に借金を増やしてでも高額の商品を仕入れようとする店主。

 かたや、その補填をするべく悪魔的所業と能力を生かして働く大悪魔。

 

 彼らがいったい何故こんな店を経営しているのか。

 悪魔とリッチーという不思議な関係に関して俺から言う事も首を突っ込む事もなく適当に商品に目を向けながら商品開発の為の素材を注文していくと、

 

「そうだな、爆発ポーションは三十個ほどと……。おっ、チンチン鳴る魔道具があるじゃんか! これって買えるようになったのか?」

 

「そんな訳なかろう。これは確か以前にも見せたと思うが、任意で鳴るタイミングを調整出来る魔道具だ。嘘が得意な貴様には必要だろう?」

 

「いや。高貴な俺には必要ないと思うが一応一つ買っておこうか」

 

「へいまいどあり。おっと忘れるところであった。大金を得つつも地道に我輩とのビジネスを続けている男よ。これまでの商品の購入と今後とも続く関係に感謝を表明しこれをやろう」

 

 そう言ってバニルがそっと渡して来たもの。

 それなりに高そうなオレンジ色の襟巻であった。

 

「これは?」

 

「巷で密かに人気の、当店の試作品の一つ、バニル襟巻試作一号だ。夜、首元に巻くだけで謎の悪魔パワーによる魔力向上、肩凝り疲労軽減、そしておなじみ月夜においては絶好調になる優れもの。その第一号だ」

 

「へー、まだ売り物じゃないのか」

 

「そうだとも。何しろ我輩の手編みである」

 

「……」

 

 悪魔直々のソレはどこかの駄女神の神器のようにフワリとした手触りだ。

 売り出せば、涼しくなってきたこの時期から春頃まで愛用者が増えるかもしれない。

 

 ……呪われそうだという考えはともかく。

 

 

 

 +

 

 

 

 コトコトと煮込まれる鍋を見下ろす。

 この屋敷の料理担当を自負しており、かつ料理スキルの上昇の為、ひいてはいつか料理店をやってみようという訪れるかどうかも分からない未来の為に俺は今日も腕を振るう。

 

 屋敷に住まう今は天上にいるであろう水の女神曰く俺は凝り性らしい。

 そこまで料理に思い入れも拘りもあるという訳ではないが、日本のご飯をその舌で知っている身からすればあの料理を再現したいというのに打ってつけな料理スキルを使用し自らの生活を潤したいという行動による結果でしかない。

 

 本日の料理はじっくり煮込んだシチューと家庭的なチョイスである。

 小皿に掬って味見して出来栄えに頷く。

 

「これなら本当に料理人として生きていけるんじゃないか?」

 

 料理スキルに関しては相当の熟練度に達している、筈だ。

 スキルは取得は出来ても熟練度を上げる為には自力での努力が必要だ。

 例えば片手剣というスキルは取得するだけでそれなりに剣を扱えるようになるが、達人のような技量を得る為にはしっかりと剣を使い続けなくてはならない。魔物と戦い研鑽を繰り返して冒険者カードの片手剣というスキルに不可視の熟練度が加算されていくのだろう。

 

 少なくとも俺の感覚としてはそういう物だと考えている。

 

 この世界がゲームチックなのは、俺が生前読んでいた異世界転生の、いわゆるお約束だ。スキルを取得し熟練度を上げて無双展開を繰り広げ女達にチヤホヤされて過ごすアレだ。

 もしも俺がアクアではなくまともな転生特典を選んでいたらそんな人生を送れただろう。

 

「クーリングオフって天界にはないのかね」

 

 女神が聞いたら掴み掛かりそうな事を思いながら鍋の中を掻き混ぜる。

 その鍋の中を見下ろし、完成した事を悟って、火を止める。

 

 夕ご飯までは時間がある。

 俺は自室に戻ると久方振りに愛剣の手入れを行う。

 以前の刀は魔王との闘いの末にダンジョンに瓦礫の下敷きか消し飛んでしまった。現在手入れを行っている二代目ちゅんちゅん丸は以前よりも()()()()が増した物だ。

 

 手入れを終えて窓から差す光が完全に無くなった頃。

 俺はリビングに戻って、虚しい事実を知った。

 

「あいつら今日帰ってこないんかい!」

 

 見逃してしまったメモにはダクネスとめぐみんのサインがあった。

 ダクネス曰く、王都に召集されている為数日はいない事。

 めぐみんはそろそろ引き籠りを脱却する為にゆんゆんの宿に泊まるとの事。

 

 心の内に侵食するのは空しさか。

 一人で食べる飯は、温かい筈だが少し不味く感じた。

 

「……」

 

 誰かがいない。否、誰もいないのだ。

 罵倒されれば悦ぶ女も、破壊する事に人生を捧げる女も。

 そして何かと余計な事を行いがちな腕だけは確かな女神も。

 

 特にする事もなく風呂に入り、サキュバスの店で夢の予約が切れた事に舌打ちをした俺が自室で眠ろうとすると敵感知スキルが窓の外にいる存在を俺に教えた。

 窓から家に入ろうという特徴的な知り合いはこの世界で一人だけだった。

 

「……もう、開けるの遅いよ」

 

「いや、玄関から入れよ。何なの? 盗賊は窓からしか家に入っちゃいけないルールでもあるのか? もしくはどこかの店で待ち合わせするとか色々あるだろ」

 

「その方が格好いいかなって」

 

「アホか」

 

「む」

 

 夜風が自室に吹き込み、思わず棘の入った言葉を口にすると銀髪の盗賊は僅かに眉を顰める。大きな青紫色の瞳を半眼にして俺を軽く睨む姿からは賞金首の一人だとは思えない。

 ショートの銀髪と首に巻いた薄青の襟巻が夜風になびく。

 武装はナイフ一本、ショートパンツという出で立ちは身軽さを重視したものだ。

 

「やあ、最近寒くなってきたねー」

 

「そうですね。ではおやすみ」

 

「いやちょっと待って。寝るの!? あたしが入ってきたのに寝るの!?」

 

「……」

 

「待って、本当に寝ようとしないで!」

 

「うるさいですよ、お頭。もう夜なんですよ、健全な人間は寝るのが当たり前ですよ」

 

「それは悪いと思うけど。でもキミは別に健全な人間って柄でもないでしょ」

 

「おっと? 真人間に進化したカズマさんに何て口をきいてるんですかねぇ」

 

 被せた布団を剥ぎ取ろうとする盗賊。

 大物賞金首、仮面盗賊団の団長を務めている女。クリスことお頭である。

 その正体は転生者たちが残していった転生特典の回収を行う女神の分身なのだ。

 

「というかお頭に会うのも久しぶりですね」

 

「そうだね。もう二、三か月ぐらい会ってなかったかもね」

 

「女神って大変なんですね。エリス様」

 

 そんな風に呟くと目の前の快活そうな雰囲気が、少し変わる。

 

「……そうなんですよ。本当に、本当に、……大変だったんですよ。カズマさん」

 

「カズマです。たまに会いに行ってたので知ってますよ。エリス様」

 

 切実にひたすらに肝をかじりつづけたような表情をするクリスに多少なりの同情を抱く。

 大変ですね、と。それだけだが。

 目の前の、否、本体の女神エリスは今も天界にいるのだろうが、どれだけ大変なのかを理解出来ないのでは他人事でしかない。テレビで災害現場を見ても大変だと漠然と思うような物だ。

 

「でも、最近は魔王討伐後の事務処理も終わりまして」

 

「おめでとうございます」

 

「あ、ありがとうございます。これもサトウカズマさんのお陰です。感謝の気持ちを伝えても伝えきれないくらいです」

 

「お世辞は結構ですよエリス様」

 

「……本当ですよ?」

 

 悪戯をするような表情で片目を閉じて指を上げる姿は可愛らしい物がある。

 思わず抱きしめたくなるスレンダーなボディ、目の前には剥き出しの柔らかそうな腹部がこれ見よがしに曝け出されており、軽装な衣服にスティールを行いたくなってしまう。

 

「それでなんだけどね、カズマ君」

 

 ふと女神の時の口調から盗賊の時の口調に戻すクリス。

 その凜とした相貌、どこまでも貫くような真っ直ぐな眼差しから俺の聡明な頭脳は嫌な予感を感じて咄嗟に口を開かせた。

 

「嫌です」

 

「まだ何にも言ってないよ!!」

 

「どうせ神器がーとかそんな事を言うんでしょ?」

 

「そうだけど! 人の話ってのは最後まで聞くものじゃ……、あっ、こら、耳を塞ぐなー! お頭が久しぶりに来たんだよ! ちょっと、ねえってば!」

 

 一歩間違えれば破滅に近い状況に陥る内容の誘いを嬉々として行おうとしてくるクリスに対して、俺は決死の思いで耳を塞ぎ布団を被る。

 

「嫌だよ。もう魔王も倒したし平和になったんだろ? ならわざわざ危ない目に遭わなくてもいいじゃん。楽でぬるい余生を送りたいの。ほら今こそ、この世界に送ってきた神器持ちのチート連中に頼めば良いじゃん。無駄な正義感に囚われて力尽くで搔き集めてくれるよ」

 

「あたしはカズマ君が良いんだって! ねえキミってあたしの助手でしょ。お頭命令だよ! 従ってよ! この! このっ!」

 

「いたっ、やめっ、やめろー!」

 

 布団越しに俺を殴りつける盗賊の女に苛立ちを覚える。

 最近は真人間になってきたのに夜更かしなどしては昼夜生活が逆になるという元に戻る展開が待っている。中々に面倒臭い女の力に抵抗するのも馬鹿らしいと思えてきたので抵抗を止めると、荒い息で俺から布団を剥いだクリスと目が合う。

 

「お頭」

 

「何?」

 

「机の中に財布があるので取ってくれるか? 代案がある」

 

「? ……うん」

 

 決め顔で告げる俺に珍妙な物を見るような目を向けるクリスは素直に離れる。

 そんなにこの顔は駄目なのかと真剣に考える俺を尻目に、躊躇う事なく俺の机の中を漁る盗賊兼女神は俺の長財布を持ってベッドに戻ってくる。

 

「はい」

 

「うむ……。ほらよ」

 

「……なにこれ」

 

「――お金。これでエリス教団の狂信者でも、盗賊職の連中でも金で雇って盗んで来いよ」

 

 名案である。

 

「いらないよ、こんなの!」

 

「あっ」

 

 その名案を一蹴しあまつさえ渡した大金を俺に投げ返すエリスに俺は苛立ちを覚えた。

 今でこそ好きな時に外食をし、街の冒険者の好感度と人脈を広げる為に金をばら撒いているが、昔は億単位での借金で胃を痛ませ、アクアに回復魔法を貰った事すらある。

 そんな金を投げつける女の行為に苛立ちを覚える俺を余所に、これならば引き受けて貰えるだろうと思ったのか俺の手を両手で掴み上目遣いで頼み込むクリスは。

 

「――サトウカズマさん。どうかこの世界の為に今一度その力を貸してくれませんか」

 

 祈るようなポーズで物憂げなクリスの表情をたたえた女神エリスがそこにいた。

 

 世界の行く末を憂い。

 この世界に住まう全ての人間の事を想う女神が。

 彼女の想いを、願いを踏みにじる事の出来る人間など――、

 

 

「チェンジ」

 

 

 ――世界でも俺一人だろう。

 

「えっ」

 

「お断りします」

 

「――――」

 

 先ほどの行為が無ければもしかしたら引き受けていただろう。

 とはいえ、先ほどの行為に苛立ちを覚えたままの状態である俺は衝動的とはいえども、たとえ女神本人からのお願いであっても平然と断る事が出来る男だ。

 そう、俺の名前は佐藤和真。真の男女平等主義者である。

 

「な、なんで……」

 

「いや、なんか気に入らないし。そのあざといポーズとかちょっと可愛い仕草とか猫なで声すれば俺が落ちると心の中で思ってるって考えだすとスゲー腹が立つ」

 

「はああああ!? ちょっとキミ何言って……!」

 

「はっ、いいですかエリス様。この俺を今まで(原作)のちょろいカズマさんだと思って甘く見てんじゃねーぞ! 遂に一線を越え進化したネオ・カズマさんだぞ!! それに? よくよく考えたらエリス様もアクアの後輩でしたね! 男を手管に掛けようとするやり口が汚い! 流石は駄女神の後輩! そっくりですよ!!」

 

「――――」

 

 童貞だったら耐えられなかっただろう。

 童貞だったら今の女神の言葉に頷いていただろう。

 それらに対して耐性を得て、何より反撃出来たのは金髪の王女のお陰だろう。

 

 俺は同じ夜空の下、アクセルから遠い王都にいるであろうアイリスに感謝した。

 

「私が先輩とそっくり……?」

 

「似てますよ。前にアクアが言ってましたがやっぱり腹黒パッド女神なんですね! こんないたいけな男を誑かそうなんて、もう騙されるか! 俺は断固拒否する!」

 

「――――」

 

「ほら、出てって! 義賊という名のコソ泥はさっさと帰って!! 人の善意を無駄にした駄女神はどっか行って! はーやーく行って! つーか俺の睡眠時間を返して!」

 

「……」

 

 あまりの衝撃に鯉の真似でもするかのように口をパクパクさせるクリス。

 此方を見る瞳を見開いたまま微動だにしない女神を見ながら、このまま去らなければバインドを使用して窓から放り投げるかと半ば衝動的に行動しそうになっていると。

 

「…………ぅぇぇ……」

 

 青紫色の瞳を揺らし溢れる涙が白い頬を伝い――。

 

 ……泣き落としは止めて下さい、エリス様。

 

  

 

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